ハイレゾで広がる『マクロスΔ』の音世界〜FlyingDog音楽プロデューサー・福田正夫インタビュー

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FlyingDogの音楽プロデューサーとして、坂本真綾をはじめとする才気あふれるアーティストや、『ARIA』『たまゆら』『幸腹グラフィティ』『あまんちゅ!』などアニメ作品の魅力的な主題歌や劇伴をプロデュースしてきた福田正夫。満を持して『マクロス』シリーズに参加した彼は、一体、どのような発想をこのビッグ・プロジェクトに持ち込んだのだろうか?今回は『マクロスΔ』の世界を構築する音楽観について、またハイレゾについても語ってもらった。

Interview&Text By 前田 久

「マクロス」が今までやってこなかったことをやってみようかなと考えました

──今回、福田さんが「マクロス」の音楽を手がけるにあたって、どんなことを考えられたのでしょうか?

福田正夫 僕にとって今回の『マクロスΔ』が初めて担当する「マクロス」なんですが、関わることになってから最初に総監督の河森正治さんとお話ししたとき、とにかく後ろを振り返らない方だという強い印象を受けたんです。だから、『マクロス』というのは歴史のあるタイトルですが、それを一回ご破算にして、『マクロス』が今までやってこなかったことをやってみようかなと考えました。

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そのうちのひとつが、複数の作曲家や作詞家の方にお願いして、いろいろなタイプの曲を作ることでした。それでは統一感がなくなるのでは?という心配もあったのですが、そこは自分が音楽プロデューサーとして舵取りをすることによって、統一感を出せるかな、と。ですので、いろいろな方が作った曲を集めても、「これって、『マクロスΔ』の音楽らしいね」と言われるような音楽になる自信はありました。

──その「『マクロスΔ』の音楽らしさ」というのはなんでしょうか?

福田 いくつかキーワードがあります。まずは「温故知新」。また「耐久性」や「中毒性」、そして「歌謡曲」ですね。まず「マクロス」というシリーズの音楽が今まで脈々とやってきたことを受け継ぎつつ、新しいものを作ること。「マクロス」というシリーズは30年以上続いてきましたし、これから先も30年、40年、いや、もっと長く愛され続ける可能性がある。だから、例えば「愛・おぼえていますか」のように、発表から30年以上経っても、シリーズの長年のファンはもちろん、最新作で新しくファンになった人にも愛してもらえるような、時が経っても色あせない耐久性のある曲にする。さらに、何度聴いても飽きない、それどころか、聴けば聴くほど中毒になるような曲を目指そうと思いました。こんなところが、『Δ』で僕が音楽を作るうえで自分に課したお題でした。

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では、中毒性のある音楽とは何か?と考えていったとき、僕の中でそれは「歌謡曲」へと辿り着いたんです。J-POPという呼び名ができる前の、「歌謡曲」というカテゴリー、ジャンルで語られた音楽です。自分がその全盛期に育ってきたからかもしれませんが、歌謡曲のメロディや歌詞は、何十年経っても忘れないし、それに一部の世代だけじゃなくて、老若男女すべての人から愛される。それってまさに『マクロス』というシリーズの特徴だし、コテコテの歌謡曲って、逆に今、新鮮だと思うんですよね。「歌謡曲」=「ダサい」ということで、呼び方としてもジャンルとしても廃れていったんですけど、一周回った感がある。ならば、現代において歌謡曲は新しい音楽かな、と。

渋谷系の人たちって、歌謡曲オタクが多いんですよ

──福田さんといえば、坂本真綾さんや清浦夏実さんといった方々との、渋谷系とか、洗練された洋楽系サウンドの印象があるので、「歌謡曲」への想いを聞くのはちょっと意外です。

福田 そうですか?(笑)。でも渋谷系の人たちって、歌謡曲オタクが多いんですよ。筒美京平先生を神と仰いでいるような(笑)。そういう意味で、渋谷系と歌謡曲は自分の中ではそんなに離れているイメージはないんですよね。

──ちなみに、福田さんはどのような歌謡曲がお好きなんですか?

福田 うーん(笑)。そうですね、時代によってもいろいろありますし……いろいろとありすぎますね(笑)。今、ふと思い出したものだと、フィンガー5とか、素晴らしいと思いますね。当時は歌謡曲の作家にしろアーティストにしろ、洋楽に対する計り知れない憧れとリスペクトがあったんです。フィンガー5は、ジャクソン5に対する意識をすごく感じますし。「学園天国」なんて、本当によく出来た曲だと思いますね。

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歌謡曲こそが今のアニソンとして新しい

──なるほど。いろいろとお伺いしたい部分ではありますが、話を戻します(笑)。今回、作曲家陣の中で最初に、コモリタミノルさんにお声をかけたとお聞きしました。

福田 僕がこの作品に参加した段階で、エースボーカル的な立場の子がふたりいる5人組の女子アイドルグループが歌うことと、彼女たちが歌うとバルキリーが踊り出すことだけ聞かされていました。最初は、ふたり以外の3人はもっと裏方的な役回りだったんですよ。

最終的にはキャラクターなどの設定も変わったし、ワルキューレのボーカルに決まった5人がものすごく熱意のあることに加えて、思っていた以上に皆さん歌が上手だったので、曲も大きく変わっていったんです。5人が同じく前に出てくるような曲もできたし、「ルンがピカッと光ったら」のように、シングルではサビの一部をユニゾンで録音したけれど、その後、レコーディングの状況を見ていたらいけそうだったので、そこを5声ハーモニーにしてアルバム・バージョンとして収録し直したり、などなど。ワルキューレの5人とはお互いに刺激しあったところがありましたね。

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ともあれ、元々は中心となるボーカリストとバック・コーラスのグループという案だった。それってどんなグループなんだろう?と考えていて、思い出したのがFolderでした。三浦大知くんという中心的なボーカリストと、彼を支えるポジションのメンバー6人で編成されたアイドル・ユニットです。しかもFolderのような音楽性なら、バルキリーも踊りそうだな、と(笑)。それで、Folderの楽曲をすべて手がけていたコモリタ(ミノル)さんに声をかけたんです。

最初に美雲が歌う曲とフレイアが歌う曲をそれぞれ依頼したんですが、美雲の曲に関して伝えたイメージは中森明菜でした。「歌謡曲全盛期の中森明菜にコモリタさんが今、曲を作るとしたら、どんな曲を書くだろう?」と思いまして。ちなみに美雲が中森明菜というのは僕の勝手なイメージで、河森さんはそんな風に感じてはいないと思いますけれど(笑)。
ところが、いつのまにかにコモリタさんの中では、中森明菜プラス「アン・ルイスの『六本木心中』みたいな曲」というイメージになっていたみたいで(笑)。

──なんと!(笑)。

福田 そして、出来上がってきたのが「いけないボーダーライン」なんです。でも、僕の中で思い描いていた『Δ』の音楽イメージにまさしくぴったりで。今までの「マクロス」にはなかったサウンドであり、「歌謡曲こそが今のアニソンとして新しい」というコンセプトをまさに象徴するような曲だと思いました。だから世の中で最初に流れるワルキューレの曲にしたかったんです。

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