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INTERVIEW

2018.01.24

TVアニメ『クジラの子らは砂上に歌う』オリジナルサウンドトラック『心(きろく)~Record~』堤 博明インタビュー

2017年秋クールに放送された梅田阿比の人気コミックを原作とするTVアニメ『クジラの子らは砂上に歌う』。砂の海に覆われた世界を舞台に、島のような漂泊船〈泥クジラ〉で暮らす人々の過酷な運命と希望を描いたハイ・ファンタジー作品として好評を博した。その劇伴音楽集『TVアニメ『クジラの子らは砂上に歌う』 オリジナルサウンドトラック 心(きろく) ~Record~』が、1月24日よりハイレゾ配信される。

本作の音楽を手がけたのは、ミラクル・バスに所属する作曲家の堤 博明。現在放送中の『からかい上手の高木さん』や『アオハライド』『クロムクロ』といったアニメ作品の音楽を手がけてきたほか、ギタリストとしても数々のスタジオ・ワークに携わってきた気鋭の音楽家だ。今回、ドイツ録音による約60人編成のオーケストラを筆頭に、様々な民族音楽の楽器や要素なども取り入れて、どこの国でもない『クジラ』の世界の音楽を表現してみせた彼に、そのコンセプトやこだわりについて語ってもらった。

Interview & Text by 北野 創
at Miracle Bus Studio

 TVアニメ『クジラの子らは砂上に歌う』オリジナルサウンドトラック『心(きろく)~Record~』のレビューはこちら

作品世界を映し出す音楽のイメージと音作りの試み

──まず、堤さんが『クジラの子らは砂上に歌う』という作品に参加されることになったきっかけを教えてください。

堤 博明 イシグロキョウヘイ監督とは以前に『ランス・アンド・マスクス』という作品の音楽でご一緒させていただいて、そこからお声がけいただきました。監督と初めてお会いしたのは、僕が『四月は君の嘘』というアニメでギターを弾かせていただいたときなんですけど、今回の『クジラ』では和音で攻める鍵盤発想的な音楽よりも、ギタリストがジャンと鳴らすような説得力がほしいということだったんです。

──具体的にはどんな音が求められたのでしょうか?

 和音が豊かというよりも、みんなが同じ旋律を奏でるユニゾンの力強さだったり、一音の密度と説得力を求められました。技で持っていくよりかは気合いというか。それと土着的な質感とプリミティブな要素がほしいということでしたね。

──元ドラマーで音楽に詳しいイシグロ監督らしいオーダーですね。『クジラ』という作品自体にはどんな印象を抱きましたか?

 今回のお話をいただいてから初めて原作を読ませていただいたんですけど、まず扉絵の段階で素敵な絵だと思って惹かれましたし、読んでいくうちにキャラクターたちの細かい心情や世界観の設定が完璧に出来上がってるところに引き込まれまして、気付いたら全巻そろえてました(笑)。僕は元々ファンタジーが好きなんですけど、その中でも『クジラ』はその世界で生活してる人たちの息遣いがリアルに感じ取れる作品なので、そのバランス感もスッと入り込める要因だったんだと思います。

──実際の音楽制作はどのように進めていかれましたか?

 まずは監督からいただいた〈ユニゾン〉〈土着的〉〈プリミティブ〉というキーワードから、楽器の持つ特徴的な音色とメロディーの強さを大切にしようと思って作り始めました。最初に作ったのはPV第一弾で使われた「心(きろく)の唄」という楽曲なんですけど、この曲が小手先の技術ではどうにもできないものでして。いただいたオーダーが〈昔から泥クジラで歌い継がれてる子守唄〉〈ポップス的ではなく伝統的なもの〉だったので、そういった雰囲気とシンプルなアレンジでも映えるメロディーというのを心がけて作ったんです。

──この曲はPVでも印象的で、たしかにメロディーにはどこか懐かしい感じがありつつ、どこの国のものでもない童謡みたいな雰囲気を感じました。

 そう言っていただけるのはうれしいですね。『クジラ』はファンタジーですけど世界観が確立されてるので、音楽で国籍が出てしまうのは避けたかったんですよ。なので、どこの国かわからない伝統的な雰囲気というのが狙いだったんです。この曲は元々アニメ本編では使用しない予定だったのですけど、自分的にも思い入れのある曲になったので「入れちゃえ!」と思って劇伴にもメロディーを入れ込んでたりして(笑)。それが結果として1話の冒頭などでうまく使っていただいたので安心しました。

──〈土着的〉〈プリミティブ〉というテーマもあってか、生楽器が前面に出た作りになってますね。

 今ならシンセサイザーとかいろいろな手段があると思うんですけど、この作品に出てくるキャラクターは人の心情というのが元にあるので、それを表現するにはまずは王道を押さえるというのが監督との共通認識としてありました。そこは「王道って何だろう?」というそれぞれの感覚の話にもなるんですけど(笑)。なので、ちゃんと人に伝わりやすく、初見でもスッと入るものというのは意識しましたね。

──それはメロディー作りやアレンジに対しても意識されたところですか。

 そうですね。アレンジに関しては〈ユニゾン〉という言葉をいただいてたので、自然とシンプルな方向にいって、それぞれの役割が明確になりました。僕は最初、この作品には和音で広げる鮮やかな音楽が似合うのかなと思ってたんですけど、いざユニゾンで作ってみたらアレンジやメロディーが浮き立って、それぞれ聴かせたいところがうまく出てきたので、結果的に良かったと思います。

──『クジラ』という作品ならではの工夫したポイントはありますか?

 例えば、作品的にまず〈砂〉が思い浮かんだので、曲作りの前に鳥取砂丘まで行きまして、砂地を歩き回る音を録音したんです。実はその音源を加工していろんな曲のリズムトラックに散りばめてまして。かなり自然に入ってるので、あまり気付かれないと思うんですけど(笑)。それは同じ音でもバトル曲と怖い感じの曲に入れるので聴こえ方が全然違ったりして、『クジラ』の劇伴としての意味づけにもなると思って多用してます。

──それは面白い試みですね。たしかに不思議な感じのリズム音がするとは思ってたんですけど、砂の音だとは思いませんでした。

 あとは普通ならバトル曲は金管楽器の方が似合うんですけど、『クジラ』の物語の場合は主人公たちが巻き込まれる形で望まない戦いを行うので、そういう局面におけるバトル曲を考えた結果、まずオーケストラの編成から金管楽器を抜いて、その分を木管とホルンで補填していくことにしたんです。なるべく派手にならず、感情が表に出過ぎないようにしつつ、でも盛り上がらなければならないというバランスを探ったのは、この作品ならではのところでしたね。

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