窪田ミナ『TVアニメ「フォトカノ」オリジナルサウンドトラック』レビュー

美しいメロディと音空間が心地よく広がる。窪田ミナによる劇伴を28曲収録。

『キミキス』や『アマガミ』を企画・制作したエンターブレインによる同名ゲームを原作としたTVアニメ『フォトカノ』。今作の音楽を手がけているのは『マクロスΔ』にも参加している作曲家、またピアニストでもある窪田ミナだ。
窪田ミナは10歳の頃、世界的チェロ奏者であるムスティスラフ・ ロストロポービッチに認められ、翌年にはロストロポービッチに米国ワシントンD.C.のケネディーセンターでのコンサートに招かれ、彼の指揮のもと、ワシントン・ナショナル響と自作曲を共演と、早々に非凡な才能を開花。その後もN響、新日本フィルや英室内響、仏国営放送響、ベルリン放送響など国内外のオーケストラと共演し、高校卒業後は奨学生として英国王立音楽院へ進み、 ニック・イングマンに師事している。

ニック・イングマンは、ペイル・ファウンテンズの「Thank You」やワーキングウィークの「Inner City Blues」、前2作から一転、ゴージャスなサウンドへと変化したエヴリシング・バット・ザ・ガールの3rdアルバム『Baby, The Stars Shine Bright』、Sadeやエリック・クラプトンのアルバムなどでストリングス・アレンジを手がけ、Oasis初期の名曲「Whatever」、Radiohead『OK Computer』、ポーティスヘッドの『roseland nyc live』、映画作品では『恋に落ちたシェイクスピア』『コレリ大尉のマンドリン』などでオーケストラの指揮をとっている、著名なアレンジャー/コンダクター。

在英時より作曲家、プロデューサー、ピアニストとして活動し、帰国後は数々のテレビドラマ、映画、アニメ等の音楽を担当している窪田ミナ。連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』や映画『その夜の侍』のほか、アニメ作品では『カレイドスター』『神無月の巫女』『京四郎と永遠の空』『星の海のアムリ』『ももへの手紙』などを手がけている。『ARIA』シリーズのOPテーマ「ウンディーネ」「ユーフォリア」「スピラーレ」の作曲、編曲も彼女によるものだ。

2枚のオリジナル・アルバムをリリースしており、恩師ニック・イングマンを招いて制作された『モーメント』はモダン・アンビエント、NEW AGEポップの作品として評価が高い(hayatokaoriをヴォーカルに迎えたセルフカヴァー「ウンディーネ」も収録)。また岩崎 琢がアレンジを手がけた川澄綾子のアルバム『Primary』のサウンド・アプローチにも通じるものがある。

 

そんな窪田ミナが音楽を担当した『TVアニメ「フォトカノ」オリジナルサウンドトラック』は、アニソン・ハイレゾの黎明期である2013年の6月28日にCDとともにリリースされている。CDのライナーには窪田ミナのコメントが載っており、「当初、学園ラブコメディと聞いていたので明るくて楽しい、コミカルな曲をたくさん書くつもりで打ち合わせに伺いました。ところが監督からは「コメディ要素はあまり考えなくていい、それよりも感情の起伏や心の機微を主に音楽で表現してほしい」と言われ、少し驚いたのを覚えています。でもその時点で監督が目指す作品全体の方向性が分かったような気がしました」と記されている。

そのシーンを成立させるための舞台装置として、シチュエーションのために機能する音楽よりも、登場人物の内面を描くため、言葉や感情を代弁するドラマとしての切り口による音楽を求めた監督の意図が窺える。実写よりも情報量が省略化されているアニメにとって、伝えたいイメージを補完する音楽は大切な要素だ。どのようなことを音楽で伝えたかったのか、また伝えたかったことをどのような音楽にして表わしたのかを考えながら聴いてみると非常に面白い。

レコーディングとミックスは、90年代後半からの大貫妙子作品や、TINGARA、柴野さつき、羽毛田丈史『魔法遣いに大切なこと SOMEDAY’s DREAMERS ORIGINAL SOUNDTRACK』などを手がけている渋谷直人で、窪田ミナの作品にも多く携わっている。マスタリングは、tofubeats『ディスコの神様』、土岐麻子『乱反射ガール』、やなぎなぎ『ポリオミノ』などを手がけたサイデラ・マスタリングのチーフエンジニア、森崎雅人。音楽プロデューサーは『ベン・トー』『あっちこっち』『桜Trick』などを手がける高取昌史。

劇伴ではピアノ、ストリングス、フルート、オーボエ、クラリネットら管楽器、ハープにアコーディオンなど生楽器を多数使用。ピアノとストリングスの室内楽、それにシンセサイザーの音色を織り交ぜたものや、『ゲゲゲの女房』のようなアイリッシュ風味たっぷりのフィドルとフルートのナンバー、エレクトロニカまで、ヴァラエティに富んだサウンドを披露している。優しい雰囲気のサウンドはとても親しみやすく、アニメを観ていなくとも楽しめる内容になっている。

「メインテーマ」

ピアノと弦楽奏が奏でる旋律が、みずみずしいイメージを与えてくれる室内楽曲。この曲からも作品の意図するところがよくわかる。ハイレゾでは音の重心が下がり、ストリングスの厚みが増すのが感じられる。時を刻むかのようなハープシコードとピアノの高音も美しく、また朝川朋之が爪弾く風にそよぐようなハープの音色も柔らかい。

解像度が高くまた全体的に温かい質感となっていて、程よいリヴァーブなどにも丁寧な音処理が感じられる。英国庭園といった上品なイメージを思い浮かべそうな「ライズボール」と同じく、楽曲の春めいた雰囲気が爽やかな躍動感とともに伝わってくる。

「リボン」

ピアノとマリンバ、ところどころに入る煌めくシンセの音色が印象的な曲。「タンポポとこんぺいとう」にも感じられるが、窪田ミナもまた村松 健のようなライトタッチの(叙情的なメロディで泣かせるタイプとは異なる)ニューエイジ・ミュージックの系譜につながるピアノを奏でている。マリンバは『ゲゲゲの女房』にも参加している大石真理恵(キリンジの2ndアルバム『47’45”』のスティーリー・ダンな1曲目「Drive me crazy」のマリンバも大石真理恵による演奏)。

ハイレゾではマリンバの鍵盤を叩くマレットの音が実にリアルで、打鍵の繊細な強弱がCDよりも正確に聴き取れる。この曲のメインであるマリンバは中央に位置するが、音程によって音の位置が変わってくる。低い音程の音は左に、高い音程の音は右にと、左右に長い構造であるマリンバを目の前で演奏されているような感覚を受ける(実際は演奏者とマイクの位置が逆になっている)。また中高音の部分では上段の鍵盤も使用するため、音が左右へと微妙に変化する。そんなリアルな演奏と空気感を伝えるハイレゾならではの情報量が感じられる。

「ガールズ」

ピアノと電子音楽が織りなす美しいサウンドは窪田ミナの真骨頂。この曲と「プリズム」は、窪田ミナ作品に共通する特徴をよく表わしている。透明度が高い音と初期ドラムンベースのような軽やかなブレイクビーツのハーモニーが清々しい(「プリズム」ではTB-303をトリガーにしたようなフレーズを聴かせるところも面白い)。

シンセの音を生楽器の音よりも奥に配置したり、電子音は脇役的な存在として扱っている音楽も多い中、窪田ミナ作品では電子音も生楽器の音も非常にバランスが良く配置され、お互いを引き立ている。奥行きの深い空間に響くビートやシンセの存在感、立体的な音像が独特で、TOWA TEI、Ametsub、SILICOMなどを手がけた森崎雅人によるマスタリングの影響も大きい。心地好い浮遊感が高まるサウンドに仕上がっている。

「写真部のテーマ」

「ハートビート」同様、アシッド感のある派手めなトラックが808ステイトのようなUKテクノを想起させる、窪田ミナのマッシヴな一面を垣間見れるナンバー。限られた時間の中にシーケンスが次々に重なりドラマチックな展開を繰り広げる。高い解像感がレゾナンスの効いた尖ったシンセの音色やエンベロープの変化を描き出している。低域のキレのよさも印象的で疾走感を増した仕上がりだ。

粒立った音が壁のように迫ってくるようで、緊張感と焦燥感といったイメージが伝わり、その分、音が抜けるように消えるラストは開放的な感覚だ。鮮明なサウンドがひときわ刺激的に響くサウンドとなっている。

 

美しい楽曲、独特な音空間で定評のある窪田ミナのサウンドだが、ハイレゾではその相性のよさを強く感じる。また窪田ミナは『フォトカノ』のOPテーマ、hayatokaori「恋するレンズ」の作曲・編曲も手がけており、こちらも併せて聴いてみてほしい。

『フォトカノ』の音楽作品はこのほかに、登場ヒロインたちのキャラクターソングアルバム『TVアニメ「フォトカノ」キャラクターソングアルバム THROUGH THE CAMERA』、7人のヒロインキャラ “うたカノ♪” による『スマイルF』がハイレゾにてリリースされている。どれもがCDよりも求めやすい価格となっている。

窪田ミナ
TVアニメ「フォトカノ」オリジナルサウンドトラック

ポニーキャニオン
2013.06.28

FLAC・WAV 44.1kHz/24bit

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e-onkyo music
mora

 収録曲

   作曲・編曲:窪田ミナ

 1.メインテーマ

 2.リボン

 3.ライズボール

 4.プリズム

 5.恋のはじまり

 6.写真部のテーマ

 7.ガールズ

 8.風のダンス

 9.約束

10.スイートピー

11.極秘会議

12.秋桜

13.タンポポとこんぺいとう

14.メッセージ

15.あかね色

16.ミッション

17.星の見える丘

18.想いの向こう

19.ピクニック

20.ハートビート

21.ブルー

22.ファニー・スパイ

23.嘘と鏡

24.17ステップス

25.もの想う午後

26.フォトセッション

27.君を探して

28.フォトグラフ

©KADOKAWA CORPORATION Developed by DINGO Inc./フォトカノ製作委員会

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