TVアニメ『クジラの子らは砂上に歌う』オリジナルサウンドトラック『心(きろく)~Record~』堤 博明インタビュー

ドイツでのレコーディング、多彩な楽器の導入

──堤さんはこれまでもたくさんの作品の劇伴を手がけてますけど、今回はそういった試みも含めて、自分の中で新しい挑戦がたくさんあったのでは?

 もちろん毎回トライではあるんですけど、『クジラ』に関しては結構チャレンジが多かったです。今回はオーケストラの録音でドイツまで行ったんですけど、海外録音も初めてでしたし、60人ぐらいの編成を生で一発で録ったり、そういう曲を書くのも初めてで。今だから言えますけど「オーケストラ、余裕で書けちゃいますよ」という態度を取ってたんです(笑)。それと今回はフレット・ヴァイオリンというフレットが付いたヴァイオリンを工房で作ってもらったり、今まで自分が使ってなかった楽器を入れたりもしましたね。

──今、お話に上がった海外録音ですけども、今回ドイツでレコーディングしようと思ったきっかけは?

 『クジラ』という作品自体が海外でも人気があるので、今後の展望として世界に通用する音にしたいというのが始まりだったんです。それにドイツでオーケストラを録ったとしても大仰で似合わない作品もあると思うんですけど、『クジラ』に関してはそれが似合う作品だと思いまして、ちょうど海外のミュージシャンのスケジュールも合致したので挑戦しました。それにあたって海外在住の日本人指揮者でヤマモトユウキさんという方に手助けしていただきまして、指揮や譜面の監修、オーケストレーションも見ていただいたりしました。

──今回演奏されてるバーベルスベルク・フィルム・オーケストラというのは?

 ドイツのバーベルスベルクに有名な映画スタジオがありまして、そこのスコアリング・ステージで演奏されてる方々なんです。なので、より映画音楽に近いサウンドになってると思います。でも「自分の書いたスコアは大丈夫なのか?」という緊張感がすごかったですね。60人分のスコアを書くのは大変で痺れました(笑)。一応音大を出てるんですけど、自分は管弦楽法の単位を落とす等していた劣等生だったので……。

──でも、そのときに学んだことが糧になってるわけですよね。

 そうですね。あとはずっとギターを弾いてきたので、ギター由来のハーモニー感覚でなんとかやっていってる感じで。だから僕の音楽は正統派のオーケストレーションというよりもギタリスト目線のオーケストレーションになってると思うので、もうそれを売りにした方がいいのかなと(笑)。もちろんこれからもいろいろ勉強していきますけど、そこは今回も薄めずにできたと思いますね。

──実際にドイツでオーケストラを録音してみて、いかがでしたか?

 一音出た瞬間に自然と鳥肌が立つ感じで、素晴らしかったですね。特に「心(きろく)の唄」のTVバージョンはオーケストラで録り直したんですが、すごく美しい音色と説得力と迫力でいちばん鳥肌が立ちました。この曲はアニメ本編の大事なシーンで使われることは想定してたので、良いものにしなくてはならないという緊張感があって、現場でも細かく指示させていただいて。ただ、ヤマモトさんも実はギタリスト出身でロッカーということもあって波長が合ってイメージを共有することができてたんですよ。ヤマモトさんからもいろいろなアイデアを出していただいて、ポジティブな物づくりができたと思います。

──ほかにドイツでのレコーディングで印象に残ってるエピソードはありますか?

 本当にいろいろあったんですけど(笑)、「希望の船出」というスオウの演説のときにかかってた曲はオーケストラの音だけで完結する曲だったのですが、ヤマモトさんに「テンポを揺らせたい」と相談したんです。ですけど、最近の録音では何回か演奏した後に良いテイクを差し替えていったりするんですが、そうするためにはテンポ管理をちゃんとしてないと無理なので「完全にフリーテンポ演奏だと現実的に考えていい結果を産めないかも」と言われまして。それで録音前日の深夜にホテルでテンポを1小節ずつ揺れてるように設定する作業をして、演奏しても自然な流れで揺れてるように聴こえるテンポマップを作ったんです。そうすれば何回録っても入れ替えができるので、下準備は大変でしたけど、結果良いものになりました。

──意識的に揺らぎを作るというのはすごいこだわりぶりですね。それと劇伴全体の印象としては、使われてる楽器の量と多彩さです。

 だいぶ使いましたね。弦だけでもフレット・ヴァイオリンとマンドリン、スパニッシュ・リュート、マンドリンセロ、あとは「逸れた闇」という曲でリゾネーター・ギターを弓で弾いて演奏したりもしました。ヴァイオリンではないニュアンスの音が欲しくて、いろいろ考えてやってみたら良くて。あとは12弦ギターとか、手持ちの楽器は全部ぶち込んだ感じはありますね(笑)。

──それらの弦楽器は全部ご自身で弾かれてるのですか?

 ストリングス関係はおまかせしてますけど、ギター類やフレット・ヴァイオリンは自分で演奏しました。それぞれでチューニングも違うので頭がこんがらがりますけど、必要にかられて弾いてます(笑)。家でじっくり録れる環境にしてるので練習して。

──ほかにも、イーリアン・パイプスやドゥドゥクといった吹き系の楽器が印象的に使われてますが、こちらはクレジットを見ると野口明生さんが担当されています。野口さんは『ランス・アンド・マスクス』の劇伴にも参加されてましたね。

 吹き系の神がいるんですよ(笑)。彼は元々大学の同級生で、ヴァイオリンの白須 今さんと野口さんと僕でShikinamiというバンドを組んでるんですよ。野口さんは元々ピアニストなんですけど、独学で笛を始めて、今やチーフタンズの来日コンサートに参加してセンターで吹いてしまうぐらいで。なので、笛系の具体的なニュアンスはほぼおまかせでかなり吹いてもらってます。個人的には「スナモドリ」というチャクロがサミを思い出す切ないシーンで流れる曲が印象に残ってて、この曲の後半はすごく切なくしたかったので「亡くなった人を尊ぶような笛を吹いてほしい」とお願いして、バッチリな笛を吹いてくれましたね。

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