TVアニメ『クジラの子らは砂上に歌う』オリジナルサウンドトラック『心(きろく)~Record~』堤 博明インタビュー

バリエーションに富んだ声楽曲の数々

──それとクワイアの使い方も特徴的です。

 特にヌースの曲はそうですよね。あれは自分の中では古典音楽にありそうなクラシックをテーマに作りました。女性の高い声から入る「魂形(ヌース)-情-」という曲は、コミックを読みながら「この曲しかないだろう!」と思って作ったんですけど、これも自分としてはこれまでになかったアプローチの曲でしたね。録音スタジオは少しミニマムな場所だったので、教会で録った音源のコーラスをシンセで薄く混ぜて、広い空気感の音像に仕上がるように細工をしたんです。それで不思議な空間を演出できましたね。

──あとクレジットを見て気になったのは、クワイアのメンバーに作曲家のEvan Callさんがいらっしゃったことなんですが。

 Evanは元々海外でコーラスを専攻でやってたみたいで、歌がうまいしクラシカルなすごく良い声をしてるんですよ。なので、Evanには今回、クワイアのメインのメロディーの芯を出す意味で入ってもらいました。僕もEvanの曲でギターを弾いたり、お互いいろいろやり取りをしてるので、今回も協力してくれたんです。

──ボーカリストで言うとソプラノ歌手の西田真以さんも参加されてますね。

 そうなんですよ。西田さんには「煌めく命」という楽曲のメインになるところでオペラを歌っていただきました。それも自分としては初めての試みだったんですけど、メニュー表に〈オペラ〉とあったので挑戦させていただくチャンスだと思いまして。西田さんは「すごい!」という言葉しか出てこないという感じで(笑)、ビブラートのかけ方も独特で、終末感というか壮大な感じを出していただきましたね。他にも今回はボーカルのバリエーションが多くて、清浦夏実さんにコーラスで参加していただいたり、小学生から高校生までが所属する合唱団にPVの楽曲を歌ってもらったり。あとは松井月杜さんもそうですね。

──松井さんはミュージカルなどに出演されてる子役の方で、「心(きろく)の唄」のメインを歌われてますね。最初に聴いたときは女性の声なのかと思いました。

 当時14歳で変声期の真っ只中だったんですけど、どちらの性別かわからないすごく絶妙な声をいただけて。その中性的というのも狙いだったんですよね。『クジラ』の印(シルシ)の人たちはみんな短命で幼い人たちしかいないし、その人たち中心で描かれるドラマでもあったので、そういう等身大の方の声がいいと思って年齢を14歳に絞ったんです。歌詞も梅田先生が原作で書かれた砂詞(すなことば)を使わせていいただいたんですけど、曲を付けてる時点で言葉自体に秘められた力を感じたので、いろんな要素が噛み合ったんだと思うんですけど。

──歌でいうともう1曲、泥クジラに現われる不思議な少女・エマ(CV. 加隈亜衣)が歌う「光の唄」が素晴らしくて。

 この曲は個人的にも好きですね。ほかの曲はユニゾンがテーマなんですけど、この曲はほかと違って、ネリとエマという双子の曲なのでハモリを意識してほしいということだったんです。なので、二声が追っかけたり入り乱れて歌う形にしてまして、後半はふたりどころか何人もいる設定にしてますね。これもメロディーはポップスや難解なクラシックでもなく、聴いてすぐにわかる魅力がありつつ不気味で怖いもの、さらにエマは明るく歌ってるというバランス感を求められまして、かなり悩んだんですよ。メロディーだけ追うとシンプルなんですけど転調が激しかったり、拍子も途中で変化したり。じっくり聴くとめちゃくちゃ面白い曲になってると思います。

──ネリとエマのキャラクター性が表現されてますし、不思議なミステリアス感があって、『クジラ』の世界ならではの曲になってると思います。エマ役の声優の加隈亜衣さんの歌声も素晴らしいですね。

 素敵ですよね。聞いた話によると「とても難しかった」とおっしゃってたみたいですけど(笑)。いわゆるキャラソンにはない節回しがふんだんに入ってますし、コードもグチャグチャに使ってるし、ネリとエマのふたり分を歌っていただきましたし。歌のディレクションも「明るいんだけど、明るいがゆえの怖さをください」とか「狂気じみた感じで」みたいに難しいお願いをしてしまって(笑)。メインの部分は言葉も少なくて“砂上の友よ 愛しき友よ”しかないんですけど、そこでどれだけ表現できるのかが勝負だったので、そこは加隈さんにも大変な想いをしていただいてこだわった部分ですね。監督も立ち会われてたので、加隈さんには監督のイメージも反映しつつ歌っていただきました。

自身の音楽的背景とハイレゾについて

──曲単位でもいろいろお話を聞かせてください。「ハイパーグラフィア」は本作では珍しくアンビエントな質感の楽曲になってますね。

 この曲も『クジラ』の作品に由来するアイデアを入れてまして、チャクロのモノローグでかかることを前提に作った曲だったので、鉛筆で書くサーッという音をサンプリングして、それにリバーブをかけて作った音を後ろにずっと流してるんですよ。鉛筆も金属でできた重量感のあるものを使ったり、やわらかさではないところを意識して作りました。

──なるほど!あの寝息っぽい音はそれだったんですね。それと個人的には「狂気の2人」というスパニッシュ風のギター曲も好きでして、堤さんのギタリスト魂が爆発してる曲なのかなと思いました。

 そうですね。クジラの音楽はギターの比率があまり高くないので、ここに全部ぶち込んだ感じはあります(笑)。この曲はスパニッシュ・リュートと12弦ギターを使ってるんですけど、リュートの方はリョダリのイメージで、団長は12弦ギターなんです。ちょっとやんちゃなフレーズはリョダリかなと思いながら弾いてて、そこはこだわりポイントですね。6/8+1/16という変な拍子も入れていて、狂気を演出しています。

──今回の『クジラ』の音楽からは、アイリッシュや地中海、中近東など、様々な国の音楽の要素も感じ取られて、堤さんの引き出しの多さを感じたのですが、ご自身のバックボーンにはどんな音楽があるのでしょうか?

 僕のいちばんのバックボーンは中学生時代聴いていたGLAYとB’zとL’Arc~en~Cielなんですけど、そこから師匠の鈴木よしひささんの影響でラリー・カールトンやリー・リトナー、パット・メセニーのようなフュージョンに行きまして。その後に組んだshikinamiがヒーリング・ミュージック的な楽曲を演奏するグループだったので、メンバーから映画音楽やチーフタンズとかを薦められて、その時期からインストゥルメンタル音楽を意識的に聴くようになりましたね。あとは野口くんがちょうどイーリアンパイプにはまってたので、光田康典さんが作られた『クロノ・トリガー』の音楽も聴かされて。自分も昔『クロノ・トリガー』のゲームをやってたので当時から好きだったんですけど、音楽的な目線でのすごさに改めて気づいたりして。でも、今思うとその時期の音楽的影響は大きかったかもしれませんね。そのなかでアイリッシュやロック、歌もの、それこそマイケル・ジャクソンのカバーとか、いろんな音楽をアレンジする作業をしてたので、そこで自然と引き出しが増えていったのかもしれません。

──それこそ今回の作品にも白須さんと野口さんのメンバーおふたりとも参加されてますし、バンド時代の繋がりが今のお仕事にも反映されてるんですね。

 そういう意味ではバンド活動の期間が大事だったことに今、改めて気づきましたし、学生時代の仲間と今も仕事で仲良くできるというのはうれしいですね。

──今回のサントラはハイレゾ配信もされますが、その聴きどころはどこにあると思われますか。

 日本で録音した曲もそうですが、やはりドイツ録音したものはホールの影響もあって、パーカッションとかにふんだんな低音が出てるんですね。それはいつもならマスタリングで抑えるところなんですけど、今回は魅力としてあえて残しているので、ハイレゾならではのレンジの広さや臨場感をぜひ味わっていただきたいと思います。高音も伸びやかではありますけど、痛くないように仕上がってますので、その贅沢な感じをぜひ味わっていただきたいですね。あとは隠し味の砂の音や、いろんな弦楽器の弦の質感、弓をこする音、息を吹く音、息遣いなどが、ハイレゾならより細かく聴けると思います。制作の段階から泥クジラの人たちが生きている息遣いをイメージして作っていたので、よりそれを感じていただけるのではないかと思いますね。

──最後に、堤さんにとって今回の『クジラ』のサントラは、ご自身のディスコグラフィーのなかでどういう位置づけの作品になりましたか?

 大げさかもしれないですけど〈あらたな一歩〉という言葉がいちばんしっくりくるかもしれないですね。今までもオーケストラ編成に近いものはやってましたし、それまでの自分の集大成を出す感じの作品が多かったんですけど、『クジラ』は逆に今までの自分にないものをたくさん出すことがきたので、制作のなかで模索して、吸収して、すぐ形にするという意味では、〈集大成〉というより〈スタート〉がふさわしいと思います。

──今後の音楽活動の糧にもなりそうですね。

 たぶんガラッと変わってくる予感はしてます。今は、これまでの集大成と『クジラ』で新しく得たものを、自分の中でどういうバランスで作っていけばいちばん良い形になるのかというのを模索してる段階だと思っていて。それを考え続ければいろんな作品に良い形で協力できると思うし、そのきっかけを与えてくれた一枚ですね。<END>

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堤 博明
1985年東京生まれ。14歳でギターと出逢い、音楽の道を志す。
同時にギタリスト・ポリパフォーマーの鈴木よしひさ氏に師事。
高校時代に「第一回ギターマガジン主催・誌上ギターコンテスト」グランプリを受賞 。
20歳から「Shikinami」としてのバンド活動やレコーディング等のスタジオワークを開始。
現在は作編曲家・演奏家として活動を展開している。

『アオハライド』『ランス・アンド・マスクス』『クロムクロ』『orange』『ろんぐらいだぁす!』『ピアシェ~私のイタリアン~』『ロクでなし魔術講師と禁忌教典』『からかい上手の高木さん』などの音楽を担当。

堤 博明 | Miracle Group Official Site
TVアニメ「クジラの子らは砂上に歌う」公式サイト

© 梅田阿比(月刊ミステリーボニータ)/「クジラの子らは砂上に歌う」製作委員会

堤 博明
TVアニメ『クジラの子らは砂上に歌う』オリジナルサウンドトラック 心(きろく)~Record~

Lantis
2018.01.24

FLAC・WAV 48kHz/24bit、WAV 48kHz/32bit
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groovers
mora

 収録曲

 1.心(きろく)の唄-PV ver-
   作詞:梅田阿比 作曲・編曲:堤 博明

 2.その未来(さき)へ(TVsize)
   作詞・作曲:RIRIKO 編曲:原田アツシ(Dream Monster) 歌:RIRIKO

 3.ハイパーグラフィア

 4.楽園

 5.砂の戯れ

 6.無印の長

 7.指組み

 8.アパトイア

 9.濡烏

10.魂形(ヌース)-情-

11.砂上の虹

12.若芽色の弦

13.砂色の弦

14.心との再会

15.飛蝗の夜

16.泥クジラの過去

17.スナモドリ

18.ウラバヤナギ

19.ファレナの双子

20.不穏な予感

21.逸れた闇

22.砂葬曲

23.砂塵の檻

24.惨劇の鐘(ベル)

25.無情の咆哮

26.サイミア

27.白縹の唄

28.その未来(さき)へ-Guitar ver-

29.光の唄
   作詞:梅田阿比 作曲・編曲:堤 博明 歌:エマ(CV. 加隈亜衣)

30.流刑の民の選択-Quartet ver-

31.砂塵の檻-Emotional Cello ver –

32.襲撃前夜

33.砂嵐の対峙

34.スキロスの侵略

35.物語る異端者

36.死神の行列

37.道化の獅子

38.狂気の2人

39.銀灰色の弦

40.ハシタイロ-Piano ver-

41.異国の主

42.新たなる鍵

43.秘色の唄

44.流刑の民の選択

45.引き剥がされた楽園

46.魂形(ヌース)-命-

47.ファレナの悪霊(デモナス)

48.鯨の戦塵

49.煌めく命

50.希望の船出

51.心(きろく)の唄-TV track ver-
作詞:梅田阿比 作曲・編曲:堤 博明

52.ハシタイロ(TVsize)
   作詞・作曲・編曲:rionos 歌:rionos

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