INTERVIEW
2017.02.22
花澤香菜の4枚目となるアルバム『Opportunity』。今作にはミト (クラムボン)、沖井礼二 (TWEEDEES)、宮川 弾、矢野博康らおなじみの作家陣に加えて、シンプリー・レッドのミック・ハックネル、kz (livetune)、片寄明人、Spangle call Lilli lineも参加。また空気公団プロデュースによる「透明な女の子」、秦 基博作曲による「ざらざら」のシングルも収録した豪華な内容となっている。
さて今回はデビュー曲「星空☆ディスティネーション」をはじめ多くの楽曲を花澤香菜に提供し、また彼女のアルバムのトータルサウンドプロデューサーを務めているROUND TABLEの北川勝利に、「UKサウンド」をコンセプトとする『Opportunity』の音楽面について詳しく話を聞いてみた。
『リスアニ!Vol.28』には私が担当した花澤香菜のインタビューが掲載されている。リスアニ!本誌のアーティスト・インタビューとこちらのプロデューサー・インタビューを併せてご一読いただけると、今作の理解がより深まることだろう。
Interview & Text By 冨田明宏
At Aniplex
花澤香菜『Opportunity』のレビューはこちら
───今作『Opportunity』は2年ぶりのアルバムとなります。先に花澤さんにお話をお伺いしたのですが、2年間の活動のいろんなことがこのアルバムに収められている、と語っていらした姿が印象的でした。
北川勝利 前作『Blue Avenue』のライブ・ツアーの後に『かなめぐり』というアコースティック編成で全国を巡るライブがありまして。アコースティック・ライブというとリリースイベントなんかでもよくやっていて、大体シングルの2、3曲を演奏して終了なんですが、こちらは普通のライブと同じくらい、10何曲も演奏して、2時間弱ぐらいのボリュームのものを、月に2、3本というペースで行っていました。あの頃は、香菜ちゃんの中でライブをすごくやりたいって欲求があったのかもしれません。『かなめぐり』では朗読にもチャレンジしていたし、とにかく意欲的でしたね。側で見ていてもライブを通じて自分にかえってくるものが大きかったらしく、それを次のアルバムに反映できるといいねと話していました。
───その経験にプラスしてサウンドにも変化が表われていますね。前作『Blue Avenue』では「ニューヨーク」をテーマにアルバムが展開されていました。そして、今作では「イギリス」をテーマに掲げて制作に入られたそうですね。
北川 「イギリス」「UKサウンド」というテーマは『Blue Avenue』の制作の後半ぐらいから出てきました。スタッフの一部からこのキーワードが出てきて、そこへと向かっていくんだろうなっていうのがわりと早い時点からありましたね。
───花澤さんの作品に関わっているミュージシャンやクリエイターの皆さんも、どちらかというとUKサウンドに影響を受けた方が多いのではないのでしょうか?
北川 そうですね。そっちの方が得意だったりするんじゃないかと。みんな青春時代にやはり影響を受けているんですよね。冨田さんもそうですよね?
───はい、UKロック好きをこじらして留学までしてしまいました(苦笑)。
北川 僕もやっぱり大好きだから(笑)。アルバム制作のスタートとして「UKサウンド」というキーワードがあったのは、今考えてもよかったなぁって。
───「UKサウンド」というテーマを掲げても、そのサウンド・イメージは人によって、また世代によって受け取り方が異なると思いますが、北川さん自身はどのようなイメージをお持ちですか?
北川 まず僕がリアルタイムで聴いていた90年代のギターポップやネオアコなどで、僕にとってはいちばんイメージしやすいものですね。そこから遡ってビートルズやストーンズとか、60年代のいわゆる「スウィンギング・ロンドン」……つまりイギリスから世界へと文化を発信していた黄金時代のサウンドとか。音楽だけじゃなくて文化の象徴として捉えると、90年代のマンチェスター・ムーヴメントもこの流れを組んだものじゃないですか。たしかにただ一口に「UKサウンド」と言っても幅が広いですから、みんなの好きな「ブリティッシュ・ロック」や「UKサウンド」って何だろう?と考えながら準備を始めました。
───たしかにUK産の音楽はジャンルも多種多様ですし、またひとつのジャンルの中でもかなり奥行きがありますよね。
北川 ですよね。参加した皆さんもそれぞれにUK産の音楽に思い入れのある方たちばかりで。だから、好きだからこそ大変っていうのはありました。今回参加してもらうクリエイターのみんなにオファーをして、まず全員から返ってきた最初の返答が「好きだけど、好きだから難しい」で(笑)。
───楽曲として表現するときに、花澤さんが歌われるものとして作り上げなければならないし、またこれまでの花澤さんがやってきたことを引き受けつつ、自分たちのルーツでもあるUKサウンドを提示しなくてはならない。考えてみると、サウンドのバランス、クリエイターとしての葛藤など、いろいろと難しいところもありますね。
北川 半分以上は今まで一緒に作ってきているメンバーなので、約束事として〈花澤香菜とその声ありき〉というのは理解してくれていました。とはいえ1枚目、2枚目、3枚目といろいろな曲が出てきているなかで、自分たちなりのちょっとした変化球を狙いたい。それが今回の「UKサウンド」というコンセプトで表現されていったんです。
───「あなたはこの時代のあのバンドのようなUKサウンドのイメージで」などという割り振りは、北川さんが考えたんですか?
北川 作家陣にオーダーする前にスタッフの皆さんと「UKサウンドと言ってイメージするのってどんな感じ?」という話し合いをしたときに、「こういうのもあるよね……」なんて言いながらとにかくたくさん並べて。そのなかから各クリエイターと相性がよさそうなイメージを持っていって「こういうのとか、こういうのとか出てますけど、どうですか?」と相談しながら進めた人もいます。「あなたはこういう方向性が得意だと思うので、この方向性のUKサウンドでお願いします」というのもあったし、皆さんが上げてきてくれたデモがバラエティに富んだ内容になって、結果的によかったですね。
───アルバムを最初から最後まで聴いていくと、トータルとしてイメージが浮かんでくるような、大きな流れやドラマのようなものも感じます。ただ1曲目の「スウィンギング・ガール」と、ラストナンバーの「Blue Water」をアルバムから抜き出して比べてみると、サウンド的な飛距離は相当ありますよね。アルバムとしての統一感を保つために、どのようなバランスを考えて制作を進めていったのでしょうか?
北川 たしかに1曲目とラストを比べると全然違いますよね(笑)。しかもアルバムってシングル曲も収録するし、書き下ろし曲とのバランスを取りつつ、アルバムとしての流れを作らなきゃいけない。だから途中で何段階も調節していくというか、「こういう曲が揃ってきたので、こんな曲もどうですか?」というのをやっていかないと、バラバラなままか、すごく一点に集中してしまうか。どちらかになりかねない。なので、出来上がってきた曲に対して「そのサウンドはもう出てしまったので、別のUKサウンドを聴かせてください」ってお願いした人もいます。
───UKサウンドの好みが被ってしまい、出来上がってきたサウンドの方向性が重なってしまったということですね。
北川 「ゴメン、ちょっと遅かったね」って(笑)。もちろん書き直し前提ではまったくないんですが、今までずっとやってきている人たちとのやり方というか、相談しやすさもあり、再度お願いすることもありました。向こうも「えー」なんて言いつつも、「じゃあこれはどう?」って、前とは違ったさらにすごいものを返してくれるんですよ。
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