花澤香菜の4枚目となるアルバム『Opportunity』。沖井礼二 (TWEEDEES)、宮川 弾、矢野博康、ミト (クラムボン)、花澤香菜のアルバムにはおなじみのアーティストのほかに、kz (livetune)、シンプリー・レッドのミック・ハックネル、Spangle call Lilli line、片寄明人も初参加。空気公団プロデュースによる「透明な女の子」、秦 基博作曲の「ざらざら」のシングル曲も加えた全15曲を収録している。
シングル曲「あたらしいうた」や「Marmalade Jam」「Opportunity」「雲に歌えば」「brilliant」を手がけ、また1stアルバム『claire』より引き続きアルバムのトータルサウンドプロデューサーを務める北川勝利。リスレゾでは、このアルバムのテーマである「UKサウンド」について、北川勝利が詳しく語ったロングインタビューを掲載している。音楽好きにとって非常に面白い内容となっているのでぜひご覧いただきたい。
■花澤香菜 4thアルバム『Opportunity』トータルサウンドプロデューサー・北川勝利 インタビューはこちら
作曲と編曲は、Spangle call Lilli line。そして、プロデュースやレコーディングなど、Spangle call Lilli lineの作品やライヴの多くに携わっているsalon musicの吉田 仁がミックスを手がけている。独自の制作スタイルを保ちながら作られたSpangleならではのサウンドと花澤香菜の歌声が見事に融合したこのナンバー。音響やポストロックの手法による音作りをベースに置いた、スピード感のあるギターロックがヴォーカルとともに颯爽と駆け抜ける。
花澤香菜とコラボレーションをしたインディーズ・シーンを出自とするアーティスト、やくしまるえつこと空気公団。美しい音の響きの中に語るように歌うヴォーカルが浮かびあがる、彼らの音楽の特徴ともそうであったように、花澤香菜の歌声は今回のSpangle call Lilli lineのサウンドとも相性が抜群だ。
“コピーとペーストの夕暮れ”を繰り返す時間から抜け出して、まだ見ぬ彼方へと向かうこの楽曲。ビートやリズムの存在感を前に出しつつも繊細な音の響きに留意した巧みなミックスが感じられ、またヴォーカルからは、冷めた抑揚に少しずつ熱が帯びていく、その微妙な変化の様子も伝わってくる。ラストのパートではさらに疾走感を増したサウンドに浮かぶヴォーカルがいっそう清々しい開放感を誘う。
片寄明人が作曲を、また北川勝利とともに編曲を手がけた書き下ろし曲。楽曲には、ベースに高桑 圭(Curly Giraffe)、ドラムに白根賢一が参加と、GREAT3のオリジナル・メンバーが集結。また彼らの盟友である、“アイゴン”こと會田茂一(FOE)と、フジファブリックの金澤ダイスケも演奏に加わっている。
レコーディングはGREAT3がデビューより使用していたフリーダムスタジオで行なわれ、GREAT3やFOEのレコーディング・エンジニアであった南石聡巳も参加。残念ながらフリーダムスタジオは2016年の年末にて営業終了。彼らにとって思い出に残るレコーディングになったのではないだろうか。
グルーヴに絡むシンセやオルガンが鳴り響くサウンドは、音響派・ミーツ・サイケデリアのようでもあり、スタイル・カウンシルとステレオラブが入り混じったようでもある。間奏でアナログな音色を奏でる金澤ダイスケのパートもちょっとノスタルジックなイメージを演出。歌詞には花の名前が幾つも並べられており、市場で花々が咲き乱れる色とりどりの光景を、サウンドとともに鮮やかに映し出している。何気ない日常のワンシーンを優しく見つめる、その澄み切った歌声からは幸せがそっと漂ってくるようで、リズミカルな“Palala Papalala”のコーラスも明るく柔らか。今朝見てきた出来事をうれしそうに喋りかけてくるような、親密な雰囲気も心地好い。
クラムボンのミトが10ccの「I’m Not in Love」をモチーフにして制作したラストナンバー。声を無数に重ね合わせて特徴的なコーラスを生み出した「I’m Not in Love」のように、こちらも花澤香菜の声を多重録音。2ndアルバム『25』に収録されている「Make a Difference」では、花澤香菜の声を細かくエディットし、トラックに組み込んでいたミトだが、この曲では、コーラスの録音に2日をかけ、声だけで120以上ものトラックを使用と、“声”に対するこだわりがさらに増した模様。
それぞれほんの少しずつ歌い方を変えた声を、幾重にも丁寧に重ねることにより、その要素が凝縮されたコーラスが完成。空間に放出される声の響きに包まれるような感覚が味わえる。ハイレゾではさらにコーラスの繊細な響きや、声の濃厚な成分といったものが感じとられ、ヘッドホンやスピーカーでそれを聴き比べるのも面白い。
イントロではロウソクに灯がともるように声が次々と現われ、そのまま響き続けるコーラスからは、ゆらぎやうねりといったものも感じられ、それは水の流れに心のイメージを映し出した歌詞にも結びつくよう。緩やかなサウンドとコーラス、そしてヴォーカル。穏やかでドリーミーな雰囲気を持つ楽曲が途中からアップリフティングなEDMへと変化する展開も素晴らしい。
トレードマークでもあるクラブ・スタイルを封印し、ビートルズのような楽曲を新たに披露したkz(livetune)の「スウィンギング・ガール」
ケンジ・ジャマー(鈴木賢司)や名プロデューサー・アンディ・ライトも参加した、シンプリー・レッドらしいメロディが光る「FRIENDS FOREVER」
不思議な浮遊感を放つテクノポップと独特な言語センスが際立つ、宮川 弾の「滞空時間」
ベース・ラインが持ち上がり、疾走するブリティッシュ・サイケはまさに沖井礼二の真骨頂「カレイドスコープ」
みずみずしいサウンドと山崎ゆかりが綴るシンプルで温かい歌詞が優しく心に響く、珠玉のポップ・ナンバー「透明な女の子」
ローゼズ好きなら思わずにやりとする北川勝利の「Marmalade Jam」は、マッドチェスター・レイヴ・オンな感じで、ライヴでは花澤香菜にマラカスを振りながら歌ってほしいナンバーだ。
洗練されたシンセサウンドが作り出す爽やかな昂揚感が魅力的な、矢野博康の「Seasons always change」
●「あたらしいうた」のレビューはこちら
●「ざらざら」のレビューはこちら
今作は「UKサウンド」を主軸としながらも、洋楽の丁寧な模写に歌声を押し込んだものでは決してなく、アーティストとの相互作用により生まれた、花澤香菜オリジナルの音楽へと仕上がっている。インタビューでも語られているように、様々な手法やサウンドで花澤香菜を描きながら、アルバムを通して聴くとトータルとしての雰囲気や流れといったものが感じられる。ヴォーカルはさらに成長を遂げ、今までには無かったタイプの曲もスムーズに歌いこなす、幅広い表現力も伝わってくる。楽曲のクオリティから参加アーティスト、また歌声の美しさに至るまで、実に贅沢な内容となっている。
花澤香菜
Opportunity
Aniplex Inc.
2017.02.22FLAC 96kHz/24bit
ハイレゾの購入はこちら
1.スウィンギング・ガール
作詞:岩里祐穂 作曲・編曲:kz
Bass:ミト (クラムボン)
All Other Instruments:kz (livetune)
2.あたらしいうた
作詞:花澤香菜 作曲・編曲:北川勝利
Drums:山本真央樹
Bass:千ヶ崎学 (KIRINJI)
Piano:末永華子
Electric Guitar:松江 潤
Strings Programming:rionos
Chorus & Programming:acane_madder
Programming:戸川卓士
3.FRIENDS FOREVER
作詞:西寺郷太 作曲:Mick Hucknall 編曲:Andy Wright
Drums:Roman Roth
Bass:Dejay Edmund
Keyboards:Dave Clayton
Guitar:Kenji Suzuki
Saxophone:Ian Kirkham
Trumpet:Kevin Robinson
Trombone:John Johnson
Piano and Programming:Andy Wright
Guitar Solo:Gavin Goldberg
Produced by Andy Wright
Chorus:acane_madder、北川勝利 (ROUND TABLE)
4.星結ぶとき
作詞:宮川 弾 作曲・編曲:Spangle call Lilli line
Drums:歌代龍勢
Bass:柳澤一誠
Electric Guitar:藤枝 憲、笹原清明
Synthesizer:林 英和
Other Instruments:大坪加奈
5.滞空時間
作詞・作曲・編曲:宮川 弾
All Instruments:宮川 弾
6.カレイドスコープ
作詞・作曲・編曲:沖井礼二
Drums & Tambourine:原”GEN”秀樹
Bass , Electric Guitar , Programming & Chorus:沖井礼二 (TWEEDEES)
Trumpet:湯本淳希 (FIRE HORNS)
Chorus:acane_madder
7.透明な女の子
作詞・作曲:山崎ゆかり 編曲・プロデュース:空気公団
Chorus:山崎ゆかり (空気公団)
Bass:戸川由幸 (空気公団)
Piano, Organ & Synthesizer:窪田 渡 (空気公団)
Drums:オータコージ
Electric Guitar & Acoustic Guitar:奥田健介 (NONA REEVES)
8.Marmalade Jam
作詞・作曲・編曲:北川勝利
Bass:千ヶ崎学 (KIRINJI)
Electric Guitar:松江 潤
Chorus & Programming:acane_madder
Acoustic Guitar & Programming:北川勝利 (ROUND TABLE)
9.Opportunity
作詞:岩里祐穂 作曲・編曲:北川勝利
Acoustic Guitar & Shaker:北川勝利 (ROUND TABLE)
Piano:末永華子
10.ざらざら
作詞:花澤香菜 作曲:秦 基博 編曲:島田昌典
Drums:あらきゆうこ
Electric Bass:美久月千晴
Piano, Organ, Mellotron & Tambourine:島田昌典
Acoustic Guitar:秦 基博
Electric Guitar & Acoustic Guitar:八橋義幸
Strings:室屋光一郎ストリングス
秦 基博 by the courtesy of AUGUSTA RECORDS / Ariola Japan
11.雲に歌えば
作詞:岩里祐穂 作曲・編曲:北川勝利
Bass, Acoustic Guitar & Chorus:北川勝利 (ROUND TABLE)
Chorus & Programming:acane_madder
12.FLOWER MARKET
作詞:岩里祐穂 作曲:片寄明人 編曲:片寄明人、北川勝利
Drums:白根賢一
Bass:高桑 圭
Electric Guitar & Acoustic Guitar:片寄明人
Electric Guitar:會田茂一
Organ & Synthesizer:金澤ダイスケ
13.brilliant
作詞:花澤香菜 作曲・編曲:北川勝利
Drums:みどりん (SOIL&”PIMP”SESSIONS)
by the courtesy of Victor Entertainment
Wood Bass:千ヶ崎学 (KIRINJI)
Electric Guitar:松江 潤
Acoustic Guitar & Chorus:北川勝利 (ROUND TABLE)
Chorus & Programming:acane_madder
14.Seasons always change
作詞:岩里祐穂 作曲・編曲:矢野博康
Electric Guitar, Synthesizer & Programming : 梅林太郎
Synthesizer & Programming:矢野博康
15.Blue Water
作詞:岩里祐穂 作曲・編曲:ミト
All Instruments:ミト (クラムボン)
Sound Produced by 北川勝利 (ROUND TABLE)
※except for M-7, M-10
SHARE