寿 美菜子『emotion』レビュー

シングル曲「ミリオンリトマス」「Bye Bye Blue」「Candy Color Pop」「black hole」を収録した待望の3rdアルバム。新曲6曲すべてで寿自身が初となる作詞を担当。躍動感溢れる会心の一枚。

寿 美菜子が3年4カ月ぶり3枚目となるアルバムをリリースした。昨年秋、10周年に向けて音楽活動の充電期間に入ったスフィアのメンバーの中で、今年いちばん最初のリリースとなる今作には、「black hole」「Candy Color Pop」「Bye Bye Blue」「ミリオンリトマス」のシングル曲及びそのカップリング曲のほか、アルバムのために書き下ろした新曲を収録している。

今回、寿が初となる作詞を手がけており、なんと新曲6曲すべての歌詞を自らの手で仕上げている。それらは初めての作詞とは思えぬクオリティで、声優・歌手・女優などマルチな活動を続ける彼女の引き出しの多さと才能の非凡さを改めて感じる。自身の好みを反映させた楽曲を展開してきた寿 美菜子だが、その世界観をダイレクトに伝える作業が加わったこともあり、今まで以上にアーティスト色の強い作品となっている。

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新曲の中でもリード曲となる「Ambitious map」の作曲は、でんぱ組.incやチームしゃちほこの楽曲を手がけ、NICO Touches the Wallsの楽曲プロデュースに携わる浅野尚志が担当。ジャングルビートを思わせるドラムが鳴り出した瞬間、曲のみならずアルバムへの期待までもが一気に跳ね上がる。今作の幕開けにふさわしい鮮烈なイントロだ。追って重なるギターとシンセの音色を歯切れよく響かせ、ホーン・セクションを加えたパワフルなバンドサウンドを繰り広げる。“寿ロック”の最新型となるこの曲では、「black hole」以降のシングルからも感じられた力強い躍動感、サウンドの土台を構成するダイナミズムをさらに引き出しており、また楽曲からはポジティブなバイブレーションが溢れんばかり。その勢いはアルバム全体の流れを舵取りしているようにさえ思える。

この曲は譜割りがかなり複雑なものだが、歌詞が見事なまでにはまっており、言葉を置くポイントを的確に捉えることのできる寿の作詞センスに驚かされる(繰り返すが今回初めての作詞である)。作詞は韻を踏むだけでは単調なままで、言葉の選択やその繋がりも重要な要素となってくる。また歌の段階では言葉同士を抑揚でスムーズに結び合せる、高度な歌唱力も必要とされる。これらをクリアーしたうえで華やかな表情にて楽曲を彩る、寿の歌声がひときわ鮮やか。複雑に絡み合ったこの曲が爽やかに聴こえるのはサウンドだけでなく、英詞を取り入れた歌詞だけでなく、ボーカルの豊かな表現力がもたらすところが大きいのだろう。歌詞、歌ともに彼女の才能が遺憾なく発揮された一曲である。

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4曲目には、「i wanna be my precious one」や「Candy Color Pop」などのEDM路線を受け継ぐ「LOVE JOY FUN」が、6曲目には、小気味良いリズムにオーケストラルなキメを呼応させた「I wanted to do」が並ぶ。「I wanted to do」は非常にポップな曲調でありながらも、心にぽっかりと空いた穴を埋められずにいる女の子の気持ちを描いた失恋ソングで、サウンドのテイストと相反するようなこういった歌詞をすんなりと当てはめて、明るい歌声で歌い上げているところが、洋楽に影響を受けてきた寿らしい。こちらも英詞を織り交ぜながら、日本語で単語ごとに韻を折り重ねたりと、リズム感も抜群なボーカルを披露。そう、日本語と英語の組み合わせもごくごく自然で、そのバランスもちょうどいい感じ。溌剌としたボーカルがとても魅力的で、キャッチーなサウンドと歌詞の世界観も相まって、多くの女性から支持が得られそうだ。

ほか新曲では、ダイナミックなロックチューン「Sun Shower」、今風のR&Bテイストを交えた「feel in my heart 」を後半に配し、ラストには「Piece of emotion」を並べる。この曲は、アルバムタイトルである『emotion』を曲名に盛り込んでおり、歌詞からも今作のテーマを示した表題曲といった役割を担っていることがわかる。そのサウンドは「I wanted to do」同様に、テン年代のUSメインストリームへのシンパシーを感じるもので、イントロとアウトロで奏でられるギターのフレーズも印象的だ。ボーカルはエネルギッシュで、サビの“終わらない sound 全く濁らない heat beat もっと激しく”の言葉のとおり、溢れる想いを叩きつけるように力強く響く。自身の内面と向かい合い、表現者として飽くなき挑戦を続ける寿 美菜子の姿がそのままに表れた、ほとばしる情熱が伝わるメッセージ・ソングとなった。

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ハイレゾでは「Ambitious map」から目の覚めるような解像感を感じることができる。スピード感を生み出すビートやリズムのキレもよく、瞬発力のある音が目の前に迫ってくるような感じだ。“寿ロック”の特徴として楽曲の爽快感が挙げられるが、ここでもその方向性を強く打ち出しながら、さらに快活な音の鳴りを加えており、もはやサウンドは痛快といったところ。「Bye Bye Blue」の音のヌケや、「LOVE JOY FUN」のエッジの効いたEDMアレンジの刺激、音が弾ける「I wanted to do」のパンチ力もいい。

メリハリの効いた楽曲からは音の存在感が強く伝わってくるが、ボーカルはそれを上回る。ミックスが非常に整っていることもあるが、ハイレゾの情報量が歌声の澄んだ質感をよりリアルに描き出し、その表情もますます豊かに感じられる。今回は前述のとおり、韻を踏む心地よさを活かした曲も多く、アクセントの強弱やイントネーションといった声の抑揚も聴きどころのひとつ。「Ambitious map」のエンディングの笑い声や、「 I wanted to do」のキュートなシャウトなど、遊び心に満ちた声も実に楽しげで、また魅惑的だ。

ビートやリズムを重要視し、ノリの良さを追求した今作は、躍動感がさらに高まる楽曲の仕上がりとなっている。昂揚感溢れる前半、8曲目「Sun Shower」から10曲目「”YES”」のハードさを押し出したロックの連打、続く「タイムカプセル」のメロウネス……と曲順にも強いこだわりが感じられ、その全体の流れも楽しみながら聴いてほしい作品だ。

寿 美菜子
emotion

Music Ray’n Inc.
2018.01.17

FLAC 96kHz/24bit
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e-onkyo music
mora

 収録曲

 1.Ambitious map
   作詞 : 寿 美菜子 作曲・編曲 : 浅野尚志

 2.ミリオンリトマス
   作詞 : 古屋 真 作曲 : 山田竜平 編曲 : 山下洋介

 3.Bye Bye Blue
   作詞 : Lauren Kaori 作曲 : 家原正樹, Lauren Kaori 編曲 : 家原正樹

 4.LOVE JOY FUN
   作詞 : 寿美菜子 作曲・編曲 : 國廣大悟

 5.アンブレラ・アンブレラ
   作詞 : 田中秀典 作曲・編曲 : 川口圭太

 6.I wanted to do
   作詞 : 寿 美菜子 作曲・編曲 : NA.ZU.NA

 7.Candy Color Pop
   作詞 : mavie 作曲・編曲 : Justin Moretz, 江上浩太郎

 8.Sun Shower
   作詞 : 寿 美菜子 作曲 : 國廣大悟 編曲 : 川口圭太

 9.black hole
   作詞 : Jam9 作曲 : Jam9, 家原正樹 編曲 : 家原正樹

10.”YES”
   作詞 : 田中秀典 作曲・編曲 : 川口圭太

11.タイムカプセル
   作詞 : mavie 作曲・編曲 : 本田光史郎

12.feel in my heart
   作詞 : 寿 美菜子 作曲・編曲 : 山田竜平

13.Another Wonderland
   作詞 : mavie 作曲・編曲 : Justin Moretz, 江上浩太郎

14.Piece of emotion
   作詞 : 寿 美菜子 作曲・編曲 : 山田竜平

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