2011年10月19日、TVアニメ『Fate/Zero』のエンディングテーマに起用され大きな話題を呼んだシングル「MEMORIA」にてメジャーデビューを飾った藍井エイル。2013年1月には「MEMORIA」「AURORA」「INNOCENCE」らシングル曲を含む1stアルバム『BLAU』、2014年には「コバルト・スカイ」「シリウス」「虹の音」を収めた2ndアルバム『AUBE』、そして、2015年6月には「IGNITE」「GENESIS」「ラピスラズリ」を収録した3rdアルバム『D’AZUR』をリリース。その後には「シューゲイザー」「アクセンティア」「翼」と3つのシングルをリリースしている。
デビューからちょうど5周年を迎えた2016年10月19日に、2枚同時リリースされたのが自身初となるベストアルバム『BEST -E-』と『BEST -A-』。「MEMORIA」から「翼」までの全シングル曲やアルバムやシングルのカップリングに収録されている人気曲、そして、それぞれに1曲ずつ新曲を収録している。
『BEST -E-』には、記念すべきデビュー曲「MEMORIA」、『ソードアート・オンライン』《フェアリィ・ダンス編》のOPテーマ「INNOCENCE」、「ツナガルオモイ」、TVアニメ『アルドノア・ゼロ』EDテーマ「GENESIS」、TVアニメ『アルスラーン戦記 風塵乱舞』のOPテーマ「翼」などのシングル曲に加え、『Fate/Zero』トリビュートアルバム『Prayer』の収録曲「Lament」や、TVアニメ『キルラキル』の挿入歌「サンビカ」、PlayStationR3 & PlayStationRVita『ソードアート・オンライン -ロスト・ソング-』OPテーマ「シンシアの光」、PS3ゲーム『ドラッグ オン ドラグーン3』テーマソング「クロイウタ」、シングル『シューゲイザー』のカップリング曲「HaNaZaKaRi」、シングル『アクセンティア』のカップリング曲「春~spring~」、新曲の「アカツキ」などを収録している。
TVアニメ『Fate/Zero』のEDテーマに起用され、2011年10月19日にリリースされた藍井エイルのデビューシングル。北海道で藍井エイルの才能を見出し、彼女をデビューへと導いた音楽プロデューサー・安田史生が作曲、また藍井エイルとともに作詞を手がけている。
編曲は、茅原実里「儚くも愛しき世界の中で」などの楽曲提供や、「青い栞」などGalileo Galileiの楽曲にコーラスで参加しているシンガーソングライター“Chima”(TVアニメ『フリップフラッパーズ』エンディングテーマ「FLIP FLAP FLIP FLAP」のヴォーカルにフィーチャリングされている)のプロデュースなどを行なっている作曲家の下川佳代。藍井エイルでは「AURORA」「INNOCENCE」を始めとして、編曲やストリングス・アレンジとして多くの楽曲に携わっている(『Fate/Zero』トリビュートアルバム『Prayer』に収録されている「MEMORIA」のオーケストラ・アレンジも彼女によるもの)。
CDでは音圧を上げる処理=コンプレッションをかけているため、“圧”によって音を押し出す、その勢いは強い。ハイレゾではコンプレッションは控えめされているため、そこまでの押しの強さは感じられない。ハイレゾでより感じられるのは、音量の抑揚であるダイナミズムが活かされた仕上がりとなっている点だ。たとえばイントロのヴォーカル部分では力強さで押し切るようなCDに比べるとハイレゾでは、力の抜き差しによる音量の強弱のコントロールといった抑揚における細やかなニュアンスがより鮮明に伝わってくる。竹のようなしなやかさと舞うような抑揚によって、表現における柔軟さをじっくりと確かめることができる。そして一人称で綴る歌詞ながら、たおやかに空間に満ち、広がりを増した歌声からは、物語の語り部としてその想いを代弁しているかのような響きも感じ取れる。
サウンドはこの曲では強いインパクトをもたらす重低音が奥深くへと沈み込む中、“降りしきる雪”のように奏でられるピアノの音が2番からは激しさを増しているのが明確に理解できる解像感が伝わる。ストリングスやギターなどのダイナミックなサウンドは、CDの迫力にさらに肉付けをしたような全体的にたくましい音像となっており、エモーショナルな楽曲をさらにドラマチックに展開させる。
作詞・作曲・編曲は、「IGNITE」のアレンジャーであり、また「Overfly」「Startear」など春奈るなの楽曲を手がけ、瀧川ありさの「さよならのゆくえ」や「ロストラブレター」などにも参加しているSaku。
ベストアルバムのために書き下ろされたこの新曲は、『BEST -A-』に収録された新曲「レイニーデイ」と同じく“照らし”という言葉を用いながらも、タイトルのイメージとはうらはらに明るい希望に満ちた「レイニーデイ」とは異なり、失ったことの痛みをダイナミックなサウンドに乗せて歌いあげるもの。
躍動を放つビートと緊迫感のあるサウンドが一体となり、強いアクセントとともに一気に突き上げては一寸の間断を差し込む構成は、胸の奥底から波のように止めどもなくこみ上げてくる悲しみそのものであり、ところどころに奏でられるウィンドチャイムの儚い煌めきが一筋の涙を表わしている。ドラムの手数の多さを、ストリングスの厚さを描写する解像感が楽曲をダイナミックに加速させ、慟哭を表わすギターの激しい音色や弧を描くヴァイオリンの切ない旋律とともに、心に吹きすさぶ嵐のようなイメージを喚起させる。バラードではなく疾走感のあるロックであるところがかえって、“狂おしいほど” “壊れるほど”の想いの深さと、残された者に与えられたさだめの厳しさを表現しているように思えてならない。
“塗りつぶして アカツキのように”と情熱的に語るヴォーカルは感情をたぎらせる強い抑揚で、そして“言葉以上に愛していた”ということを言葉でしか表現できないもどかしさと、伝える相手がもはやいない虚しさを照らし出す。奔流のようなサウンドが過ぎ去り、“君が全てだったから”と歌い切る声の透き通るような響きには、深い悲しみに沈み込む中、喜びに満ちた思い出をそっと愛おしむような優しさが静かに漂っている。
クリアな音像による疾走感を感じさせる「INNOCENCE」
ギターの歯切れの良さが光る「サンビカ」
中盤では包み込むような定位の声と音へのリヴァーヴの付け方も印象的な「シンシアの光」
伸びのあるギターも華麗に鮮やかな音色を放つ「HaNaZaKaRi」
深い孤独をエモーショナルな歌声で表現する「KASUMI」
爽やかな躍動感がヴォーカルとともに広がる「ツナガルオモイ」
広漠とした空間に硬質に音が鳴り響く「Lament」
Hysteric Blueのヒット曲を清々しくカヴァーした「春~spring~」
スレンダーでスピード感のあるロックの魅力をさらに引き出したこのハイレゾは、また藍井エイルの歌の素晴らしさをあらためて実感させてくれる。そして、そのことに気づかされるのは、シングル・タイトル曲からだけではない。例えば、シングル『シリウス』に収録されている「クロイウタ」は、MONACAの岡部啓一によるダイナミックなサウンドがハイレゾによく映え、また妖しい雰囲気を感じさせるヴォーカルが魅惑的な、そして藍井エイルがJ-POPの申し子であることを強く感じさせる、ちょっと隠れた名曲だ。このように今回のベストアルバムは、シングルのカップリング曲やカヴァー曲など、聴き逃していた人たちに知らなかった曲との新しい出会いを与えてくれる。もちろん熱心なファンも選曲の妙にきっと満足するであろう、充実した内容となっている。
■藍井エイル『BEST -A-』のレビューはこちら
Sony Music Labels Inc.
2016.10.19FLAC 96kHz/24bit
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1.翼
作詞:Uki 作曲:山田竜平 編曲:加藤裕介
2.INNOCENCE
作詞:Eir・重永亮介 作曲:重永亮介 編曲:下川佳代・重永亮介
3.サンビカ
作詞・作曲・編曲:安田貴宏
4.GENESIS
作詞:唐沢美帆 作曲:丸山真由子 編曲:佐藤あつし 清水武仁
5.MEMORIA
作詞:Eir・安田史生 作曲:安田史生 編曲:下川佳代
6.シンシアの光
作詞・作曲・編曲:新井弘毅
7.HaNaZaKaRi
作詞:Uki 作曲・編曲:加藤裕介
8.クロイウタ
作詞:菊地はな 作曲・編曲:岡部啓一(MONACA)
9.KASUMI
作詞・作曲・編曲:新井弘毅
10.ツナガルオモイ
作詞・作曲:Eir 編曲:Shun Mizuki・石塚英一朗
11.Lament
作詞:Eir・飯濱壮士 作曲・編曲:Tomo.
12.春~spring~
作詞・作曲:たくや 編曲:重永亮介
13.アカツキ
作詞・作曲・編曲:Saku
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