TVアニメ『プリンセス・プリンシパル』OPテーマ「The Other Side of the Wall」Void_Chords feat.MARU 高橋 諒 インタビュー

2017.07.26

数多くのアニメ作品の音楽を手掛けて注目を集める作曲家/クリエイターの高橋 諒が、自身初のソロ・プロジェクトとなるVoid_Chords(ボイド コーズ)を始動。1stシングル「The Other Side of the Wall」をリリースした。

鈴村健一や下野 紘、スフィアといったアーティストに楽曲を提供するほか、『おしえて!ギャル子ちゃん』(2016年)を皮切りに『レガリア The Three Sacred Stars』(2016年)や『ようこそ実力至上主義の教室へ』(2017年)といったTVアニメ作品の劇伴を手掛ける高橋 諒。『ACCA13区監察課』(2017年)では劇伴に加えて3人組ユニットのONE III NOTESでOPテーマを担当するなど、多様な音楽性でアニメの作品世界を彩ってきた。

Void_Chords名義での初作品となる「The Other Side of the Wall」は、19世紀のロンドンを舞台にした少女たちの本格スパイ・アクション作品『プリンセス・プリンシパル』のOPテーマとして制作された楽曲。かつてFire Lily名義で活動していたことでも知られるシンガーのMARUをボーカリストに迎え、アニメのシリアスでスチーム・パンクな世界観になじむエネルギッシュ&スタイリッシュなナンバーに仕上げている。

今回は高橋 諒にプロジェクト始動の経緯からコンセプト、さまざまな仕掛けが施されたシングルの制作話まで、たっぷりと話を聞いた。

Interview & Text by 北野 創
at Lantis

Void_Chords feat.MARU「The Other Side of the Wall」のレビューはこちら

プロジェクト始動の経緯とコンセプト

───どのような経緯でVoid_Chordsというプロジェクトを立ち上げたのでしょうか?

高橋 諒 劇伴で関わらせていただいた『ACCA13区監察課』(2017年)という作品で、自分を中心としたONE III NOTESというユニットでOPテーマを担当させていただいたんですよ。でも、自分の作家性をもっと出せる形で何かやりたいと思っていて、その環境を整えていただいたので、僕ひとりでハンドリングして一個の世界を作ってみようと思って。

───以前はLittle GARDEN Little MOONというバンドでも活動されていましたが、例えば自身でアーティスト活動を行ないたいという気持ちはあったのですか?

高橋 最近はアーティスト活動から遠ざかっていたんですけど、ここ数年で劇伴の仕事をやらせていただけるようになって、自分の作家性というものをもう一度ちゃんと考える機会があって。その流れで音楽自体をプロデュースすることについて考えたときに、作家アーティストというか、作家という属性を強くした形で自分の看板を立てるやり方が自分にはしっくりきたというか。それでVoid_Chordsをアーティスト名義として立ち上げることになりました。

───プロジェクトのコンセプトはなんですか?

高橋 僕は今までもなんでもありというか、いろんなジャンルを横断してやってきたので、なにかひとつ軸となるものを一本通したいという思いがあって。なので、コンセプトとしては自分の音楽性をいちばんエッジィな形で統合した場所ということでしょうか。

───Void_Chordsという名前にはどんな意味が込められてるのでしょうか?

高橋 「ボイド(Void)」という言葉は、宇宙空間で銀河と銀河の間にある何もない空間のことなんです。自分の音楽性も王道じゃないというか隙間みたいなイメージがあって。作家としてやらせていただいてるときは、そこからポピュラリティーを抽出する作業なんですけど、一度その自分のなかの闇というか、ボイド部分をガッツリ出したらどうなるかなと思って。自分のなかの認識できてない部分というか、真ん中のなにもないところから音楽を引っ張り出してくるとどうなるかという思いがあって命名しました。「コード」は音楽のコードでもありますし、文脈みたいな意味というか……そんな感じです(笑)。

───作家としてはアーティストや作品サイドからのオーダーに沿う形で楽曲を作る部分があると思いますが、それとは別の一面を出していきたいというところでしょうか。

高橋 別の一面でもありますし、自分のさまざまなバックグラウンドを統合するプラットフォームというか。例えばアーティストさんに楽曲を提供する場合は、その方の背景を考えるじゃないですか。Void_Chordsはその自分バージョンみたいなイメージですね。あまり自由だと膨大なバックグラウンドのなかから何を引っ張り出すかとっちらかってくると思うので、アニメの世界観にヒントをいただいたり寄り添いながら、しっくりくるものを書いていくスタイルというか。

スリリングなサウンドと圧倒的なMARUのボーカル

───それはご自身のなかに膨大なバックボーンや引き出しがあるからこそできるコンセプトですね。今回は『プリンセス・プリンシパル』という作品に合わせて新たな音楽性を引き出したと思うのですが、OPテーマの「The Other Side of the Wall」はどのような着想で作っていかれたのでしょうか?

高橋 企画段階でまず「スパイもの」というお話だったので、そのラインで考えていくと「007」シリーズ路線というかスリリングな方向があるなと思いまして。

───スリリングさを音で表現するときにいろいろなパターンがあると思うんですけど、今回はどういった形でスリリングさを出そうとしたのですか?

高橋 カッコよくてスリリングな方向となると、ちょっとSF感のある感じだと親和性があるんじゃないかと思って。最初にやろうと思ったのは2000年代のビッグ・ビート感というか、『マトリックス』(1999年)あたりの感じとかプロディジーのようなスタイルをベースとしつつ、ウワモノはジャズというのをやれば面白いんじゃないかって。だから最初はドラムをチョップしまくって、そこにピアノとかホーンをめちゃくちゃに重ねてみるというコンセプトから始まってます。始めはずっとドラムを切る作業をやってましたね(笑)。

───たしかに当時デジタル・ロックと呼ばれたあたりのカオス感は感じられますね。そこにホーンやピアノのジャジーな要素が混ざってくることで、非常に新しいサウンドになっていると思います。

高橋 普通はどっちかになると思うんですけど、もう無理やりケンカさせちゃったみたいな感じですね(笑)。けっこう暴力的というか、別々の要素をケンカさせるのは、自分の通底するコンセプトでもあるんですけど。でも、今回歌っていただいたMARUさんはボーカルの存在感がすごくて、オケがぐちゃぐちゃにケンカしているなかでも力技で抜けるというか、オケが挑んでいっても負けちゃうというか(笑)。こういうカオス感はこの先も有効かもしれないとは、今回やってみて思いましたね。

───サウンドの密度も濃くて、めちゃくちゃ細かいところまでプログラミングされていますよね。どこを聴いても何かしらの音が入っているみたいな。

高橋 結構いろいろ入れちゃうのは自分の特徴でもあり、課題でもあるんです。やっぱりポップスのアレンジは引き算が大事というか、ひとつひとつの音に説得力を持たせて、歌をちゃんと支えてあげるというところが大事なんですけど、そこにあえて挑むっていう(笑)。それを「うるさい」と思ってしまう人もいると思うんですけど、もし気に入ってもらえたら聴き込むことで「こんなこともやってたんだ」っていう発見があって、長く楽しんでもらえると思うんです。

───今回MARUさんにボーカルをお願いした経緯は?

高橋 いろんな候補の方がいたんですけど、MARUさんはR&Bシンガーとしてもキャリアのある方ですし、歌の説得力が圧倒的だったんですよね。もちろん素晴らしい歌声ですし、R&Bをやってるので縦のラインがすごく綺麗で、かつ力強くてロックっぽい荒々しさもあって。この曲のビート感ではあまり聴いたことのないタイプの歌声というか、そういうミスマッチ感と自分の大事にしたいところがいいバランスでおもしろいものになると思って。

───MARUさんとは実際にお会いしたんですか?

高橋 レコーディングで初めてお会いしたんですけど、もうプリプロの段階でスピーカーから風が吹いた感じでしたね(笑)。Aメロの一発目でそこにいた関係者全員がのけぞったんですよ。これは面白いことになると思いましたね。

───すごい迫力だったんですね。実際MARUさんの歌声も普段よりロッキッシュでパワフルというか、音のパワーと併せてものすごくエネルギッシュな曲に仕上がっていますね。サウンドの緻密さからはスチーム・パンク感が表われているようにも思いますし。音作りにおいてアニメの作品世界をイメージしたところはありますか?

高橋 すごく抽象的ですけど、レンガの感じとか歯車の感じというのは常に意識しながらビートを組んでいきました。リボルバーで撃つ感じとか(笑)。なので最初はもっとシンセもバリバリに入っていて、エレクトロニックな感じだったんですけど、作品の資料をいろいろ追って見せていただくうちに、ジャズ要素や生感をどんどん強くしていきました。

───生演奏はどの程度取り入れているんでしょうか?

高橋 ホーンとストリングスは生です。でもドラムスはあえて生のキットで打ち込んで、チョップしたものと普通のキットを混ぜて打ち込みのおもしろさを出しました。そこはちょっとダンサブルな感じにしようということで。あとは自分のなかでベースは特別な楽器なので、ベースを弾きまくることを意識してとにかく出しました(笑)。

───アー写でも6弦ベースがドンと主張してますものね。

高橋 でも、95パーセントは4弦でやってます(笑)。この曲も1音下げの4弦ですね。

───やはりベーシストとしてのこだわりみたいなところはあるんですか?

高橋 そうですね。例えばAメロの部分も白玉の普通のベースと、タッピングだけの演奏とで、ベースが2本入ってたりします(笑)。そこは別にセオリー通りじゃなくてもいいので、どんどん新しいところを出していこうと思っていて。

───放送されたアニメのオープニング映像をご覧になっていかがでしたか?

高橋 絵の力がすごくて興奮しましたね。個人的には世界観ともうまくバランスを取れたとは思いました。あと、アニメとドラムのカウントが同期しているところがあってうれしかったです。入れてよかったなあって(笑)。

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