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INTERVIEW

2026.02.17

「騙されたと思って聴いてほしい!」――新たな目標を掲げた夏川椎菜が2年ぶりのアルバム『CRACK and FLAP』を語る

「騙されたと思って聴いてほしい!」――新たな目標を掲げた夏川椎菜が2年ぶりのアルバム『CRACK and FLAP』を語る

夏川椎菜の4thアルバム『CRACK and FLAP』が2月4日にリリースされる。近年は唯一無二の「隙間産業」(本人曰く)を独自路線で突っ走ってきた彼女だが、2年以上ぶりのアルバム制作にあたって新たな目標を掲げた様子。壊して羽ばたく、新世界を目指す夏川椎菜の現在位置を聞く。

INTERVIEW & TEXT BY 青木佑磨(学園祭学園)

1回ぶち壊して、もう1回羽ばたき直すための『CRACK and FLAP』

ーー4thアルバム『CRACK and FLAP』は3rdの『ケーブルサラダ』以来2年以上ぶりのリリースというのが意外ですね。その期間内に『Ep04』を出していたりするのもあってですが、「シャドウボクサー」ってまだアルバムに入っていなかったんだと思いました。

夏川椎菜 そうなんですよ、結構前の曲のイメージがありますよね。4thアルバムを作り始めるまでの期間に私が何をやっていたのかというと、『ケーブルモンスター』という3rdアルバムのライブツアーをやった後、2年くらいかけてずっとリベンジライブをやっていて。なので、昔のライブをこすりまくるっていう(笑)。悪く言ったら停滞しているというか、過去から先に進んでない感というか。だから次に新しく自分の活動をするってなった時に、ただの一歩ではなく、ちゃんと跳び出すような大きなジャンプをしたいと思ったんです。だから今回『CRACK and FLAP』というタイトルにはそういう思いを込めましたね。「殻を破る、さらにそれだけじゃなく羽ばたくのだ」と。生まれ直しじゃないですけど、リベンジライブで自分の気持ちに整理を付けられたので、ここらで1回ぶち壊して、もう1回羽ばたき直してもいいんじゃないかって。

ーー1stアルバム収録の「ファーストプロット」から3rdアルバム収録の「ラフセカンド」までで、聴き手の感覚として一度伏線回収が行われた感覚があったんですよ。「第一部・完」といいますか。

夏川 それは実際あると思います。「第一部・完」があるからリベンジライブも安心してできた感覚がありましたし。

ーーリベンジライブで第一部がどんなものだったかを振り返る期間を経て、完全に「夏川椎菜・第二部」を始めるアルバムのように聴こえました。

夏川 うん、そういう意味ではあまりしがらみもないと言いますか。3rdまでは自分の劣等感を……武器にしてるっていうとちょっと言葉が悪いですけど、それが自分のコアの中にちゃんとあって、どう立ち向かっていくかを見せてきたつもりだったので。それがそれこそ「ラフセカンド」や、ライブツアーの“ケーブルモンスター”や、“リベンジライブ”をちゃんとやり切ったことで区切りがついたんです。これ以上そればっかりになっていると、逆にこちらとしてもやりづらいし。もうちょっと前向きに進んでいきたいなって気持ちがありましたね。

ーー10曲通して聴いた時に、どこか身軽になったような印象を受けました。

夏川 あー、嬉しい。

ーー第一部は毒で闘っていたキャラが、第二部で肉弾戦のキャラになって帰ってきたみたいな……。

夏川 あははは!たしかに!なんというか、ちゃんと伝え方を手に入れた感はありますね。自分の持っている卑屈さとか、根っこの部分が変わった感じはあまりしていなくて。その卑屈さ、劣等感、自分の中の悪しき感情を、どう伝えたら共感を呼ぶのか。どうしたら同じ思いをしている人を仲間にできるのかみたいな。毒の使い方をちょっと覚えた、制御できるようになったのかもしれません。無駄に人を傷つけない、今までがそうだった訳じゃないと思いたいですけど!(笑)。でも、強い言葉を使ったこともあったので。

ーーたしかに。扱いきれない大きな武器を振り回している感もあったのかもしれませんね。それゆえの良さももちろんあったんですけど。

夏川 うんうん。自分がそれに振り回されるというか、掻き乱されるというか。狙ってない範囲攻撃みたいな感じになっちゃってましたね(笑)。それがコントロールできるようになったなと思います。

ーーアルバム制作にあたって、そういった意図をどのように曲選びなどに反映させていったんでしょうか?

夏川 ライブではヒヨコ労働組合というバンドとずっと一緒にやってきていて、ギターが2本とベースとドラム、キーボードはなしというゴリッとした編成で。そのバンドに合うようなゴリゴリのロックをやりたいというのは前提にありつつ、今回は明確に目標ができたんですよ。私もそうだしお客さんもそうだし、スタッフもみんなで「ここを目指そうぜ」というのが……日本武道館なんですけど。武道館でやろうぜ、武道館でやれるようなアーティストになろうぜっていうのを目標に掲げたんですよ。だから今まであえて無視してきたと言ってもいいくらいなんですけど、マスに向けてもうちょっと聴きやすい音楽を作ってみようと。自分の核を失いはしないけど、初めて聴いた人でも取っ付きやすいようなもの。「あ、なんかこの人って愉快な曲を歌う人なんだ」ってちょっと好感を持ってもらいやすいような。他のもっと濃い曲も聴いてもらうためのフックになる楽曲を意識的に増やしていったほうがいいだろうという思いがありました。

ーー毒の生々しさも夏川さんの味だとは思うんですが、今回はキャラクター化された感じがあって。カートゥーンのように夏川さんの特徴が描かれているような、人に説明しやすさというか。

夏川 あ、それは結構大事に作ったかもしれません。ビジュアル面に関しても、もちろん色んな思いは込めつつなんですけど、やっぱり何をしているアルバムなのか、どういう人が歌っているのかが一番わかりやすいものがいいよねと、奇をてらわずに作りました。

ーー伝えることを目的としたアルバムなんですね。

夏川 はい。ちゃんと伝わってほしいですからね。

新曲群は「らしくなさ」と「憧れ」への挑戦

ーーアルバム新曲の話を曲順にお聞かせください。まず「ミエナイテキ」は山崎真吾氏による作詞・作曲・編曲の楽曲。こちらはどのような意図で制作されたのでしょうか?

夏川 タイアップとかが付いていても違和感がないような、アニメ化したバトルマンガのオープニングでもおかしくないような曲ですよね。まさしくそういうものを目指して作った楽曲です。

ーー紙資料を見ずに最初聴いた時に「夏川さんが作詞か?」と思いました。

夏川 思いますよね!?

ーー夏川椎菜の解像度が高すぎる。

夏川 そうですね。山崎さんはもう何回も曲を提供していただいていますし、レコーディングでもご一緒している関わりの深い作家さんなので。“目を見開きすぎると涙(ビーム)が出ちゃう”みたいな当て字の感じもすごく私っぽいし、夏川椎菜が歌ってそうですよね。メロディがキャッチーなのに対して、歌詞の引っ掛かりで耳を向かせるのも私の音楽っぽいなと思います。

ーー言葉選びの真っ直ぐじゃなさに共通点がありますよね。

夏川 本当にそう。コンペの段階でもうこの仮歌詞で届いて、いつもだったら山崎さんの曲は私が作詞をやるパターンが多いんですけど、これはもうこのままでいいんじゃないかと。“膝カックン背後からラッシュ”って歌いたいもんな(笑)。

ーー以前のインタビューで夏川さんは「自分では書けないようなポップなものを提供詞では書いてもらう」という旨の話をしていたんですが、今回夏川さんがポップを目掛けていることと、山崎さん側の夏川さんへの理解度が深まったことの合流地点で、ちょうど夏川さんが書きそうな歌詞が生まれている感がありますね。

夏川 たしかに。でも私の語彙には“湯シャン”とかないので(笑)。やっぱり語彙に違いが出るなと思いますね。

ーーこれはご自身でも読んだ瞬間に「私っぽい」と思えるものなんでしょうか。

夏川 はい、思いましたね。目にフォーカスを当てている感じとかが特に。あーでも、自分で書いたらそこまで自分の目にフォーカスを当てることもないのか。そういった意味では外側から見てくれている人の歌詞だなと思います。

ーーレコーディングはいかがでしたか?

夏川 歌い方に迷うこともなく、すんなり歌えて意外でしたね。私はこういうタイプの真っ直ぐなロックは、今までコンペで出してもらっても「私ではないかな」と考えてしまっていたんですよ。でも今回はあえてチャレンジしようと。どこまで自分っぽくない、まだ自分に馴染んでいない曲調を自分のものにできるか。苦戦するかと思ったんですけど、そこは山崎さんの曲だったこともあって意外とすんなり飲み込むことができました。歌詞の馴染みもあったと思います。

ーー単純な曲調とサウンド感でいうと、自己評価的には「私じゃなくても」感があるんですね。

夏川 そうですね、メロディに関しては。抜けるような強いボーカルが似合いそうな曲って、「なんか私じゃないな」となりがちというか。そんなに高くて太い声みたいなイメージが自分になくて、やっぱり難しい。自分の得意としてるところではないなという自覚があったんですけど、この曲を含めて最近やっとちょっと扱えるようになりましたね。

ーー続いて「メイビーベイビー」は原田茂幸氏による提供曲です。これはもう、熱望という感じですかね。

夏川 熱望です。私、デビューした時からずっとShiggy Jr.みたいな曲がやりたいなと思っていて、いつかご縁があったら原田さんに書いていただきたいと言っていたんですよ。でもやっぱりShiggy Jr.の曲ってShiggy Jr.の色があるし、ボーカルはやっぱりいけもこさん(Shiggy Jr.のボーカル・池田智子)のあの声が馴染んでしまっているから、自分が未熟な状態でやるとShiggy Jr.の劣化版にしかならないなと。せっかく作っていただいても私がいけもこさんの真似をして終わるだけだなと思っていたので、ちゃんと自分で自分の歌というものに自信が持てたタイミングでやりたいと思っていたんです。それで今回、そこの殻を破りたいという思いもありお願いしました。ちょうどShiggy Jr.も復活したところだったので、お互いにタイミングがいいかしらとご連絡してみたら快く引き受けてくださいました。

ーーShiggy Jr.をずっと聴いてきた中で、特にこの曲のテイストがやりたいといった希望は伝えたんでしょうか?

夏川 私が一番最初に衝撃を受けたのが「サマータイムラブ」で、Shiggy Jr.の代表曲の1つなんですけど。メロディの頭から本当に掴まれるような感覚があって、その掴まれたメロディが1曲の中で何度も繰り返されるのがこんなにも気持ち良いんだって。そのお話は曲を作っていただくにあたってお伝えしましたね。

ーーダンスミュージックでループ感のあるもの。

夏川 ですね。そもそものShiggy Jr.の音楽的なセンスに共感していて、そこと上手くコラボレーションしたいなと。原田さんに限らず初めてご一緒する方には必ず「まず一旦自由に、あまり深く考えずに作ってみてください」とお伝えしていて。「無理にかわいくしようとしなくていいですよ」みたいな。やっぱり皆さん気を遣ってくださるんですよ。「声優さんだし、女の子だし」とか、多分私服の感じからしても「強い女性」みたいな印象もないだろうし。だから結構ふんわりした曲を作っていただけることもあって。そこは気にせずに、ゴリゴリやってるので大丈夫ですということはお伝えしてます。

ーー「女性声優の音楽活動」という看板で気を遣われることがあるんですね。

夏川 そうですね、コンペの時とかにやっぱりそれを反映させてくれた曲が上がってくることが多いです。私はあえてそういう看板ではやっていないですし、今までやってきた方向性もあるので、作家の方とお話しする機会があるなら「そこは頭から外してもらって大丈夫です」っていつもお願いしていますね。

ーー実際に上がってきた楽曲はいかがでしたか?

夏川 まずもうめちゃくちゃ嬉しかったです。Shiggy Jr.の新曲を聴いたみたいな気持ちになって。

ーーまずは一旦ファンとして喜んで。

夏川 そうそう!「この世に存在しないShiggy Jr.の曲を私は聴いている!」って(笑)。デモの段階から既にそれを感じていたので、嬉しいし、しかも「これ、私が歌っていいんだ」って思いましたね。繰り返されるフレーズとか、初めて聴く人でもノリやすいリズムとか、今までの私の楽曲にはあまりないキャッチーさがあって。キャッチーであることはそのまま今回のアルバムのテーマでもあるので、すごくぴったりだなと思いましたね。

ーー歌詞においてもShiggy Jr.らしさは残しつつも、ちゃんと歩み寄ってくれた着地点に聴こえますね。

夏川 そうですね、Shiggy Jr.らしいあまり棘の目立たないポップな日本語ではありつつ。原田さんとお話しした時にも『CRACK and FLAP』という言葉に込めた思いをお伝えして。私が壁だとか困難だとかにぶつかったときに、あまり正攻法で乗り越えには行かないんですよ(笑)。なんとかして色んな方法で避けたり壊したりしながらここまで進んできて、でもそれを肯定するようなアルバムになったらいいなって。そんな話をしていたので、サビの繰り返しの歌詞から汲み取っていただけたのを感じました。“敷かれたレール 興味ない”とか“泣きべそかいてたって 何一つ変わらないだろ”とか、とてもいいなって思いました。

ーーこれまで夏川椎菜さんの哲学を夏川さん自身の毒や棘をもって表現してきたものが、新しく参加された原田さんによって一番平易な誰にでも理解できる言葉で翻訳されると、こんなに素直な曲になるんだと。

夏川 そう!素直だなってなりますよね。私はつい奇をてらって色んな言葉や比喩を使っちゃうんですけど、真っ直ぐ伝えられるのはやっぱり良いことだなと。そういう曲が入っているのは良いことだなと思いますね。

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