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INTERVIEW

2026.02.17

「騙されたと思って聴いてほしい!」――新たな目標を掲げた夏川椎菜が2年ぶりのアルバム『CRACK and FLAP』を語る

「騙されたと思って聴いてほしい!」――新たな目標を掲げた夏川椎菜が2年ぶりのアルバム『CRACK and FLAP』を語る

田淵智也作曲の「聴くインフルエンザ」はSNS時代の生き残り戦略

ーー今の夏川さんがこの言葉で伝えてくれるのはリスナーとしても嬉しいと思います……で、こんなに嬉しかったのに、ですよ。

夏川 あははは!(笑)。「コバンザメの憂鬱」ですね!

ーーこれは一体……なんですか?

夏川 なんなんですかねぇ(笑)。

ーー何を誰にどう発注したらこれが出来上がるんですか。

夏川 本当ですよねぇ。実はこの曲は田淵智也さんに、「シャドウボクサー」と同じタイミングで発注していて。だから曲自体は2年くらい前からワンコーラス分はあったものなんです。「シャドウボクサー」とは全然別の解釈で曲を作ってみてほしいとお願いしていて……それでこれが出来上がりました(笑)。

ーーえぇ!?

夏川 どんな発注だったのかももはや忘れてしまったんですけど。

ーー田淵さんはどういうつもりで、夏川さんに何をやってほしくてこの曲を作ったんでしょうね。

夏川 川口圭太さんのアレンジについては今回のアルバムに入れるにあたってお願いして、でもメロディやドラムの感じは田淵さんのデモの段階でもうこんな感じでした。

ーーなぜこのタイミングでアルバムに収録を?

夏川 ……ここしかなかった(笑)。この曲をどういう形で出すかを2年前から考えていて、『Ep04』とか『「 later 」』とかのタイミングで収録することも可能ではあったんですよ。けどシングルの表題にするのも難しいし、カップリングにしてはインパクトが強すぎるし。それで今回2年ぶりに出すアルバムのある種の目玉というか、「なんだコレ!?」って話題になったらいいなというのも含めて入れることにしました。

ーー歌詞は2年前に書いたものなんですか?

夏川 半分くらいは書き直していますね。当時書いたものをそのまま使っている部分もありますけど。ダルそうな感じで始まって、SNSのタイムラインを眺めて「嫌だなー」と思うみたいな流れ、根底にあるものは同じでしたね。世間との乖離をポエトリーラップするみたいな。それをこのタイミングで出すにあたって、私がちょうどTikTokを始めた時期と重なっていたんですよ。難しいなー、なんなんだろうなー、でもやらなきゃなー、と思いながらのタイミングだったので、結構それは念頭に置いて書き直したところはあります(笑)。

ーー極論、SNSが良いものか悪いものかなんてどうでもいいことではあるじゃないですか。でも本気で考えるし、苦手だけど全否定もしたくない。みんなが夢中になっているものには何か理由があると思いたいというか、マスに向けた今回のアルバムと軸はどこか似ているのかもしれません。

夏川 「SNSなんて知らねーよ、私は私がやりたいようにやるんだよ」って、言えたらかっこ良かったんですけど、それほどの胆力もないしそういうカリスマ性もない(笑)。だから精々コバンザメのように、流行りに乗っかりながらも少しだけ飛び出して、おこぼれをもらうみたいな。得意ではないこともしていかなきゃいけないんですよ。

ーーここまで自分の立場を認められる人ってあまりいないと思うので。「コバンザメの憂鬱」。最高だと思います。

夏川 だからすごく私らしいなと思います。自分として無理はしていないなと。こんなにSNSが苦手だ、向いてないって言うんだったら、「じゃあやらないかっこ良さがあるじゃん」っていうのが言えたら良かったんですけど、それもちょっと違う。それは私のキャラじゃない。

ーー戦略として絶対に必要な時代だし、見ている側としてもショート動画の類って脳が逆らえないときがあるじゃないですか。そのドラッギーな感じがサウンドと重なって良いですよね。この音にSNSに対する自問自答というテーマがすごくハマっている。

夏川 たしかに。デモを聴いたタイミングから既にSNSの話はしていた気はします。ここまで限定的ではないですけどTikTokのことも頭に置きながら。

ーー2年前の種と、とはいえそうも言ってられないという今の自分が合流している感じですかね。

夏川 そうですね……“軍門に降る”とか言ってるし(笑)。

ーー敵である前提ですもんねぇ。

夏川 敵なんだけど、一旦降っとこうっていう。書いていてめちゃくちゃ楽しかったです。田淵さんの曲に歌詞を書くのは本当に難しいんですよ、ミルクパズルみたいな感じなんです。あの、何も描かれていない真っ白なパズル。

ーーもう思考実験じゃないですか。

夏川 ははは!本当にそんな感じ。この音に何ハメたらいいんだよ!っていう。一応田淵さんが書いてくれた仮歌詞もあって、それを聴いたうえで自分の作詞をするんですけど、仮歌詞の影響ってやっぱり受けちゃうんですよ。田淵さんの仮歌詞って「もうそれしかないじゃん」「その言葉しかハマらんやん」みたいなハメ方をしてくることがあるので、でもやっぱりそのままではいけないなと。

ーー仮歌詞は残さずに書くんですね。

夏川 この曲はほぼ残ってないですね。あるとしても語尾が同じとかそれくらいです。

ーー仮歌詞って意味はあまりない文字列なんですか?

夏川 その時々ですが、この曲はあまり意味はなかったですね。ハマる母音や子音の指針みたいな感じでした。

ーーそして完成した歌詞ですが、これだけ自問自答を繰り返したうえで“ダンス・フィーバー⭐︎オールザタイム”ですからねぇ。何があったんだ。

夏川 何を思ったんだ(笑)。しかもすべての時間で踊ってないと“アウト・オブ⭐︎ワールド”って。世界から置いていかれるんだ。どんな強迫観念なんだろう。

ーー今までも夏川さんの脳内を覗くような自問自答系の楽曲はありましたが、これはご自身がライブのMCでおっしゃっていた「聴くインフルエンザ」という言葉がぴったりなくらい、まともに自問自答もできていない感じがあります。

夏川 本当ですよねぇ。ライブで初披露した時がまだ音源も世に出ていない時期で、実際一曲終わった後みんなポカーンとしてました。何を聴かされたんだろう、みたいな。でもこっちもこっちで必死だし、お客さんの反応なんか見てられない(笑)。

ーーとにかくまずは1回成功させなきゃいけないという。

夏川 そうそう。わかりづらい曲をやっている自覚はあるから、せめて正解を出さなきゃって(笑)。曲を終わりのMCで「サビのところで合いの手があるので、今後はお客さんにコールしてもらいたい」って話をしたら客席から「えぇ~~……」って。

ーー「今聴いたのはそんな曲でしたか!?」ってなりますよそりゃ。

夏川 普通喜ぶもんじゃないんですか!?(笑)。めっちゃ面白かったです。

ーー続いては長谷川大介さんの作編曲、ご本人作詞による「Silhouette」。こちらはどういった意図で作られたんでしょうか?

夏川 これはまあ、太ったんですよ。

ーーそれはまあ、歌詞を読めばわかりますけども。

夏川 去年の3月にTrySail単独の日本武道館公演があったんですけど、その前の年の12月くらいから暴飲暴食を重ねた結果、3月に体重が限界突破しまして。人生で一番大事と言っても過言ではない自分のグループのライブの日に、ぷっくぷくの状態で、しかもそれを後から気づくっていう(笑)。私本当に無頓着で家に体重計もなくて。体重の増減がそんなに見た目に出ないと思い込んでたんですよ。武道館のライブが終わった後に自分へのご褒美で温泉に行ったときに、古いタイプの、アナログの針が振れる体重計があって、面白いなと思ってアトラクション感覚で乗ったら、針がビーーーンって!「えぇーーー!!待って待って待って!」みたいな(笑)。見たこともない数字になって。

ーー覚悟なくその数字を見るのが一番怖いですね。

夏川 そうそう、太るっていっても薄く全身に脂肪がつくタイプだから、お腹がデーン!みたいなことがなくて。数字を見て「これは嘘だ、これは嘘だ」と思いながら別のデジタル体重計に乗ったら、ちゃんとその数字だったので、「これはまずい!」と。それでピラティスを始めて、食事制限もちゃんとやって、夏くらいまでには自分の適性体重に戻しました。そんな経緯があって、その時の気持ちを歌にしました。

ーーアルバム楽曲インタビューとは思えない経緯でした。

夏川 太って痩せた体験を歌に。

ーー今までも「実はこれがモチーフでした」的な楽曲はありましたが、「太って痩せた」で1曲消費するのは中々すごいことですよ。

夏川 ひどいことしますよね。長谷川さんが良い人で良かった(笑)。「体重計…?」とか言われたら変えようと思ってたんですけど、レコーディングの時に長谷川さんがめっちゃ笑ってくれたので、救われました。

ーー第一部夏川椎菜を思い返した時に、1曲1曲にウエイトが乗りすぎていた感もあると思うんです。全部に意味や全部に思いが乗っていて。その良さももちろんあったうえで、聴きやすいアルバムってこういう軽やかな意味合いの曲も入っているものですよね。

夏川 そうですよね。シンガーソングライターの女の子が、日常にある小さなことを1曲の歌にしちゃうのってあるじゃないですか。あの感じは結構好きなんですよ。「Silhouette」の曲調はド派手で低音でかっこ良くて、絶対に自分の歌にしたいなと思ったんですけど、自分がそのままストレートに歌っている想像がつかなすぎて。かっこ良く歌って成立する未来が見えなかったので……こんな歌詞になりました(笑)。歌詞でズッコケさせる方向で自分を納得させましたね。

ーー「ミエナイテキ」と同じく、楽曲単体でいうと自分に合わないと感じるんですね。ビジョンが見えないというか。

夏川 そうですね、私がやる意味あるのかって思っちゃうんですよ。今回のアルバムに入っている「労働奉音」なんかもそうで、かっこ良いし自分のライブでやりたい憧れもあるけど、私がやるから意味があるという曲ではないかもなって歌詞を書く前は思ってました。「ボクはゾンビ」とか「イエローフラッグ」とか、あのへんの曲は「私がやりたいし、やれる曲」ですね。

ーー私っぽい、私っぽくないはどういう判断基準なんでしょうか?

夏川 滲み出るかっこ良さと、滲み出すかっこ良さの違い、みたいな感じですかね。私は捻り出して搾り出してなんとか出してるかっこ良さなんですけど、私っぽくないなと思う曲は「そのものがかっこいい人」が歌ってそうなんですよ。

ーー曲単体で聴いたときに既にかっこ良くなっている、元々かっこいい人が歌うようなものは「私っぽくない」と感じるんですね。

夏川 そうそう、そうですね。だから自分の曲にするために歌詞で自分に寄せてるんです。「労働奉音」も「Silhouette」も自分のかっこ悪い部分を歌詞に乗せて曲に寄っていっている感覚ですね。

次ページ「夏川椎菜の音楽」を遠くまで届けるために

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