REPORT
2025.06.09
後攻を担うはトゲトゲ。ライブ当日のつい2週間ほど前に“「ガールズバンドクライ」2nd Anniversary LIVE”(以下、“2周年ライブ”)にてその姿を見たばかりだったが、思えば先日のライブも実質的には劇中ライバルバンドであるダイヤモンドダストとの対バンのようなものだった。リアルバンドとして、結成から現在まで短期間のうちに数多くのステージを重ねてきた彼女たちが、“2周年ライブ”後ということもあり、ますます仕上がったパフォーマンスを浴びさせてくれた。
まずはバンドの持ち味である“トゲ”をそっと隠すように「渇く、憂う」「闇に溶けてく」と、持ち曲の中でもポップス寄りなサウンドを選んできた。するとここで、あまりにも“バンド”すぎる痛快な予告が。ここまで2曲を終えてのMCで理名(v/井芹仁菜役)が“黄色のギター”を担ぐと、シーレジェに対して「胸をお借りするっ、あっ、もう一回いきます」と頼りなく噛んだかと思ったら、反省ついでに給水したところでいきなり、「50分ちょいで14曲、行くよ」と、“カマシモード”にギアを入れてきた。
彼女がギターを担いでいるということは、演奏されるはもちろん「運命の華」だ。「こんな序盤に!?」としか言えない曲順、演奏終盤に理名、夕莉(g/河原木桃香役)、朱李(b/ルパ役)が向かい合って音をかき鳴らす姿も見ることができ、まだライブは14曲中3曲目とは思えぬフィナーレ感を放っていたが、ここからようやく隠してきた“トゲ”が突出。「声なき魚」「空白とカタルシス」と高速でアグレッシブなな楽曲をまくしたてるように披露する。特に後者では理名曰く「えげつないベースソロ」として朱李がスポットライトに照らされ、トレードマークのポニーテールを揺らしながら重心低く、かつハイフレットを多用するソロで魅せる。飛び道具なベースだと感心させられた。
そしていよいよTVアニメ『ガールズバンドクライ』OP主題歌「雑踏、僕らの街」を6曲目にして披露。171のBPMに乗せられる、やってられないという退廃感とクラッシュ感。それでいて、メンバー自身は悠々と演奏をこなしている様が圧巻で、体感としては本当に5秒くらいだった。8曲目「視界の隅 朽ちる音」は、トゲトゲの楽曲のなかでも特にメンバーが笑顔で、かつ自由に気持ちを乗せている姿が印象的な1曲。この日は「不登校」「脱退」「嘘つき」「ツンデレ」「酒豪」とTVアニメで見られたのと同様の文字がステージ後方のスクリーンで点滅し、サイドスクリーンはまるで祭の暖簾さながらに上下一列ずつに並べられ、カルーセル形式で横に流れていくというコミック調の演出も。それもまた彼女たちのありのままなのだろう。
前述の“2周年ライブ”に続き、今回のステージでも初披露曲が。それが10曲目「臆病な白夜」。楽器もかなりバラバラに動く良い意味で歪さを感じるこの曲。ステージもモノトーンで照明作りをするなど、これまでにないタッチである。
そのまま終盤は、TVアニメ放送前から公開されていた楽曲「名もなき何もかも」などを並べつつ、ラストは一大ヒット曲「爆ぜて咲く」で締め括る。思えば、シーレジェの1曲目が「“春”眠旅団」だったのに対し、トゲトゲはスクリーンの映像で“桜”を散りばめた演出の楽曲で締め括るという粋な選曲。サビで観客を煽るなど、会場の一体感は最高潮に。She is Legendが咲かせた桜を、トゲナシトゲアリが満開にさせていた。
それにしても、トゲトゲに今回初めて触れるファンでも知っているであろう「雑踏、僕らの街」や「爆ぜて咲く」などを意外な位置に持ってくるあたり、なんとも期待感を煽っていくセットリストの組み方だと思わされた。実際、メンバー自身にとっても挑戦的な側面があったのではないだろうか。
ともあれ、結果は大成功。その一要因として冒頭の「50分ちょいで14曲」という前フリがかなり活きていたと思う。ある種、ゴールを見据えさせることで「今何曲目くらいだな」「残りの曲数で、あれは披露されるかな?」と期待感を煽っていたのではないだろうか。トゲトゲ、恐るべし。おそらくは対バンの闘い方をよくわかってきているのだと思う。
余談ながら、今回は全部で4回のMCを挟んだトゲトゲは、もはや対バンライブで恒例の“相手の好きな曲紹介コーナー”で、理名が「春眠旅団」、夕莉が「さよならの速度」、そして朱李は「放課後のメロディ」「Goodbye Innocence」「Long Long Spell」「死にゆく季節でぼくは」「Melancholic Blue」「白の呪文」「陽のさす向こうへ」と楽曲名を呪文のように早口で並べていた。ここで「放課後のメロディ」を真っ先に挙げるあたり、古い言い回しながら“わかり手”すぎる。今年1月に“MyGO!!!!!×トゲナシトゲアリ「Avoid Note」”で、憧れの『BanG Dream!』リアルバンドと対バンした時と同様、またしても“夢を叶えたオタク”状態となった朱李は、ステージにいるレジェンダーとなっていた。
SHARE