鈴木さえ子・TOMISIRO・窪田ミナ『TVアニメーション「マクロスΔ」オリジナルサウンドトラック1』レビュー

『マクロスΔ』のサウンドトラック第1弾。「クラゲ音頭」「裸喰娘娘の唄」「オーラ・サーラ~光る風~」「ザルド・ヴァーサ!~決意の風~」ら挿入歌、OP&EDテーマのTVサイズも収録した全30曲。

2016年4月より放送が開始した『マクロス』シリーズの最新作となるTVアニメ『マクロスΔ(デルタ)』。『マクロスΔ』の音楽作品は、先行配信を除いてワルキューレのシングル「一度だけの恋なら / ルンがピカッと光ったら」からマンスリーでリリースされている。第2弾として6月にリリースされたのがこの『TVアニメーション「マクロスΔ」オリジナルサウンドトラック1』。サウンドトラックというと作品の世界観を統一すべく、ひとりのアーティストが全曲を手がけることが多いものだが、今作には鈴木さえ子、TOMISIRO、窪田ミナと3組のアーティストが参加をして制作を行っている。

鈴木さえ子は1980年にドラマーとして一色 進らとともに、松尾清憲を中心とするブリティッシュ・ポップを指向したバンド“CINEMA”に加入。また坂本龍一の『B-2 UNIT』(1980)などにも参加をしている。そして、1983年にムーンライダーズの鈴木慶一との共同プロデュースによるアルバム『I wish it could be Christmas everyday(毎日がクリスマスだったら)』にてソロデビューを飾った。1984年には2ndアルバム『科学と神秘(Visinda og Leyndardómur)』をリリース。ユーモアとイマジネィティヴ溢れる唯一無二のキュートなポップサウンドでその人気を不動のものとした。フェアライトCMIを導入し、深く進化を続ける『緑の法則(THE LAW OF GREEN)』(1985)、XTCのアンディ・パートリッジが参加し、さらに大胆な実験精神を投影した『STUDIO ROMANTIC(スタジオ・ロマンチスト)』(1987)は、ハイレゾにてWAVやFLACのフォーマット、またDSDでも配信が行なわれている。

1980年代に4枚の傑作ソロアルバムとサウンドトラックをリリースしたのち、1990年代以降はベスト盤のリリース、また企画アルバムに数曲参加するものの、音楽活動は落ち着いていたが、2000年に入ってからはTVアニメ『ケロロ軍曹』の音楽を担当することとなり、その活動はまた盛んとなっている。鈴木さえ子らしいセンスがあふれる『ケロロ軍曹』のファニーなサウンドは、劇伴マニアのみならず80年代から彼女の音楽を愛好する多くのファンを喜ばせることとなった。サウンドトラックである『オリジナルサウンドケロック』は3年に渡り第3弾までリリースされ、2008年には劇場版の音楽を集めた『超劇場版ケロロ軍曹1・2・3! サントラ名曲集であります!!』もリリースされている。2012年には『輪廻のラグランジェ』の音楽も担当しており、劇伴作家としても活躍中だ。

「恋する惑星」や「HAPPY END」、「Good morning」や「ジュラルミンの飛行船」などポップなヴォーカル曲のイメージも強い鈴木さえ子だが、どのソロアルバムにも必ずインストゥルメンタル・ナンバーが数曲収められており、「フィラデルフィア」「Hacker ARUIWA 2 Ear Drums」「Bий」「FREAK IN」など、こちらの楽曲の人気も高い。200曲を超えるCM音楽を手がけ、また1989年にはいとうせいこうの小説を原作とした市川 準監督の映画『ノーライフキング』の音楽も担当しており(鈴木さえ子も主人公の母親役で出演している)、近年のように劇伴音楽に関わっているのはごくごく自然な流れといえる。

TOMISIROは、掛川陽介と本澤尚之からなる音楽ユニットで、エレクトロニカを中心としたフィールドで作品をリリースしている。またCRUE-L RECORDSよりソロアルバムをリリースしているヴォーカリスト、Kaoriを加えたユニット“Language”では、ハウスやテクノを基調としたエレクトロニック・ミュージックと、NEW WAVE期のバンド要素を織り込んだサウンドを披露しており、こちらはハイレゾでも配信をしている。自身の音楽活動のみならずアーティストへの楽曲提供ならびにアレンジやプロデュースも行なっており、またTVアニメ『鬼灯の冷徹』、OVA『TAILENDERS』や、NAGI名義で北野武の映画『TAKESHIS’』の劇伴なども手がけている。

作曲家、プロデューサー、ピアニストとして活動し、数々のテレビドラマ、映画、アニメ等の音楽を制作している窪田ミナ。連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』や映画『ももへの手紙』『その夜の侍』『葛城事件』、TVアニメ『カレイドスター』『神無月の巫女』『京四郎と永遠の空』『フォトカノ』などの音楽を担当し、また坂本真綾、中島愛、牧野由依、清浦夏実に楽曲提供を行なっている。『ARIA』シリーズのOPテーマ「ウンディーネ」「ユーフォリア」「スピラーレ」、最近ではTVアニメ『あまんちゅ!』の挿入歌「Aquamarine」「Turquoise」(シングル、てこぴかり(茅野愛衣&鈴木絵理) 『 ふたり少女』に収録)の作曲、編曲も手がけている。

鈴木さえ子は『ケロロ軍曹』『輪廻のラグランジェ』、映画『パンダフルライフ』などの作品でTOMISIROと一緒に音楽制作を行なっており、TOMISIROは窪田ミナの1stアルバム『モーメント』(2008)の制作に加わっている。また窪田ミナも『ケロロ軍曹』の歌や音楽に参加するなど、以前から3者による交流は活発だ。
鈴木さえ子とTOMISIROによる大胆かつユニークなトラックと窪田ミナによる荘厳なオーケストレーションによる楽曲が結びついた今作のサウンドトラック。個性豊かなワルキューレの楽曲が複数の作家陣により生み出されたように、劇伴もまた同じような制作システムを用いることにより、銀河系の様々な文化を内包する『マクロスΔ』の豊穣な世界観を描き出している。『マクロスΔ』の音楽プロデューサーである福田正夫の言葉を借りれば“「天才」と呼ぶのにふさわしい”、3組の持ち味が活かされた劇伴の数々が挿入歌、ワルキューレによるOP&EDテーマのTVサイズとともに30曲、アルバムに収められている。

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ハイレゾで広がる『マクロスΔ』の音世界〜FlyingDog音楽プロデューサー・ 福田正夫インタビューこちら

鈴木さえ子とTOMISIROは戦闘シーンを描くアッパーなサウンド、また何処となくユーモラスな曲調のものが多い。
重厚なティンパニと朗々とした金管楽器が壮大なドラマの開幕を告げる「A.D.2067」
ストリングスやブラスセクションが躍動するビートと交差する、ドラマー出身の鈴木さえ子ならではのナンバー「Immelmann Dance」
音が揺らめいているようなイントロから一転、猛々しくも気高さをたたえたメロディが楽曲を引っ張る「空中騎士団」
ギターやシンセも入り混じり、激しくサウンドを展開させる「Dog Fight」
コーラスも交えて壮大さを増したシンフォニー「Delta Flight」
「一度だけの恋なら」のメロディが差し込まれる、EDMを取り入れたオーケストラル・ナンバー「Rhapsody in C Minor」

トイポップ・サウンドにリヴァース音や電子音などを加えたファニーなナンバー「ごりごり」
ドタバタとしたサウンドに遊び心をたっぷりと詰め込んだナンバー「ルンピカ♡」
イントロの歓声と人工的な音声によるアナウンスが、銀河規模の人気を誇るワルキューレのコンサートの始まりを演出する「Welcome to Walküre World」
メランコリックな雰囲気から開放感のあるアンビエントポップへと浮上する「Jellyfish」

フレイア△鈴木みのり、レイナ△東山奈央、マキナ△西田望見の3人が歌唱する「クラゲ音頭」は、シリーズ構成の根元歳三による作詞、鈴木さえ子とTOMISIROの作曲・編曲、そして窪田ミナによるストリングス編曲という合作。惑星ラグナの海神様を讃えるこの曲は、南洋系の緩やかなサウンドにストリングスが重なり、のんびりと海を漂うような雰囲気が心地好い仕上がりだ。

作中に登場する飲食店“裸喰娘娘”のテーマソング「裸喰娘娘の唄」は、総監督の河森正治が作詞を手がけている。『マクロス』シリーズならではの楽曲だが、“すぐおいしい すごくおいしい”でおなじみの日清チキンラーメンのCMソングを作曲&歌唱した鈴木さえ子が、この曲を作曲&歌唱と、食にまつわる不思議な縁をちょっと感じる。

対して窪田ミナは明るい風景を描く室内楽曲、またシリアスな雰囲気のものが中心となっている。
颯爽としたストリングスと透明感のあるピアノの音色が心地好い「Happiness☆」
弦楽奏の豊かな響きが優しく情景を照らし出す「憧れ」
柔らかなマリンバが春めいた暖かい雰囲気を醸し出す「Melody」
「ルンがピカッと光ったら」のフレーズも織り込んだ、ストリングスが滑るように優雅な「ワルキューレの休日」
ヴァイオリンとピアノがセンチメンタルに響く「せつないサンセット」
帰還してきた戦士たちの安らぎとまた失ったことの悲しみをも映す「Tsubasa」

管弦楽の怪しげな旋律と纏りつくようなノイズで奇病の恐ろしさを表わした「ヴァール」
ハードなブレイクビーツを刻む不穏な音響テクノ「Uncontrolled」
煽るような旋律が緊迫した空気を生む「Crisis」

ウィンダミアの若き王子、ハインツによる歌曲「オーラ・サーラ~光る風~」「ザルド・ヴァーサ!~決意の風~」は、ハインツの歌唱を担当するメロディー・チューバックの歌声が繊細に、そして儚さを帯びて伝わる。Boys Air ChoirやMistera Feoらの作品を手がけ、またエスペラント語や造語詞を得意とする窪田ミナならではの楽曲だ。

 

ハイレゾでは奥行きを深める音の情報量が感じられ、壮大な世界へとさらに没入できるような鮮やかさが伝わってくる。「Immelmann Dance」「Dog Fight」では連打されるパーカッションも高らかに、豊かな低域とスピード感のあるサウンドが痛快に駆け抜ける。「A.D.2067」「Delta Flight」「Xaos」など管弦楽による楽曲は雄大さがさらに強まり、『マクロス』ならではと思わず表現したくなる作品の持つダイナミックさがそのままに伝わる、サウンドの迫力がいっそう増している。またピアノとストリングスによる室内楽曲は温かみのある音色が柔らかく響き、日常のワンシーンを清々しく映し出す。ヴォーカル曲ではハイレゾによる音のまろやかさが「クラゲ音頭」においては3人の歌声の脱力感とふんわりとした空気を生み出し、「オーラ・サーラ~光る風~」では解像感が美しく伸びる声の倍音を微細なリヴァーヴとともに丁寧に描写している。

3組のアーティストによる様々なサウンドが収められたこのサウンドトラック。『マクロスΔ』の物語同様にドラマチックな仕上がりとなっている。

FLD_3P_BOOK_fix_ol鈴木さえ子・TOMISIRO・窪田ミナ
TVアニメーション「マクロスΔ」オリジナルサウンドトラック1

FlyingDog
2016.06.22

FLAC・WAV 48kHz/24bit

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 収録曲

 1.A.D.2067
   作曲・編曲:鈴木さえ子・TOMISIRO

 2.一度だけの恋なら~TVサイズ~/歌:ワルキューレ
   作詞:唐沢美帆・加藤裕介 作曲・編曲:加藤裕介

 3.Immelmann Dance
   作曲・編曲:鈴木さえ子・TOMISIRO

 4.Happiness☆
   作曲・編曲:窪田ミナ

 5.ごりごり
   作曲・編曲:鈴木さえ子・TOMISIRO

 6.Welcome to Walküre World
   作曲:姉田ウ夢ヤ・鈴木さえ子・TOMISIRO 編曲:鈴木さえ子・TOMISIRO

 7.ヴァール
   作曲・編曲:窪田ミナ

 8.オーラ・サーラ~光る風~/歌:ハインツ(メロディー チューバック)
   作詞・作曲・編曲:窪田ミナ

 9.空中騎士団
   作曲・編曲:鈴木さえ子・TOMISIRO

10.憧れ
   作曲・編曲:鈴木さえ子・TOMISIRO

11.Melody
   作曲・編曲:窪田ミナ

12.ルンピカ♡
   作曲:コモリタミノル・鈴木さえ子・TOMISIRO 編曲:鈴木さえ子・TOMISIRO

13.クラゲ音頭/歌:フレイア△鈴木みのり、レイナ△東山奈央、マキナ△西田望見(from ワルキューレ)
   作詞:根元歳三 作曲・編曲:鈴木さえ子・TOMISIRO ストリングス編曲:窪田ミナ

14.裸喰娘娘の唄(ヨミ:らぐにゃんにゃん)
   歌:鈴木さえ子
   作詞:河森正治 作曲・編曲:鈴木さえ子・TOMISIRO

15.ワルキューレの休日
   作曲:コモリタミノル・窪田ミナ 編曲:窪田ミナ

16.せつないサンセット
   作曲・編曲:窪田ミナ

17.ザルド・ヴァーサ!~決意の風~/歌:ハインツ(メロディー チューバック)
   作詞・作曲・編曲:窪田ミナ

18.Dog Fight
   作曲・編曲:鈴木さえ子・TOMISIRO

19.Jellyfish
   作曲・編曲:鈴木さえ子・TOMISIRO

20.Uncontrolled
   作曲・編曲:鈴木さえ子・TOMISIRO

21.Tsubasa
   作曲・編曲:窪田ミナ

22.悲しき戦場
   作曲:加藤祐介・窪田ミナ 編曲:窪田ミナ

23.Crisis
   作曲・編曲:窪田ミナ

24.Analysis
   作曲・編曲:窪田ミナ

25.Dark Empire
   作曲・編曲:窪田ミナ

26.Delta Flight
   作曲・編曲:鈴木さえ子・TOMISIRO

27.Xaos
   作曲・編曲:鈴木さえ子・TOMISIRO

28.Rhapsody in C Minor
   作曲:加藤祐介 編曲:鈴木さえ子・TOMISIRO

29.Brave Wind
   作曲・編曲:窪田ミナ

30.ルンがピカッと光ったら~TVサイズ~/歌:ワルキューレ
   作詞:西 直紀 作曲・編曲:コモリタミノル

©2015 ビックウエスト/マクロスデルタ製作委員会

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