INTERVIEW
2018.03.22
ラーメン好きの女子高生がラーメンを食べ歩く──その至ってシンプルな内容でストイックなまでのラーメン愛をお茶の間に届けるTVアニメ『ラーメン大好き小泉さん』。鈴木みのりと西沢幸奏がそれぞれ歌う、ラーメンをテーマに制作されたOP&EDテーマソングも話題を呼んでいるが、実は本作の劇伴もまた、ラーメンにまつわる人々によって制作されているのをご存知だろうか?
今回このアニメのサウンドトラックを手がけたのは、サニーデイ・サービスのベーシストにして、年間600杯のラーメンを食する無類のラーメン愛好家としても知られる田中 貴と、元マグースイムで現在はサウンド・プロデューサーとして活躍するキーボーディストの細野しんいち。ラーメンと音楽をこよなく愛する彼らが、その両方からインスパイアを受けることによって、ラーメンさながらバラエティ豊かで気軽に楽しめるBGMを作り出している。その音楽の旨味の秘訣を探るべく、ふたりに話を聞いた。
Interview & Text by 北野 創
at VICTOR STUDIO
オリジナルサウンドトラック『ラーメン大好き田中さんと細野さん』のレビューはこちら
──普段はバンド活動をしているイメージの強いおふたりが劇伴を担当されるということで非常に驚いたのですが、そもそもどのような経緯で参加することになったのでしょうか?
田中 貴 フライングドッグさんとは以前に坂本真綾さんのレコーディングでお仕事をしたことがあったんですけど※、そのときに僕がラーメンの話ばかりしてたんですよ。そしたら今回『ラーメン大好き小泉さん』のアニメ化が決まってサントラを作ることになったとき、同じプロデューサーの方が「そういえばラーメンの話ばかりしてた人がいたなあ」と思い出してくれたみたいで(笑)。それでご連絡をいただきまして、僕も劇伴は作ったことなかったんですけど、興味はあったのでお引き受けしたんです。
※田中は坂本の7thアルバム『You can’t catch me』(2011年)収録曲「キミノセイ」のコ・プロデュースとベース演奏を担当。
──ラーメンの話、しとくものですね(笑)。
田中 そうですね(笑)。それで作るにあたって、以前に僕と一緒にワンリルキス※を手がけてた細野くんであれば、BEST MUSIC※というユニットをやってたこともあってハマるんじゃないかと思って声をかけたんです。
※ワンリルキス:田中がプロデュースを手がけた声優ユニット。メンバーは古木のぞみ、藤村鼓乃美、三上遥香、森 千早都の4人。
※BEST MUSIC:イラストレーター/デザイナーの小田島 等と細野しんいちによるユニット。スーパーマーケットの店内BGMにインスパイアされた音楽性が特徴で、2007年に1stアルバム『MUSIC FOR SUPERMARKET』をリリース。
細野しんいち 「やらせてください!」って返事しました(笑)。
──おふたりとも本格的なサントラのお仕事は今回が初とのことですが、『ラーメン大好き小泉さん』は登場するラーメンのテーマ曲みたいなものもあって、サントラの中でも少し特殊な部類のオーダーですよね。
田中 そうですね。でも、これを普段から劇伴のお仕事をしてる方に頼んだら、多分普通の劇伴がハマってくるんだろうなと思って。僕がオファーをいただいたときも、いわゆる一般的なサントラに近づけるのではなくて、好き放題やってくださいということだったんですよ。
細野 「ズラしたほうがいい」というアドバイスをいただいて。
──「ズラしたほうがいい」というのは?
細野 そのまんまのイメージで作ると「毒にも薬にもならないサントラができちゃうよ」ということで(笑)、ちょっとズラしてあるんですよね。
田中 「もしかしたら音響監督が使いづらくて困るぐらいのものを」と言われまして(笑)。今回は生のバンドで録ったり、面白いタイプの曲も入ってるので、多分、観ている人は「なんだこれ?」って違和感を覚えるんじゃないかなと思って。
──具体的にはどんな感じで楽曲のオーダーがあったのですか?
細野 「日常的な曲」とか「ちょっと落ち込んだときの曲」みたいなオファーが20曲ぐらいあって、それにプラスしてラーメン専門曲が20曲ぐらいくっついてきました(笑)。
田中 各回に登場する特定のラーメン屋さん用の楽曲みたいな、それぞれ1回しか流れないものがあるので曲数が多くなったんです。
細野 例えば「〈激辛麺を泣きながら食べる回〉でかかるBGMをお願いします」みたいな感じですね。
──蒙古タンメン中本の回でかかった「北極。哀愁のタンメン」ですね。タイトルからして「泣きのギター」で有名な某アーティストの代表曲っぽいですが(笑)。
田中 辛いと激しい方向になりそうなんだけど、泣くという方向もあるので(笑)。今回はマツキくん(Scoobie Doのギタリスト・マツキタイジロウ)にも参加してもらってるので、彼ならいける、というかやりたいだろうなと思って(笑)。
細野 暑苦しかった(笑)。
──ハハハ(笑)。楽曲はどのように制作を進めたのでしょうか?
田中 細野くんが打ち込みだけで仕上げたものとか、バンドでスタジオに入って演奏したりとか、いろんなタイプがありますね。制作サイドからオファーがあったら、それに沿って僕が細野くんに「ここはこういう曲にしよう」ってオファーするんです。
──全体に通底するコンセプトとして心がけたことはありますか?
細野 「昭和感」ですね。
田中 しかも昭和50年代です(笑)。
細野 作り始める前に『太陽にほえろ』とか昔のサントラを聴かされたんですよ。
田中 僕は『ただいま放課後』というドラマのサントラがすごく好きなんですよ。それは元スパイダースの大野克夫さんがやってるんですけど、『太陽にほえろ』とか『傷だらけの天使』よりもだいぶあとの作品で、バンド演奏ではなくて初期の宅録システムのチープなリズムマシンとシンセで作られてるんです。その感じが好きだったので、どこかでそういう感じのことをやりたいとずっと思ってたんですよ。
細野 なので、打ち込みのドラムも「ACE TONE」っていう昔のリズムボックスの音をサンプリングしたりして使ってるんです。
──たしかに曲名も「ハッとして! Bad?!」とか昭和感の漂うものばかりですね。
田中 そこはやりすぎだね(笑)。
細野 たしかに正直やりすぎたかなあ。でもわかりやすいかなと思って、そこは曲もタイトルも踏み込めるギリギリのラインまで入れました(笑)。
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