絶望系アニソンシンガーのReoNaが、3rdアルバム『HEART』を携えて全国6都市を巡ったライブツアー「ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2025 “HEART”」。その初日となる11月21日(金)の埼玉・戸田市文化会館での公演を観終えて、まず感じたのは、アーティスト・ReoNaは今や完成型に至ったのではないか、ということだった。
彼女のライブには、いつも緊張感と穏やかさが同居している。その独特の空気感は、実際に味わうことでしか伝わらないものだと思うが、『HEART』収録曲を中心に多数のライブ初披露曲が届けられたこの日の公演では、その相反する要素の振り幅と奥行きが格段に深化しているように感じられたのだ。自身の心に問いかけるだけでなく、楽曲を制作したクリエイターやファンを含む身の周りの人たちの“ハート”に触れて完成したアルバム『HEART』が彼女にもたらしたもの。その答えを提示する最初の機会となった、ツアー初日公演を改めて振り返る。
PHOTOGRAPHY BY 平野タカシ
TEXT BY 北野 創
開演時間、ステージを覆っていた紗幕が左右に開くと、エレキギターの澄んだアルペジオを軸にバンドが透徹としたイントロを奏で始め、アルバム『HEART』より堀江晶太が作詞・作曲・編曲した楽曲「命という病」でツアーが開幕する。ステージには、真ん中に立つReoNaを中心に、LEDライトが放射状に設置されており、その合間にバンドメンバーの姿。この日のライブを支えたのは、荒幡亮平(Key/バンドマスター)、山口隆志(Gt)、Ommyこと城石真臣(Gt)、二村 学(Ba)、比田井 修(Dr)、そしてマニピュレーターの篠﨑恭一。ReoNaのライブではお馴染みの面々だ。
先ほど「命という病」のイントロに関して透徹と表現したが、この楽曲には独特の透明感がある。それは冷たさにも似ていて、どこか自罰的で他者を寄せ付けないような感覚、あるいは孤高が故の距離感と言えるものかもしれないが、ReoNaはその複雑な心の在り方を、抑揚豊かに表現していく。続くアルバム『HEART』からの新曲「オルタナティブ」における、自問自答するようなアプローチとサビでの声を張ったソリッドな歌い口の切り替えも鮮やか。煌々と燈る白いライトが赤にチェンジする光の演出も相まって、観る者の心に深く鋭く刺さる。
静謐の会場に重く鳴り響くドラムのキック、それに合わせて閃光のように光るLEDライト、不協和音のようなピアノのフレーズ、そこから激しくバーストするエレキギターが重なって、圧巻の景色を描き出したのが「GG」。オルタナティブからグランジへ。全身全霊で歌の弾丸をぶっ放すReoNaのロックな心意気が会場中に伝播していく。観客の喝采が静まるのを待ち、「ハローアンハッピー。ようこそ〈ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2025 “HEART”〉へ」と手短かに挨拶すると、矢継ぎ早に次曲「R.I.P.」へ。ブラスを取り入れたアシッドジャズ調のサウンド、赤や紫に色づく華美な照明、斜め格子柄のステージセットが、正も邪も等しく見送る葬送の歌を鮮やかに演出する。
ここまでのセトリは『HEART』収録曲で固めていたが、続いて披露されたのは、歌の巡礼者である彼女の終わりなき旅路を長きに渡り共に歩んできた「forget-me-not」。リリースから6年が経過し、その間に何度となくステージで歌われてきた楽曲だからこそ、ReoNaの歌声もバンドの演奏も、どこか余裕を感じさせるほどの伸びやかさがあり、それがこの楽曲特有のどこまでも放浪していくような広がりを強調する。“Life goes on”。その先に待っているのが絶望であれ、希望であれ、それでも人生は進んでいくのだ。
「forget-me-not」を歌い終えて、改めて挨拶するReoNa。「今、この瞬間の、ここにいる一人ひとりの心臓が、脈を打っている。嬉しいとか、悲しいとか、苦しいとか。それぞれの音色を奏でながら、こんなに痛くて、こんなにも愛おしい場所。今日お届けする一対一、最後まで楽しんでいただけますように」。ツアー“HEART”に込めた思いを伝えると、「次にお届けするのは、故郷、奄美大島から生まれた“心”でした」と告げ、ReoNa自身が亡き祖父のことを思って作詞した楽曲「ガジュマル ~Heaven in the Rain~」を歌う。エメラルドグリーンのライトが描き出すのはガジュマルの木と遙か遠くまで広がる美しい海の景色。ストリングスのサウンドも交えた美しく優雅なサウンドに乗せて、また会いたいという溢れ出る気持ちを、切々と、かつ優しいお歌で紡いていく。
そして「生命換装」。TVアニメ『アークナイツ【焔燼曙明/RISE FROM EMBER】』最終話EDテーマとして作品を彩った、生き残った者と空へと還った者すべての人々に捧げる、命についてのお歌だ。“HEART”とは“心臓”であり、“命”を象徴する言葉でもある。ステージにはReoNaと荒幡、そしてアコースティックギターを手にした山口の3人のみ。分厚く豊かなストリングス、楽曲をドラマチックに演出する照明の効果も合わさり、ReoNaの祈りにも似た歌声が深く心に沁み込んでいく。
「もしも始めから心なんてなければ、悲しむことも、苦しむことも、なかったのでしょうか」。そんな言葉に続けて歌われたのは「虹の彼方に」。TVアニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション』の特殊EDテーマに起用された、同作の登場人物であるユージオの心情・境遇とリンクする楽曲だ。青いライトが描き出すのは“青薔薇の剣士”ことユージオの魂。そのなかでReoNaは、荒幡の奏でるピアノのみをバックに、静謐さえも自らの表現の一部として支配する迫真のお歌を会場に響き渡らせる。締めの一節“ねえ おやすみ”での一語一語をつぶやくように、静かにフェードアウトしていくような終わり方を含め、ユージオの“HEART”を体現するようなパフォーマンスだった。
深い眠りについて真っ暗闇になったステージに、ピアノの前奏が浮かび上がり、「オムライス」のうら悲しい世界が広がる。張り詰めた空気感、仄暗い感情と思い出、“それでも生きていたかった。”という希求の言葉。ピアノ、アコギ、ReoNaの歌声によって形成される、誰かの無限に深い感傷が胸を打つ。続けてReoNaと山口にスポットライトが当たり、アルバム『HEART』にボーナストラックとして収められた「SWEET HURT -Naked-」へ。クラシカルなアコギの響き、ReoNaの軽やかな歌声が紡ぐのは甘やかな痛み。ワンコーラスを経てピアノが加わると、彩りがさらに豊かになり、不思議と救われた気持ちになる。ReoNa・荒幡・山口の3人で回ったFCツアー「ふあんくらぶ presents ReoNa Acoustic Concert Tour“ふあんぷらぐど2025”」の景色も思い起こされるブロックだった。
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