――続いてカップリング曲のお話を。まず「グラディエント」は3rd LIVE「ふりーてぃんぐ もーめんと」の東京公演で初披露された楽曲で、仲町さんが作詞だけでなく、堀江晶太さんとの共作で作曲にも挑戦しています。堀江さんとは「コハク」でも歌詞を共作していましたが、どんな流れで生まれた楽曲でしょうか。
仲町 ゆめみたは皆さんと一緒に成長していくところが一番大きなポイントだと思うのですが、その中で同じことを繰り返すのはいかがなものかと思い、挑戦精神というか、チャレンジの負荷をかけたというか……あれ、なんかパンプアップみたいな例えになっちゃった(笑)。
千石 いつから筋肉キャラになったの?(笑)。
――筋トレの話はもうひとつのカップリング曲でたっぷり聞きます(笑)。
仲町 ともかく、前作で作詞をさせていただいたので、今回は作曲に挑戦しました!作曲の提案をいただいた時は、不安や緊張はもちろんありましたけど、それよりもやりたい気持ちの方が大きかったので、初めての経験だったけど取り組ませていただきました。
――制作はどのように進めたのでしょうか。
仲町 ぼくはギターを弾けるので、まずはギターで「こういう曲の雰囲気にしたいな」というコード進行をざっくり決めて、メロディを書いて。それを元に、堀江さんにメロディラインを作るコツを教わりながらブラッシュアップして、歌詞をつけていきました。
――作曲の時点で、この曲を通して表現したいことのイメージはあったのですか?
仲町 はい。最初にBPMを120に決めたんですけど、それは聴いてくれる人の日常に寄り添いたい気持ちがあったからで、歩く速度に近いテンポ感にしました。一番のテーマは「温かい気持ちになってもらいたい」ということで。それはぼく自身がゆめみたのメンバーと歩んできた道、そこで起こった色々な出来事から気持ちの膨らみを感じて、勇気や温かい気持ちをもらったから、今度は自分が皆さんにそれを届けたい気持ちがありました。歌詞に落とし込むのはすごく悩みましたけど。
――メンバーの皆さんの、この曲に対する感想も聞いてみたいです。
宮永 私はあられちゃんの書く歌詞がすごく好きで。あられちゃんは自分の気持ちや感情をすごく分析するタイプなので、歌詞に触れると、あられちゃんの心を覗いてるような気持ちになるんです。「グラディエント」はありのままのあられちゃんを見せてもらっているようで、すごく温かい気持ちになりました。あられちゃんはネガティブな気持ちもあるけど、それを糧に前へと進む力が強くて。この曲にはそれがすごくよく出ているなって思います。
藤 私もすごくあられちゃんらしいなと思いました。「コハク」の時も思ったんですけど、あられちゃんの歌詞には届けたい対象が必ずいるんですよね。自分にはその視点があまりないので、その世界観が私にとっては新鮮で。「グラディエント」の歌詞を初めて見た時、実はちょっと泣いてしまいました(笑)。
仲町 えーっ、ありがとう!
藤 あられちゃんの普段の過ごし方や人とのコミュニケーションの取り方に触れているなかで、相手のことをすごく見ている人だと感じていたのですが、この歌詞を通して、それをより深く確信しました。私は漫画を描きますけど、何かを創るなかで自己開示をするのは一番難しいことだと思うので、初めての作曲でここまで自己開示できるのは流石だなと思って。やっぱり歌も含めて、表現するのが上手な子なんだと思います。
仲町 なんか、さっきからめちゃくちゃ照れるんだけど(照)。
峰月 顔が赤くなってるなあと思いながら見てた(笑)。私も、本当に温かい気持ちにもなるし、初めての作曲というのを疑ってしまうくらい素敵な曲だと思います。コーラスはみんなで歌っているんですけど、「私たち、あられちゃんを支えているからね……!」という気持ちで録っていて。あられちゃんと、私たちゆめみたがひとつになった曲だと思います。
千石 「コハク」は爽快で疾走感もありましたけど、「グラディエント」はしっとりとしていたので、「コハク」を経て、また伝えたいものがより深掘りされたから、メロディとかもゆっくりになったのかなと感じて。よりあられの気持ちが伝わる構成になっているのをすごく感じました。
宮永 そういえば「コハク」は結構内向きな印象があって、「外の世界からはこう思われているかもしれないけど自分はこうなんだ」みたいな歌詞だったと解釈しているんですけど、「グラディエント」は外に対して語りかけるというか、より外側に向けた歌詞だなあと思った。
藤 「コハク」の時よりも歩み寄っている感じがあるよね。
宮永 うん、外との対話っていう感じがする。それが「グラディエント」ならではの温かさなんだと思います。
――確かにその変化は自分も感じました。以前、仲町さんに「コハク」についてお話を聞いた際に、「ぼくは孤独が好きなタイプ」という発言をされていましたが、「グラディエント」には、自分以外の誰かに向けてより心を開いた楽曲という印象があって。実際、仲町さん的にはどうなんですか?
仲町 今までの自分の人生を振り返ると、「バイバイ」と言ったら本当にそれから一生会わないような関係性を続けてきた自覚があって。なので、基本的には自分の中で自問自答する時間が多かったのが、ゆめみたの活動の中では、ずっとメンバーがそばにいるので、自分以外との関係とか、自分以外の相手をちゃんと見るようになりました。その距離感や相手の存在の温かさ、応援してくださっているみゅーたいぱー(※夢限大みゅーたいぷのファンネーム)の皆さんとも触れ合う機会があるので、その点で自分の中で膨らむ気持ちがあり……そういう部分も踏まえた曲にしたいなとは思っていましたけど、ここまで「すごく寄り添っている曲だね」と言われるとは思わなかった(笑)。
宮永 あられちゃん自身がこの1年くらいの中で成長しているから、きっと考え方のベースも変わっていってるんですよね。でも、自分ではどれだけ変わったか気づいていなかったんだと思います。
――メンバーの皆さんはそばにいて、仲町さんに変化や成長を感じる?
峰月 はい。まあメンバー全員に感じることですけど、すごく強くなりました……筋肉を含めて(笑)。
仲町 いやいや、例の曲の話はまだだから(笑)。
千石 ライブが多かったのも影響しているんじゃない?まだ1st LIVEから1年しか経っていない中で、その間にたくさんライブをさせてもらってきて、その度に「ここに来てくれてる人がいなかったらライブはできないんだな」ということを、メンバー全員が実感してきたと思うので。
――ちなみに「グラディエント」は日本語で“傾き・勾配”や“空間における様々な量の変化”を意味する言葉ですが、このタイトルにはどんな思いを込めたのでしょうか。
仲町 根本として、この曲を聴いて自分自身を肯定してほしい気持ちがあって。でも、誰かから肯定をしてもらったからといって、自分自身を肯定できるわけではないじゃないですか。例え誰に肯定されたとしても、自分自身が心から自分のことを肯定してあげないと、きっとあまり意味がないと思うんです。ぼく自身がそうだったので。ぼくは他人と比べてしまうことがネガティブになる要因だったんですけど、みんなそれぞれが等しく自信を持っていいはずだし、イラストのレイヤーがひとつ欠けたら成り立たないように、すべてのひとりひとりの世界が重なっているから、この世界は成り立っているとぼくは感じていて。だからこの曲名がしっくりくるなと思って、名付けました。
――続いて、お待ちかねの筋トレ曲「LET’Sあちあちトレーニング!」についてですが……。
藤 こんなにいいお話のあとに(笑)。
仲町 マインドの次はフィジカルでいこう!(笑)。
――この楽曲は藤さんのモチーフ曲の第2弾ということで。前作の「限界現実サバイブ天使」はライブで爆発的に盛り上がる楽曲に成長していますが、それに続く今回はいきなりブートキャンプが始まるトンデモ曲になっていて……これはどういうことですか?
藤 どういうことなのかは自分もわからないです(笑)。「サバ天(限界現実サバイブ天使)」の時と同じで、この曲も作家さんたちに直接お話を聞いてもらったうえで作っていただいたのですが、内容的には「サバ天」の延長線上にありつつ、より己との戦いを歌った曲になっています。「サバ天」は、私が漫画家ということもあって、ネットでクリエイティブな活動をしている方にも共感してもらえるワードや表現をたくさん入れてもらって、私の感覚としては日陰者のクリエイターに向けた曲というイメージがあるのですが、今回の「LET’Sあちあちトレーニング!」は、歌詞にいきなり“健康まんが家邁進中!”とあるように、漫画家限定すぎるので、多分あまり共感はされないだろうなと思っていて。
――最初から共感は求めていないわけですね(笑)。
藤 はい。もう完全に振り切っているので、より私らしさが出ている曲なのかなと思います。
宮永 それは誰もが感じているよ。“健康まんが家邁進中!”で思い浮かぶのは都子ちゃんくらいしかいないから(笑)。
――そもそも「限界現実サバイブ天使」の頃から、気合いと根性というか熱血な世界観がありましたよね。
藤 「サバ天」は“限界現実”という名の通り、辛い現実を頑張るためにはどうするべきかを考えた結果、体と心を鍛えて己を切磋琢磨していくことを歌った曲で。モノづくりをする人は、自分がいいと思っても社会に評価されないことが多いですけど、それでも表現し続けたいのであれば、ひたすらベストコンディションでモノを作り続けるしかない。「LET’Sあちあちトレーニング!」もそれと同じで、歌っていることはほぼ変わらないんですよね。
仲町 「サバ天」と「LET’Sあちあちトレーニング!」の大きな違いは、現実逃避しちゃうところから、「いや、もう現実も含めて全部取り込んで俺の力にしてやるぜ!」っていう熱さを感じるところだと思う(笑)。現実に立ち向かうというか、現実も取り込んでやる!みたいなところがあって。
藤 確かに現実と戦っているわけではなくて。私は「現実=世界=他者」だと思うんですけど、他者と比べるとかではなく、己を高めるのみ!みたいなところはありますね。
宮永 かっけー!サムライだ(笑)。
――あと、「サバ天」と違って「LET’Sあちあちトレーニング!」では藤さんが自ら作詞にも参加しています。
藤 特に“努力”の解釈にこだわりがあって、結構口出しをさせていただきました(笑)。ここまでの私の話を聞くと、「努力って素晴らしい!」「努力こそ正義!」と思ってそうじゃないですか。でも、それはちょっと違うんです。私にとっての努力は、あくまで自分の自信のためでしかなくて。努力は自己実現のための手段であり、「努力は素晴らしい」というのは他者からの評価なので、それは別に関係ないんです。
宮永 自分への信用のために努力するってこと?
藤 そう。だから、他者から認められるために努力する、という考え方は私とは違うし、結局は己との戦いなんですよね。誰とも手を取り合うことなく、とにかく自分のために己を磨くのみ、ということです。
千石 でも、この曲では己を磨いた結果、いきなりトレーニングに誘われるんですけどね。「さあ,それでは皆さんで」って(笑)
宮永 この曲を聴いていると、自分との戦いってかっこいいなって思うし、自分の中にもそういう価値観が生まれるんですよね。すごく自分のための曲だけど、影響を与えるという意味では、勝手に他者が巻き込まれるところがあって(笑)。
峰月 確かに私もこの曲に影響されたかも。今まで大嫌いだった筋トレを始めたり、パーソナルジムに行ってみたり、健康管理アプリを入れてみたりしたので(笑)。
――楽曲としても急展開する構成が面白いですよね。
藤 私は心根的にあまりプラス思考の人間ではないのですが、だからこそ聴いていて元気になれる曲が好きなんです。なので、前向きに「頑張るぞ!」ってなれる曲にしてほしいということと、面白さもあるといいなと思って、お伝えさせていただきました。
――面白さも大切なんですか?
藤 一番大事だと思います!私は元々、自分の中での「正しさ=美しさ」をすごく気にするところがあるんですけど、人間社会は正しさでは動いていないですし、正しさは自分だけの尺度でしかないところがあると感じていて。そんななかで人と手を取り合う時に、面白さはすごく強い手段だと思うんです。面白さには、人を傷つけずに場を明るくしたり、思想が違う人同士でも共有して笑える力があると思うので。
――だから、曲中で突然ブートキャンプが始まる曲になったんですね(笑)。
藤 ちなみにライブでもブートキャンプが始まります(笑)。私が先生になって、もちろんメンバーにもやらせますし、お客さんを含めて全員にやってもらうことで、「己を鍛えるべし」という思想をみんなに伝えていきます。私も100kgと書かれたバーベルを持つので、皆さんついてきてください!
宮永 あくまで“ゆめみたkg”だけどね(笑)。
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