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REPORT

2025.06.09

作曲家・澤野弘之の才能の底知れなさを感じた一夜――SawanoHiroyuki[nZk]の10周年を豪華ゲストが祝ったライブイベント「SawanoHiroyuki[nZk] 10th Anniversary LIVE “A=Z”」レポート

作曲家・澤野弘之の才能の底知れなさを感じた一夜――SawanoHiroyuki[nZk]の10周年を豪華ゲストが祝ったライブイベント「SawanoHiroyuki[nZk] 10th Anniversary LIVE “A=Z”」レポート

澤野弘之によるボーカルプロジェクト・SawanoHiroyuki[nZk]の10周年を記念したライブイベント「SawanoHiroyuki[nZk] 10th Anniversary LIVE “A=Z”」が、5月31日、神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホールにて開催された。劇伴音楽の分野を中心に活動してきた澤野が、よりボーカル楽曲に比重を置く形で2014年に本格始動した同プロジェクト。パーマネントなボーカリストを据えることなく、楽曲やタイアップ作品に合わせて多彩なシンガーを迎えて活動を展開してきたことにより、この10年でその音世界は無限大とも言える程の広がりを示してきた。その軌跡の過程で生まれた珠玉の楽曲たちを、豪華ゲストアーティストを含む素晴らしいシンガー/ミュージシャンたちと届けたこの日のライブは、[nZk]の過去・現在・未来すべてを体感できる、まさに“A to Z”な一夜となった。

TEXT BY 北野 創
PHOTOGRAPHY BY 西槇太一、Ryotaro Kawashima

[nZk]10年の軌跡が育んだ、美しくエモーショナルな瞬間

ライブの開演を告げたのは、美しき照明演出。暗転して真っ暗闇となった会場に、一番星のように強い輝きを放つライトが灯り、全方位に向けて照射される光線が、まるで無数の星が瞬く宇宙空間のような景色を作り上げる。あまりにも美しい光景に客席からは感嘆の声が漏れるなか、[nZk]の1stアルバム『o1』の冒頭を飾ったインスト曲「[nZk]o1」がオープニングSEとして流れ、そのピアノとチェロの二重奏に伴われてまずはバンドメンバーが登壇。この日のライブをサポートしたのは、藤崎誠人(ds)、田辺トシノ(b)、飯室 博(g)、椿本匡賜(g)の4名。澤野のライブではお馴染みの面々だ。

そして「[nZk]o1」の中盤、音が途切れて女性ナレーションによる「エヌゼットケー、ヌジーク」という声を合図に展開するパートから、バンドが演奏を始めて、そのまま「[nZk]o1」の熱狂的なセッションに雪崩れ込む。やがて本日の主役・澤野弘之が軽やかに登場してグランドピアノの前に座ると、自らも演奏に加わる。SawanoHiroyuki[nZk]名義で行われた初ワンマン“SawanoHiroyuki[nZk] LIVE 「o1」”などでも観られた、懐かしいOP演出だ。だが、それだけでは終わらない。ここでフードを被ったSennaRinが登場すると、近年のライブでイントロダクションに組み込まれている「Battle Scars」(TVアニメ『青の祓魔師』サウンドトラック)のラップを力強く披露。いわば2曲のマッシュアップによる進化したスタイル。“A=Z”という公演タイトルには、原点と最新を繋ぎ、新しい形を創造する、という意味も込められているのだろう。

あまりにも熱い幕開けだが、そこに更なる情熱の炎を注いだのがLaco(EOW)であり、映画『プロメア』のサウンドトラックとして絶大な人気を誇る「NEXUS」。「燃えていこうぜー!」と威勢良くステージに登場したLacoは、パンチの効いたソウルフルなボーカルでオーディエンスの心に火を付ける。かと思えば、続く「Hands Up to the Sky」(TVアニメ『86―エイティシックス―』第1クールWエンディングテーマ)では、グリーンの照明が柔らかな情景を作り出すなか、凛々しく真っ直ぐに歌い上げて、観客からクラップを引き出す。MCで「ここからもたくさんのゲストが登場して、澤野さんの宇宙が大爆発していきますので、皆さんもガンガンとエネルギーを飛ばしていってくださいね!」と呼び掛けた彼女は、ヘビーウェイトな「FAKEit」(TVアニメ『Fate/strange Fake -Whispers of Dawn-』テーマソング)をエネルギッシュに届け、ライブの切込み役として会場を大いに盛り上げた。

続いてステージに現れたのはmizuki(UNIDOTS)。[nZk]には1stシングルの頃から参加しており、同プロジェクトを語るうえでは欠かせない存在だ。「aLIEz」(TVアニメ『アルドノア・ゼロ』第1クールWエンディングテーマ)のイントロが奏でられた瞬間、会場からは歓喜の声が上がる。Lacoがパッションタイプのボーカリストとするなら、mizukiはクールタイプ。静かな佇まいだけでなく、内側に沸々と湧き上がるパワーを溜めつつ、サビで一気に解き放つようなボーカルスタイルが、楽曲のドラマ性を更に高める。そして浮遊感あるサウンドと共に、広大な宇宙の景色を描き出した「A/Z」(TVアニメ『アルドノア・ゼロ』第1クールWエンディングテーマ)。先ほどよりも明るく開放的な歌声が会場に響き渡る。そして躍動感に満ちた「&Z」(TVアニメ『アルドノア・ゼロ』第2クールOPテーマ)へ。“Fly High”や“Our chances like shooting stars”といった歌詞にも重なる、大空を飛翔するかの如き伸びやかな歌声が、聴き手の感情を揺さぶり、終盤では客席も声を合わせて歌唱し、互いの“brave”を讃え合う。今年2月にはTVアニメシリーズの総集編に新作アニメを加えた『アルドノア・ゼロ(Re+)』が劇場公開され、改めて『アルドノア・ゼロ』に注目が集まるなか、同作の関連曲を一気に披露するブロックとなった。

2015年にオーディションで澤野に見出され、2016年から[nZk]の楽曲に携わってきたTielleは、まず「Into the Sky」(TVアニメ『機動戦士ガンダムユニコーン RE:0096』OPテーマ)を披露。[nZk]として彼女の声が届けられた最初の楽曲だ。ピアノの印象的なフレーズ、アコースティックギターの爽やかな調べに、Tielleのエモーショナルな歌声が重なって、壮大かつ美しい音世界が象られていく。この日が久々のステージとなった彼女だが、そのパワフルかつ情感豊かなボーカルはますます深く優美な響きを獲得している。それは続いて歌われた「gravityWall」(TVアニメ『Re:CREATORS』第1クールOPテーマ)にも表れており、バンドの重厚な演奏に負けることなく、体を揺らしながらパワフルに歌う様は圧巻のひと言。歌詞は澤野とTielleの共作ということを含め、想いの乗った渾身のパフォーマンスで、[nZk]の10周年と自身の復帰ステージを華々しく飾った。

そして、近年の澤野および[nZk]の楽曲やライブにおいて、強烈な存在感を放っているXAIがステージに登場。まずはTVアニメ『俺だけレベルアップな件』のサウンドトラックを[nZk]でリアレンジした「DARK ARIA 」を届ける。悲壮感を帯びたピアノとストリングス、バンドの演奏が、会場をダークな色に染め上げるなか、XAIは優美なファルセット~ミックスボイスを交えながら、祈りにも似た歌声を響き渡らせる。締めの静かに減退していくようなアプローチをはじめ、表現の1つ1つにおける声のコントロールが素晴らしく、まるで劇を見ているかのような没入感を生み出していた。さらにもう1曲、アグレッシブなアップチューン「X.U.」(TVアニメ『終わりのセラフ』OPテーマ)をカバー。XAIの明暗のメリハリが効いた歌唱が楽曲の世界観にバッチリとハマっており、曲間で「ヨコハマー!」と叫んで盛り上げる一幕も。まだ[nZk]での歌唱楽曲は多くないが、今後のさらなる手合わせが期待できるステージだった。

「X.U.」の熱を冷ますように、澤野のピアノ伴奏のみでしっとりと披露されたのが「s-AVE」。歌うのは、イントロダクションに続いての登場となるSennaRinだ。澤野のプロデュースで2022年にメジャーデビューした彼女は、サントラなどの澤野が関わる様々なプロジェクトに参加しており、ファンにとっても身近な存在になっている。「s-AVE」は[nZk]の1stアルバム『o1』に収録されたAimerの歌唱曲で、SennaRinは今年10月にYouTubeで配信された「SawanoHiroyuki[nZk] 10th Anniversary Studio Live」でもこの楽曲をカバーしていた。この日はサビのみを歌唱し、メドレー形式で次の楽曲に繋ぐ。その楽曲とは、なんとTM NETWORK「BEYOND THE TIME(メビウスの宇宙を越えて)」(映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』主題歌)。2024年にリリースされたTMNのトリビュートアルバム『TM NETWORK TRIBUTE ALBUM -40th CELEBRATION-』にて、澤野弘之 feat. SennaRin名義でお披露目されたカバーが、ライブで初めて演奏される。後のMCでも語られていたが、澤野は本公演のライブパンフレットで小室哲哉と対談を行うなど、かねてより影響を受けた存在として小室の名前を挙げてきた。いわば彼のルーツであり、しかも澤野と縁の深いガンダムソングの系譜に連なる楽曲のカバーに、会場は大きなクラップと声援で応えていた。

ここでバンドメンバーの紹介と、澤野の音楽活動20周年を記念したコンサート“澤野弘之 20th Anniversary Concert × Aniplex”の告知を挿み、SennaRinともう1曲、昨年10月にリリースされた[nZk]のベストアルバム『bLACKbLUE』より「B-Cuz」を披露。この楽曲は、現在の[nZk]の雛形となったプロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk]:Aimer名義によるAimerとのコラボアルバム『UnChild』収録曲「Because we are tiny in this world」をリアレンジのうえ、SennaRinが新たに歌詞を付けたもので、これもまた[nZk]の原点と最新を繋ぐ試みと言える。アコギを軸にしたミディアムテンポの柔らかなアンサンブル、橙色の照明が作り出す温かな光景、感情豊かでどこか郷愁を誘うSennaRinの歌声が合わさって、美しいモーメントが描き出された。

次のページ:西川貴教をはじめ歴戦のアーティストたちが示した[nZk]の可能性

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