Oranges & Lemons「空耳ケーキ」レビュー

2013.12.06

伊藤真澄と上野洋子によるゼロ年代屈指のアニソン名曲。『あずまんが大王』のOPテーマ。

『よつばと!』でもおなじみのあずまきよひこ原作による2002年のTVアニメ『あずまんが大王』のOPテーマ「空耳ケーキ」は、伊藤真澄と上野洋子によるユニット“Oranges & Lemons”が担当している。XTCを思い起こすユニット名からして、ポップで一筋縄ではいかないサウンドであることがイメージできるだろう。

伊藤真澄は、TVアニメ『人類は衰退しました』のEDテーマ「ユメのなかノわたしのユメ」、茅原実里「優しい忘却」(劇場版 『涼宮ハルヒの消失』主題歌)、ランティス・アーティストの楽曲をアコースティック・アレンジで仕上げた『Heart of Magic Garden』(ヴォーカルは原曲のアーティストが再歌唱している)などを手がけるシンガーソングライターで、自身のソロアルバムもリリースしている。

Oranges & Lemonsのほかにも、Heart of Air(『灰羽連盟』EDテーマ「Blue Flow」など)や、さねよしいさ子との賛美歌ユニット、マリアリアなどのユニットでも活動。アニメ劇伴に関しては“七瀬 光”名義のものが多く、『ギャラクシーエンジェル』『D.C.~ダ・カーポ~』『ノエイン もうひとりの君へ』『シゴフミ』『IS<インフィニット・ストラトス>』『境界の彼方』など数々の音楽を担当している。

民族音楽に影響を受けた幻想的なサウンドと透明感あふれる歌声が魅力的な上野洋子は、asterisk名義やMarsh-Mallow、またZABADAKの初期メンバーとしてもよく知られている。ソロアーティストとして作品のリリースのみならずジャンルを超えた多彩な活動を続けており、またヴォーカリストとして数々の作品に客演をしている。

ふたりは2003年のTVアニメ『スクラップド・プリンセス』のEDテーマ「大地のla-li-la」にて、Oranges & Lemons名義ではないが、再び共作をしている。(この作品で主人公・パシフィカを演じた折笠富美子のソロ作品を上野洋子がプロデュースしている)

ハイレゾ版のマスタリングは、エンジニア・原田光晴が担当。CDを超える豊かな音色と弾むような旋律、軽やかなヴォーカルが一段と映えるサウンドに仕上がっている。

「空耳ケーキ」

ニューウェイヴとレコメン系室内楽による空中サーカスのような、ポップとアヴァンを行き来するめくるめく展開が魅惑的なナンバー。畑 亜貴による諧謔を散りばめたファンタスティックな歌詞は、マザーグースの言葉遊びのように変拍子のリズムの上で華麗なダンスを繰り広げる。目の覚めるサウンドながら何処かとぼけたユーモアを醸し出す伊藤真澄のセンスが冴える、中毒性の高い楽曲。

レコーデイング・メンバーは、ドラム:伊藤史郎、ベース:入江直之(畑 亜貴のバンド、月比古のメンバーでもある)、ギター:伊丹雅博、ストリングス:篠崎グループ、トランペット:佐々木史郎、プログラミング:伊藤真澄、スプーン:上野洋子。

CDでも感じられたメリハリさを保ちつつ、ノリの良さへと転化しドライブ感を高めたハイレゾ版は、重厚さを増したグルーヴがぐいぐいと攻めてくるよう。解像感は、イントロのストリングスを鮮明に際立たせ、多層的なリズムの構造も浮かび上がらせる。音像はシャープにその輪郭を映し出し、楽器の鳴りにも余裕をもった空間が感じ取られる。間奏でのアート・リンゼイばりのノイジーなギターと拮抗するトランペットのハイノートも飛び出さんばかりの勢い。

またトイピアノや鐘の高音域も強い輝きを放つ。伊藤真澄のおおらかな歌の表情と上野洋子のたおやかな声質も明瞭に描写されており、個性的なふたりの声が折り重なるハーモニーが美しく耳に響く。

「Raspberry heaven」

こちらは上野洋子の作曲・編曲によるエンディングテーマ。牧歌的なメロディと陽だまりの浮遊感が、カンタベリー・サウンドのような夢心地の脱力系アンビエントポップ。ドラム:仙波清彦、ベース:竹下欣伸、ギター:伊丹雅博、ストリングス:小池グループ、プログラミング:吉野裕司(上野洋子も参加しているプロジェクト、Vita Novaのリーダー。TVアニメ『BRIGADOON まりんとメラン』『狼と香辛料』の音楽も手がけている)と、こちらも豪華な布陣。

必要な音がわかりやすく鳴っているCDより、それぞれの音色のグラデーションが強く、濃厚な雰囲気を醸し出すハイレゾ。ドラムが刻む絶妙なビートも、弾むように低く伸びきるジャズベースの音色も鮮やか。そして温かみのある空気感のなか、丸みを帯びたグルーヴとして伝わってくる。「空耳ケーキ」とは対照的に穏やか曲調だが深い前衛を湛えており、コーラスを包み込むストリングスの優しい旋律に、三宅 純やcobaの作品でもおなじみの伊丹雅博によるエッジの効いたギターが入り込んできたりと、ただ安らぐだけに終わらせない奇妙な感覚。

ふたりの歌声も浮遊感を増しており、芯を潜めた声の力に引っ張られるよう。澄み切った声質にお互いの独特な抑揚が加わり、知らず知らずのうちに不思議な昂揚感が心に沸き立つ。

トンガリ具合とふわふわ感が織りなす極上のストレンジポップ。畑亜貴、伊藤真澄、上野洋子のトライアングルによるスリリングで絶妙な音楽はまさに奇跡的と言えよう。ハイレゾでは印象をあらたにする活き活きとしたサウンドに魅了される。

『あずまんが大王』といえば、OP&EDテーマだけでなく、栗原正己率いる栗コーダーポップスオーケストラ(「ピタゴラスイッチ」などでもお馴染みの栗コーダーカルテットよりも人数が多い編成)による劇伴も印象深い。こちらのハイレゾ化も実現されてほしい。

あずまOPEDOranges & Lemons
空耳ケーキ

Lantis
2013.12.06

WAV 96kHz/24bit

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e-onkyo music

収録曲

 1.空耳ケーキ
   作詞:畑亜貴 作曲・編曲:伊藤真澄

 2.Raspberry heaven
   作詞:畑亜貴 作曲・編曲:上野洋子

 3.空耳ケーキ (off vocal)

 4.Raspberry heaven (off vocal)

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