『ARIA』の天野こずえ原作によるTVアニメ『あまんちゅ!』は、伊豆半島を舞台にスキューバダイビングを通じて友情を深めていくふたりの少女=小日向光と大木双葉の姿を描く物語。総監督はアニメ『ARIA』シリーズ、『たまゆら』シリーズの佐藤順一、監督は『ハチミツとクローバー』『のだめカンタービレ』『青い花』などのカサヰケンイチ、そして音楽はGONTITIと、アニメファン納得の制作陣。
この『あまんちゅ!』のOPテーマが坂本真綾の『Million Clouds』。雄大な海を思わせる広がりのあるサウンドに澄み切った歌声が響き渡る、魅力的なナンバーだ。
作詞は坂本真綾、作曲は新世代のスウェーデン・ポップスの歌姫“フリーダ”ことFrida Sundemo。フリーダは冬をテーマにした坂本真綾のコンセプトアルバム『Driving in the silence』(2011)にラスマス・フェイバーとともに3曲参加している。また坂本真綾の20周年記念トリビュートアルバム『REQUEST』(2015)にも、“Rasmus Faber feat. Frida”として参加しており、『イージーリスニング』(2001)に収録されている「afternoon repose」をカヴァーしている。
『Driving in the silence』のサウンド・プロデューサーでもあり、この曲のアレンジャーでもある河野 伸に、坂本真綾が「伊豆の海が思い浮かぶような」という楽曲のイメージを伝えたところ、生楽器やストリングスがふんだんに加わった仕上がりとなり、清々しい開放感があふれるサウンドへと変化を遂げた。
ハイレゾでは外と内の世界を重ねる音のイメージがより精彩に奏でられる。物語の始まりを告げるイントロでは、目の前の景色を綴る言葉が透き通るピアノとグロッケンシュピールの音色とともに、流れる楽曲に優しいアクセントを付けて、この場所から“美しい世界”へと憧れている“私”の存在を映し出す。
そして、ストリングスがたなびく雲のように流麗と奏でられ、打楽器が打ち鳴らされるサビ部分では、その見慣れた風景が“美しい世界”へと鮮やかに色づき水平線の彼方へと一気に広がる開放感、またそのように感じた心の動きをサウンドに重ねる声の抑揚の変化が感じられる。
2番からは柔らかなビートも加わることにより、さらにリズミカルにサウンドを弾ませ、“今しかできないことをすぐやらなくちゃ”と未知の体験に心を震わせている、はやる気持ちや鼓動の高まりに呼応するように、楽曲を躍動的に展開させる。
再びのサビでは、沈み込む深い音色の太鼓はよりダイナミックに、そして昂揚感を促し、透明な歌声を押し上げるかのごとく深々と響き渡る。変わり始めた世界の中で変わり始めた心から湧き上がる感情がもっと遠くへと“私”を揺り動かし、“幾千の雲をかき分けて 駆け上がる気持ち”を表わすヴォーカルが、雄大に奏でられるストリングスとともに空高く飛翔するように舞い上がる。ラストでは冒頭の静謐なサウンドへと立ち返り、凛とした輪郭を保つ歌声がもはや憧憬ではなく物語の中に確信を持って佇む“私”の姿を、繰り返すフレーズにわずかに添えられた言葉によって浮かび上がらせている。
『あまんちゅ!』最終回では挿入歌として使用されたナンバー。作詞・作曲は坂本真綾、そして「Million Clouds」と同じく河野 伸がアレンジを担当している。変わりゆく新しい世界に向かって飛び出す、今の気持ちを映し出す楽曲のテーマは「Million Clouds」と共通するものだが、もちろん単なる変奏といったものではなく、“私”の姿を描き出すアプローチは異なるもの。
かけがえのない“君”がいることでいつもの風景が、頬を撫でる潮風が、違って感じられることに気づく。「ロマーシカ」は、ふたりでいることによって変わる自分の気持ちを、目の前に映る風景に織り込みながら描いており、“海沿いを走る 南風に髪をほどいて” “きれい、って指差した空 遠く飛行機の音”など、情景が映像のように浮かび上がる丁寧な語り口も印象的に、言葉が心に深く残る。
「Million Clouds」では躍動的に広がるサウンドに内省的な変化を重ねる、そのイメージへの没入感をハイレゾの情報量は高めてくれたが、「ロマーシカ」では、新鮮な感動に包まれる今の気持ちと、背景となる日常の風景を朗らかに描き出すことに深く作用しており、アコースティック楽器の音色はより鮮やかに、すっきりとした音場に穏やかに鳴り響き、和やかな雰囲気を醸し出している。
なだらかに刻むドラムの手数の多さがうれしさに踊る感情を示し、しなやかに旋律を奏でるストリングスの温かみが砂浜ではしゃぐふたりのシーンを優しく照らし出す。ヴォーカルは明るく澄んだ声質で描写され、言葉と言葉をお互いの気持ちのようにスムーズにつなぐ伸びやかな抑揚が、ミディアムな楽曲のテンポに柔らかく弾んでいる。
シングル「Million Clouds」にはこのほかに以下の3曲が収録されている。
1998年の2ndアルバム『DIVE』のラストナンバーをGONTITIによる伴奏でセルフカヴァーした「DIVE feat.GONTITI」。坂本真綾の歌声に寄り添うようなアコースティックギターの音色、またそのサウンドに包まれているような音像が心地好い。
穏やかに情景を描くような、河野 伸によるしみじみとしたピアノ演奏が優しく響く「Million Clouds ~Piano Ver.~」。
そして、『たまゆら~もあぐれっしぶ~』OPテーマである大貫妙子の書き下ろし曲「はじまりの海」のライヴ・ヴァージョン。こちらは2016年2月6日、『坂本真綾 LIVE TOUR 2015-2016 “FOLLOW ME UP”』中野サンプラザホールでの公演を収録したもの。ライヴならではの空気感や演奏の雰囲気が臨場感たっぷりに伝わってくる。翌日のツアー最終日の模様を収録したライヴアルバム『LIVE TOUR 2015-2016“FOLLOW ME UP”FINAL at 中野サンプラザ』もハイレゾにてリリースされている。
曲名やサウンドからも想像できるように“海”でつながった、コンセプトアルバムのような構成の今回のシングル。広さやおおらかさ、深さ、また優しさといったイメージが思い浮かぶ夏らしい爽やかなサウンドに歌声がみずみずしく重なり、いつもの風景に一歩踏み出すことによって始まる、新しい“私”の物語を描いている。
FlyingDog
2016.07.27FLAC・WAV 96kHz/24bit
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1.Million Clouds(TVアニメ―ション「あまんちゅ!」オープニングテーマ)
作詞:坂本真綾 作曲:Frida Sundemo 編曲:河野伸
2.ロマーシカ
作詞・作曲:坂本真綾 編曲:河野伸
3.DIVE feat.GONTITI
作詞:岩里祐穂 作曲:菅野よう子 編曲:GONTITI
4.Million Clouds ~Piano Ver.~
ピアノ演奏 : 河野伸
5.はじまりの海 ~Live Ver.~
作詞・作曲:大貫妙子 編曲:河野伸
※2016年2月6日中野サンプラザホールにて収録
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