写真を撮ることが好きな少女、沢渡 楓、しっかり者の塙かおる、いつもハイテンションな岡崎のりえ、おっとりとした性格の桜田麻音。瀬戸内海の竹島を舞台にした高校生4人の物語を描く、佐藤順一監督のアニメ作品『たまゆら』。OVAからスタートした今作は、『たまゆら ~hitotose~』『たまゆら~もあぐれっしぶ~』と続き、『たまゆら~卒業写真~』にて終了を迎えた。
約5年にわたったこのシリーズのOP&EDテーマを集めたアルバムが『「たまゆら」主題歌コレクション~卒業写真~』。レギュラーのテーマ曲だけでなく、スペシャルEDテーマや最終回のみで流れたEDテーマなどもすべて収録。アルバムには坂本真綾、中島 愛、清浦夏実、千菅春香、そして、キャラクター4人によるヴォーカル曲が並んでいる。「たまゆら~卒業写真~」第3部と第4部のEDテーマとなる坂本真綾の「これから~うたとピアノ~」「卒業写真」もこのアルバムに収録されている。
このアルバムでは荒井由実/松任谷由実の曲が4つカヴァーされている。1974年にリリースされた『MISSLIM』に収録され、のちに映画『魔女の宅急便』の主題歌に使用されリバイバルヒットした「やさしさに包まれたなら」は、原曲の清々しさはそのままに、アコースティックギター・インストデュオ、DEPAPEPEによる活き活きとしたアレンジとなっている。1981年のアルバム『昨晩お会いしましょう』のラストナンバー「A HAPPY NEW YEAR」は、佐藤順一監督作品では『ARIA』シリーズのOPテーマを手がける窪田ミナが編曲しており、温かくも何処か感傷的なストリングスの旋律が趣深い。
「グッド・ラック・アンド・グッドバイ」「赤いスイートピー」などを思い起こすメロディ・ラインの「最後の春休み」(1979年のアルバム『OLIVE』に収録)のヴォーカルは千菅春香が務めており、無垢な歌声と山本隆二の透明感のあるアレンジが素晴らしい。ハイ・ファイ・セットのデビュー曲であり、荒井由実自身も1975年のアルバム『COBALT HOUR』でセルフカヴァーした「卒業写真」は、矢野博康による『たまゆら』らしい叙情性をたたえたアレンジが美しく、物語の余韻を強くする。
『たまゆら~hitotose~』のOPテーマは、松任谷由実による書き下ろし曲「おかえりなさい」。『たまゆら』らしいアットホームな雰囲気に包まれる、これもまたユーミンらしい、心の琴線に触れる美しいメロディだ。
また荒井由実作品にもゆかりがある大貫妙子による書き下ろし曲が、『たまゆら~もあぐれっしぶ~』OPテーマ「はじまりの海」。大貫妙子がメンバーだったシュガー・ベイブの「DOWN TOWN」を2010年にカヴァーしている坂本真綾が歌唱している。物語の風景が思い浮かぶ大貫妙子による歌詞と軽やかなサウンドが心地よい。ピアノ&キーボード:森 俊之(坂本真綾作品にも多数参加しており、今作では「おかえりなさい」のアレンジも手がけている)、ドラム:林 立夫(キャラメル・ママ)、ベース:鈴木正人(LITTLE CREATURES、sighboat)、ギター:小倉博和(山弦)、シェイカー:レニー・カストロ(TOTOや西海岸アーティスト作品ではおなじみの大御所パーカッショニスト)、バッキング・ヴォーカル:大貫妙子、と贅沢なメンバーによる録音だ。
ティン・パン・アレーやシティ・ポップの流れがテン年代によみがえるこれらのナンバーは、坂本真綾がニューミュージック、ジャパニーズ・ポップスの正統な後継者であるように聴こえてくる。懐古趣味に陥らず、スタンダードな音楽スタイルを新たな切り口で提示できるアニソンならではの懐の深さが感じられる。
ジャパニーズ・ポップスを支えてきたアーティストの参加はまだまだ続く。
『たまゆら~もあぐれっしぶ~』のEDテーマ「ありがとう」は、ヴォーカルの中島 愛たっての希望で尾崎亜美が作詞・作曲、佐藤 準が編曲を務めた書き下ろし曲。70年代の尾崎亜美ソロ作品にも通ずるメロウなポップス・ナンバーに仕上がっている。松田聖子「天使のウィンク」や、杏里「オリビアを聴きながら」、佐藤 準とのコンビでは観月ありさ「伝説の少女」を手がけた尾崎亜美は、昭和アイドル好きの中島 愛にとっては憧れの存在。尾崎亜美の影響を感じさせる歌の節回しも微笑ましい。ピアノ&キーボード:佐藤 準、ドラム:林 立夫、ベース:小原 礼、ギター:佐橋佳幸、とこちらのレコーディング・メンバーも完璧な布陣。
『たまゆら~hitotose~』EDテーマ「神様のいたずら」は、大江千里らしい情景を切り取った歌詞とセンチメンタルなメロディが溢れるナンバー。「十人十色」「REAL」「フレンド」「POWER」など、80年代から大江千里の名曲の数々をアレンジしてきた清水信之の参加もファンにとってはたまらない(この二人の組み合わせでは、2007年のTVアニメ『スケッチブック~full color’s~』EDテーマとなった牧野由依「スケッチブックを持ったまま」も印象深い)。
ラストのスキャットも清々しい北川勝利作曲のAORナンバー「メロディ」(OVA「たまゆら」1st EDテーマ)、歌詞の切なさが涙を誘う杉森舞によるバラード「夏鳥」(OVA「たまゆら」2nd EDテーマ)、矢吹香那も参加したアルバム『十九色』を思い出す、清浦夏実(現在は沖井礼二とのバンド“TWEEDEES”のメンバー)ヴォーカルのメロウナンバー「花火」(TVアニメ「たまゆら~hitotose~」第5.5話EDテーマ)、谷村有美や岡崎律子、メロキュア作品にも多く携わる西脇辰弥による「星空」(「たまゆら~hitotose~」スペシャルEDテーマ)、『TARI TARI』『ガールズ&パンツァー』の音楽でもおなじみ浜口史郎が手がけるキャラクターソング「あしたの陽だまり」(『たまゆら~hitotose~』スペシャルEDテーマ)、『たまゆら』の音楽担当である中島ノブユキ(ピアニストである彼のソロ作品も名作揃いだ)のピアノ伴奏による一発録りヴァージョン「これから~うたとピアノ~」(『たまゆら~卒業写真~』第3部EDテーマ)と珠玉の楽曲ばかり。
アルバム全体としてのサウンドの方向性やイメージするトーンといったものは共通しているが、決して単調なものにはならず、ヴォーカルの表現力と繊細なアレンジがいっそう豊かに感じられる。ハイレゾ版は音の分離感や解像感が良いがデジタルっぽい高精細といったものではなく、温かみのある音色がみずみずしく響くレコードのような感触が心地よい。
空気感も柔らかく、物語のうららかな日々を綴るよう。サウンドはヴォーカルを引き立てる定位で、語りかける・囁く歌声がより近くに感じられ、異なるタイプのシンガーそれぞれの個性や歌のうまさが伝わってくる。
楽曲に甲乙を付けるものではないが、試聴ならば「おかえりなさい」「花火」「あしたの陽だまり」「ありがとう」「最後の春休み」をまずはおすすめしたい。『たまゆら』の世界にじんわりと浸ることができる優しい音楽が詰まった作品だ。
FlyingDog
2016.03.30FLAC・WAV 96kHz/24bit
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1.やさしさに包まれたなら/坂本真綾(OVA「たまゆら」OPテーマ)
作詞・作曲:荒井由実 編曲:DEPAPEPE
2.メロディ/中島 愛(OVA「たまゆら」1st EDテーマ)
作詞・作曲・編曲:北川勝利 ストリングス 編曲:長谷泰宏
3.夏鳥/中島 愛(OVA「たまゆら」2nd EDテーマ)
作詞・作曲:杉森 舞 編曲:清水信之
4.おかえりなさい/坂本真綾(TVアニメ「たまゆら~hitotose~」OPテーマ)
作詞:坂本真綾 作曲:松任谷由実 編曲:森 俊之
5.神様のいたずら/中島 愛(TVアニメ「たまゆら~hitotose~」EDテーマ)
作詞・作曲:大江千里 編曲:清水信之
6.花火/清浦夏実(TVアニメ「たまゆら~hitotose~」第5.5話EDテーマ)
作詞・作曲:矢吹香那 編曲:北川勝利
7.星空/中島 愛(TVアニメ「たまゆら~hitotose~」スペシャルEDテーマ)
作詞:伊藤利恵子 作曲・編曲:西脇辰弥
8.あしたの陽だまり/沢渡 楓(竹達彩奈)、塙かおる(阿澄佳奈)、岡崎のりえ(井口裕香)、桜田麻音(儀武ゆう子)(TVアニメ「たまゆら~hitotose~」スペシャルEDテーマ)
作詞:マイク スギヤマ 作曲・編曲:浜口史郎
9.A HAPPY NEW YEAR/坂本真綾(TVアニメ「たまゆら~hitotose~」最終回EDテーマ)
作詞・作曲:松任谷由実 編曲:窪田ミナ
10.はじまりの海/坂本真綾(TVアニメ「たまゆら~もあぐれっしぶ~」OPテーマ)
作詞・作曲/大貫妙子 編曲:森 俊之
11.ありがとう/中島 愛(TVアニメ「たまゆら~もあぐれっしぶ~」EDテーマ)
作詞・作曲:尾崎亜美 編曲:佐藤 準
12.風色のフィルム/中島 愛(TVアニメ「たまゆら~もあぐれっしぶ~」スペシャルEDテーマ)
作詞・作曲・編曲:矢野博康
13.最後の春休み/千菅春香(TVアニメ「たまゆら~もあぐれっしぶ~」最終回EDテーマ)
作詞・作曲:松任谷由実 編曲:山本隆二
14.これから~うたとピアノ~/坂本真綾(「たまゆら~卒業写真~」第3部EDテーマ)
作詞・作曲:坂本真綾 編曲・ピアノ演奏:中島ノブユキ
15.卒業写真/坂本真綾(「たまゆら~卒業写真~」第4部EDテーマ)
作詞・作曲:荒井由実 編曲:矢野博康
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