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2017.06.28

TO-MAS『TVアニメ『アリスと蔵六』オリジナルサウンドトラック Imagination Wondersound』レビュー

TO-MAS『TVアニメ『アリスと蔵六』オリジナルサウンドトラック Imagination Wondersound』レビュー

伊藤真澄、ミト(クラムボン)、松井洋平(TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND)の3人からなる劇伴ユニット、“TO-MAS”が音楽を担当したTVアニメ『アリスと蔵六』のサウンドトラック。迫力のある戦闘シーンのサウンドから、温かい雰囲気に包まれる日常を描いた楽曲まで全49曲を収録。

第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞した今井哲也のコミックを原作としたTVアニメ『アリスと蔵六』。「アリスの夢」と呼ばれる超能力を持つ少女・紗名と、「おれは曲がったことが大嫌いなんだ」が口癖の頑固な老人・樫村蔵六の出会いから始まる、ちょっと不思議な物語。外の世界に飛び出した紗名が家族や友人を通じて、成長していく過程を描いたヒューマンドラマである。

この『アリスと蔵六』の音楽を担当しているのは、伊藤真澄、ミト(クラムボン)、松井洋平(TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND)の3人からなる劇伴ユニット、“TO-MAS”。正式名称は、“TO-MAS SOUNDSIGHT FLUORESCENT FOREST (トーマス サウンドサイト フローレセント フォレスト)。

伊藤真澄は『シゴフミ』『IS<インフィニット・ストラトス>』『境界の彼方』など数多くの劇伴を担当し、上野洋子とのユニット“Oranges & Lemons”(TVアニメ『あずまんが大王』のオープニングテーマとなった「空耳ケーキ」を手がけている)のメンバーとしても知られるシンガーソングライター。今作のエンディングテーマ「Chant」を担当したトイピアノ・カルテット、“toi toy toi”のメンバーでもある。

■TVアニメ『アリスと蔵六』EDテーマ「Chant」toi toy toi インタビューはこちら

ミトは映画『心が叫びたがってるんだ。』の劇伴や、TVアニメ『終物語』のオープニングテーマ作曲など、アニメ作品へ数々の楽曲提供を行なっている。

松井洋平は『ウィッチクラフトワークス』『トリニティセブン』『プリズマ☆イリヤ ドライ!!』などアニメ作品の劇伴や主題歌、キャラソン等の楽曲の制作を行ない、作詞・作曲・編曲を手がけたTVアニメ『おそ松さん』のエンディングテーマ「SIX SAME FACES ~今夜は最高!!!!!!~」も大きな話題を呼んだTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDのメンバーであり、声優やアニメ作品の作詞家としても活躍をしている。

2015年9月に結成され、『ももくり』『彼女と彼女の猫 -Everything Flows-』『フリップフラッパーズ』とこれまで3作のTVアニメ劇伴を担当。また『ラブライブ!The School Idol Movie』Blu-ray特典曲「これから」や、『フリップフラッパーズ』のエンディングテーマ「FLIP FLAP FLIP FLAP」、主人公であるパピカ(CV:M・A・O)&ココナ(CV:高橋未奈美)による挿入歌「OVER THE RAINBOW」なども手がけている。劇伴のみならずヴォーカル曲も積極的に制作しているのが、かれらの特徴でもある。

■TO-MAS結成のいきさつから『フリップフラッパーズ』の劇伴&エンディングテーマの制作過程までを語ったTO-MASのロングインタビューはこちら

 

2017年1月より放送されたTVアニメ『小林さんちのメイドラゴン』は伊藤真澄が音楽を担当しているが、この劇伴制作にミトが参加(松井洋平はエンディングテーマ「イシュカン・コミュニケーション」の作詞を手がける)。今作のエンディングテーマとなるtoi toy toi「Chant」のシングル・カップリング曲「あいのかたち」にはミトがウッドベースで演奏参加など、TO-MASの枠を超え、互いにメンバーが関わる作品に直接的/間接的に携わっているのもかれららしいところ。アニメ作品を基盤にした音楽制作のオープンな雰囲気を感じる。

そんなTO-MASの音楽による、TVアニメ『アリスと蔵六』オリジナルサウンドトラック「Imagination Wondersound」は、ORESAMAによるオープニングテーマ「ワンダードライブ (TV-SIZE)」、toi toy toiのエンディングテーマ「Chant (TV-SIZE)」を含む全49曲を収録。CDは2枚組の仕様で、ハイレゾはM-1からM-25までがDisc1、M-26からM-49までがDisc2の楽曲となる。

 

『アリスと蔵六』の第1話は通常の30分枠ではなく、1時間スペシャルとして放送された。そして、そこで使用された劇伴はフィルムスコアリングによって制作されている。フィルムスコアリングとは、完成した映像に合わせて音楽を制作していく手法のことで、TVアニメ『灰と幻想のグリムガル』((K)NoW_NAMEが劇伴担当)や、『GOD EATER』(椎名 豪が劇伴担当)などでも用いられている。

第1話「赤の女王、逃げる」は、紗名が研究所から逃げ出す場面から始まる。そして、紗名の逃亡を阻む“ミニーC”・タチバナと、紗名を助けようとする一条 雫との、能力者同士の激しいバトルが繰り広げられる。ここで流れている楽曲はM-26「Preface」。この冒頭シーンで使用された9分31秒、そのままの長さで収録されている。森の中を雨に打たれながら歩き続ける紗名。路上でその行く手を立ちふさぐ“ミニーC”・タチバナ。ふたりの間に入り込み、能力を発動させる一条 雫。紗名の孤独や不安、追っ手が迫ってくる緊張感、能力者たちの激しい闘い。登場人物の内面から場面状況、雰囲気まで、その映像が必要とする要素に応じた楽曲が作られている。

この曲では6分19秒ぐらいから10秒ほど無音の部分がある。アニメでも同様にこの箇所ではセリフとSE以外の音は鳴っていない(一条 雫が疲弊した紗名に栄養補給のジャムを与え、大きな町へと「飛ぶ」ように促すシーン)。無音の部分も楽曲の一部であることがわかり、また演出の意図も伝わってくる。全体的に緩急をつけた展開も含めて、フィルムスコアリングならではの楽曲といえよう。

 

車での移動シーンにはミステリアスにリズムが重なるM-29「Tweedledum and Tweedledee」を使用。
沢木興行の事務所では、M-40「Grin like a Cheshire cat」。後半の会議室や、怪しげな雰囲気が漂う場面でよく使われた。
トイピアノとファゴットがのどかな雰囲気を醸し出すM-11「Unbirthday」は、コンビニと後半、紗名と蔵六が夜の新宿を歩くシーンなどでも使われている。

鉄球が現れるアクション・シーンでは、川本 新と松井洋平が作曲・編曲を手がけたM-43「March Hare」fhánaのストリングスのアレンジを多く手がけている川本 新は、またChouCho「starlog」(作曲・編曲)、麻生夏子「Never Ending Voyage」(作曲・編曲)「MoonRise Romance」(ストリングス・アレンジ)、上田麗奈「あなたの好きなメロディ」(fhánaの佐藤純一と共編曲)、Chima「つま先立ち」(シングル「はじまりのしるし」カップリング曲。編曲などの楽曲にも携わっている。ストリングスを生かした迫力のある楽曲がこのサウンドトラックの後半にいくつも収められている。

少しずつ早まるリズムがサスペンス映画のような胸騒ぎを感じさせるM-35「Chess Game」と、重々しいM-30「“TRUMP”」は紗名が「消える」映像を再生するシーンで使用。
M-34「Dormouse」は幽霊でも出てきそうな音響サウンド。狐につままれたような目撃者の証言のバックでも流れた。
中華料理店で紗名が蔵六に自身の能力について語る場面では、「Unbirthday」と、ミトによるM-47「Silvery Mist」。柔らかなシンセとリヴァース音が夢幻のイメージを描く。

神社の階段で蔵六が紗名を諭す場面では、M-33「Meaning of name」。toi toy toiの良原リエによるアコーディオンがどことなく郷愁を漂わすこの曲は、第5話「帰るところ」のゆうげを囲む樫村家のシーンでも使用された。

色鮮やかな花の美しさに紗名が思わず見惚れるシーンでは、伊藤真澄によるM-2「Under The Tree」。ピアノとストリングスが優しく奏でられるこの曲は、ハートウォームなこの物語のメインテーマと呼ぶにふさわしく、紗名が家族として迎えられる第6話「樫村家」や、第7話「ともだち」など大切なシーンで使用されている。

沢木興行の頭首が一世一代のプロポーズに赴くシーンでは、ちょっと変てこりんなシンセ曲、M-17「Oh, you foolish」がかかり、ユーモラスな空気を演出する。
最後、樫村家についた紗名が寝床につく場面では、穏やかなアコースティックギターとグロッケンがまどろみを誘う、M-23「All in the golden afternoon」を使用。

このように映像から感じ取ったものがどのような音楽になったのか、あらためて照らし合わせて聴いてみるのも面白い。

トイピアノをメインに据えたM-4「Watching the Watch」は、第2話「アリスの夢」で樫村早苗と紗名が初めて会うシーンにて使用。エレクトーンのようなキーボードを加え、肩の力を抜いたサウンドで樫村家の日常を描いている。

70年代のヨーロッパ映画音楽のような洒脱さが香る、ミトのM-9「How Funny!」は豚と戯れるシーンで使用。この「How Funny!」をレゲエのベースラインを取り入れてアレンジしたものがM-15「Quadrille」。このあとの紗名がホットケーキを食べるシーンでも使用され、紗名が樫村家になじんでいく様子を伝えている。今作でもミトはさまざまな楽曲を手がけており、童話的なポップ・エレクトロニカM-5「White Rabbit」や、アコギのセッションのようなM-12「Straight-laced Walrus」、後半じわじわと高まるM-38「“forget”」などとサウンドの幅が広い。

“ミニーC”・タチバナと一条 雫との戦闘が華麗に展開される第5話「帰るところ」では、M-45「Mad Tea-Party」M-46「Jabberwocky」を使用。ハリウッド映画のようなダイナミックなサウンドが繰り広げられている。

第7話「ともだち」。紗名と雛霧姉妹が中華街で追いかけっこをする場面では、M-44「Mad Hatter」の後半部を使用。テクノイズ風な電子音楽にメタル・パーカション加わり、テクノへと変貌する「Mad Hatter」なサウンドは、シルクハットを常に愛用している松井洋平ならでは!? クラリネットがシロフォンが踊るM-19「Pig and Pepper」や、M-6「Oh Dear! Oh Dear!」など、彼らしいファニーな感じもいい。

第8話「悪い魔女」では、「アリスの夢」の能力を持つ敷島羽鳥の家庭内の重苦しい雰囲気を映し出す、M-37「Which dreamed it?」が度々使用されている。彼方で鳴っているようなピアノの音色や冷たく寂しげな音響サウンドは、伊藤真澄が七瀬 光名義で担当したTVアニメ『シゴフミ』の音楽を思い出させる。

ミトによるM-41「Picture book」はオルゴールのようなメランコリックなサウンドで、ラストの「悪い魔女」になってしまった敷島羽鳥の苦悩と哀しみを描写している。

神秘的なコーラスが印象的なM-1「Alice’s Dream」は、第9話「チェシャ猫の笑う場所」で王冠とマントをまとった紗名の登場シーンでも使用された。劇伴のコーラスには、TVアニメ『フリップフラッパーズ』エンディングテーマを担当したChimaが参加。紗名が作り出した世界「ワンダーランド」に迷い込んだ第10話「小さな女王」では、イギリスのトラッドソングのような英詞曲、M-48「memories of wonderland」にて、透き通った美しいヴォーカルを聴かせてくれる。

ハイレゾではさらにスケールを広げたサウンドが感じられる。躍動するシンフォニック「Mad Tea-Party」、迫りくるストリングスに拮抗するように電子音が絡む「Jabberwocky」など、激化する戦闘を伝える楽曲の壮大さがますます伝わってくる。M-36「asleep again」「Which dreamed it?」のように閉鎖的な空間のイメージや、苦悩する内面を投影した楽曲はその陰影を濃くしている。渡辺 等のウクレレと良原リエのアコーディオンが朗らかなM-10「Eat Me Drink Me」や、オオニシユウスケのアコースティックギターがくつろいだひとときを演出するM-21「Gentle Hand」、M-22「The Garden of Live Flowers」など、日常の風景を描くサウンドはまろやかで温かい。物語世界の奥行きをいっそう増してくれるような感覚だ。今作でもさまざまな発想で楽曲を作りあげており、作品の世界観とリンクしながら、TO-MASがさらに独自の進化を続けているのが感じられる。

TO-MAS
TVアニメ『アリスと蔵六』オリジナルサウンドトラック Imagination Wondersound

Lantis
2017.06.28

FLAC・WAV 96kHz/24bit、WAV 96kHz/32bit

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e-onkyo music
groovers
mora

© 今井哲也/徳間書店・「アリスと蔵六」製作委員会

All Music Produced by TO-MAS SOUNDSIGHT FLUORESCENT FOREST

Guitar,Bass:mito
Piano,Toy Piano,Glocken:伊藤真澄
Strings:室屋光一郎ストリングス
Chorus:Chima
W.Bass,Ukulele:渡辺 等
Fagotto:笹崎雅道
Clarinet:十亀正司,中ヒデヒト
Pianica,Accordion:良原リエ
Vibraphone:高田みどり
Percussion:よしうらけんじ
A.Guitar,G.Guitar:オオニシユウスケ

収録曲

 1.Alice’s Dream
   作曲・編曲:伊藤真澄

 2.Under The Tree
   作曲・編曲:伊藤真澄

 3.ワンダードライブ (TV-SIZE)
   作詞:ぽん 作曲・編曲:小島英也 歌:ORESAMA

 4.Watching the Watch
   作曲・編曲:伊藤真澄

 5.White Rabbit
   作曲・編曲:mito

 6.Oh Dear! Oh Dear!
   作曲・編曲:mito・松井洋平

 7.Rabbit Hall
   作曲・編曲:mito

 8.Down, down, down
   作曲:mito・伊藤真澄 編曲:mito

 9.How Funny!
   作曲・編曲:mito

10.Eat Me Drink Me
   作曲・編曲:mito

11.Unbirthday
   作曲・編曲:伊藤真澄

12.Straight-laced Walrus
   作曲・編曲:mito

13.Pool of Tears
   作曲・編曲:伊藤真澄

14.Simple Sorrows, Simple Joys
   作曲・編曲:mito

15.Quadrille
   作曲・編曲:mito

16.Frog-Footman
   作曲・編曲:松井洋平

17.Oh, you foolish
   作曲・編曲:mito・松井洋平

18.Through the Looking Glass
   作曲・編曲:mito

19.Pig and Pepper
   作曲・編曲:松井洋平

20.Caucus-Race
   作曲・編曲:松井洋平

21.Gentle Hand
   作曲・編曲:mito

22.The Garden of Live Flowers
   作曲・編曲:mito

23.All in the golden afternoon
   作曲・編曲:伊藤真澄

24.A childish story
   作曲・編曲:mito

25.Chant (TV-SIZE)
   作詞・作曲・編曲:コトリンゴ 歌:toi toy toi(kotringo edtion)

26.Preface
   作曲・編曲:伊藤真澄・松井洋平

27.Painted Rose
   作曲・編曲:伊藤真澄

28.Croquet
   作曲・編曲:松井洋平

29.Tweedledum and Tweedledee
   作曲・編曲:mito

30.“TRUMP”
   作曲・編曲:川本 新

31.Guy Fawkes Day
   作曲・編曲:川本 新

32.Things before they happen
   作曲・編曲:mito

33.Meaning of name
   作曲・編曲:伊藤真澄

34.Dormouse
   作曲・編曲:松井洋平

35.Chess Game
   作曲:mito・伊藤真澄 編曲:mito

36.asleep again
   作曲:松井洋平・伊藤真澄 編曲:松井洋平

37.Which dreamed it?
   作曲・編曲:伊藤真澄

38.“forget”
   作曲・編曲:mito

39.The Red Queen
   作曲・編曲:川本 新

40.Grin like a Cheshire cat
   作曲・編曲:伊藤真澄

41.Picture book
   作曲・編曲:mito

42.Our Fairy-Tale
   作曲・編曲:川本 新

43.March Hare
   作曲・編曲:川本 新・松井洋平

44.Mad Hatter
   作曲・編曲:松井洋平

45.Mad Tea-Party
   作曲・編曲:川本 新・松井洋平

46.Jabberwocky
   作曲:伊藤真澄 編曲:TO-MAS

47.Silvery Mist
   作曲・編曲:mito

48.memories of wonderland
   作曲・編曲:伊藤真澄

49.Waking
   作曲・編曲:伊藤真澄

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