INTERVIEW
2017.06.12
『聖剣伝説 LEGEND OF MANA』『キングダム ハーツ』シリーズ、『ファイナルファンタジーXV』などゲームミュージック界では知らぬものはいない大家、下村陽子が『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズの神山健治手がける『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』で、長編アニメーション映画の劇伴に初挑戦する。下村イズムあふれるリリカルな曲、大作RPGを彷彿とさせる壮大な曲。起用の端緒から制作の苦労話まで、これら楽曲の秘密について語ってもらった。
特報用に作った楽曲が、「ココネのテーマ」として作品を支える柱に
――神山健治監督が下村さんの作品を聴いてのオファーだったとお聞きしました。監督からはどういったお誘いを受けたのでしょうか?
下村陽子 それは後で知ったというか、最初はプロデューサーの方がメールをくださったんです。実は昔から大物の名前を騙ったいたずらメールが来るので、「またいたずらかな?」と思ってたんですよ(笑)。打ち合わせで直接お会いするまでは信じられませんでした。
――打ち合わせで監督と初めてお会いして、作品の内容をお聞きになられたんですね。
下村 そうなんです。そのときに制作チームの方が『キングダム ハーツ』のサントラを監督に紹介してくださったご縁だと知って、これはやるしかないなと。作品を聴いて決めてくださったのは、とても光栄なことだと思います。
――監督からの正式なオファーを受けて、どのような楽曲から制作を始められたのでしょうか?
下村 最初は特報のための音楽を作ることになって、コンテやその時点で出来ていた映像をいただいてイメージしながらスケッチ曲を作って提出しました。それが監督に好印象を持っていただいたみたいで、そのまま「ココネのテーマ」として劇中で採用されています。自分のやりたいことを素直に出した曲だったので、今回は下手に考え過ぎたりしない方がいいのかなという印象を受けました。
――最初の特報のために作った曲が、作品を支える大きな柱にまでなったんですね。
下村 そうですね。ココネちゃんは女子高生なのに、お父さんを支える大黒柱ですからね(笑)。
――長編映画の音楽を担当されるのは今回が初とのことですが、
下村 やはり映画音楽を担当するということで、周りからも「映画やるんだって!?」と言われるようになりました(笑)。あと「どういう繋がりで!?」って聞かれるんですが、「……突然に」としか言いようがないですよね。
――まさにシンデレラストーリーですからね。
下村 まさしく、何のつながりもなかった王子様がお姫様を見初めるような(笑)。たまたま曲を耳にしていただいて、ほとんど機能していなかったホームページのメールフォームからご連絡していただいたんですよ。海外のファンの方からもメールをいただくんですが、最近忙しくてチェックが遅くなることが多いんです。でもたまたまその時はチェックしていて、2、3日のうちにお返事できたんですよ。
――それはドラマチックなタイミングでしたね。
下村 そうですね。私でいいのかな……とか思っていましたが(笑)。制作中はご心配もおかけして申し訳なかったですが、大詰めの頃にはアドレナリンが出っぱなしの、とても充実した曲作りの時間を体験できました。寝ても覚めてもとはまさにこのことだなと。
――「ベッドで寝ていても、何か思い付いたら飛び起きて作業をしていた」とサントラのブックレットにも書かれていましたね。
下村 そうなんですよ。自宅に仕事場があることの強みといいますか、ハッと思い付いたらすぐに作業してという感じでした。気がついたら「朝か……」みたいな(笑)。忙しい時期にはそうなりがちなんですが、今回は濃縮した時間という印象です。ゲームの制作期間は基本的に長いものなので、何度かピークが来て解けてを繰り返す感覚なんですよ。今回は元々1年ぐらいの制作期間で、前半はゆるゆるとスケッチを書き貯めておいて、最後にピークが一気に来たという感じです。期間的にはたぶん1ヶ月かかってないんじゃないかな?場面ごとに当てはめたい曲のイメージは出来ていたんですが、尺が決まっていなくて、そこを最後に合わせて一気に完成させました。
――下村さんは作曲される際に、物語や世界観などの作品イメージを大切にされると伺いました。今回『ひるね姫』の音楽を作るにあたり、どんな部分を大切にしましたか?
下村 先程も言いましたが、今回は特報のために作った音楽がいちばん番最初のとっかかりでした。実はお話をいただいてから特報を出すまでにあまり期間がなくて、当初は新曲ではなく既存の曲をつける予定だったそうなんです。でも1曲ならば書けるかもしれないし、せっかくなのでゴーサインをいただけるのであれば作らせてくださいとお願いして、後に「ココネのテーマ」になる曲を提出したんです。そのときに監督から言われたのは「あまり大仰ではなく、学校の音楽室にあるような、身近な楽器で音楽を作ってもらいたい」ということでした。部分的に弦楽器などを使ってはいますが、主体になるのはピアノとかマリンバが多いんです。ベワンなんて悪い奴なのに、マリンバの音でコミカルな雰囲気になっていますよね。ハートランドは夢の中の大国なので、ちょっとだけゴージャスにしたりしました。結局そこから広がってバイオリン・ソロやピアノ、そこにちょっとだけ管楽器が入ったりする曲が増えていきました。ですから今回は、「身近な音楽」と「特報の映像」というのが大きなとっかかりでしたね。
――普段携わられることの多いゲーム音楽と、映画音楽との違いはありましたか?
下村 私は視覚から受ける影響がとても強いので、コンテだったり、ゲームならフィールドのイメージボードだったり、バトルで主人公や敵がどんな動きをするのかがわかるように、まずは動画をくださいとお願いします。作品のスピード感が曲に与える影響って、とても強いですからね。今回は映画なのでVTRコンテのような映像を見せていただいて、それがとても参考になりました。
――映像と音楽のタイミングがかなりマッチングしている印象は、そういったプロセスですり合わせていたんですね。
下村 いただいていた映像を作曲ソフトに貼り付けて、作曲中はずっとそれを見ながらタイミングを合わせていました。ともすれば、セリフも聴こえてる状態で作っていましたね。高松空港のシーンも渡辺のコミカルなテーマが流れるんですが、私は最初の逃げるところの音がスーッと終わって切り替わるように作っていたんですよ。でも監督から「ギリギリ逃げ切った感覚が欲しい」と希望が出て、逃げる状態を引っ張ってストンと切り替わるように作り変えました。
――そこまで合わせられるということは、映像がある程度形になった状態で作曲をしていらしたんですか?
下村 そうですね。かなり初期の段階から、絵は粗いけど尺やタイミングの指定は完成版とほとんど同じ映像をいただいていたんです。でも完全に全体の尺が定まってから曲の終わり方などの細部を詰めていきたかったので、昨年末ぐらいから一気に取りかかって作業していました。
――冒頭のココネの登校風景など、キャラクターの動きと曲がリンクしてる印象にはそういった理由があったんですね。
下村 あと私、妄想癖みたいなものがあるみたいで、ほとんど無意識に想像しちゃうんですよ(笑)。映像や資料からでは推し計れない部分をあれこれ勝手に想像して、そこから曲のイメージを膨らませたりしてます。
――そうして作ったイメージを神山監督とすり合わせる作業はいかがでしたか?
下村 私の勝手なイメージなんですが、神山監督って『攻殻機動隊』や『サイボーグ009』で使われているような、ハードなイメージの曲がお好きなのかなと思っていたんです。でも今回のコンセプトは、「ピアノなどでキラキラした、ベタな曲にしたい」ということだったんですよ。私もベタな曲は得意ですし、何曲かスケッチを聴いていただいたら監督も気に入ってくださって、全体的な音楽の方向性が定まった感じですね。その後も監督のイメージと違う場合は指摘していただいて、私が代案を出してまた聴いてもらうというすり合わせを行っていきました。
――本作は現実のシーン、夢のシーンという2つの場面を行き来しながら展開します。これらのシーンに曲をつけるにあたり、何かしらの差別化を行ったのでしょうか?
下村 夢と現実で分けるというよりは、「ここはこのテーマ」という感じでいくつかテーマを設けて作っていきました。ハートランド、ココネ、エンシェン、お父さん、ベワン、最後にハーツで6つの骨子となるメロディーを作りましたね。中でもエンシェンのテーマが橋渡し的な存在になっているんです。ハートランドの曲は重い演奏の上にエンシェンのメロディーが乗っていて……まだ映画観ていない方がいらっしゃったらごめんなさい(笑)。物語的にも音楽的にも、エンシェンが夢と現実を繋いでいるところにいるという構成になっています。
――ココネが夢から覚める瞬間に音も同時に切り替わる印象を受けました。
下村 曲として「ここでカッチリ切り替えよう」とはあまり意識していなかったですね。どちらかというと、どこで誰が出てきて、どういう出来事が起こるのか、ということを意識しながらテーマを決めていきました。監督の意向だった「目が覚めるときはスパッと音楽が切れるけど、夢に入っていくときはスーッと入っていく」ということは達成できたかなと思います。
――サントラを聴いていても、ストーリーが追えるようになっていますよね。
下村 最後は緊張の連続みたいな。ラスボスまだ変身するのかよみたいな感じになっています(笑)。
――夢と現実が混ざって混沌としていくというか(笑)。
下村 私も作りながら「もうダメかもしれない……」と思ってました(笑)。もう5拍子はいいかな……って思いながら。
――制作はスケジュール的にも大変でしたか?
下村 本当にごめんなさいとしか言えないですね(笑)。ゲームのサントラなどで私のライナーノーツをお読みの方はご存じかもしれませんが、必ず間に合わせてはいるものの毎回謝ってるんです。今回は完全に尺を合わせたくて、これまでもゲームのムービーなどで尺合わせの経験はあったんですが、2時間分というのはさすがにこたえましたね。先に「こうしよう」というビジョンはあったものの、終わり方を決めていない曲が多くて、レコーティングの直前に一気に尺を合わせて書いたりしてました。
――ゲーム音楽だとループの曲が多かったりしますし、尺合わせは映画音楽ならではの苦労ですね。
下村 ゲームはいつまで流れるかがプレーヤー次第なので、ループさせてフェードアウトっていうのがセオリーになってるんですよ。対して映画は、シーンに合わせて終わらせなければいけないんですよね。しかもラストシーンまでが大きなひとつの流れになっているので、幸せな雰囲気で始まった曲も場合によっては不穏に終わらせなければいけなかったりするんです。今回も一曲、監督から「最後は気持ち悪く終わらせて欲しい」という希望があって、レコーディングの直前に直したりしていました。
(次ページに続く)
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