INTERVIEW
2017.06.12
主題歌の「デイ・ドリーム・ビリーバー」もココネを意識したアレンジで
――下村さんの制作方法は、一般的な映画音楽の手法とは異なっているのでしょうか?
下村 そもそも私は映画の音楽の作り方というものを特に教わったわけではないので、本職の方からしたら非常識な手法で作っていると思うんです。とにかく尺を合わせるために、映画の時間分だけ1ファイルで曲を作ったんですよ。
――えっ、2時間弱で1曲分ということですか?
下村 そうです。たぶん3000小節分ぐらいだと思うんですが(笑)。小節数とカット番号を紐付けておいて、シーンごとの曲を切り出したりしているんです。1ファイルだとただ横長に曲が存在してるだけなので、音楽が乗ってないシーンでも尺が変わると全体の尺がズレるてしまうんですよ。本当はそんな作り方はしないと思います。作曲ソフトにはシーンごとに曲を作る機能もついていたんですが、慣れていなかったので、とりあえず時間だけ揃えて曲のイメージの大枠を作っておいて、ひとつずつ切り分けてレコーディング用に作り込んでいました。フレーム単位で尺を合わせていたので、1小節縮めるだけでもゴソッと変わってしまうんですよ。そういうときは、無音の部分のテンポを変更して帳尻を合わせていました(笑)。自分でも非常識な作り方だなと思ったんですが、全体をシームレスに見渡すことができるので、大枠を作るという点ではとても役に立ったと感じています。
――それは間違いなく、下村さん特有の制作方法ですね。
下村 その時点でスケッチは書いていたけど、監督に聴いてもらっていない曲もあるんですよ。劇中でココネが大阪に移動する間の、空を飛ぶ夢のシーンがあるんですが、そこは最初のシーンリストの段階で「音楽で魅せるシーン」と書いてあって、プレッシャーで最後まで書けなかったんです。こういう曲をつけようと思いますっていう30秒くらいのスケッチは提出していたんですが、どれだけ作っても楽しいシーンの曲にならなくて、最後のレコーディングの日の朝に急遽書き直しました。
――英断というか、想像を絶しますね……。
下村 後半の元データを掘り起こせないようにデータと履歴を全部消去して、「やるしかない!」って状態にして作ったら驚くほどすんなり作れたんですよ。
――背水の陣ですね。
下村 もうダメかもしれないって状況で、なんて楽しい曲が出来るんだって他人事みたいに感心しましたね(笑)。
――誰もが知る名曲「デイ・ドリーム・ビリーバー」が主題歌になるということは、神山監督からお話があったのですか?
下村 そうですね。わりと早い段階から決まっていました。監督が日本語の歌詞にとても感銘を受けていらして、忌野清志郎さんによく似たZERRYさんが訳詞したタイマーズ版ですね(笑)。そのイメージでやりたいと仰っていて、打ち合わせでも熱く語られるんですよ。でもそういう主題歌って歌モノのアレンジを専門にしている方がアレンジをされることが多ので、今回もそうなんだろうと他人事みたいな感じでいたんですが……。
――ご自身がやることになると(笑)。
下村 しかも歌をココネちゃん本人が歌うと。これはえらいことになったぞと思いました(笑)。でも曲を作るのもレコーディングも楽しんでやりたいと常々思っているので、こんな機会もう一生ないかもしれない、これはやりたいことをやって楽しまなきゃ損だなと。だからイントロからピアノ全開なアレンジになっています(笑)。
――下村さんのアレンジは、モンキーズ版やタイマーズ版の「デイ・ドリーム・ビリーバー」からリズムの解釈が変わっていますが、ここから変えていこうと考えていたのですか?
下村 そうですね。原曲はシャッフルという三連符が基本の弾むリズムなんですが、このリズムってやんちゃな男の子の歌っている印象が私にはあったんです。今回はココネちゃんが歌う、女の子の歌にしてほしいと言われたので、どうしたら女性の雰囲気ができるかなと考えました。やんちゃな感じを除きつつ、若々しさを残すにはどうしたらいいかと試行錯誤した結果、リズムをイーブンという形に変えて、同時に「レドレ」というフレーズが浮かんできてしまったので、そこからはほとんど自動的にあのアレンジの基本が組み上がっていった感じです。この「レドレ」っていうフレーズは「ココネのテーマ」にも共通するところがあって、自分の無意識の中で「合うんじゃない?」と繋がってたのかなと思いますね。
――ポップミュージックの金字塔にココネの気持ちが音として組み込まれて、『ひるね姫』のための主題歌に昇華されているんですね。
下村 そうですね、そうなっていればいいなと思います。
――ちなみに、ココネとして歌った高畑充希さんのボーカルはいかがでしたか?
下村 あの……天才ですよね(笑)。神様ズルいなって思いました。一声目を発した瞬間に空気が変わったというか、良い意味で「この人は普通じゃない」というか、何かが違うと感じたというか。本当にびっくりしました。ミュージカル出身でお上手だとは聞いていたんですが、ひと声聴いて「お上手って次元じゃないでしょ」って(笑)。歌にちゃんと表情がついていて、「本当に今初めて歌ったの?」という感じでしたよ。歌の収録っていくつもテイクを録って、ベストなものを選ぶのに迷うことが多いんですが、今回あまり迷わなくて、「サビは絶対このテイク!」という感じでスパッと決まっていきました。
――歌に迷いがないということでしょうか。
下村 そうですね。たぶん本人がまったく迷いなく歌っていたんだと思います。ボーカルレコーディングって、歌い方について意見を求められることも多いんですが、高畑さんはそういうことも無く、ほぼ一発であの歌を表現されていたので、やっぱり普通じゃないなと思います(笑)。
――この曲がサントラで1曲目に流れるという構成も素晴らしいと思います。
下村 迷ったんですが、やはり映画を象徴する主題歌なので1曲目だろうと。予告編などでも流れていたので、違和感はないだろうなとも思っていました。
――映画を観てサントラを買って聴いて、1曲目があの主題歌から始まると、一周戻っていちばん最初から聴く感覚が味わえます。
下村 そうですね。最後は主題歌で終わりたいなと思ったら、いちばん最初に戻ってまた通して聴くという無限ループに落ちてもらえれば大変うれしく思います(笑)。
――サウンドトラックでは曲名がかなり具体的なシーン名になっていますが、これは制作中に定まっていたのでしょうか?
下村 曲名をつけるのは映画が完成してから、サントラを作る段階になってからですね。普段は曲のタイトルは、作品に合ったものを付けたいと思っているんです。でも今回は映画なので、ちょっと気取った感じがいいのかなとか、逆にすごくシンプルにした方がいいのかなとか迷ってしまったんですよ。でも監督自身も「音楽はベタな曲、伝えたいこともストレート」という印象を持っていらしたので、変にひねったタイトルじゃない方が作品には合うなと思い至りました。でもあまりにもシンプルだと寂しいなとも感じたので、ちょうどいいところを狙って考えたつもりです。曲が流れるシーンが思い出されるように命名しました。
――個人的に「これって魔法?」と「これってやっぱり魔法?♥」の連続した感じがとても好きで、この質問をしてみようと思ったんです。
下村 実はリストにあった言葉を拝借していることもあって、その2曲はリストにあったような気もします。ただのパクリですね(笑)。
――最後にリスアニ!WEB読者の方々へメッセージをお願いいたします。
下村 普段はゲームの音楽を作っているので、今回のオリジナル長編アニメーション映画で初めましての方もいらっしゃると思います。元々アニメやゲームにこだわらず、目に、視覚にうったえる表現に合わせて音楽をつけることが好きでこの仕事を選んだので、今回このような作品に思う存分曲を書けたことがすごく光栄に思っていて、私自身も心に残る大切な作品になりました。ぜひ、ひとりでも多くの方に観て聴いて楽しんでいただければうれしく思います。
Interview&Text By 田中尚道(クリエンタ)
【スタッフ】
原作・脚本・監督:神山健治
音楽:下村陽子
キャラクター原案:森川聡子
作画監督:佐々木敦子/黄瀬和哉
制作:シグナル・エムディ
配給:ワーナー・ブラザース映画
【キャスト】
高畑充希/満島真之介/古田新太/釘宮理恵/前野朋哉/高橋英樹/江口洋介 ほか
●リリース情報
「『ひるね姫~知らないワタシの物語~』 オリジナル・サウンドトラック」
発売中

品番:WPCL-12531
価格:¥2,500+税
<収録曲>
01. デイ・ドリーム・ビリーバー
02. ひるね姫
03. 夢のはじまり
04. ココネのテーマ
05. ん?
06. モモタローのテーマ
07. ハートランドの物語
08. 知っているのは君だけ
09. ん!?
10. お父さんはどこへ
11. 教えて、お母さん
12. ベワンと渡辺
13. バイクに乗って
14. ジョイ奪還!
15. 取調室
16. 解けていく謎
17. タキージとウッキー
18. エンシェンと魔法のタブレット
19. もしかして…
20. お母さんの秘密
21. モリオの企て
22. これって魔法?
23. これってやっぱり魔法?♥
24. お父さんの想い~夢の世界へ
25. 行け!エンジンヘッド!
26. 優しい時間
27. ベワンのテーマ
28. ふたりの距離
29. ハートランド王
30. 新型エンジンヘッド
31. ハートランドを救え!
32. ココネとハーツ
33. みんなの想いをのせて
34. ココネのテーマ(reprise)
35. ココネの夏休み
<下村陽子 プロフィール>
作曲・編曲家。株式会社カプコン、株式会社スクウェア(現・株式会社スクウェア・エニックス)を経て、現在フリーで活動中。代表作に「聖剣伝説 LEGEND OF MANA」「キングダム ハーツ」シリーズ、「ファイナルファンタジーXV」など。
(C)2017 ひるね姫製作委員会
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