全4クール、1年間にわたる壮大な物語を駆け抜けたオリジナルTVアニメ『プリンセッション・オーケストラ』(以下、『プリオケ』)。全50曲を超える膨大な楽曲群と、劇中の芝居に歌をシンクロさせる「歌アフレコ」という至難の業は、いかにして成し遂げられたのか。放送を終えた今だからこそ明かせるプロジェクトの裏側と、劇中のキャラクターと共に歩み、劇的な成長を遂げたキャストたちへの熱き思い。プロデューサー・諏訪 豊と音楽プロデューサー・菊田大介(Elements Garden)が、その濃密すぎる制作を振り返る。
INTERVIEW & TXET BY はるのおと
──長く関わった作品の放送が終わっての、率直な気持ちを教えてください。
諏訪 凄まじい達成感というか、途方もない道のりを歩んできたなと感じています。当初思っていたより『プリオケ』が大きなプロジェクトになり、かなりの密度と時間をかけて関わってきたので……もう、『プリオケ』の制作がない状態を思い出すことができないくらいになっています。
菊田 僕も一緒で、この3年ほどは仕事のプライオリティの高いところに必ず『プリオケ』があり続けたので、それがなくなる実感がないですね。ただ「あっという間に終わった」という感じではないかな。とにかくこの3年間が濃かったので、「まだ3年しか経ってないの?もっと経っているような」という感覚です。
──企画段階では、音楽の方向性についてはどんなふうに決めていったのでしょうか。
諏訪 方向性については菊田さんをはじめとしたElements Gardenの皆さんや大沼(心)監督とは何度かお話をして、最終的には「僕たちくらいの世代が胸を熱くした、かっこいいアニソンを次世代に届ける」というのを大きなテーマにしました。他にも、ベンチマークとなるような最近の子供向けアニメの楽曲の方向も選択肢としてもありました。ただ、今回はせっかくElements Gardenさんにすべての曲を手がけていただくことが決まっており、弊社キングレコードもアニソンを手掛けてきた歴史のあるレーベルでもありますので、お互いの得意分野を掛け合わせられる形としても自分たちがアニソンを聴いて胸を熱くしていた音楽体験を次世代の方々に届けていく。その考えは初期段階から制作陣の目線として考えていたことでもありました。
──『プリオケ』は50曲以上の膨大な歌唱曲がありましたが、そのボリュームも当初から想定していたのでしょうか?
諏訪 それが、まったく想定していなくて(笑)。原作を手がけた金子(彰史)さん、シリーズ構成・脚本を手がけた逢空万太さんがシナリオベースで想定していた曲数も通常のアニメ作品と比較すると多いほうではあったのですが、気付けばこれだけの楽曲数になっていました。
菊田 当初の予定では半分くらいだったような?確か20曲なかったくらいでしたよね。
諏訪 そこから曲を作るために打ち合わせするうちに、「ここで新曲が披露されたら熱いですよね」みたいな話がどんどん出てきて、菊田さんも快くそれを受け入れてくださって自分たちの首を絞めてしまうような形にはなりました(笑)。その結果、これだけの曲数になり、どれも素晴らしいものにしてくださったと感じております。
菊田 自分が昔好きだったアニソンを思い出してみると、音楽単体ではなく、映像やシーンと密接に結びついているんですよね。『プリオケ』の音楽面でのテーマを考えると、その体験を大事にしたかったので、「今こういう曲が流行っているから、こういうのを入れましょう」みたいな音楽性やジャンルというよりは、いかにアニメの内容に合った曲にするか。それを諏訪さんと2人でずっと話を重ねていました。
諏訪 そういったやりとりを重ねたおかげで「このキャラで、このタイミングだからこういう楽曲の方向性にしましょう」という必然性を持って楽曲制作に着手していただけました。企画当初からキャラクターごとに劇中歌の音楽性の根幹は意識していこうという考えではありましたが、キャラクターも成長していくので、それに合わせて音楽的なバリエーションが増えていきました。そのため、『プリオケ』全体としてもジャンルレスの音楽展開になったという印象があります。
──最初のプリンセス3人の劇中歌は1クール目、2クール目、3クール目と増えていきました。そのなかで以前の曲と差別化し続けていくのは大変だったのでは。
菊田 大変でした。単純に曲の速度を上げるとか、音の数を増やすとかするのが正解というわけでもないですから。歌詞やサウンドで、キャラクターごとにどう変化を付けていくかは本当に難しかったです。
諏訪 Elements Gardenさんは最初からフルスロットルでやっていただいていますし、そこからどう広げていくかの話はたくさんしましたよね。「この子の到達点ってどこなのか?」みたいな話から、最終的には「この子たちにどんな成長をしてほしいか」みたいな話も何度も重ねた思い出があります。
──Elements Gardenは劇伴も手がけられています。こちらはどんなふうに作られていきましたか?
菊田 音響監督の本山 哲さんとすり合わせながら作りました。絵や背景、あと色々なシーンがわりとポップな感じだったので、通常流れている音楽は合わせてポップな作り方をしているものが多いです。ただ敵側はキャラクターごとにわかりやすく、「敵側ですよ」という音の作り方をしました。例えばバンド・スナッチが出てくる場面ではギター、ベース、ドラムが鳴っているとか、赤の女王と白の女王の曲は共通のメロディが鳴っているとか。そうした工夫はしています。
──これだけのボリュームの曲数を乗り切るために、Elements Garden内で工夫したことはありますか?
菊田 工夫というか、世界観をより共有しやすいように、担当作家は人数を絞りました。僕と笠井(雄太)さんと竹田(祐介)さんの3人がメインになって歌ものを50曲以上、劇伴も80曲以上作りましたが、お互いにより理解度を高めながら作曲を進められたと思います。
諏訪 これも触れておきたいのですが、今回は上松(範康)さんが書かれた「ゼッタイ歌姫宣言ッ!」以外は、Spirit Gardenさんに作詞いただけました。クリエイターさんの苦労は僕では計り知れないという前提ではありますが、これだけの数の歌詞を書かれたのは大変だったろうなと思ってはいます。
──音楽面で、特別に達成感があったシーンは?
諏訪 僕は各所で何度も言っているのですが、第24話における赤の女王との戦闘シーンで「Super Higher Dreamer!!!」から「ゼッタイ歌姫宣言ッ!」に繋がるメドレー演出が最高でした。元々大沼さんから「このシーンでこの2つの楽曲をメドレー的に使用してみたい」という映像演出的な観点からご相談をいただき、僕からは菊田さんにほぼそのまま伝えるような形で「良い感じにできますか?」と非常に抽象的なご相談をしてしまっていたのですが、菊田さんの方で、両楽曲を繋ぐ第24話だけのブリッジのフレーズを新しく作っていただきました。そのおかげで2クール目のクライマックスは本当に格好良いシーンになり、感動したことをよく覚えています。
菊田 大変でしたけど、結果的に上手くいったし、自分もすごく好きなシーンです。
諏訪 同じように最終話となる第48話の歌唱シーンでも、大沼さんから映像演出のイメージをいただきまして、音楽演出を本山さん、菊田さんと一緒に決めていきました。
菊田 「ゼンセカイ歌姫宣言ッ!」が入るところですよね。
諏訪 色々な可能性を検討したのですが、最終的には菊田さんに「これってイントロなの?」というくらいの新しいフレーズを作っていただきました。そもそもプリンセス5人で歌う「ゼンセカイ歌姫宣言ッ!」自体、流れるのが初めてなのにいきなり特別バージョンというところも非常に豪華というか、面白いのですが、本当に格好良いシーンになったと思います。
──『プリオケ』の精神的な前作にあたるような『戦姫絶唱シンフォギア』シリーズでも同様の演出はありましたが、あちらの経験があったからこそできたという部分はありますか?
菊田 それが少し違うんですよ。曲の尺調整をしたりして仕組み自体はわかっていましたが、そもそも『シンフォギア』では実際に自分が現場に行って「こうですかね?」とやり取りしたことはなかったので、今回それができたのは自分としては新鮮だったし、新しい挑戦ができました。
──ちなみに、「ボツになったけれどやりたかった」という曲のアイデアなどはありますか?
諏訪 率直にはこれだけの楽曲数になっているということからもわかるように、基本的には全て叶えていただいたと思っています。強いていうなら、(空野)みなものお父さんとお母さんの出会いの馴れ初めを歌うようなデュエットソングではありましたが、流石に使用するシーンがなさそうで、泣く泣く断念しました(笑)。
菊田 懐かしい。あったあった。
諏訪 そもそも初期段階では登場キャラクターの誰まで歌わせるかというところを決め切っていなかったので、歌唱キャラ自体も広げていくなら、みなものお父さんとお母さんの歌も聴きたいですね、という経緯でした。その前提があった上で、空野誠志郎を日野 聡さん、空野ようこを南條愛乃さんという素敵なキャストが演じることが決まりましたので、「この2人が愛を歌う壮大なバラードが聴きたい」とは真剣に思っていました。
菊田 弟の(空野)りくも含めて、「歌う家族」というアイデアはありましたね。
諏訪 あとは3クール目の重要キャラトーマも歌うという話もありました。トーマに限った話ではないのですが、非常に多くのキャラクターが登場するプリオケだからこそ、「このキャラクターに歌が必要か」という議論を何度もした記憶があります。トーマについては既にかなりのドラマが詰まっているキャラクターでもありましたので、“歌”という要素が必ずしも必要という結論には至りませんでした。先ほどの話にも近しいですが、トーマは花守ゆみりさんに演じていただいておりましたので、歌っていただけていたら、これも素敵なものができていたとは思いますので、やりたかったものとしては印象に残っています。
菊田 そもそも赤の女王や白の女王、バンド・スナッチも当初より曲数が膨らみましたしね。
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