幹葉 ちょっと前の話に戻るんですけど、そもそもSMAに入るきっかけは?
田淵 これはぜひ、皆さんに名前を検索してもらいたいくらいなんだけど。冨永周平がいたから。
幹葉 あ!存じ上げています。時々事務所でお見かけすることも。
田淵 そもそもプロになるつもりなかったの。大学生のときは自分の書いてる曲が他人に評価されると思ってなかったし。普通にいい大学行ってたし、そのまま就職するんじゃないかなと。でも幸いなことにバンドメンバーに恵まれて、シーンも良かったし、色々な運が重なって、大人から声を掛けられることも増えてきて。で、そのなかで冨永周平は絶対にチケットを買って来る。話してても、俺のことを否定しないし、「でもこういう考えもあるよ」って新しい視点をくれる対話ができる。当時、就活をどうするか考える時期で。バンドが売れる確率なんて1万人に1人とかだろうし、そんな可能性の低い道に賭けるつもりはないなとか思ってたんだけど、冨永周平にそそのかされているうちに「俺、才能あるのかも」と思い出して(笑)。で、「この人になら騙されてもいいや」と思えたことが最後の決定打になった。
幹葉 じゃあ最初は、レーベルより事務所が先に決まったんですね。
田淵 そうそう。事務所に先に所属した。それで「ユニゾン、田淵に合ってるレーベルは俺が探してくるから」って色々と動いてくれて、TOY’S FACTORYの今のディレクターと関係ができた。本当にたまたまの積み重ね。
幹葉 事務所もレーベルも、20年以上変わらず同じところに所属しているってすごいですよね。
田淵 確かに。でもまぐれの要素もデカい。根本としては、音楽の才能はあったと思う。そこは大事だったと思う。俺たちはビジュアルで勝負してるわけでも、テレビ向きなキャラで売ってるわけでもない。音楽が“悪くない”っていう一定のクオリティがある、っていうのが何より大事だったと思う。でも当時は、ロックバンドがアニメに関わること自体が、まだどこか“禁忌”みたいな空気があったと思っていて。今とは全然温度が違ったんだよね。
だからそこは慎重であったけど、ラッキーパンチが重なって、色々なタイミングに恵まれて。それに、なにより自分がアニメ好きだったしね。アニメのタイアップが決まったときには、その都度、理由も含めて必ずファンに説明してた。「お前たちを裏切るためにやってるわけじゃない」っていうことだけは、文字で書き続けてきてて。だから「なんで続けられてきたのか」と言えば、ファンが減ってないからってことは大きいのかなと。増やす努力は正直そんなにしてないけど、減らさない努力はずっとしてた。「こいつらを裏切ったら終わりだ」って思ってたからね。それが大きいのかな。そのうえで、真心を込めて一生懸命やる。
幹葉 その考え方は年齢やキャリアを重ねるなかで、より強くなっていったものなんですか?
田淵 そうだね。当時から思っていたつもりだったけど、年齢を重ねるたびに「誰を裏切っちゃいけないか」がわかってきた。それは事務所、レーベル、ファン。俺は大多数に支持されたいわけじゃなくて、この人たちといっしょにやっていきたいし、この人たちを裏切りたくない。その人たちが「やろう」と言ったらやるし、「やるな」と言ったことはやらない。
幹葉 あったかい……あったけえ人だあ……。
田淵 いや、あったかいのは周りの人たち。
幹葉 そうキッパリと言えるのがかっこいいです!あっ、涙が・・・泣けてしまう (泣) 。
田淵 めっちゃ聞き上手だから、マネージャーがビックリした顔を浮かべるくらいしゃべりすぎちゃった(笑)。でもね、圧倒的な才能があれば、こんなこと考えなくていいんですよ。俺の曲は褒めてもらえるけど、音楽史に残るレジェンドみたいなタイプではない。大衆から見たら「速くて何言ってるかわかんない」ってバンドだと思うし(笑)。だから全部の要素を掛け合わせてやってきただけなんだよね。
幹葉 お話を伺っていて田淵さんの考え方の根本には、“誰かのために”というか、“誰かを幸せにしたい”という気持ちがあるように感じました。
田淵 うーん、どうなんだろう(笑)。バンドやるのは好きだけど、別にベースが好きなわけじゃない。でも自分の曲は超好きで、それも大きいんだとは思う。
もし「最近の俺の曲、良くねえな」とか、「1曲作るのに1年かかるな」とかになったら、ストレスのほうが大きくなって、多分辞めてるような気がする。俺、幹葉ちゃんと違って「なにがなんでも(続けたい)」って気持ちはあんまりなくて。それは多分、自分の才能がまだ残ってて、自分が自分の仕事を好きだから。嫌いになったら、多分辞めちゃうかも。
幹葉 音楽以外で、やってみたいことってありますか?
田淵 音楽以外かあ……。なんだろうな。ちゃんと別の仕事をしたことがないから、いい例えが浮かばないんだけど……別に、なんでもいいと思ってるんだよね。多分俺は、音楽そのものというより、「誰かと何かをつくる」とか「誰かと一緒に試す」ことが好きなんだと思う。例えばパン屋で働いたとしたら「ポップを工夫したら売れ方変わるかも?」「ここに置いたら美味しく見えるかも」とか、そういうのを考えるの、絶対楽しい。でも今のところ、音楽の才能がなくなっていない感覚はあるから、自分の音楽を求めてくれる人がいるなら、全力でやります、という感じ。恩を返したい気持ちもあるし。
──「誰かと一緒に」、というのが根っこにあるんですね。
田淵 きっとこれからAIがどんどん入ってきて、クオリティの高いものは人間じゃなくても作れる時代になると思うんだよね。でも俺は「誰かと何かをする」ことが好きだから。どんなに仕事の幅が減っても「今日も一緒に仕事して楽しかったね」と思えるものがあれば、多分続けられる。だからおそらく、こういうことを言うのはおこがましいんですけども、そういうことを思うクライアントきっと残るんじゃないかなと。だから「機械に仕事は取られる」みたいな話は合ってるけど違うみたいな気持ち。
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