声優・役者・アーティストとして幅広く活躍する大渕野々花が、またも快作を届けてくれた。通算3作目となる今回のニューシングル「Make it」の表題曲は、自身も声優として出演するTVアニメ『お気楽領主の楽しい領地防衛』のEDテーマ。作品の世界観に寄り添いつつ、大渕自身の焦りがちな性格をも優しく包み込む温かさに満ちた、ポップで心地良い“お気楽”ソングだ。さらにカップリングには、自身が主演を務めるTVドラマ『副会長の主なお仕事』主題歌「SweetRoom823」をはじめ、かわいいに振り切った曲からオカルト好きの彼女らしいエッジーなUFOソングまで、多彩な楽曲が揃っている。ポップでキュート、そして少しマニアックな大渕ワールド全開の本作について話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――ニューシングル、すごく良かったです。5曲それぞれのカラーがあって、色んな表情やタイプの大渕さんが楽しめる作品だなと。
大渕野々花 えー!嬉しい!!ありがとうございます。
――なので今回は全曲についてお話をお伺いできればと思います。まずは表題曲「Make it」。TVアニメ『お気楽領主の楽しい領地防衛』のEDテーマですが、作品のどんな部分に寄り添った曲になりましたか?
大渕 まずは作品タイトルにもある“お気楽”の要素がこの曲にも含まれている印象があります。でも、単なる明るく爽やかでポップなお気楽さではなく、アニメに登場するキャラクターたちが背負っている背景やこれまでの歩み、複雑な過去を、ちゃんと地に足を付けて受け止めている感じもあって。どことなく落ち着いている印象も携えた楽曲なので、色んな角度からアニメに寄り添ったEDテーマになったと思います。
――アニメ自体もコミカルさとシリアスさのバランスが絶妙でした。
大渕 30分という尺の中で作品の“お気楽”な印象を保つために、本来はとてもシリアスな描写を原作コミックよりもライトにしている印象があって。コミックスの場合は1巻の中で描けるので、シリアスなところが多めにあっても他の部分でちゃんとお気楽な印象になると思うんです。でも、そのヘビーさをアニメでそのままやってしまうと、1話を観ただけではお気楽感が伝わらない可能性があるので、その塩梅が絶妙だと思います。それこそ主人公のヴァンくんは貴族の家系だけどハズレ適正と言われている生産系魔術の才能だったということで、家族から疎まれてしまうわけで。
――第1話でお兄さんにかばってもらうまでは、父親に処刑されそうな雰囲気でしたものね。結果、辺境に左遷されてしまうわけですが。
大渕 家の伝統やしきたりでお父様に反抗できない部分もあって。誰が悪いわけではない複雑な話が、ヴァンくんの背景だけでも描かれていますし、その他にもヒロインのアルテちゃんや、奴隷として売られそうなところをヴァンくんに救われたカムシンも、それぞれの生い立ちやヴァンくんと出会うまでの物語がしっかりとあるので、そういう部分を踏まえた時に、この曲はぴったりだと思いました。誰も置いていかないような優しさがあるので。
――それは例えばどんなところに感じますか?
大渕 サビの頭に“ゆりかごからお墓まで 君と隣り合わせ”というフレーズがあるのですが、その“君”って誰のことなんだろう?と考えた時に、仲間たちやそばにいてくれる人のことを歌った曲にもなっているけど、「ゆりかごから墓場まで一緒にいるのは、まぎれもなく自分自身だよな」と思ったんです。いいところも前向きに思えないところもある“自分”、そんな自分自身をまず受け止めて、それでもお気楽に思い悩むことなく進んで行きましょう、という歌なのかなと。
――ただ明るいだけではないと。
大渕 きっと大人であればあるほど、その落ち着いた部分に気付くことのできる、いい意味で誰でも楽しめる曲になっていると思います。『お気楽領主』のアニメ自体もそういう作品で、もし気持ちが沈んでいる人が観たとしても「なんだよ、能天気でお気楽だな」と思うことなく、「前を向いてみようかな」と思える作品ですし、本当にお気楽な人が観ても純粋に楽しめると思うんですよね。誰のことも置いていかない素敵な作品なので、このEDテーマも誰がどんな状況で聴いても心地良く聴いてもらえる曲になっているんじゃないかなと思います。
――誰も置いていかない楽曲になっているとしたら、大渕さんご自身の気持ちにリンクする部分もあるのですか?
大渕 先ほどもお話した通り、良いところも良いと思えないところも含めた“自分”を受け入れて、それをより良い形に作っていく、というところです。材料は自分しかない。じゃあそんな自分を活かして、どのように良い人生、良い日々を作っていくのか。そう捉えた時に、そもそも材料を変えたいと思ったり、「こんな手持ちの材料だと何もできないよ!」と思うことも今まではありましたけど、そうではないんだなと、「Make it」の歌詞を通じて思うことができました。
――自分自身の気持ちを変えてくれるきっかけにもなった。
大渕 正直、作品とのリンクよりも先にその気持ちがありました。原作コミックに触れた時に、人物ごとの背景描写が丁寧ですごく感動したんです。でも、それはそれとして、「Make it」のデモをいただいた時に、作品からは離れた部分で、等身大の自分として、自分の生き方について捉え直せた部分がありました。そのことに気付いたうえで、作品に立ち返って考えてみたら、「うわー!そういうことか!」みたいな気持ちになって(笑)。私が原作を読んだ時の感動は自分のここに繋がっていたんだ、だからあんなに感動したんだ、と思ったんですね。ある種、自分が“お気楽”に捉えられていない部分がわかったというか。
――逆説的に。
大渕 はい。自分自身の思い煩い過ぎてしまう部分がわかったし、だからこそ「まあ肩の力を抜いていこうや」と言ってもらえたような感覚が明確にありましたね。私、この曲を歌わせてもらってもいいのかな?と思うくらい、普段はお気楽とは真逆の人間なんです。
――あれ?そうなんですね。いつも明るく楽しくお話している印象なので意外でした。
大渕 昔は私もお気楽だったと思うんですよ。それこそ就活を放り投げて、オーディションを受けてこの世界に飛び込んだこともそうですし、「なんとかなる!」という精神があったはずなので。でも、「声優になる」という人生で一番大きな夢が叶ってしまったが故に、焦るようになってしまったのかもしれないです。2025年、自分にずっと言っていたのは、「なんとかなるからキャパオーバーしている気持ちになるのはダメだ!」ということで。私、実際は全然大丈夫なのに「ヤバいヤバい……!」って気持ちになりがちなんです。例えば取り組まなくてはならない課題が一気に押し寄せてきた時に、最初の時点から「えっ無理かも……」と思ってしまうんです。で、「無理無理!」って騒ぎながらも、それをこなしていくっていう。
――諦めるわけではなく、ちゃんと頑張るんですね(笑)。
大渕 内心では「無理だよ!」っていう気持ちになっているんです。でも、それが終わると「あれ、私なんであんなに騒いでたんだろう?」って思うことの繰り返しで。なので「ヤバいヤバい!」という動き自体がまったくもって不要なんですよね(笑)。そんな自分が2025年にこの曲と出会えたことで、「お気楽でいこう」という意識が芽生えただけでもすごく大きな変化だったと思います。実際に「ヤバいヤバい!」とパニックになることを無くせているかはさておき(笑)、心の中で「まあまあ」と言ってくれる第2の自分、“お気楽ののか”が現れるようになって、すごくありがたいなと思いました。もともとはお気楽ではない自分だからこそ、お気楽の大切さが身に沁みてわかるし、お気楽なマインドがいかに大切かということを痛感しているんじゃないかなと思います。
――本来、お気楽精神をあまり持ち合わせていない大渕さんが、この曲のレコーディングでは、どんなマインドで取り組んだのでしょうか。
大渕 私がそういう性格だからか、何も考えないで歌うと全力疾走になるんですよ。なので「Make it」は、最初にパッと出したものではあまりお気楽要素が感じられない歌になってしまって。emon(Tes.)さんの制作してくださったサウンドはグルーヴィーでチルな要素があるので、自然とそういうノリになるんですけど、あと一歩抜いたほうがいいんじゃないか、という話になったので、意識的に軽くなるように微調整していきました。
――意識的に力みを抜いていったと。
大渕 そういう抜いた柔らかい声質で、グルーヴ感溢れるリズムを歌いこなすというのは、私の中ですごく難しくて、自分の課題点をすごく痛感しました。でも、今までのレコーディングであれば「ヤバいヤバい!」となっていたであろうところを、この曲のサウンド感や歌詞がリラックスして優しいものだったこともあって、歌詞が自分を励ましてコーチングしてくれた気がします。「なんとかなるかあ」みたいな。
――そこで“お気楽ののか”が出来上がったわけですね。
大渕 その結果、良かったなと思うのが、Aメロの部分はベースがいい感じに鳴っていてわかりやすくグルーヴィーだと思うのですが、そこのリズムを縫うように言葉を紡ぐのがかっちりハマったことで、ヴァンくんたちが地道に歩んで行くところ、地に足の付いた感じは表現できたと思いました。積み上げている感じがするというか。それだけでなくBメロにもサビにも、それぞれの箇所に『お気楽領主』らしさが詰まっていて楽しい楽曲になったと思います。
――冒頭のささやき声によるカウントをはじめ、色んな声の表現や声色を楽しめるのもこの曲の魅力だと思います。ラスサビ前の“(Make it Make it Make it)”のフレーズは子供がワイワイ歌っているような感じになっていますが、あれも大渕さんが歌っている?
大渕 はい、全部自分で歌っています!あの“(Make it Make it Make it)”のたくさん声が重なっているところも、大勢の“お気楽ののか”が歌っています(笑)。ちょっと教育テレビの英語番組みたいになりましたけど。
――確かに(笑)。サビ後半のコーラスも讃美歌のような雰囲気があっていいですね。
大渕 ありがとうございます!あのちょっと神聖な感じのところは“エンジェルののか”ですね(笑)。
――アニメにラダ・プリオラ役としても出演していますが、どんなキャラクターですか?
大渕 私が演じているラダ・プリオラちゃんは、ヴァンさまの婚約者として名乗りを上げる半人半魚のアプカルルの族長の娘で、お姫様のようなポジションの子です。ヒロインのアルテちゃんをライバル視していて、お転婆というかちょっと強気な女の子なんですけど、これがまた私の好きなタイプの女の子で(笑)。強気な感じだけど嫌な感じはしないところが、私の好みにぴったりなんです。年相応のかわいらしさもあるのですが、キャラクターデザイン的にはエキゾチックでどこかミステリアスな印象も携えていて、どこか魅惑的なところが……ドタイプです(笑)。
――アハハ(笑)。楽曲の話に戻りまして、「Make it」のMVは色んな大渕さんが登場してポップで華やかな映像になっていますね。
大渕 こちらは前作「最上級の心」のMVを撮ってくださった監督が今回も手掛けてくださいました。前作からご覧いただいている方は、「うおお!これまたキュートでポップだ!」となったと思うのですが、MVの概要としては、私が「Make it」の文字を作っていく“DIYののちゃん”な内容になっています(笑)。細部にまですごくこだわって作っていただいていて。例えば、ケーキで“e”の文字をキッチンで作るシーン、牛乳などが置いてあるのですが、そのパッケージに「Made in NONOFARM」と書かれていたり、細かい部分はオフショットでお届けしたいくらいこだわりが詰まったMVになっています。
――まさにののか尽くしですね。
大渕 それと私は鳥が大好きで、その中でも特に好きなウロコインコちゃんが、なぜか撮影スタジオにいたんです!そのスタジオを管理している方が飼っている鳥らしいのですが、こんなに素敵なスタジオになぜ私の大好きなウロコインコがいるんだろうと思って、そのミラクルに驚きました(笑)。自然溢れる森のシーンもありますし、屋内での温かみのあるシーンもありますし、ダンスシーンはファッショナブルなスタジオで踊らせていただいて、何度見ても飽きないMVを作っていただきました。
――撮影で印象に残っているエピソードはありますか?
大渕 私、編み物ができなくて。なので、編み物をしながらちょっと困っている顔のカットはガチで困っています(笑)。それと母がこのMVを観て「小さい頃と同じ顔してる」って言ってました。幼稚園の頃、自然のある場所に散歩に連れて行ってくれたり、のこぎりを使って先生と一緒にものを作ったりしていたので、確かに幼少期を思い出すことが多くて。あと、私、中学生の時に家庭科部に所属していて、編み物はできないんですけどミシンをよく使っていたので、ミシンを使ったシーンはその頃を思い出したりしました。そういった自分と馴染みのあるモノづくりがたくさん出てきたので、家族は懐かしい感じがしたんだろうなと思います。
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