リスアニ!WEB – アニメ・アニメ音楽のポータルサイト

INTERVIEW

2026.02.18

澤野弘之が語るTVアニメ『Fate/strange Fake』の音楽世界――Jean-Ken Johnny&TAKUMAを迎えたSawanoHiroyuki[nZk]「PROVANT」から多彩な劇伴まで

澤野弘之が語るTVアニメ『Fate/strange Fake』の音楽世界――Jean-Ken Johnny&TAKUMAを迎えたSawanoHiroyuki[nZk]「PROVANT」から多彩な劇伴まで

2023年のTVスペシャルを経て、満を持して2026年より放送が開始されたTVアニメ『Fate/strange Fake』。“偽り”だらけの聖杯戦争を巡る魔術師と英霊たちの物語を音楽で支える澤野弘之は、歴史ある『Fate』シリーズとどう向き合ったのか。作品のオープニングを彩る、Jean-Ken Johnny(MAN WITH A MISSION)とTAKUMA(10-FEET)を迎えたSawanoHiroyuki[nZk]の新曲「PROVANT」。そして「BELONG」や「FAKEit」といった関連楽曲と多彩なサウンドが織り込まれた劇伴音楽の制作エピソードについて、たっぷりと語ってもらった。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創

『Fate/strange Fake』の音楽で目指した“海外にも響く”エンタメ性

――ついに『Fate/strange Fake』のTVアニメの放送がスタートしました。澤野さんは本作の劇伴およびOPテーマを手掛けていますが、それ以前にも2020年に小説/コミック版のCMソング「BELONG」をSawanoHiroyuki[nZk]:Yoshで担当していました。どのような経緯で本作に関わることになったのですか?

澤野弘之 本作のプロデューサーの黒﨑静佳(アニプレックス)さんとは『アルドノア・ゼロ』の頃からお付き合いがあるのですが、他にも色々な作品でご一緒していくなかでお話をいただいたのが『Fate/strange Fake』でした。まず「書籍のCMソングを制作してほしい」ということで作ったのが「BELONG」です。その時点でアニメ化もほぼ決まっていて、第0話にあたる『Fate/strange Fake -Whispers of Dawn-』(2023年7月に放送されたTVスペシャル)が動き出した時には、その後に決まっていたTVシリーズにも汎用することを前提で劇伴の最初の20曲を制作しました。その後、いよいよ2026年からTVシリーズを放送するという話になってから、追加で劇伴を15曲から20曲ほど制作する、という流れでしたね。

――「BELONG」を作る際には、作品のどんな部分からインスパイアを受けて制作したのでしょうか。

澤野 もちろん資料はいただいていましたが、「BELONG」に関しては「アップテンポのロックな曲」というざっくりしたオーダーをいただいていたので、資料や作品を読み込んで作るというよりは、全体の世界観を把握したうえでイメージに合ったロック曲を提案してOKをもらいました。思えば『Fate/strange Fake』に関しては、主題歌を含め割と自分に委ねてもらえた気がしますね。『Whispers of Dawn』のテーマソング「FAKEit」も自分がこの作品に対して作りたいと思った曲をそのまま受け入れてもらえた感覚がありますし、今回の「PROVANT」に関しても、男性ボーカルという要望があった以外は、「澤野さんがイメージするものを作ってもらえれば」と言っていただけていたので。

――『Fate』シリーズと言えば歴史のある作品で、過去のアニメでも名だたる作家陣が音楽を手掛けてきましたが、その意味で意識したことは?

澤野 僕は『ガンダム』にしてもそうですが、シリーズの途中で関わる時は、基本的に過去の作品のことは意識しないようにしているんですよ。もちろんそれを踏まえた上で作る音楽も面白いとは思いますが、僕の場合、自分の音楽をわかってもらった上でオファーをいただくことがほとんどなので、素直に自分が思うものをぶつけた方が関わる意味があると思うし、僕が必要とされている意味をちゃんと返せるのかなと思うので。今回も作品の概要や内容にも目は通しつつ、基本は打ち合わせで監督たちとイメージをすり合わせて作っていきました。

――あくまでも自分らしい音楽を軸に作品と向き合うわけですね。

澤野 逆に今回面白かったのは、TVアニメの放送に先駆けて“0話”があったことです。普通はTVアニメの放送が始まる前に1クール分の音楽を作ってしまうので、放送されてから「なるほど、こういう世界観か」と感じることもたくさんあるのですが、今回は『Fate/strange Fake -Whispers of Dawn-』で作画のタッチや世界観を把握した上でTVシリーズ用の追加曲を作ることができたので、作品全体のトーンを自分の中で掴みながら新たな曲を作っていくことができました。

――『Fate』シリーズには世界中の有名な英雄や神話の存在が英霊として登場しますが、そういった部分からインスピレーションを得ることはありましたか?

澤野 神話云々というよりは、単純にキャラクターごとに監督や制作サイドから「こういうキャラだからこういうサウンドの曲が欲しい」というメニュー表をいただいていたので、それに対して作っていきました。例えばハンザ(・セルバンテス)の曲であれば、「神父なので教会風のアプローチも入れつつ、基本はスパニッシュな要素」ということだったので、スパニッシュをベースにしながらパイプオルガンの音を散りばめてみたりとか。

――劇伴の音源を先んじて聴かせていただきましたが、今回はサウンドのバリエーションが豊かですよね。ホーミーのような倍音唱法を取り入れた曲もありますし。

澤野 あれは不穏な雰囲気を演出できるかなと思って自発的に入れてみました。今回は民族音楽的な要素があると面白いかなと思って。ちょっと呪文を唱えているような感じは、この作品のサーヴァントを召喚するところとも雰囲気的にあっていると思いますし。他にも『Fate/strange Fake』は主な舞台がアメリカなのですが、メニュー表の中に“ネイティブアメリカン”や“カントリー”というワードがあったので、先住民やインディアンの要素が感じられるサウンドを取り入れてみたり、カントリーミュージック風のギターリフを入れた曲もあります。あとはセイバーに関係する曲として「UKロック風のサウンド」というオーダーをいただいていたので、自分なりにUKロックを意識した歌ものの曲も制作しました。

――その意味では自分の中の色んな引き出しを使うことができたと。

澤野 確かに自然とそういう取り組みができたなと思います。ただ、自分は元々、劇伴を作る上でも、全体のサウンド感を統一させて「今回はこの軸で」と決めて作るタイプではないんです。基本はいかにエンターテイメント性を上げるかを意識していますし、僕自身の作家性としても一つのジャンルを追求するのではなく、色んなジャンルを散りばめるからこそ成り立つ面白さを求めているところがあるので、自然と民族音楽の要素とかを入れたりはしていますね。

――『Fate』シリーズ自体、あらゆる国の物語に登場する英雄たちが競い合う作品なので、そこが上手くマッチしたのだと思います。

澤野 そうだとありがたいです。それと今回、制作段階から海外に向けても展開していきたいという意向があると聞いていたので、自分としても、海外圏の人たちにもかっこいいと思ってもらえる音楽にしたい、という気持ちは普段よりも強かったかもしれないです。自分が関わった作品だと、最近は『俺レベ(俺だけレベルアップな件)』がアメリカでも人気だったりするので。

澤野弘之×Jean-Ken Johnny×TAKUMA、最強の布陣で挑む“証明”の歌

――TVアニメのOPテーマは、SawanoHiroyuki[nZk]の新曲「PROVANT」。制作はいつ頃から進めていたのでしょうか。

澤野 楽曲自体に取り掛かったのは2024年の後半ぐらいだったと思います。『Whispers of Dawn』のテーマソング「FAKEit」をSawanoHiroyuki[nZk]で担当させてもらった流れで、TVシリーズの主題歌のお話もいただいて、放送時期が決定してから「どういう曲がいいかな」というのを考えていきました。先ほどの話と重複しますが、今回の作品は海外圏の人たちにもかっこいいと思ってもらえるサウンドにしたかったのと、アメリカが舞台ということもあって、USのチャートで人気がある音楽の要素、例えばラップの要素を楽曲の中に取り入れるのはありかなと思ったんですね。あとは、今のビルボードのヒットチャートそのものというよりは、マーベル作品をはじめとしたハリウッド映画のエンディングや劇中歌、トレーラーに使われるようなエンタメ感。もう少しポップでロックな部分を楽曲に落とし込めたら、と思って楽曲制作に取り掛かりました。リズムを立ててエピックな要素を含めた上で、自分なりのサウンドを構築していきました。

――リズムを立たせることで、従来のメロディの強さをさらに際立たせて引っ張っていくような作りは、近年の澤野さんのモードでもあるように感じました。

澤野 確かにリズムとサウンドを押し出していく傾向は、最近より強くなっているかもしれないです。コード進行は割とシンプルだったとしても、サウンド面でエモーショナルさや勢いを出していければいいかなと。それはもちろんボーカルのアプローチでも意識していることですけど。

――今回はJean-Ken Johnny(MAN WITH A MISSION)さんとTAKUMA(10-FEET)さん、ロックバンドのボーカリスト2名を迎えたツインボーカル体制です。お二人にお声がけした理由は?

澤野 元々楽曲を作っている時から男性ボーカルに歌ってもらうことは想定していて、自分の中で「この人に歌ってもらったらかっこいいな」と最初にパッと浮かんだのがJean-Ken Johnnyさんでした。Jean-Kenさんとは以前に「Chaos Drifters」(2020年)でご一緒した時に、ボーカリストとしてのアプローチが魅力的だなと思っていたので、またご一緒したいというのが念頭にあって。なおかつMAN WITH A MISSIONでラップを取り入れたミクスチャーロックのアプローチをかっこよく表現している方なので、絶対に合うだろうなと思いました。

――一方のTAKUMAさんとご一緒するのは今回が初めてですよね。

澤野 ちょうどこの曲を作っている時期にJean-Kenさんから連絡をいただいて、TAKUMAさんが僕の音楽に興味を持って聴いてくださっていることを教えてくれたんですよね。TAKUMAさんは『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』を観て音楽をすごく気に入ってくださったみたいで、なおかつ僕がJean-Kenさんと「Chaos Drifters」をやっているのを知って、Jean-Kenさんに僕の話をしたらしいんです。それで「タイミングが合えば3人で食事でもできるといいですね」と連絡をくれたのですが、「TAKUMAさんが自分のことを知ってくれているのであれば、コラボしてくれないかな」と思って、食事にお誘いする前にオファーしました(笑)。そもそもJean-Kenさんにお願いしようと思っていたなかで、TAKUMAさんにも参加してもらえたらより面白いものになるだろうなと思って。

――Benjaminさんとmpiさんが歌う曲は過去にもありますが、ゲスト同士のコラボでツインボーカル曲は珍しいですよね。『Fate』シリーズはサーヴァントとマスターの二人一組という関係性があるので、もしかしたらそれを意識したのかなと思ったのですが……?

澤野 正直、そこまでは意識していなかったですね(笑)。でも、僕は割とそういう偶然に助けられることが多いんですよ。意図しないでやっていたことが、結果的に作品のテーマや内容と繋がることがよくあって。基本的には聴いてくれる人たちの想像にお任せして、色んな風に感じ取ってもらって興味を持ってもらえると嬉しいですね。

――お二人のボーカルレコーディングはどのような流れで進めましたか?

澤野 まずJean-Kenさんのレコーディングをさせてもらって、僕も現場に伺わせてもらいました。ディレクションといっても大したことはしていなくて、基本はJean-Kenさんなりの解釈で進めてもらいました。TAKUMAさんのレコーディングはタイミングが合わなくてどうしても立ち会うことができず、作詞のBenjaminとcAnON.にディレクションしてもらいました。なのでTAKUMAさんに直接お会いしたのは、この曲のMVを撮影した時が初めてでしたね。

――この曲は歌割りがかなり細かいですよね。お二人の歌が交互にスイッチすることで生まれる高揚感が特色になっていて。

澤野 歌割りは自分が決めさせてもらいました。Jean-Kenさんにはお手間を取らせてしまったんですけど、TAKUMAさんのパートも一度Jean-Kenさんに歌ってもらって、その音源をTAKUMAさんにお渡しして譜割りの確認をしてもらった上でレコーディング、という流れでした。交互に重ねていくような歌割りは、もしかしたらJO1さんやTOMORROW X TOGETHERさんとご一緒した経験が反映されているのかもしれないです。それまでは、ダブルボーカルでもサビは同じメロディを一緒に歌う構成がほとんどだったんですよ。でも、K-POPやボーイズグループの楽曲は、基本的にサビでもメンバーがユニゾンで同時に歌うことがあまりなくて、なるほどなと思ったんですよね。サビで歌う人が切り替わっていくのもありなんだと。今回もそれを取り入れて、基本は交互に歌っていく流れにすることで、それぞれの歌声をフィーチャーした構成にしています。

――お二人の歌声の相性や対照性についてはどう感じましたか?

澤野 サビに関してはある程度勢いが必要だったので、そこはお二人ともそれぞれの考える勢いを乗せてくれたと思います。MVを撮影した時に、お二人が冗談半分で「途中で自分がどっちを歌っているのかわからなくなるね」みたいなことを話していたんですけど、それは多分、お互いに共通して乗せてくれた勢いがあるからこそ感じた部分だと思うんですよね。逆にラップ部分に関しては、結構対比が強い印象があって。Jean-Kenさんのラップは結構ハイトーンで勢いとエッジが強い中で、TAKUMAさんはもちろん勢いはありつつ、ちょっと落ち着いた雰囲気というかドッシリ感のあるトーンなので、お互いの良さが強調されて良かったなと感じますね。

――サビの主線のメロディの裏で、別のメロディがコーラスのようにリフレインされているのも印象的で耳を引く要素になっています。

澤野 あの部分は元々、楽曲を作った時にサビのメロディに対してコーラス的に別の旋律が鳴っていてほしいなと思っていたんです。なのでツインボーカルではなかったとしても、あの要素は残していたと思います。そこも二人の勢いが乗っかったという点と、対旋律があるかないかでメインのサビのメロディの聴こえ方も変わるという意味で、この曲の重要な要素になったと思います。

――ちなみに「PROVANT」という曲名にはどんな意味が込められているのですか?

澤野 これは作詞のBenjaminとcAnON.が付けてくれた造語で、“Prove(=証明)”と“Servant(=サーヴァント)”を合体させた言葉らしいです。“Prove”は本来の意味に加えて、『Fate』シリーズの“令呪”のイメージを重ねているらしくて。僕は単純にそのアイデアを聞いて面白いなと思ったのと、言葉の響きとしても良かったので、このタイトルにしました。

次ページ:カップリング曲に込めたこだわりと2026年の展望

SHARE

RANKING
ランキング

もっと見る

PAGE TOP