ASCAのニューアルバム『28』は、今までになく等身大の彼女に出会える作品だ。2025年9月5日に29歳の誕生日を迎えるなか、彼女にとって人生の大きな転機となった28歳に感じたこと、今の素直な気持ちや心境、音楽や人との向き合い方、歌へのピュアな想いなどが混然一体となって詰め込まれた、剥き出しでとても人間らしい1枚と言える。「完璧じゃない大人になりたい」と語るASCAは、どんな経験を経て、今の境地に至ったのか。ASCA自身が作詞したアルバム表題曲「28」をはじめとした新曲の制作エピソードを軸に、彼女が本作に込めた想いに迫る。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――ニューアルバムのタイトルは『28』。今年5月のライブツアー“ASCA LIVE TOUR 2025 – 28 -”のMCでも語っていましたが、ASCAさんにとって現在の年齢・28歳は大きな意味を持っているようですね。
ASCA その28歳も間もなく終わろうとしているんですよね。この1年、自分の人生がどんどん豊かになってきた感覚があって、自分の心情や考え方が変化していったんですよ。その中で得た「幸せは自分で見つけていくもの」という感覚をみんなにシェアしたい。その気持ちが今回のアルバムには込められています。『28』という自分の今の年齢をタイトルに掲げるのは、すごく個人的なことなので、最初は躊躇したんですよ。私は「自分のためだけに歌っているわけではない」という感覚がすごくあったので。でも、自分の中では「『28』というタイトルがいいんじゃないかな」という思いもあった。なので自分の気持ちを尊重して、このタイトルにしました。
――この1年での考え方の変化について、もう少し詳しく聞いていいですか?
ASCA それまでの自分は「誰かのために」という想いが強くて、自分のことを後回しにしすぎていたところがあったんです。例えば、チームで話し合いをする時、自分の気持ちを主張することよりも、その場の会話が上手くまとまっていくことを大切にしていた。でも、ある時、スタッフさんに「ただの“いい人”のままでいていいの?」と言われたんです。確かに、自分の意思を尊重していないのは、自分を大事にしていないということでもあるから、それってつまりは「自分のことを幸せにできていない=周りの人も幸せにできない」ということなのではないか、と思い始めて。それからは自分の思っていることをはっきりと主張したり意思表示できるようになりました。その変化は私にとっては革命だったんですよ。とにかく自分への自信の無さが根本にある人間だった私が、自分の気持ちを大切にすることが、自分の人生の幸福度を高めていくことに気付くことができた。なので1年前の自分と今の自分の気持ちの置き所が全然違います。すごく落ち着いたんですよね。
――逆に言うと、それまでは落ち着いていなかったと。
ASCA もう本当に落ち着きがなくて、グラグラでした(笑)。調子が良い時と落ちてしまう時の差が激しくて、それこそ毎月くらいのペースで必ず落ち込んでいたんです。5月のツアーは個人的に「ありのままの自分を見せる」をテーマにしていたんですけど、自分の気持ち的に戦っている部分がまだあって。私にとってワンマンライブはすごく緊張する場所で、ステージが近づくとどうしても怖くなるんですよね。私のことを好きでいてくれる人たちに100%いいものを見せなければいけない責任と、完璧主義から来る恐れみたいなものとずっと戦っていて。で、ファイナルでは、負けではなかったけど圧勝できなかった悔しさがあって、次の日の朝、悔しくて大泣きしたんです。
――えっ、自分は現場で拝見しましたが、すごく良いライブだと思いました。
ASCA 確かにそう言ってくださる方もいましたけど、自分の中では完膚なきまでに自分の弱さに打ち勝って、「最強だろ、私」というのを見せたいツアーだったので、まだ自分自身の弱さと戦っているところが出てしまった悔しさがあって。ただ、その時、泣きながら「あれ?私もうデビューして8年になるけど、まだこんなに悔しくて泣けるわけ?これって伸びしろしかないじゃん!」と思ったんですよね。それでケロッと立ち直って、「じゃあここからはやることをやっていくだけだな」というマインドセットに変わってからは、自分でも「えっ?」と思うくらいすごく落ちついています。そもそも「悔しくて泣いた」ということも、昔の私なら言えなかったので、それもすごい成長なんです。
――実際、最近のASCAさんはライブでも「ありのままの自分」を見せられているように思います。ツアーファイナルでも剥き出しのASCAさんがそこにいたし、かつてインタビューで「自分は鎧をまといがち」というお話をしていましたが、今はその鎧を必要としていない感じと言いますか。
ASCA そうなんですよ。それも全部自己防衛で、以前は自分を守ることばかり考えていたから、鎧がどんどん分厚くなっていたんですよね。ライブ前はある種のルーティーンを決めてずっとやっていたけど、最近はそれも必要なくなってきて。それこそ7月の“リスアニ!LIVE 2025 ナツヤスミ”の時は、いかに楽屋でリラックスして、普段通りの自分のまま本番のステージに立てるかを意識したんです。今まではライブ前にスイッチを入れていたけど、今は自分のその時の感情に正直であることが、自分自身が一番気持ちよく歌えるということに気付いて。その意味でライブに対する向き合い方も圧倒的に変わりました。昔はプレッシャー・緊張・不安が80%で、楽しみは20%くらいだったのが、今は楽しみが98%で残りの2%は「歌詞間違えないかな?」くらいの感覚です。
――“リスアニ!LIVE 2025 ナツヤスミ”のステージも本当に素晴らしかったですからね。今お話いただいたライブ時の心構え、普段通りの自分のままステージに立つというマインドは、それこそ今回のアルバム『28』のビジュアル周りにも通じる部分だと感じていて。最近のASCAさんはライブ衣装を含め、すごくナチュラルな雰囲気ですよね。
ASCA それも大きな変化で、今まではずっと前髪パッツン、黒髪ロングのストレートでやってきましたけど、それも自分自身で「ASCAはこうでなければならない」みたいな固定概念を作っていたところで、変わることが怖かったんですよね。でも、今は「常に完璧でなければいけない」という自分から解放されたので、髪型も衣装もどんどん変化していて。以前はデニムでステージに出るなんて考えもしなかったですからね。
――“リスアニ!LIVE 2025”で初めて観た時は、びっくりしました。
ASCA 「ありのままの自分でいい」ということを伝えていくのであれば、自分も自然体でいなければいけないと思うので。実は今回のアルバムのタイミングで「絶対に前髪をかき上げる!」と決めていたので、1月くらいから人知れず前髪を伸ばし始めていて、ずっと髪を整えてもらっている美容師の友達にも「私はもう姫カットをやめる!」と伝えて、じわじわと髪型を変えていたんです。それこそ“リスアニ!LIVE 2025”では、前髪をちょっと分けてみたりして。ゴールを一旦この『28』のアルバムに設定して、「変わっていってますよ、私」というのをちょっとずつ小出しにしていました(笑)。それもまた今の私を表現するメッセージになるのかなと思って。
――その意味でも、ASCAさんの28歳の今をそのまま落とし込んだ作品というわけですね。
ASCA そうですね。昔は、こんなにも自分自身とASCAというものが一体化する未来がくるなんて想像していなかったんですよ。デビュー当時は自分自身とはまた違う人格があるイメージで、本名の自分と分けて考えていたんですけど、気づいたらそれがどんどん統合されて、今は1つになっている感覚があります。昔リリースした楽曲の歌詞に、今になってすごく励まされる自分もいて。今の私だからこそ、ASCAの楽曲たちを胸を張って、また別の解釈で届けることができるし、今までよりももっともっとASCAの楽曲が本当に大切で愛しいものになっています。
――ここからはアルバム収録の新曲を中心にお話を聞いていきます。まずは1曲目に置かれた「エスキース」。幕開けに相応しい明るく開放感に溢れた楽曲で、歌詞は「I DON’T CARE」「Maze」「#kwk」などの近作でご一緒してきたNiiNoさんが書いています。
ASCA NiiNoさんとは「#kwk」でご一緒した時に、打ち合わせで初めて会話をさせてもらったんですけど、同年代の女性の方ということですごく共感できる部分が多くて、私の考え方に対する理解の深さもすごいので、ものすごく信頼しているんです。そんなNiiNoさんに、私の生い立ちや今はどんなマインドで生きているのかを聞いてもらったうえで、完全にお任せして歌詞を書いてもらったのがこの曲で、初めて歌詞を読んだ時に「これは私のことだ」とすごく感じて涙がポロポロ溢れました。
――どんな部分に自分を重ねられたのでしょうか。
ASCA 「エスキース」には“下書き”や“ラフスケッチ”といった意味があって。サビに“あの頃 描いてた下書きどおりには ちっともいかなくて違う未来だけど”という歌詞があるのですが、自分が元々思い描いていた夢を今叶えられているかどうかわからないけど、色んな人と出会う中で、夢がどんどん変わっていったり、新しい夢が見つかったり、自分にとっての幸せを見つけてこられたな、という個人的な思いとすごく重なったんですよね。なんて言ったらいいんだろう……完璧であることを求めて生きてきた自分がいたんですけど、28歳になって「完璧じゃない大人になりたいな」とすごく思ったんです。
――完璧じゃない大人、ですか。
ASCA “完璧な人”はかっこいいし憧れるけど、私はそれよりも自分の感情や気持ちに素直な人、自分の心の声に耳を傾けられる人に魅力を感じるし、自分もそういう人になりたい。私は何も完璧ではなくて、すぐかっこつけたがるし、自分の気持ちを無視して人にばかり尽くしてしまうけど、そんな自分の方が人間らしくていいじゃん!と思えた。そんなタイミングに出会ったのがこの歌詞で、“ちょっと自画自賛?いまを愛せてる”という言葉があるんですけど、自分のことを愛せるのは自分だけだよなと思った時に、「ああ、もう私の歌詞だ」と感じてすごく泣いてしまって。私にとって28歳は自分自身で幸せを見つけることができた年で、些細なことでも幸せを感じられるようになってきた。その多幸感みたいなものが、この曲には詰まってると思います。
――NiiNoさんとASCAさんは共鳴できる部分が多いんでしょうね。
ASCA 私もびっくりしました。「エスキース」の楽器レコーディングの時にNiiNoさんも立ち会ってくださって、その時にこの歌詞があまりにも私の物語に感じたので作詞の進め方について伺ったんですけど、NiiNoさんはこのテーマをずっと自分の中で温めていたそうなんです。元々自分が思っていた夢は現実に塗りつぶされてしまって叶えることができなかったけど、今自分がいる場所はすごく幸せなものでもある。私の話を聞いた時に、そのテーマをぶつけてみようと思って書いてくれたのが、この歌詞ということでした。
――ある種、NiiNoさんが自分の中にあった思いを託してくれたと。
ASCA そうなんですよね。きっとNiiNoさんの中ですごく大事なテーマだったと思うんです。それを惜しみなく書いてくださったことがすごく嬉しかったです。
――歌ううえでこだわったポイントはありますか?
ASCA この曲はデモを集めるところからスタートしたのですが、そもそものテーマが、このアルバムにも収録しているシングル曲の「FACELESS」で見つけた私の新たな武器、ファルセットと低音も高音も出せるレンジの広さを活かせる楽曲を作る、ということだったんです。なので高低差が2オクターブあって、これまでのASCAが歌ってきたパワフルさや疾走感、その中にある儚さだけでなく、しなやかさや別の角度の武器もあることを表明できるよう意識して歌いました。ちなみにその2オフターブの見せ方という部分は、サウンドプロデューサーの角田(崇徳)さんとも連携しながら引き続き楽曲制作を進めています。
――アルバム9曲目の「Fighter!!」は7月に先行配信された楽曲で、ゲーム「チームファイト・タクティクス」の主題歌になります。
ASCA この曲は私が作詞したのですが、最初の段階から企画書がしっかりあって、「こういうテーマで書いてほしい」というのが明確にあったので、私自身もすごく書きやすかったです。ゲームの内容的には、チームを組んで戦っていくものなのですが、企画書には“魂”や“ソウル”“パッション”といったキーワードが盛り込まれていて。ちょうどその時期、サッカーの試合のハーフタイムにスタジアムで歌わせてもらったことがあって、その時に観戦した会場の熱量とパワーがすごかったんですよね。毎日努力を積み重ねてきた選手の皆さん、全力で応援するお客さん、その魂と魂のぶつかり合いを目の当たりにして、スポーツも歌も通じるものがあるなと思ったんです。私も学生時代はずっと運動部だったのでわかるんですけど、チームで戦う競技も結局は自分との戦いで、要はどれだけ自分のことを信じて挑めるか、だと思うんですね。
――というのは?
ASCA 自分がソフトテニス部だった時、失敗するとイライラしてしまって、その結果、さらにミスが増えてくみたいなことがあったんです。だから、どれだけ冷静さを保つかが大事で、忍耐力や集中力が必要というのを痛いほど経験してきたんです。それを改めてサッカー観戦を通じて感じたタイミングで、この曲のお話をいただいたので、自分が心を動かされた経験とリンクさせながら歌詞を書き進めていきました。歌詞の冒頭で“僕等は最強なんだって今日も唱えてる”と書いたのですが、私は言霊を信じていて、自分の喉の調子が悪くて上手く歌えなくなった時も、常に「大丈夫、私は最強」とずっと言い続けてきたんです。それが28歳になった今、「ほら、その通りになったじゃん」と感じていて。今の自分が説得力を持って届けられる言葉なので、歌詞に入れさせてもらいました。
――アッパーな曲調を含めて、勇ましいモードのASCAさんが感じ取れる楽曲だと思いました。
ASCA そうですね。ライブでは皆さんが一緒に剥き出しで叫んでくれることを想像しながら作ったんですけど、ただ強いだけではなくて、最強になるまでには悩んだり苦労した道のりもあることにフォーカスを当てました。というのも、この曲の歌詞を一度サウンドプロデューサーの角田さんに見ていただいた時に、「ASCAちゃんが今に至るまでの道のりの部分をもっと深掘りすると、最強になった今のマインドを歌っているサビの歌詞に説得力が生まれると思う」と言ってくださって。歌詞を通して自分のありのままの感情や弱い部分もさらけ出せるようになったのは、角田さんとの出会いも大きかったと思います。
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