REPORT
2025.08.30
メジャーデビュー20周年を経てその活動も新たなフェイズへと突入したシンガー・KOTOKO。そんな彼女が2025年夏から2026年春まで続く大規模ツアー“KOTOKO LIVE TOUR 喜怒哀楽”を立ち上げた。これはKOTOKOの20年以上にわたる膨大なディスコグラフィを喜怒哀楽の4つと四季に分け、その感情と季節に特化したセットリストで贈るという新鮮な試みだ。その第1クォーターとして7月からスタートしたのが喜怒哀楽の“喜”にフォーカスした“Joyful Summer”である。夏らしい爽やかで、そして熱くなれる名曲たちが並んだ“喜びの夏”で、KOTOKOが見せたものは何だったのか。今回は8月10日に行われたツアー終盤戦となる神奈川公演の模様をレポートしよう。
TEXT BY 澄川龍一
7月19日の京都公演から続いた“Joyful Summer”ツアーも、この日を含めて残すところあと3公演を数えた8月10日。“喜”と“夏”をテーマにした今回のツアーだったが、外はあいにくの雨模様。しかし会場の横浜BAY HALLは多くの観客が詰めかけてジメジメとした空気を吹き飛ばさんばかりの熱気が開演前から立ちこもっていた。ステージ上にはバンドセットと、今回の“Joyful Summer”をイメージしたKOTOKOのイラストと“喜”の筆字が描かれた黄色の大きなバックドロップが掲げられていた。
会場が暗転するとドラの音と共にラジオをチューニングしているようなノイズのなかトロピカルなBGMが流れる。奇しくもこの日の会場は中華街の近く。そしてトロピカルなムードのサウンドはこの季節にぴったりだ。そんななか大島信彦(g)、わっち(b)、八木一美(ds)というお馴染みのバンドメンバーが登場した後に主役のKOTOKOがステージ中央に立つとBGMが鳴り止み、代わりに「アオナツライン」の爽やかなイントロが流れ出す。そのなかでKOTOKOは「今日は一緒に思い切り、喜びと夏感じようぜー!」と宣言して“Joyful Summer”が幕を開ける。爽やかで少し甘酸っぱいメロディに合わせて、客席は青のペンライト一色で染め上げられる。実に清涼感溢れるオープニングだ。しかし一方でバンドが鳴らすサウンド、そしてKOTOKOのボーカルは大きな音像として耳に飛び込んでくる。ラウドとはまた違う出力の大きさがキラキラとしたポップネスと合わさる辺りは実にKOTOKOのライブらしい。終盤の大島の熱量の高いギターソロも熱くて爽やかな夏を感じさせる。そして最後にはKOTOKOの伸びやかなボーカルが響き渡り、次の曲「夏恋」へ。これもまた夏の切ない憧憬を感じさせる1曲。やはり我々の夏にはKOTOKOと高瀬一矢の音楽は欠かせない。続いてはステージの両サイドにあるお立ち台に上がって歌われた、これも切なさたっぷりのミディアムナンバー「Leaf ticket」。KOTOKOの、I’veサウンドの胸を締め付けるメロディが序盤ながら涙腺を刺激する。夏のノスタルジーを感じさせるような、メロディアスな滑り出しとなった。
最初のMCでは「喜怒哀楽、Joyful Summerへようこそ~!」とご挨拶してすかさず、「KOTOKOの夏が来たー!」とハイテンションで夏の喜びを爆発させる彼女。「私は夏が大好きで、夏が来るだけで喜び!という感じなんですけど、今日は嬉しい気持ち、みんなに伝染するように選りすぐりの曲を持ってきました」とニコニコ顔で語る。今日はあいにくの空模様だが、「帰る時には場内に青空が描けるように」と話しつつ、「夏は夜もいいじゃないですか」と言って次の曲「Shooting Star」へ。イントロが流れると会場はもちろん割れんばかりの大歓声だ。これもまた星がまたたく夏の夜空を思わせる1曲。そして中盤にはKOTOKOのライブではお馴染みの、曲に合わせて観客と共に両手をはためかせる光景が見られたが、これが夏に見られるのも風流に感じる。早くも訪れた名曲の余韻のなかで聴かれたのは、“Across infinite sky”というフレーズ。「INFINITE SKY」の幕開けに「Shooting Star」の時と負けないくらいの大歓声が起こる。Elements Gardenらしいダイナミズムを感じさせるこの曲から、セットは涼しい午前を思わせる序盤の切なさから気温が上昇し、躍動感溢れる夏本番へと変わっていく。それに呼応して観客も熱のこもったコール&レスポンスを返す。かと思えば続いては夏電波ソング「あちちな夏の物語り」、アッパーなピアノロック「Art as♡」で会場の熱量も加速していく。
緩急自在なサマーチューンに、KOTOKOも「どう?夏してるかい?」と観客を煽る。そしてこれまでの紆余曲折のキャリアを振り返りながら、「だけどそうやって色んな気持ちを持てるそれこそが生きているってことで、幸せ、喜びだと思うんだよね」と語り、そんな思いを歌に込めたという「rush」へ。パワフルなロックバラードに乗せてKOTOKOの力強くソウルフルな歌唱が聴くことができた。そこからのロマンチックなバラード「ミュゲの花束を、君へ」の最後では観客の合唱も聴かれ、トランシーなシンセが煌びやかな「faith~信じる力~」へと続いて、KOTOKOのエモーショナルな歌唱を堪能できるブロックを駆け抜けた。
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