REPORT
2025.08.27
その日、ステージにいたのは、ReoNa、荒幡亮平(Key)、山口隆志(Gt)の3人のみ。しかしながら、奏でられた音楽はとても豊穣で色彩豊かなものだった。ReoNaのオフィシャルモバイルファンクラブサイト“ふあんくらぶ”のメンバーのためだけに贈る特別なライブツアー「ふあんくらぶ presents ReoNa Acoustic Concert Tour“ふあんぷらぐど2025”」。その2日目となる7月25日の神奈川・KT Zepp Yokohama公演で繰り広げられた、いつものライブとは少し違う、アコースティック編成ならではの繊細で美しいお歌の数々を、紹介したい。
TEXT BY 北野 創
PHOTOGRAPHY BY 平野タカシ
FCツアーが開催されるのは、2023年の「ReoNa Acoustic Live Tour“ふあんぷらぐど2023”」以来、約2年ぶり。その追加公演を行った場所もまた、KT Zepp Yokohamaだった。バックを務めるメンバーも、あの日と同じだが、その間にReoNaは東京ガーデンシアターでの2デイズライブや、全国のZepp会場を巡ったワンマンツアー「ReoNa ONE-MAN Live Tour 2025 “SQUAD JAM”」などを実施。そのタフなライブ経験によって一層存在感を増した歌声が、1曲目の「GG」からファンの心を射抜く。「GG」がアコースティック編成で披露されたのは本ツアーが初となるが、荒幡がジャズ寄りのアプローチで弾くエレクトリックピアノのウォーミーな響きと、山口のアコギが奏でるシンプルかつ武骨な感触が、楽曲の骨格にあるアメリカーナ的な要素を浮き彫りにしていて興味深いアレンジだった。
その後、ReoNaは軽く挨拶して「ふあんくらぶのあなたへ、表情を変えてお届けするお歌たち。1対1、最後まで楽しんでいただけますように」と言葉を添えると、次曲「Bad Day」へ。言わずと知れたダニエル・パウターの世界的ヒット曲で、ReoNaはYouTubeに同曲のカバー動画を発表したことが縁となり、2019年にダニエル本人とライブで共演するに至った過去がある。彼女のライブで歌われるのは久しぶりだが、アコギとピアノの軽やかに盛り上がっていく伴奏に誘われて、ReoNaの歌声も伸びやかに広がっていった。
冒頭のピンクの照明が春の風と散る花びらを思わせた「メメント・モリ」、アナログレコードの針の音のようなノイズと荒幡のピアノソロがミステリアスな雰囲気を作り上げるなか始まった「ジュブナイル」と、エモーショナルな顔を持つ2曲では、ステージ演出も含めて楽曲をドラマチックに表現。お歌と演奏のみならず、空気感を含め舞台上のあらゆる要素を連動させてひとつの世界観を作り上げるのは、ReoNaのライブにおける大きな特色だが、アコースティックの小編成によるネイキッドな環境だと、その効果をさらに強く味わうことができる。
改めて「今日は懐かしいお歌も、新しいお歌も、“ふあんぷらぐど”だからこその特別でお届けします」と挨拶したReoNaは、「またいつか会えたなら、伝えたい思いがあります。大切な友達に宛てた、手紙のようなお歌」と語ると、自ら作詞した「FRIENDS」を歌い始める(作詞はrui(fade)との共作)。オレンジ色のライト、アコギとエレピのアンサンブルが温かな景色を描くなか、ReoNaは時に優しく語りかけるように、時に遠くに向けて想いを届けるように、一言一句を大切に紡いでいく。
そこから一転、夏の終わりの逃避行のような、切なくも美しい情景へと我々を連れ出してくれたのが「Runaway」。「アークナイツ」5周年記念曲として今年1月に配信されたこの楽曲、歌詞の内容を含めて“夏”がテーマになっていることもあり、この季節にはピッタリの選曲だ。ステージ背面には、照明演出によって、青空に雲が走っていくような眺めが作り出されていたのも印象的だった。そして「大切な人との別れのお歌」と前置きして歌われたのが「一番星」。バンドマスターの荒幡が作詞・作曲・編曲を手がけた楽曲だ(作詞は宮嶋淳子との共作)。音源盤と同じく、ReoNaのお歌と荒幡のピアノのみ、完全に1対1で奏でられる。どこか寂しげなピアノの前奏、訥々とした歌い口からサビにかけてエモーショナルに色づいていくボーカル、間奏の典雅なピアノソロからさらに感情豊かに輝く歌と音の饗宴。ReoNaが最後の一節“僕の一番星”と静かに歌い、ピアノが後奏を弾き終えるまで、固唾を飲んで魅入ってしまうほどの没入感に満ちた名演だった。
その後のMCパートでは近況を報告。8月6日リリースの11th シングル「End of Days」、10月8日にリリースが決定している3rdアルバム『HEART』に向け初の海外レコーディングを行ったことをファンのみんなに直接伝える。その場所とは、イギリスのアビーロードスタジオ。ザ・ビートルズをはじめ数々の有名アーティストの名曲・名盤が生まれた音楽の聖地のようなスタジオだ。荒幡から同地でのレコーディングの感想を根掘り葉掘り聞かれたり、現地で食べた人生で一番おいしいバターチキンカレーの話にカレー好きの山口が敏感に反応するなど、いつものライブ以上にリラックスした時間が流れていく。これもFCツアーならではの醍醐味だろう。
そして、この夏でデビュー7周年を迎えることを改めて報告したReoNaは、「“痛い”という意味のハート『HURT』から始まったReoNaの歩みは、今年の秋に、心を模した『HEART』に辿り着く。今日もその旅路の中の1ページです」と語り、ReoNaとしての始まりのお歌=デビュー曲「SWEET HURT」を届ける。軽やかで優雅だけど、どこか寂しさや寄る辺なさも感じさせる、甘くて痛い愛の歌。アコースティック編成ならではのアレンジも加えつつ、7年分の成長と思いが積み重なったビター&スウィートなお歌が、ふあんくらぶ会員だけの特別な公演に捧げられた。
続くMCで、このライブ当日となる7月25日には大きな思い入れがあると語る。7年前の同日、ReoNaにとって初のワンマンライブ「神崎エルザ starring ReoNa × ReoNa Special Live “AVATAR”」を開催、そしてちょうど1年後には「神崎エルザ starring ReoNa × ReoNa Special Live “Re:AVATAR”」を開催。ReoNaの音楽人生を語るうえで欠かせない存在、TVアニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』の登場人物・神崎エルザとの深い縁がある日なのだ。ということで、ここで神崎エルザ starring ReoNa名義の楽曲から「ハレルヤ」を届ける。ヘンデル「メサイア」のハレルヤコーラスのパートをモチーフにした本楽曲、高く高く伸びていくメロディと歌声が、いつだって絶望と希望が隣り合う世界に、祝福のように降り注ぐ。
さらにここでレアなカバー曲へ。「ガンダムって観たことありますか?」と語り始め「過去に一度カバーさせていただいたお歌」と前置きして歌われたのは、なんとTVアニメ『機動戦士ガンダムユニコーン RE:0096』OPテーマ「Into the Sky」。ReoNaも参加したことのある、澤野弘之のボーカルプロジェクト・SawanoHiroyuki[nZk]による楽曲だ(原曲はTielleが歌唱)。山口はエレキギターに持ち替え、荒幡のピアノが豊かに下支えするなか、ReoNaは雄大な歌声を解き放つ。シンプルな編成ゆえにごまかしが効かないなかで、見事なバランス感で音の宇宙空間を紡ぎ出していた。
「みんな、今期もアニメは観ていますか?」と客席に向けて語りかけたReoNaは、続いて現在放送中のTVアニメ『アークナイツ【焔燼曙明/RISE FROM EMBER】』より、ニューシングルの表題曲「End of Days」を披露。この楽曲だけは音源どおり。冒頭の印象的なクワイアから一気に重厚な音の壁が展開される。そのエピック感のあるサウンドに真っ向から立ち向かうように、願いを込めて祈るように力強い歌声を届けるReoNa。終盤のステージ上が光で満たされるような照明演出も圧巻で、“どうか光を”という言葉がより心に迫る瞬間だった。
そこからシームレスに次曲へ。照明が暗く落ちるなか、ReoNaの「夜空に無数に散らばる小さな星屑のように」「いつか消えてしまう小さな光だとしても」という言葉が会場にこだまして、彼女がデビュー前からライブのレパートリーとして歌っていたジミーサムP「Starduster」がしっとりと歌われる。ステージ上方に吊るされたストリングスカーテンが星屑のようにキラキラと煌めき、ミラーボールによって反射した光が会場を満天の星の世界へと塗り替える。山口のいななくエレキギター、荒幡のしとやかなピアノ、それらの楽器のディレイがかかった音色が浮遊感を演出するなか、ReoNaはひたむきに“愛”を求めて歌声を泳がせる。まるで広大な宇宙を漂う塵のように、人間とはちっぽけな存在なのかもしれないけれど、それでも誰かに届く想いはある。ReoNaのお歌には、間違いなくその力が備わっている。
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