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REPORT

2025.07.11

豊崎愛生にとっての青春――カバーコンサート“LAWSON presents 豊崎愛生カバーコンサート2025 AT living Ⅱ ~sing of youth~”をレポート!

豊崎愛生にとっての青春――カバーコンサート“LAWSON presents 豊崎愛生カバーコンサート2025 AT living Ⅱ ~sing of youth~”をレポート!

2025年6月29日、ヒューリックホール東京にて声優・豊崎愛生によるカバーコンサート“LAWSON presents 豊崎愛⽣ カバーコンサート2025 AT living Ⅱ ~sing of youth~”が開催された。2018年にリリースされたカバーアルバム『AT living』を伴うコンサート以来約7年ぶりとなるカバーコンサートは、1970年代の名曲を中心とした前回に対して1990~2000年代に豊崎が聴き馴染んできたロックの名曲中心となった、サブタイトルにあるとおり豊崎の“青春を歌う”というものがセットの前半を占める。そして後半ではオリジナル楽曲による豊崎の“今”を伝えるという、2つの時間軸による2部構成となった。ここでは昼夜に渡って行われたコンサートから、夜公演の模様をレポートしよう。

TEXT BY 澄川龍一
PHOTOGRAPHY BY 佐藤 薫

ノスタルジックな空間で、豊崎愛生の青春を共に見つめる

この日の会場となったヒューリックホール東京は、2018年まではTOHOシネマズ日劇という映画館として稼働していた場所で、そこを改装して作られたコンサートホール。その名残を残す、なだらかな傾斜のある客席からステージ上を臨むと、上手側にはバンドセット、下手側にはベンチと街灯のようなセットが見える。そして開演前のフロアにはBGM代わりに風や潮騒の音が流れ、時折鳥のさえずりやひぐらしの鳴き声が聴かれる。開演前の雰囲気はそんなオーガニックかつ、どことなくノスタルジックな装いがある。今回のタイトルどおり、また事前の配信番組で告知されていたこの日のカバー曲のラインナップからもわかるように、豊崎愛生が青春時代に見つめていた原風景に我々もまた誘われているかのような気持ちにさせる。

ほどなくして開演を迎えると、フロアは陽が落ちるように薄暗くなっていく。同時にステージ上の照明はオレンジ色を灯した。夕暮れ時を示すような雰囲気のなか、何を告げることもなくバンドメンバーがステージに登場。平本陽一郎(b)、杉野寿之(ds)、籠島裕昌(key)、平井武士(g)というお馴染みのメンバーが各々のポジションに立つと、あたりは更に暗くなり、いよいよこの日の主役・豊崎愛生がステージに登場した。そして、平井の奏でるアルペジオと共に豊崎が歌ったのは、GOING UNDER GROUNDによる2003年の名曲「トワイライト」冒頭のフレーズだった。ステージ上、そして開演時刻という黄昏時(Twilight)にぴったりな雰囲気のなかで聴かれる豊崎の第一声は穏やかで、また切なく響く。そしてそこにバンドが加わると豊崎は体を揺らしてその音に身を乗せる。全体的に疾走感がありながら平本のベースがズンズンと響くサウンドが心地良く、そこに重なる籠島の幻想的なシンセが更にノスタルジーを誘う。そんななか豊崎のボーカルも熱を帯び、オリジナルの切ない雰囲気を踏襲しながらも実に彼女らしい優しい雰囲気を感じさせ、改めてロックを歌う豊崎のボーカルは素晴らしいと思わせる。ちなみにこの日の彼女のステージ衣装は、デニムにフリルをあしらったレースのブラウス、そこにカーキのふわっとしたシルエットのモッズコートを羽織っている。グリーンは彼女のイメージカラーでもあるが、ここでモッズコートというのもロックを感じさせるコーディネートだ。そうしたなかで鳴らされる「トワイライト」だが、この曲は豊崎が高校時代、夕方に愛犬のリュウの散歩の際にMDプレーヤーで毎日にように聴いていた曲だそう。まさに彼女の青春時代を彩る名曲を、あの頃の彼女の目線で見つめるようなステージが展開されていった。

そこから間を置かずに杉野がどしっとしたビートを刻み、「Funny Bunny」へ。the pillowsが1999年に発表した、これもまた日本のロック史を代表する名曲だ。ゆったりとしたテンポに乗せて歌う豊崎のボーカルは絶品で、サビの“キミの夢が叶うのは 誰かのおかげじゃないぜ”という名フレーズを歌う姿もかっこいい。懐かしさのなかに豊崎のボーカルが加わる新鮮な感動が会場を包み込むという序盤にふさわしい流れとなった。

最初のMCでは歓声のなか「皆さんこんばんはー!」といつも以上のニコニコ顔で客席に手を振る豊崎。「暑かったろうに皆さん、大丈夫だった?(観客の「大丈夫!」の声に)……なんで?」と観客と楽しく会話をしつつ、バンドメンバーを紹介した後は続いての楽曲へ。杉野のカウントから始まったのは「若者のすべて」。フジファブリックが2007年にリリースした、今なお数多くの人に愛される1曲だ。この日は梅雨明け前ながらうだるような暑さの真夏日だったが、豊崎が“真夏のピークが去った”と歌うと、もう夏が終わってしまいそうな寂しさすら感じてしまう。フジファブリックのボーカル・志村正彦が残した美しい日本語の歌詞を、豊崎が丁寧に辿るようにして歌う。そのパフォーマンスがまた、在りし日を思い起こさせるノスタルジックな風合いを増してしていって涙腺を刺激する。そこから「銀河鉄道の夜」のイントロが鳴らされると、リズムに合わせて豊崎も再び体を揺らす。GOING STEADYが2001年に発表した、激しいロックサウンドに淡くリリカルな思いを綴ったセンチメンタルな歌詞も含めた美しいパンクナンバー。GOING STEADYでパンクの世界を知ったという豊崎は、ロッキンなバンド演奏に時折印象的なコーラスと共に、歌詞のとおりドリーミーな歌声を乗せていく。それがサビでは思いが爆発したかのような歌唱に変わっていく表情の変化も素晴らしい。オリジナルと同様にバッハ「主よ、人の望みの喜びよ」のフレーズも聴かれる中盤のインストパートでは、3拍子のリズムに乗せて豊崎は優雅に舞い、バンドを指揮するような仕草を見せる。豊崎のこの曲への思いが彼女らしい表現で完成された、この日屈指の感動的なパフォーマンスだった。その余韻のなかで弾かれる平井のアコースティックギターのストロークで、続いてはスピッツが1994年に発表した「スパイダー」へ。跳ねるようなリズムに心地良く歌う姿が印象的で、もしかしたらオリジナルにも近い形で披露されていると感じるような、それくらい楽曲の雰囲気と豊崎のボーカルが実にフィットしたカバーとなっていた。

その後MCを挟んで、椅子に腰かけた豊崎が平井のアコギに乗せてサニーデイ・サービスの「コーヒーと恋愛」を披露。サニーデイ・サービス1996年の名盤『東京』に収録された1曲で、獅子文六の同盟小説にインスパイアを受けた曽我部恵一が書いたこの曲。曽我部らしい文学的な歌詞を豊崎が大人っぽく、少しブルージーに聴かせる仕上がりだ。コーヒー好きの豊崎は、2018年にリリースした初のカバーアルバム『AT living』では高田 渡の「珈琲不演唱(コーヒーブルース)」をカバーしていたが、今回もまた大人っぽくほんのりビターでほっこりとしたコーヒーナンバーとなっていた。

そしてカバー曲を披露するコンサート第一部もいよいよ佳境に入り、今度は岡村靖幸が1990年に発表した人気曲「カルアミルク」へ。こちらも大人の雰囲気の曲で、豊崎もこれを聴いて東京、あるいは六本木に憧れていたそうだが、オリジナルの岡村ちゃんによるまさにアダルトなねっとりした歌唱というよりは、豊崎らしいしっとりとした歌唱が聴かれる、少し大人な飲みやすいカルアミルクという印象。そして第一部最後の曲は小沢健二が1994年に発表した「愛し愛されて生きるのさ」を披露。軽やかなサウンドのなかで豊崎もリラックスしたムードで心地良い歌声を聴かせる。途中原曲どおりのポエトリーリーディングを聴かせるなど、彼女の魅力もしっかり打ち出されたカバーだ。

全8曲、どれもが名曲と呼ぶにふさわしいクラシックスを豊崎らしい解釈と愛に溢れたカバーとなった第一部は大歓声と共に幕を下ろした。

次のページ:現在の豊崎が、出会いと別れを経て歌う「ただいま、おかえり」

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