REPORT
2025.06.02
2025年5月14日、15日、LiSAのキャリアにおいて大切な聖地である東京・日本武道館にて、デビュー14周年イヤーの節目を祝うワンマンライブ“LiSA LiVE is Smile Always~RiP SERViCE~”が行われた。弦楽カルテットと共演し、歌と演奏に特化したチャレンジャブルな空間を作り上げた2日間。LiSAが込めたメッセージをDAY2公演から振り返る。
TEXT BY 阿部美香
PHOTOGRAPHY BY Viola Kam (V’z Twinkle)
東京・日本武道館。悔しさに大粒の涙を流した2014年1月3日、最初の武道館ワンマンライブ“LiVE is Smile Always~今日もいい日だっ~”から11年。2015年、2018年、ソロデビュー10周年イヤーを記念した2021年、2022年……そして昨年2024年4月の“~i SCREAM~”ではストーリー性の高いドラマチックな構成でLiSAのエンターテイナーとしてのポテンシャルの高さを知らしめた。日本武道館という会場は、彼女の節目節目にLiSAという希有なアーティストの“現在形”と“今こそ伝えたい想い”を、様々な形に変えて刻みつけてきた場所なのだ。そして今年、デビューから14年を過ぎた2025年月。特別な想いを込めて、彼女が次の大きな節目である15年目のスタート地点に選んだ場所もまた、LiSAの聖地・日本武道館だった――。
今年初頭、「ReawakeR (feat. Felix of Stray Kids)」のリリースインタビュー時。次なる“~RiP SERViCE~”公演の抱負を彼女は、LiSA史上最高にデコラティブに演出された“~i SCREAM~”を引き合いに出しながら「ここで一度、シンプルにLiSAの音楽のパワーを感じてもらえるものにしたい」と言ったのだ。
インタビュー後もずっと、頭に残り続けていた彼女の言葉。歌と演奏のみでシンプルに音楽のパワーを届けるライブとは、いったいどんなものなのか?……その最初の答えはオープニングナンバー「明け星」にあった。
これから始まるステージへの期待感にざわざわとする客席。照明がまだ落ちきらないステージセットの上段に、しずしずと弦楽カルテット=様々なアーティストサポートでも知られる気鋭のチェリスト・林田順平率いるRiPPER STRiNGSが登場し、まるでクラシックの演奏会のようにチューニングを始める。一息ついて客電が落ちてオーディエンスの歓声が武道館を包む。弾むピチカート、不興和音一歩手前のようなスリリングなアルペジオがハーモニーを重ねて静かに始まったRiPPER STRiNGSのセッションプレイは、いつしか聴きなじみのある旋律を主題に変奏され、ステージ後方から放たれるライトの中にシルエットになったLiSAの姿が。無音の中で大きく息を吸い込み「明け星」を切なげに歌い出すとストリングスが静かに寄り添い、エレキギターとパーカッションが合流。リズムレスなサウンドにのせて、限りなく力強く伝わってくる“音楽”のパワー。LiSAがやりたかったことはこれなのか!と合点がいく。
さらにここで驚かされたのが、ライティングだ。LiSAの歌声が深く強く、どこまでも切なく喪失を歌うなかで、客席の赤いペンライトの海を反射するように、ドットイメージの赤いトライアングル形の光の“カケラ”達が、ステージの真ん中に立つ彼女の頭上から1つ1つ降り、LiSA周りを埋めていく。出来上がったのは彼女を取り囲む大きなトライアングル。朗々と響くLiSAの歌声に呼応するように、赤から白、青へと輝きを変えていく。断たれた三角の“カケラ”は、一度は大きなトライアングルを作り上げるが、「明け星」が終わると何事もなかったように霧散した……。
そしてもう1つ気がつく。“~i SCREAM~”もそうだったように、ここ数年、大会場のライブでは巨大なスクリーンにムービーでストーリーが語られるのが定番だったが、今日はそれがまったくなかった。そんなことを考えていると、ギターが「一斉ノ喝采」のリフを激しく掻き鳴らし、それまでの静寂を破って「武道館―!」とLiSAが叫ぶ。バンドの後ろにデカデカと飾られた四角、菱形、丸をかたどった大きな電飾が、観客の目を突き刺すようにビカビカと光り出すと、喜びを超えた大歓声と「Oh~Oh~Oh~」の雄叫び、そして大合唱が武道館を揺らす。
早くもクライマックスに引き上げられたような熱を浴びて、LiSAがライブタイトルと共にこう告げる。「ライブで全部全部、切り開いて、切り飛ばして、鬱憤を飛ばしていく準備はいい?最高に楽しんでいきましょう、ピース!歌ってー!」。自身もペンライトを手にしたLiSA。彼女の歌に重なるシンガロング。オーディエンスの声の勢いはそのまま、「一緒に行こう!L・D・P!」の言葉と共に次の「LiTTLE DEViL PARADE」を揺らす。
お馴染みの“わんタンにゅーメンズ”――ゆーこー(柳野裕孝/ba)、PABLO(g)、いくちゃん(生本直毅/g)、ゆーやん(石井悠也/ds)、あっきー(白井アキト/key)、Nona*(岩村乃菜/cho、per)が躍動し、いつも通りのLiSAとのデートが始まるが、その躍動の風景にはいつもと違う予感がある。めくるめく白い光を放ちまくる電飾以外に、余分な飾りはない。武道館を日本一デカいライブハウスに例えたバンドがあったが、まさにそれだ。LiSAの歌と輝かしい音が空間のすべてを支配する。
大歓声を浴びて、LiSAがゆっくりと会場を見渡す。「ただいま武道館!」の言葉に続けて、「もう今、最後の曲かと思った、もう“ばいちー!”って帰ろうかと思った。3曲にしてハイボルテージですね!」とオーディエンスに賞賛を送る。昨日からの2daysは、平日だというのに立ち見が出る満員御礼。元気いっぱいの客席に感謝を述べて、さらに声を張り上げる。
「楽しむ準備はいい?鬱憤もイライラも全部全部切り裂いて楽しむ準備はいい?」
LiSAとLiSAッ子の合い言葉「ピース!!」と声を合わせて高々とVサインを掲げると、ヒリついたデジタル音で「EGOiSTiC SHOOTER」のイントロが響き、沸き上がるどよめき! PABLOといくちゃんが前に走り出てLiSAが野太いシャウトを放って頭を振り、「全員声出せ!」と煽って「She」へとなだれ込む。電飾の灯りは陰ることなく、暗転も挟まずにひたすら客席を煽り続ける。それまでのナンバーから少しテンポダウンする「ロストロマンス」でも、LiSAが放つエネルギーは衰えない。愛の迷路にはまった“女性”のやるせなさを歌った「She」のエンディング。切り裂いた布をはぎ合わせたような白いドレス、物憂げな表情で両手を広げて肢体をゆらがせたLiSAは、まるで十字架に貼り付けられた殉教者のようにも見えた。その物憂げさを振り切るように放たれたのは「Brave Freak Out」。ステージから延びた上手・下手のウイングに進んで、スタンド客席を間近で煽るLiSAに、すでに汗をかいたオーディエンスの手がいくつも伸びる。
激しい4曲を一気に駆け抜けてLiSAが消えると、暗くなったステージの上空に稲光が走り、あっきーのスタティックなピアノソロの後ろで、ゴロゴロと雷が鳴る。不穏なムードに包まれるステージに目をやると、RiPPER STRiNGSがいつの間にかスタンバイ。ゴシックな演奏を重ねていく。そして階段の上に歩いていったLiSAのもとに、2人のメイドが歩み寄る。LiSAがそれまで着ていた白のドレスをサッと脱ぎ捨てると、メイド達が黒いロングドレスをLiSAに着せる。ダークな美しさをたたえた黒き魔女が降臨し、カルテットがエモーショナルに鳴り響き、ここからは心の闇を奏でる魔の儀式が始まる。
心に刺さった“カケラが痛いよ”と歌われる絶望に満ちた「ASH」。無邪気で毒に満ちた病んだ愛情を注ぎ込む「うぃっちくらふと」では、メイドが魔法をかけられて姿を変えたという2体のマネキンに、LiSAが妖しく絡む。さっきまでの激しさが嘘のように、魔女の儀式は粛々と進み、歪んだオルガンのノイジーな音色が儀式を断ち切った。ドラマチックな暗転。林田のチェロがアグレッシブなソロを奏で、オープニングと同じように美しいピアノだけを伴奏にLiSAが切々と「炎」を歌い出す。
「明け星」からここまでのセットリスト。それらのどの曲にも、LiSAが“~RiP SERViCE~”というタイトルに込めた、切り裂くべき鬱憤とどうにもならない悲しさが描かれていた。“今夜も独り悪夢を見る”からこそ“蹴り飛ばせよ”と歌われる「一斉ノ喝采」。“ココロの泣いてる声が聴こえる?”と問いかける「LiTTLE DEViL PARADE」。「EGOiSTiC SHOOTER」では“今更 何言われたって 閉ざす閉ざすわ ヒトリボッチ”だと言い、「She」では“もう、勘弁して!これじゃ全てキミの筋書き通り Hate you!”と唾棄する。“嫌になったのは貴方に染まりすぎた私”だと内省する「ロストロマンス」。“差し迫った焦燥感”に襲われていた「Brave Freak Out」。そして絶望から闇(=病み)へと向かう「ASH」と「うぃっちくらふと」。そんな切り裂いてきた悲しみと苦しみを振り切ろうと「炎」は、「明け星」にも差し込んでいた一筋の光を追い掛ける……。苦しみと悲しみを露わにしてきた円環が、ここで1つ閉じたような気持ちにもなる。
これまで、映像を媒介にライブに込めた物語を綴ることの多かったLiSAのステージ。“~RiP SERViCE~”はその物語を、歌と演奏だけでシンプルに語ることを選んだことが、よくわかる。もう1つ特筆すべきは、「明け星」で色づく三角のカケラ達が出現して以降、ライティングの演出に一切、“色”が与えられなかったことだ。ここまで全ての楽曲は、白い電飾の光だけで綴られた。しかもその白は、透き通った真っ白い美しい光でもない。裸電球の色そのまま、薄曇った濁りを秘めた剥き出しの灯りだ。色で飾らないシンプルな照明演出は、LiSAとオーディエンスが心を裸にし、感情を露わに切り刻むために、周到に用意されたものに違いなかった。
ここでピアノをBGMに、「今日は、14周年をお祝いするこの日本武道館。来てくれて本当にありがとうございます」と、涙で声を詰まらせながらLiSAは語る。
「いい日になるといいな。みんなの鬱憤、全部飛ばしたいな。驚かせたいな、喜ばせたいな。そんな気持ちでステージを14年間作ってきました。ごめんなさい、今すごく涙が溢れてるんですけど……歌に導かれながら、みんなの演奏に導かれながら、みんなの声とか表情とか、その時に初めて体験させてくれる色んな瞬間を受け取って、こうして涙が溢れたり、信じられないくらいすごいところに行ったり。時には、切り刻んで忘れてしまいたいような思い出が増えたり。それでも14年、このステージで、みんなと色んな瞬間を紡ぎながらここまで来れたことを、本当に幸せに思います」
涙をぬぐい、泣き虫の彼女に送られる声援に応えて、温かい笑顔を見せるLiSAが次に届けたのは、ファンへの感謝がそのまま歌になったような「サプライズ」。いくつもの悲しみに襲われ、幸せを無くしてきた時も、“キミがくれた喜びが 輝きを増しながら 暗くひび割れた心まで 宝石箱に変えてしまうんだ”と歌う。温かな歌声、温かなメロディ。今まで白一色だったライティングに、ほのかなオレンジ色が混じる。LiSAは歌いながら左の手の平を大きく広げ、直接みんなとは触れ合えないからこそ、下手、上手とフロアをなぞるように手を伸ばす。歌い終えたLiSAは自分の体に手を回し、この曲に込めた大切な想いをギュッと抱きしめた。
ここまで切り裂かれてきた楽曲=鬱憤のカケラ達にも、その先へ向かうためのLiSAのメッセージはすべてに込められていた。それは“自分らしくあること”と“進む先を自分自身で決めること”。それは、LiSA自身が14年間のキャリアの中で、いつも戦い、勝ち取ってきたものだ。LiSAが届ける物語は、次の曲でカケラたちの想いを新たなステージに向けて再生し、昇華する。その曲こそが“覚醒する者”をタイトルに掲げた「ReawakeR (feat. Felix of Stray Kids)」だった!今まで白一色に染められていたステージに、青いライトが射し、「明け星」で消えたカケラ=トライアングルのドットイメージに再び命が宿ってピンク、パープル、グリーンと色を変え、強烈なビートに操られるようにフォーメーションを変えてLiSAの周りをぐるぐると蠢めき、LiSAは激しく足を振り上げ、流れてくるフィリックス(Stray Kids)のラップとコラボしながら、どこまでも力強く歌声を響かせた。
SHARE