1月13日、東京オペラシティコンサートホールにて南條愛乃によるオーケストラコンサート“花奏歌II~Kanade Uta~”が開催された。2022年7月にロームシアター京都 メインホールで開催されて以来となる、南條の楽曲をオーケストラと共に堪能できるというスペシャルなコンセプトの“花奏歌”。普段バンドサウンドで慣れ親しんできた南條の楽曲および彼女の歌声を、豪華なオーケストラと共に心ゆくまで堪能し、この日しか味わうことのできない至福の時間となったこの日。そこには荘厳な空間の中で凛と立ちながら、一方でいつものように観客との距離感の近い南條の姿があった。今回は昼夜に渡って行われたコンサートから、昼公演の模様をレポートしよう。
PHOTOGRAPHY BY 江藤はんな(SHERPA+)
TEXT BY 澄川龍一
この日の会場となった東京オペラシティコンサートホールは、1997年にオープンした、東京有数のコンサートホール。ホール内に入ると木製の内装で、シューボックス型という巨大感のある空間、そして四角錐型の高い天井を見れば、これまで行き慣れたライブ会場とは異なる体験が待っているのだと少しの緊張感とそれ以上期待に胸が膨らむ。普段のライブTシャツ姿ではなく若干フォーマルな姿も見られる観客も、どこか落ち着いた雰囲気でその時を待っているようだ。
そしていよいよ開演を迎えると、ステージ上に続々とこの日の演奏を担当するパシフィックフィルハーモニア東京とパーカッション担当のドラマー・海老原 諒が登場。その間、観客は歓声ではなく大きな拍手で迎えるのだが、その拍手が延々と続くほどに多くの奏者が広いステージを埋め尽くしていく。ステージ下手には鍵盤打楽器とパーカッション、バイオリン。下手にはヴィオラやチェロ、コントラバス。ステージ後方には木管楽器がずらっと並ぶ。当然のことながら、普段観ているライブにはない大人数だ。そしてステージ中央に置かれたグランドピアノとマイクの前に、この日の音楽監督とピアノ演奏、そして指揮を担当する大嵜慶子と、コーラス担当のSAK.がステージに登場し、“花奏歌II”の演奏者が揃った。改めて圧巻のステージ上だ。そして、調音からのわずかな静寂のあとに、ピンクの花をあしらったクリーム色のドレスに身を包んだ南條がステージ中央のマイクスタンドの前に立つ。再び鳴った万雷の拍手が止むと、ピンと張り詰めた空気感のなかで、木管楽器とピアノの優しい音色が「believe in myself」のイントロダクションを奏でる。それに続くように、南條が“負けないよ 心の弱さに”と冒頭のフレーズを重ねて、その声が徐々に色を帯びていくように力強さを聴かせ始めたところで、弦楽器や打楽器も加わっていく。その音は実にリッチで、ふくよかなアンサンブルとなって耳に優しく滑り込んでいく。とにかく心地良い、というのが第一印象で、南條の歌声はしっかりとした輪郭を持っているようで、より彼女の凛々しい表情を感じ取ることができた。
たった1曲だけでとても豊かな音の情報を噛み締めることができる、贅沢な心地のなか、続いてスタートしたのは「黄昏のスタアライト」。ピアノの高速フレーズから始まるオーケストラアレンジは、エレクトロニックでアッパーな原曲のダイナミズムを活かしながらより流麗な美しさを誇っている。そして南條のボーカルもまた低域から高域まで前面に出て聴こえる。この曲に限らず、この日の音像としては非常にゴージャスなのだけど、より南條の声が際立って聴こえる感触だ。
そんな、緊張感溢れる冒頭2曲を終えて最初のMCへ。MC中の南條はというと、「……こんにちは」と挨拶をしたあと、「緊張しています?私はしています!」といつものような人懐っこさを感じさせる。客席から笑い声も起こるなか「普通に観ていてくださいね、いたって普通の私なので」とはにかむ姿は、やはり南條愛乃のステージなのだと実感させる。南條が「緊張は一生ほぐれない」と言いつつもMCで緊張も少しはほぐれたのか、続く「ゼロイチキセキ」では軽やかな演奏のなかで明るい表情も見られる。途中で観客に声、ではなくクラップを促したり、体を揺らしながら歌う姿はいつものライブでの親しみやすさを感じさせる。そこからの「今日もいい天気だよ」もまた、原曲の優しい肌触りがより増幅されるような心地良い空間が醸成されていく。SAK.のコーラスとも息の合った、南條の優しい歌声がまた印象的だ。
歌っている南條自らも「すごい……素敵です……」とうっとりしながらのMCのあとは、この日のために新たにオーケストラアレンジしたという「光」を披露する。オリジナルでも聴かれるピアノのイントロのあと、弦楽器を中心としたアンサンブルが続いていく。このひっそりとした、しかし壮大さも感じさせるアレンジがまた絶品で、エモーショナルな南條の歌唱をより際立たせる、素晴らしいパフォーマンスとなった。そこからの「and I」もまた素晴らしく、南條のボーカルもより聴くものの近くで鳴っているような、穏やかで慈悲深い優しさに満ちていた。
続くMCで「今日は、私のレーベルメイトの黒崎真音ちゃんの誕生日です」と告げたあとに鳴らされたのは、もちろん彼女が南條に歌詞を提供した「Lonely Voyage」だ。曲が始まると、イントロを鳴らすピアノ、続いて“――泣いてる 声――”と歌うSAK.、そして南條とコンサートマスターのバイオリン奏者という順番で、ステージ上空から淡い紫色のスポットライトが当たっていく。ゆったりとしたテンポで、1つ1つの言葉を噛み締めるように紡いでいく南條の歌声はアンサンブルと同期するようにゆっくりと、確かに高揚していく。そして最後にはオーケストラの音が消えたなかで、“また一緒に歌おう”と歌い、そのあとSAK.が同じフレーズをリレーしていく。美しくもピュアな思いが穏やかに流れる、感動的なハイライトとなった。
続く幻想的な鉄琴とピアノが印象的な「余韻」では、南條の優しい歌声にSAK.と大嵜が重層的なコーラスワークを披露し、ゆったりとした浮遊感を聴かせる。そしてMCを挟んでからは、一転してオーケストラのボリュームを効かせたアグレッシブなゾーンへと突入。大迫力のオーケストレーションを聴かせた「青星」では南條のボーカルもまた力強さを増していく。そしてこちらも新たにオーケストラアレンジされた「閃 -Sen-」では、ケルティックな要素もある原曲がより壮大に、まるでRPGの戦闘音楽のようにバトル感が増したスケール感で披露される。本編最後は「trust myself」で締め括る。冒頭で披露された「believe in myself」のアンサーであるこの曲が最後という構成の妙味も感じさせつつ、ここまで積み上がったオーケストラとのコラボの集大成ともいえるかのように、アンサンブルがゴージャスに、海老原のパーカッションが際立つ、よりビート感の強まったアレンジはクライマックスにふさわしい。およそ1時間強という時間ながらそれ以上の音の情報量を受け取った、実に濃厚な本編となった。
アンコールでは、南條も本編の緊張からよりほぐれたのか、観客とのコミュニケーションを楽しんでいる様子。そんな和やかな雰囲気から始まったのは、こちらも新たにアレンジされた「「だけど」」。原曲はピアノ伴奏のみでの歌唱だが、今回はオーケストラが加わってより豊かに、そして南條のボーカルもさらに哀切が加わったかのようで、ぐっとエモーショナルな雰囲気が増していく。そこからこの冬にぴったりな「A Tiny Winter Story」でほっこりと、しかしやはりリッチなムードを受け取ったあとは、最後は「皆さんとまた新しい“軌跡”が増えたということで」と告げて「ジャーニーズ・トランク」を披露。オーケストラ、そしてクラップが鳴るなかで躍動感溢れるボーカルを聴かせる南條。そして演奏が終わると同時に小さくVサインを覗かせ、この公演を多幸感たっぷりに締め括った。
オーケストラという視覚的にも聴覚的にも大きい、まさに普段体験できることのないスケール感で南條愛乃の音楽を味わうことができたこの日。オーケストラのゴージャスな音像を楽しむことができた一方で、それによって彼女の歌声、そして音楽そのものをより濃い輪郭で耳にすることもできた。そんな緊張感もあるなかで時折見せる表情や、大嵜や観客と気さくに話す姿はやっぱり南條愛乃のステージだと思わせるものだ。この日もまた南條愛乃という旅の道中、その1つであることを実感させたあとは、一気に編成をシンプルにした“南條愛乃 Acoustic Live Tour Vol.2 14/47~わたしから会いにいきます!”が控えている。驚きと、“いつもの”喜びに満ちた南條愛乃との1年が今年も幕を開けたのだ。
<セットリスト/昼公演>
M01. believe in myself
M02. 黄昏のスタアライト
M03. ゼロイチキセキ
M04. 今日もいい天気だよ
M05. 光
M06. and I
M07. Lonely Voyage
M08. 余韻(※夜公演は「breathe in」)
M09. 青星
M10. 閃 -Sen-
M11. trust myself
―ENCORE―
M12. 「だけど」(※夜公演は「ヨルゴト」)
M13. A Tiny Winter Story
M14. ジャーニーズ・トランク
●リリース情報
南條愛乃 デジタルシングル
『ダンデライオン』
2025年1月29日(水)配信開始
各配信サイトはこちら
https://lnk.to/yoshino_nanjo_dandelion
●ライブ情報
南條愛乃 Acoustic Live Tour Vol.2 14/47~わたしから会いにいきます!~ supported by animelo
2/22(土)【長崎県】長崎DRUM Be-7 17:30開場/18:00開演
2/23(日・祝)【佐賀県】佐賀GEILS 16:00開場/16:30開演
3/1(土)【群馬県】前橋DYVER 17:30開場/18:00開演
3/2(日)【茨城県】水戸LIGHT HOUSE 17:30開場/18:00開演
3/15(土)【奈良県】奈良EVANS CASTLE HALL 17:00開場/18:00開演
3/16(日)【三重県】四日市CLUB ROOTS 16:30開場/17:00開演
4/12(土)【富山県】富山MAIRO 17:00開場/17:30開演
4/13(日)【福井県】福井CHOP 16:30開場/17:00開演
4/19(土)【山梨県】 甲府KAZOO HALL 16:30開場/17:00開演
4/20(日)【長野県】長野CLUB JUNK BOX 17:00開場/17:30開演
5/3(土・祝)【青森県】青森Quarter 17:30開場/18:00開演
5/5(月・祝)【北海道】札幌PENNYLANE24 15:30開場/16:30開演
5/17(土)【愛媛県】松山WstudioRED 16:30開場/17:00開演
5/18(日)【徳島県】徳島club GRINDHOUSE 15:30開場/16:00開演
南條愛乃 公式サイト
http://nbcuni-music.com/yoshino_nanjo/
南條愛乃 公式X
https://twitter.com/nanjolno
南條愛乃 Official YouTube Channel
https://www.youtube.com/channel/UCFJORT2GGeNsKKLCf3BqSEQ
オフィシャルファンクラブ「ごきんじょるの友の会」
https://www.gokinjolno.jp/
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