前島麻由が『悪役令嬢レベル99 ~私は裏ボスですが魔王ではありません~』のオープニングテーマとなる「LOVE or HATE?」をデジタルシングルとしてリリース。ハードさを兼ね備えたエレクトロニックなダンスチューンだが、乗せられた歌詞には日々直面する社会との軋轢も封じ込められ、前島麻由は彼女ならではのボーカル力でタフ&繊細に歌っている。その裏側で前島麻由は何を思ったのか? 楽曲に対する想いを聞く中で、自身初の女性主人公アニメタイアップを得たことで作品&楽曲に自らの女性性を投影して歌い上げる、そんなディーヴァの姿が見えてきた。
INTERVIEW & TEXT BY 清水耕司
――まずは主題歌のお話をいただいたときの感想を教えてください。
前島麻由 実は、女の子が主役のアニメで主題歌を歌うのは初めてなんですよね。そこがすごく嬉しかったことをよく覚えています。いただいた楽曲にも女性が主人公だからこそのキャッチーさがあって、今まで歌わせていただいていた曲とはまた違う雰囲気を感じました。なので、これまでとのギャップも皆さんに楽しんでいただけるんじゃないかな、というワクワク感もありましたね。
――女性主人公のアニメで主題歌を歌えることの嬉しさ、というのは? 以前から憧れや夢みたいなものがあったんですか?
前島 自分自身が女性であるというところは勿論なんですけど、実は私が幼稚園から大学まで女子校育ちで、共学に通ったことがないんですよ。
――あぁ、なるほど。
前島 それもあってか、現実にはないファンタジーな世界観ではありますけど、女性が主人公というだけで今までとは違う気持ちが入りましたし、こんなにも親近感を感じるものかと思いました。それに今回の楽曲に対して、誰しも日々の中で辛いことに直面している、むしろそれを言い訳にできない社会が存在する、という繊細な心の機微が歌詞に現れていると思いました。そういった「負の感情」は男女に限らずの部分ではありますけど、内容をさらに深掘りすることですごく共感できる歌詞になっていると感じたんですね。なので、そういった楽曲を女性の一人として、しかも女性が主人公のアニメ主題歌として歌うことができるということはすごく嬉しかったですね。
――女性が主人公だからこそ、「髪をちょっとなびかせたら」といった女性性のわかりやすい表現も入っていますね。その意味では、前島さんはどのように歌おうというプランでしたか?
前島 私も、女性を連想させるようなワードがたくさんある曲も初めてだな、とは思いながら、楽しんで歌詞を読ませていただきました。ただ、歌詞の感情に反して明るく歌う部分と、歌詞通りに感情を表現する部分が結構パッキリと分かれた楽曲だなとレコーディングをしながら感じていました。キャッチーなメロディーのところでは内容が弱さを歌っていても明るく歌ってみたり、逆に歌詞の繊細な感情を声色でも出してみたり、ということを意識していて。なので、完成した音源を聴き返しているとレコーディングのときのことをすごく思い出しますね。
――感情を乗せた部分はどのようなイメージを浮かばせながら歌っていたんですか?
前島 Aメロと、2番が終わったあとのDメロでは繊細な感情を前に出していて、少しポツポツと歌う感じにしているんですけど、それは、集団で生きていく人間という種族の自分だけれどもその社会の中でポツンとたたずむ、みたいなところを出す感覚でした。逆に、サビやBメロは、そういった社会の中で足並み揃えて生きていかないといけない自分、みたいな。強がっている自分を表現するように、強めに明るく歌ってみました。
――そのあたりはレコーディングで何度もトライされたんですか? 悪戦苦闘したとか。
前島 AメロやDメロのポツポツも、それ以外の明るくちょっと強めにも、歌ってみたら自然とそういう歌い方になったという感じでしたね。曲を聴いて、歌詞を読んで、考えながら意図的に歌った、というわけではなかったです。なので多分、曲と歌詞から受ける印象がフィーリングとして歌声に自然と現れたんだろうと思います。そういう意味では悪戦苦闘したところはなかった気がします。
――レコーディングで印象に残っていることが他にもあれば教えてもらえますか?
前島 私の癖で、結構がなるところがあるんですよ。でも、そういうのが入ると女性的な部分というか可愛らしさみたいなものが消えちゃうんじゃないかと心配していたんですけど、入ったものを聴いてみたら強がる女性みたいな部分とそうじゃない部分とがコントラストになっていて、いいスパイスになっていると思えましたね。それで個人的に安心したことをよく覚えていますね。
――そこも意図してがなってみたわけではなく?
前島 自然と出ちゃってましたね。ディレクションで、がなりはなしで歌ってほしいと言われるかとも思っていたんですよ。でもそんなこともなく。その場にいるみんながコントラストのスイッチになっていると認識してくれたのかと思えて、すごく嬉しかったですね。
――楽曲は洋楽テイストのあるダンスポップですが、前島さんがスムーズに入り込めたということは音楽のルーツや素養としてそういったところがあるのでしょうか?
前島 そうですね。幼い頃から洋楽を聴いて育ったので、自分自身で歌うのも邦楽より洋楽が好きでした。リズム感とか縦ノリな感じとかメロディーラインとかも。なのでスッと入っていけたのかもしれないと思います。MYTH&ROIDの頃から知っている皆さんからするとギャップを感じるような楽曲ですけど、前島麻由のルーツなところを考えるとむしろ繋がりを感じる楽曲かもしれないですね。それはお話ししていて今思いました。そういう意味では「闇を切り裂く」みたいな歌詞も入ってないですし、異世界転生をしたことがない方とか、普段アニソンを聴かない方にも共感しやすい曲になっていると思いますね(笑)。
――そうですね。なかなか転生した人はいないでしょうからね(笑)。
前島 それに、『オーバーロード』にしても『Re:ゼロから始める異世界生活』にしても『究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら』にしても『異世界おじさん』にしても、意外と共感できたり応援したくなったりするポイントをどこかに感じるんですよ。ありえない設定のはずの異世界転生物だけど主人公に親近感が湧いたり応援したくなったり、という等身大な感じがどこかしらで垣間見られるのが、私が関わらせてもらった作品の共通点だと思っていますね。私も、楽曲やMVの印象だと強い姉ちゃんに思われがちなんですけど、歌詞は暗いし、喋ったらこんなだし、ギャップがあるタイプなので、そういう意味では自分と作品の共通点はあったんですよ。楽曲のなかでの等身大感はあまりなかったところ、今回の「LOVE or HATE?」ではその等身大感が曲にも出ているので。そこは(主人公の)ユミエラ(・ドルクネス)ちゃんのおかげかな、と思っています。そういった楽曲を、初めての女の子主人公のアニメ主題歌で歌わせていただく、というのはいろいろと重なって実現したことなので、すごく嬉しく思っています。
――主人公にも楽曲にも親近感を持てると、感情移入もしやすいので歌にも影響が出てきますよね。
前島 本当にそうだと思います。感情の機微に関しても、今までとは違う表し方をもしかしたら無意識にしているかもしれません。そういうところも含めて、アニメも「LOVE or HATE?」も楽しんでいただけたらいいと思っています。
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