2003年に設立され、以来第一線で日本のアニメシーンを牽引してきたアニプレックス。その20周年を記念する音楽イベントが1月7日、東京ガーデンシアターにて行われた。ソニーグループとアニメーションのかかわりは、アニプレックス設立以前からもあるが「ーTHANXー」と題された今回のイベントはあくまでアニプレックス作品のみにフィーチャーしたもの。それでも、その作品群は金字塔として、あるいは後続作品のマイルストーンとしてアニメ史に燦然としている。20年を3時間に圧縮した高濃度のイベントの模様をお届けする。
TEXT BY 田中尚道
オープニングは角野隼斗(かてぃん)のピアノメドレーから。「紅蓮華」「oblivious」「My Soul,Your Beats」「メリッサ」「君の知らない物語」「コネクト」「secret base ~君がくれたもの~」「oath sign」「炎」「色彩」「残響散歌」と紡がれたこのメドレー。もはや誰が、どの作品がと語る必要もないほどに世に知られ、今なお歌い、あるいは演奏され続ける時代のアンセムである。それと同時に、会場では、各曲を聞いていたころの記憶がフラッシュバックしていたことだろう。ロスレスにその時代の記憶を呼び起こしリンクすることこそ、音楽が持つ力の1つなのだから。
オープニングののちトップバッターを飾ったのは、LiSA。2010年『Angel Beats!』の劇中バンド「Girls Dead Monster」のボーカル、ユイとしてデビュー、2011年『Fate/Zero』のOPテーマ「oath sign」でソロデビューした彼女は、以降をアニプレックス(以下、アニプレ)作品と共に歩んできた。2010年刊行のリスアニ!とも関係が深く、創刊以来ずっと弊誌がお世話になっているアーティストでもある。彼女が披露したのは、『魔法科高校の劣等生』から「Rising Hope」 、キリト役松岡禎丞の「リンク・スタート」から始まる「crossing field」(『ソードアート・オンライン』)、そして「Crow Song」(『Angel Beats !!』)。
アニソンロックシンガーの面目躍如といったステージのあとは茅野愛衣が朗読するめんまからみんなへの手紙を挟み、Galileo Galileiの「青い栞」(『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』)、神谷浩史の朗読とAimerの「茜さす」(『夏目友人帳』)、川澄綾子、杉山紀彰、下屋則子の朗読と「Brave Shine」(『Fate/stay night [Unlimited Blade Works』)「春はゆく」(『Fate/stay night [Heaven’s Feel』)と続く。バックに映し出される映像だけでも破壊力が抜群だが、これにキャストの朗読、生歌が合わさることでさしずめ固有結界に捕らわれたかの如くなす術がない。演出の1つ1つが容赦なくエモーションを的確に撃ち抜いてくる。
いささかしっとりしたところで、上坂すみれと神谷浩史のコント仕立ての朗読からMAISONdes feat.花譜, ツミキの「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」である。キレの良いテクノポップは『うる星やつら』のEDテーマとしてだけでなく、YouTube界隈を賑わせたことも記憶に新しい。
会場の雰囲気を変えたところで、高坂桐乃(竹達彩奈)、黒猫(花澤香菜)によるビデオレター形式の映像のあと、ClariSのメジャーデビュー曲である「irony」へ。ビデオレター内での『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の放送から13年との発言に衝撃を受けた。そして間髪入れずに『リコリス・リコイル 』のOPテーマ「ALIVE」。間奏時に差し挟まれるのは、安済知佳と若山詩音の朗読。物語のクライマックス、たきなが感情を爆発させる延空木でのシーンを再現したが、あの頃を思い出すのに新作、旧作の差はないのだと改めて実感する。
2003年に設立されたアニプレックス最初のヒット作が2003年10月より放送された『鋼の錬金術師』である。当時「月刊少年ガンガン」にて連載されていた本作は、放送と同時に絶大なる人気を獲得。発売日に書店から「ガンガン」が消えるという事態となり、マンガ雑誌としては異例の重版が掛かったことを記憶している。そんな作品のスタートを飾ったのが、最初のOPテーマであるポルノグラフィティの「メリッサ」。エドワード・エルリック(朴璐美)、アルフォンス・エルリック(釘宮理恵)によるナレーションを新録した本編映像ののち、あの特徴的なイントロが鳴る。岡野昭仁のボーカルは、時間の経過を感じさせないほどあの頃のまま。なお、映像にショウ・タッカーがいるあたりも実にエモい。
次いでステージに上がるアーティストはUVERworld。彼らはアニプレックス作品に多数の楽曲を提供しているが、特に『BLEACH』、『約束のネバーランド』などジャンプ作品との関わり合いが深い。今回披露したのは「CORE PRIDE」と「Eye’s Sentry」。「CORE PRIDE」は『青の祓魔師』第一期のOPテーマ、「Eye’s Sentry」は、現在放送中の『青の祓魔師 島根啓明結社篇』のOPテーマである。そして『BLOOD+』のOPテーマ「Colors of the Heart」へと続いていった。
2009年に放送が開始された西尾維新の『物語』シリーズは、2016年に劇場公開された『傷物語』三部作を再編した『傷物語 こよみヴァンプ』が2024年に劇場公開されるなど、今なお高い人気を誇り、アニメ化も盛んである。そんな『物語』シリーズからは、第一作の『化物語』、「つばさキャット」のOPテーマ「sugar sweet nightmare」。各エピソードのヒロインがOPテーマを歌う形であったため、堀江由衣演じる羽川 翼フィーチャーの映像が流れる。その映像のあと、一夜限りの特別演目と題された朗読パートが始まる。壇上には神谷浩史と斎藤千和。阿良々木暦と戦場ヶ原ひたぎである。堀江=翼の歌をこの二人の朗読で挟むのは、なるほどの一言。
アニプレックス設立以前の1996年、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントという社名だった頃、ソニーグループ制作の最初のテレビアニメとして放送されたのが『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』であった。2023年から再アニメ化が始まっており、このアニプレックスの原点とも呼べる作品からは、Reolの歌うEDテーマ「切っ先」。斉藤壮馬と高橋李依による朗読は剣心と薫の出会いと別れのシーンである。
再び会場をアゲるべく登場したのはしょこたんこと中川翔子。次なる曲は『天元突破グレンラガン』から「空色デイズ」だ。なお、1クール目は1番を、2クール目は2番をOPテーマとしていたため、通して歌うと物語全体を総括できるのというのはちょっとした発見である。朗読は小西克幸。カミナの名乗りから、名言に至るまで余すことなく詰め込んだそれは、シリーズ構成を務めた中島かずきの五七調のセリフと相まって、古びれることなく胸に響く。
会場のボルテージが上がり切ったところで流れる映像は『銀魂』の万事屋の外観。銀時、神楽、新八の3人による攻めたナレーション、キャラは一切映さない徹底ぶりは完成されたフォーマットで妙な安心感がある。クールごとにOP、EDテーマを変え、さらに長らく放送されていた『銀魂』は、その楽曲も膨大にあるが、この日披露されたのはDOESの「曇天」である。軽妙な前説と骨太なロック、このコントラストもまた『銀魂』らしさである。
次いで登壇したのは、古賀 葵と古川 慎。この2人と言えば、恋愛頭脳戦である。2人の掛け合いのあとは、アニソン界の永遠の大型新人・鈴木雅之と元ハロー!プロジェクト・鈴木愛理による『かぐや様は告らせたい』2期のOPテーマ「DADDY ! DADDY ! DO !」。半世紀に及ぶ芸歴を誇る大型新人は、一方でラブソングの王様でもある。67歳という年齢を感じさせないその声量はさすがであった。
『うる星やつら』でもそうであったが、舞台が現代の作品は朗読パートもメタであることが多い。青山吉能、鈴代紗弓、水野 朔、長谷川育美の4人が語る物語は、結束バンドがアニプレックスの依頼で本イベントに参加するというもの。そこから間髪入れずOPテーマ「青春コンプレックス」へ。結束バンドの2曲目は長谷川からボーカルを引き継いだ青山が訥々と歌う「転がる岩、君に朝が降る」。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのカバーであり、原作者自らのリクエストで、物語のトリを飾る曲となった。なお、カバーの経緯は「リスアニ!」の記事に詳細が掲載されているため、ぜひチェックしてほしい。
イベントも残すところあとわずか。アニプレックス制作で社会現象を巻き起こした作品はいくつもあるが、やはりこの作品を外すわけにはいかない。蒼樹うめの描くかわいらしいキャラクターと、虚淵玄が書くハードなストーリーのアンバランスさで多くの視聴者を驚嘆させた『魔法少女まどか☆マギカ』からClariSの「コネクト」。悠木 碧と斎藤千和の朗読は、物語の核心である。ただし、ネタバレにならないギリギリの線を上手く攻めていたのは絶妙である。
そして、最後の作品『鬼滅の刃』のパートへ。トリがこの作品であることに異論がある者はいないだろう。宇随天元役、小西克幸が客席を煽る。カミナもそうだったが、啖呵がとにかくカッコいいのである。天元が出てきたのだから、曲はAimerの『残響散歌』。花江夏樹も加えての掛け合いが会場の温度を上げる。続くモノローグは『無限列車編』より、炭治郎が魘夢の見せる夢から覚めるシーン。怯懦を振り切る覚悟が胸を打つ。そしてLiSAの歌う「炎」へ。日本の歴代映画興行収入1位、2022年世界映画興行収入1位という輝かしい記録を持つ本作屈指の名場面が日野 聡と花江夏樹の朗読によってステージに顕現する。『鬼滅の刃』パートの最後にして、イベント最後の曲はもちろん「紅蓮華」だ。
エンドロールは、アニプレックスがこれまで制作してきた全作品のタイトルが躍る。そして最後に様々なキャラクターによる「ありがとう」の言葉で締め括られた。「ありがとう」は、もちろんファンに向けての言葉ではあるが、制作に関わった多くの人たちへの感謝でもある。アニプレックスの「ありがとう」が、次の20年も新しい感動と驚きをファンに与えてくれることだろう。
■ANIPLEX 20th Anniversary Event -THANX-
<SETLIST>
M01.20th Anniv. Piano / 角野隼斗(かてぃん)
M02.魔法科高校の劣等生|Rising Hope / LiSA
M03.ソードアート・オンライン|crossing field / LiSA|松岡禎丞(朗読)
M04.Angel Beats !|Crow Song / Girls Dead Monster(LiSA)
M05.あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない|青い栞 / Galileo Galilei|茅野愛衣(朗読)
M06.夏目友人帳|茜さす / Aimer|神谷浩史(朗読)
M07.Fate/stay night [Unlimited Blade Works]|Brave Shine / Aimer|川澄綾子・杉山紀彰・下屋則子(朗読)
M08.Fate/stay night [Heaven’s Feel]|春はゆく / Aimer|川澄綾子・杉山紀彰・下屋則子(朗読)
M09.うる星やつら|トウキョウ・シャンディ・ランデヴ / MAISONdes feat.花譜, ツミキ|神谷浩史・上坂すみれ(朗読)
M10.俺の妹がこんなに可愛いわけがない|irony / ClariS
M11.リコリス・リコイル |ALIVE / ClariS|安済知佳 ・若山詩音(朗読)
M12.鋼の錬金術師|メリッサ / ポルノグラフィティ
M13.青の祓魔師|CORE PRIDE / UVERworld
M14.青の祓魔師 島根啓明結社篇|Eye’s Sentry / UVERworld
M15.BLOOD+|Colors of the Heart / UVERworld
M16.化物語|sugar sweet nightmare / 羽川 翼(CV.堀江由衣)|神谷浩史・斎藤千和(朗読)
M17.るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-|切っ先 / Reol|斉藤壮馬・高橋李依(朗読)
M18.天元突破グレンラガン|空色デイズ / 中川翔子|小西克幸(朗読)
M19.銀魂|曇天 / DOES
M20.かぐや様は告らせたい|DADDY ! DADDY ! DO ! / 鈴木雅之 feat.鈴木愛理|古賀葵・古川慎(朗読)
M21.ぼっち・ざ・ろっく! |青春コンプレックス / 結束バンド(Vo.長谷川育美)|青山吉能・鈴代紗弓・水野朔・長谷川育美(朗読)
M22.ぼっち・ざ・ろっく! |転がる岩、君に朝が降る / 結束バンド(Vo.青山吉能)
M23.魔法少女まどか☆マギカ|コネクト / ClariS|悠木碧 ・斎藤千和(朗読)
M24.鬼滅の刃 遊郭編|残響散歌 / Aimer|花江夏樹・小西克幸(朗読)
M25.鬼滅の刃 無限列車編|炎 / LiSA|花江夏樹・日野聡(朗読)
M26.鬼滅の刃 竈門炭治郎 立志編|紅蓮華 / LiSA|花江夏樹(朗読)
●イベント情報
ANIPLEX 20th Anniversary Event -THANX-
会場:東京ガーデンシアター
配信先
https://stagecrowd.live/20th_aniplex/
■配信出演者:
<アーティスト>
Aimer、Galileo Galilei、ClariS、結束バンド、鈴木雅之 feat. 鈴木愛理、角野隼斗(かてぃん)、DOES、中川翔子、MAISONdes feat. 花譜・ツミキ、ポルノグラフィティ、LiSA、Reol
<キャスト>
青山吉能、安済知佳、上坂すみれ、神谷浩史、茅野愛衣、川澄綾子、古賀葵、小西克幸、斉藤壮馬、斎藤千和、下屋則子、杉山紀彰、鈴代紗弓、高橋李依、長谷川育美、花江夏樹、日野聡、古川慎、堀江由衣、松岡禎丞、水野朔、悠木碧、若山詩音
© Aniplex Inc. All rights reserved.
ANIPLEX 20th Anniversary Event -THANX- 公式HP:
https://20th.aniplex.co.jp/
アニプレックス公式HP:
https://www.aniplex.co.jp/
SHARE