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2023.03.27

ReoNaが逃げた先で見つけた“生きる意味”――初の日本武道館単独公演“ReoNa ONE-MAN Concert 2023「ピルグリム」at日本武道館 ~3.6 day 逃げて逢おうね~”を振り返る

ReoNaが逃げた先で見つけた“生きる意味”――初の日本武道館単独公演“ReoNa ONE-MAN Concert 2023「ピルグリム」at日本武道館 ~3.6 day 逃げて逢おうね~”を振り返る

絶望系アニソンシンガー・ReoNaにとって初の日本武道館単独公演“ReoNa ONE-MAN Concert 2023「ピルグリム」at日本武道館 ~3.6 day 逃げて逢おうね~”が、3月6日に開催された。

2018年4月、TVアニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』(以下、『GGO』)に登場する劇中アーティスト・神崎エルザの歌唱を担当し、神崎エルザ starring ReoNaとして、アニメ音楽の世界に足を踏み入れてから約5年。その旅路の途中で、彼女は様々なアニメ/ゲーム作品と邂逅し、様々な人々との出会いや別れを経験しながら、誰かの哀しみや絶望に寄り添うお歌を紡いできた。

だが逆に問いたい。彼女自身が抱える絶望には、誰が寄り添ってくれるというのか?目の前の色んな絶望から逃げて、逃げて、逃げ続けてきたReoNaが、その先で辿り着いた日本武道館という場所。そこには、その時間だけはそれぞれの絶望から解放されて肩を寄せ合う、旅半ばにある「ピルグリム(=巡礼者)」たちの姿があった。

TEXT BY 北野 創(リスアニ!)
PHOTOGRAPHY BY 平野タカシ

初の武道館ワンマンに響きわたる“始まりの歌”たち

チケットはソールドアウトし、機材席が開放されるほどの盛況ぶりとなったこの日のライブ。開演前の時間には、この3月までReoNaが準レギュラーで出演していた大阪のラジオ局・FM802の番組「802 Palette」より、DJの豊田穂乃花が出張ブースに登場し、ReoNaと所縁のある楽曲を紹介していく。最後はReoNaがステージ上で共演したこともあるダニエル・パウターの「Bad Day」で締め括られると、やや間を空けて、ついにライブの幕が開ける。

会場が暗転すると、ReoNaがSNS上で不定期に公開している「こえにっき」の音声が流れ始める。「さよならは、はじまり」――そんな言葉を皮切りに、ReoNaの日々の想いを綴った声とそれに合わせた映像が、ピアノの調べに乗せて次々と流され、それらがまるで思考の迷宮のように混沌となって重なっていく。最後に「逃げて逢おうね」と、本公演のタイトルにも引用された「Someday」の歌詞と同じフレーズが張り詰めた空気を解くと、ステージ中央のReoNaにスポットライトが当たり、スッと息を吸う声と彼女自身が奏でるアコギの旋律と共にライブがスタート。1曲目は「ピルグリム」。彼女が神崎エルザ starring ReoNaとして最初に発表した“始まりの歌”だ。Bメロでバックバンドの演奏が少しずつ加わっていき、サビで全員が一体となって旅立ちの開放感ある景色を描くと同時に、照明も明るくなってバンドメンバーの姿が露わに。バンドマスターの荒幡亮平(key)、山口隆志(g)、高慶“CO-K”卓史(g)、二村 学(b)、比田井 修(ds)という、昨年のツアー「ReoNa ONE-MAN Live Tour 2022“De:TOUR”」を支えた面々に加え、この日は8人ものストリングス隊が参加。分厚く豊かなサウンドが、ReoNaのピュアでどこか切実な歌声をしっかりとサポートする。

「ピルグリム」の輝きに満ちた幕開けに続き、激しくもエモーショナルな顔を覗かせたのが「怪物の詩」。ReoNaがデビュー前からライブで歌ってきた、毛蟹が手がけた彼女にとって初めてのオリジナル楽曲だ。南方研究所の制作による同楽曲のアニメーションMVがスクリーンに投影されるなか、アコギを置いてハンドマイクを手にしたReoNaは、激情的とも言える歌声で“怪物”の孤独と“愛”を希求する気持ちを表現する。「ピルグリム」が彼女の“アニソンシンガー”としての第一歩だとするなら、この「怪物の詩」は彼女を“絶望系”たらしめた最初の楽曲と言えるだろう。そう考えると、この2曲が最初に歌われた意味は大きい。

続けて、彼女の名前と歌声を一気に広めたTVアニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション』のEDテーマ「forget-me-not」で胸のすくような景色を広げると、ReoNaは「ようこそ、日本武道館へ。逃げて逢えたね」と軽く挨拶して、次の楽曲「SWEET HURT」へ。TVアニメ『ハッピーシュガーライフ』のEDテーマであり、アーティスト・ReoNaのデビュー曲でもあるこの楽曲もまた、彼女の軌跡を語るうえでは欠かせない“始まりの歌”である。青とピンクの照明、いつもより厚みのあるストリングスの音色、そしてReoNaのデビュー時より一層深みの増した歌声が、この楽曲で描かれる繊細な「愛」の形をさらに濃く表現していたように思う。

その後、改めてMCで「もう一度言っていいですか?ようこそ、日本武道館へ」と挨拶し、“約束の場所”である武道館ワンマンの実感を再確認すると、続いて「たくさんの出会いをくれたお歌」と前置きして、今や彼女の代表曲の1つになっているTVアニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』のOPテーマ「ANIMA」を披露。ギターの高慶“CO-K”卓史がステージ前方に乗り出して煽るように演奏し、観客も盛大なクラップで応えて会場の熱気は最高潮に。その興奮も冷めやらぬなか、ReoNaは「ああ、気がつかなかった、今夜はこんなにも、月が、綺麗だ——」

と、TYPE-MOONの名作ゲーム「月姫」を象徴するセリフを静かに語り、そのリメイク作品「月姫 -A piece of blue glass moon-」の主題歌「生命線」を歌唱。スクリーンに映された禍々しくも美しい月が見守るなか、耽美かつ衝動的なステージが繰り広げられる。スモーク演出が幻想的な雰囲気を高めるなか、高潔な佇まいで歌声を紡ぐReoNaはまるで真祖のように絶対的な存在感を放っていた。

そして「それでも、痛みと共に生きていく」という言葉に続けて、壮大なサウンドスケープに乗せて届けられたのが「Alive」。例え絶望的な環境や理不尽な状況にあったとしても、それでも自分は“still alive(=まだ生きている)”ということを高らかと歌い上げる、TVアニメ『アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】』のオープニングを彩ったスケール感のある楽曲だ。あらゆる絶望と向き合いながらお歌を紡いできた、約5年という年月の経験の積み重ねが、その歌声をどこまでも強く輝かせる。これが彼女の生き様だと言わんばかりに。

ダンスパーティの狂騒と深みのあるバラードの世界

ここでどこからともなく扉の開く音がして、荒幡亮平の弾くチェンバロのような音色に導かれ、TVアニメ『シャドーハウス』の「別棟の住人」を想像させる4人のダンサーが登場。彼らの寸劇が不思議な世界観を演出すると、やがて赤色をあしらった膨らみのあるスカートに着替えたReoNaが登場し、『シャドーハウス』のEDテーマ「ないない」が開幕する。3人のパワフルなコーラス隊を加えた妖しくも優美なステージングで、武道館は瞬く間にゴシックな空間に早変わり。2番以降はダンサーたちがReoNaを取り囲むようにパフォーマンスを行い、シアトリカルなライブで観客を魅了した。

 

続くMCでReoNaは「巡礼の旅路の途中で色んな出会いがありました」「今日は大きな舞台、もっと特別にしたいよね?」と語ると、ここで特別ゲストのREAL AKIBA BOYZをステージに呼び込む。彼らがReoNaのライブに駆け付けたということは……そう、ここからは楽しいダンスの時間の始まりだ。ReoNaは「今だけは、すべてを忘れて、踊りましょう、楽しみましょう!」と呼びかけて、TVアニメ『シャドーハウス 2nd Season』のOPテーマ「シャル・ウィ・ダンス?」を披露する。楽曲が始まると多数の学生ダンサーもステージに登場し、客席も総立ちになって誰もかれもが踊り始める。同曲のMVに出演していたREAL AKIBA BOYZの面々も得意のブレイクダンスでパーティーをさらに盛り上げ、間奏ではReoNaもタップダンスを披露。ラストはみんなでジャンプして、束の間の狂騒を締め括った。

扉がゆっくりと閉まる音がして、ダンスの時間が閉幕すると、ダンサーのうちの1人が暗がりから飛び出してきて、ステージ上手側の前方ギリギリのところに一揃いの靴を置いて立ち去る。ReoNaと靴、その2か所にスポットライトが当たるなか、彼女は「“絶望系”の始まりをくれたお歌の1つ」「半歩先の世界に期待を抱いて、飛び立った少女の歌」と語り、活動初期からのレパートリー「トウシンダイ」を歌う。乾いたトーンのギターが運ぶ夏の懐かしい匂い。どこにでも行けるような、どこにも辿り着けないような、宙ぶらりんな感情。少女のひと言では言い表せない「等身大」の心象風景を、ReoNaの歌声はしっかりと表現していたように思う。

続く「虹の彼方に」では、ReoNaのお歌と荒幡亮平のピアノのみが、武道館の広大かつ親密な空間に響き渡る。TVアニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション』の挿入歌として使用された本楽曲。作中の登場人物であるユージオをイメージして書かれたものだが、そこに込められたメッセージは、己の中に「弱さ」を抱えたすべての人に当てはまるものだ。ときに悲痛に満ちた震えるような歌声で、ときに誓いにも似た力強い歌声で、荒幡亮平のピアノと息を合わせながら心を削るように歌うその姿は、まさに“絶望系アニソンシンガー”としての本領を発揮するものだった。

その後、会場のスクリーンに再び月が昇り、ゲーム「月姫 -A piece of blue glass moon-」より「Lost」が歌われる。月光のように美しいピアノの調べに、全編英語詞による歌が寄り添うように重なり、やがてそこにバンドメンバーたちの演奏が加わって、楽曲全体がエモーショナルな熱を帯びていく。赤い照明が煌めくなか、「月姫」のヒロインの1人、アルクェイド・ブリュンスタッドの神秘性と悲哀を、武道館のステージでも表現してみせた。

そしてバンドメンバーの紹介を挿み、次の曲「Someday」へ。バンドのどこかノスタルジックな演奏と、温もりを感じさせる色味の照明、ReoNaの願うような歌声が、あらゆる絶望と理不尽から逃げ続けながら、今をたしかに生きる人たちの心に希望の淡い光を灯す。「Someday(=3.6 day)」に約束の場所・日本武道館で、ReoNaと我々は逃げ続けた果てにようやく逢うことができたのだ。歌唱後、客席全体をゆっくりと見回して「ありがとう」とつぶやいたReoNaは、このうえなく幸せそうな表情だった。

ReoNaが背負ったお歌への覚悟と“ここに生きる”理由

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