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INTERVIEW

2022.12.05

円環が見せる未来へ――「羽多野 渉 哲学」が詰まったアルバム『TORUS』が完成! 10周年記念イヤーを彩る本作のこだわりを聞く

円環が見せる未来へ――「羽多野 渉 哲学」が詰まったアルバム『TORUS』が完成! 10周年記念イヤーを彩る本作のこだわりを聞く

アーティストデビュー10周年記念イヤーを彩る4年ぶりのオリジナルアルバム『TORUS』 を完成させた羽多野 渉。タイトル曲である「TORUS」のスペシフィックなサウンド感と伸びやかな歌声は、トーラス構造体の中で廻る運命を感じさせる。羽多野個人の楽曲としては初の作詞を担当することになった松井洋平と、羽多野と初タッグとなるザ・ジェッジジョンソンの藤戸じゅにあによって構築されたこの円環が繋ぐアルバムは一体どんな作品なのか――羽多野にじっくり話を聞いた。

INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち

10年の音楽活動の点と点が結ばれた「今」――そして「未来」へ向かう『TORUS』

――「5年間やってきた音楽活動の答えと、この先の未来像を考えつつ自分を見つめ直しながら作った1枚だった」と話されていた2ndアルバム『Futuristic』(2018年)から4年。そのアルバムから6年目の活動へと足を踏み出されましたが、アーティストデビュー10周年を迎えた今、ご自身の音楽観の変化や刺激を受けた出会いなどはありましたか?

羽多野 渉 楽曲との出会いは、ディレクターさんや作曲家さん、作詞家さんといったクリエイターさんとの出会いにもなっているので、毎回新たな刺激を楽しませていただいています。

――この10年の音楽活動のなかで「これは面白い」とご自身をワクワクさせたものはありましたか?

羽多野 そうですね、歌う機会が多いという意味でも「アイドリッシュセブン」のTRIGGERとして歌っている時間は長いですし、本作の世界の中で彼らが歌っているトレンドを取り入れた音楽には楽しみをいただいていますね。「今回の曲はK-POPっぽいね」とか「ラップが入っているね」とか、キャラクターとして音楽を表現するときに多くの刺激をもらうことがあって。誰と歌うかもすごく重要で、TRIGGERだと佐藤拓也くんと斉藤壮馬くんからすごく刺激をもらいますし、別のコンテンツでも若い方たちと一緒に音楽をやるときにもまた違う刺激をもらって、1つ1つが勉強になっています。

――なるほど。羽多野さんは今年40歳ということで、今のご自身として新たなアルバムを作る際にはどのようにご自身を出していこうと思われたのでしょうか。

羽多野 今回はアルバム1枚の中にストーリーがあるんですけど、「羽多野 渉がリリースしてきたアルバム全体」としても1つのストーリーになっているといいなと思っていて。最初のアルバムは『W』というタイトルで「私、羽多野 渉です」という名刺のようなアルバムで、ヒャダインさんが作ってくださった「I’m a Voice Actor」を軸に自分自身を表すものにしたいという想いがあり、2ndアルバムは『Futuristic』という未来をイメージしたアルバムで。10年目の自分からすると『W』は過去の自分であり、『Futuristic』は未来の自分なので、今回はその時間を繋いで「廻っていく」ものにしたいと思ったんです。時が廻っていく、人が廻っていくというイメージになるようなアルバムになるといいなと思い、タイトルを『TORUS』にしました。ドーナツのような形状をトーラス構造体と言うのですが、廻ることをテーマに人と人とのご縁や、自分の行った小さなことが廻りまわってまた自分に還ってきて幸せになるような“循環”。想いの循環やエネルギーの循環というものをテーマにして、手と手を繋いでいくようなアルバムにしたいなと思って。制作を経て、どんどん自分自身のことが音楽になっていくような、メッセージ性としての純度が上がっているような印象があります。当然タイアップ曲も収録されているのですが、自分がゼロから何かを生み出すときの原点って、やっぱり感謝の想いやご縁を大切にしたいといった気持ちになので、そのことをテーマにして作っていきました。

――『TORUS』というタイトルはアルバム制作初期段階からあったのでしょうか。

羽多野 当初、色んな案があったんですよ。アルバム制作時期が、古い家具に興味を持って買い物をしていたときで、古いものに魂が宿っているような感じを持っていたこともあり、今までのアルバム全体にも行きわたるようなイメージを持つことができて。その結果、『TORUS』にしよう、と進んでいきました。

――シングル曲やカップリングに収録した曲も改めてアルバムにラインナップされていますが、それらの楽曲と共に『TORUS』を形作る新曲についてはどのようなものが必要になると思われましたか?

羽多野 CDの表題曲以外の既存の曲もいくつか収録しているのですが、これらの曲はライブで演奏するためにアレンジをしたことで曲の良さをさらに引き出せたんです。特に「Vivid Junction」は顕著でしたね。それもまた、ライブという1つのご縁が引き寄せてくれた出会いですし、「この曲はこういう楽しみ方もできるんだ」と発見もありました。音楽活動を通して色んな出会いやチャレンジがあって、そのなかで出てきた新たな魅力や答えを『TORUS』の“循環”の中に入れたくて。今回、曲数自体はそれほど多くないですが、世界を構築しているインストをインタールード的に入れることでどんどん世界が滑らかに転移していくんです。想像の世界が変化していく。インスト曲を入れることで全13曲になったんですが、13という数字も僕がとても大切にしている数字でもあるので意味を持ったと思っています。

――たしかにインタールードの曲たちによって、タイアップという個性よりもアルバムを構成する1つ、という要素が強まっていますね。

羽多野 巧みに表現をしてくださっていますよね。元気な曲からバラードにいくときの繋ぎはライブでも難しいですが、インタールードで繋ぐことで自然な流れが出来ました。スタッフさんが良い味付けをしてくださったなと思いました。

タイトル曲「TORUS」で示したもの

――タイトル曲「TORUS」は楽曲をザ・ジェッジジョンソンの藤戸じゅにあさん、作詞を松井洋平さんで手がけられた1曲。藤戸さんとのコラボレーションは初ですが、いかがでしたか?

羽多野 「すごく良い曲を作ってくださるクリエイターさん」だとプロデューサーの佐藤純之介さんからのご紹介で、今回ご一緒することになったんです。「TORUS」というテーマでデモをあげていただいた最初の時点ですでに「これです!」と声を上げてしまったくらい素晴らしい楽曲でした。「TORUS」という言葉のイメージをどういうふうに表現するのか、というのは非常に難しいことだと思っていたのですが、YouTubeでMVを公開したら温かい感想をたくさんいただきました。皆さんおっしゃってくださっているのが、「何回でも聴ける」というもので。一度だけではなく、気が付いたら2回、3回と聴いてしまうんだよね、という感想を目にしたときに、それこそが廻っていく円環構造の「TORUS」だなと思いました。

――ザ・ジェッジジョンソンのサウンドの持ち味が羽多野さんの不可思議現象がお好きなところや「TORUS」というテーマともシンクロしていますし、松井さんの歌詞はイマジネーションに訴えかけている。だからこそ羽多野さんらしさの出た1曲という印象です。

羽多野 残念ながら藤戸さんとはお会いできていないのですが、ぜひ話をしてみたい、と楽曲から受ける印象からも感じています。松井さんとは「あんさんぶるスターズ!!」でもご一緒していて、改めて「TORUS」の作詞についてオンラインでお話をさせていただいてから歌詞を書いていただいたのですが、僕は松井さんの歌詞の世界が大好きで。今回もテーマをお話したあとにノリノリで作詞をしてくださったんです。自分だけの“好き”だったものが、それを好きな人たちが集まって作り上げたアルバムになったなと思います。

――その象徴たるタイトル曲「TORUS」は感性の集合体のような曲ですが、この曲を作るにあたって羽多野さんからはどのようなアプローチがあったのでしょうか。サウンド感や楽曲のイメージ、メッセージなどについて抱いていたものを教えてください。

羽多野 松井さんとのお話のなかでお願いしていたのは、トーラス構造体の見た目の特徴である円環のことやスペーシーな内容の歌詞、宇宙やエネルギー、さらには人間や自然へと繋がるような言葉がいいです、ということでした。トーラス構造体の形は今の人類が発見したものではなく、大昔からそういう構造体が自然と1つになることなんだと文献や世界遺産の建造物に刻まれてもいて。どうやら星の観測から太古の人間もトーラス構造体がエネルギーの正しい循環だと気づいていたという都市伝説も好きなので、そういった話を基にしたロマンチックな歌詞になったらいいなぁ、とお話をしたら、とてもお洒落な歌詞に仕上げてくださいました。

――デビューしてから時を重ね、作品を重ねていくうちにだんだんと自分が真にやりたいことに近づいていく、というお話をされるアーティストは少なくないですが、羽多野さんもご自身のインナーワールドを音楽として表現されるようになってきているというか。

羽多野 たしかにそうですね。同じくらいの年数で音楽活動をしている皆さんもそんな様子がありますよね。例えば寺島拓篤くんもそうですし、色んな人を見ていても自分の好きな世界を表現していますよね。それぞれが自分の世界を持っていて、僕の場合はこういった世界観なんだなってことを「TORUS」の中に詰め込んでみました。

――こうして完成した「TORUS」を実際に歌われてどのようなことを感じられましたか?

羽多野 実はデモの段階ではキーが半音低かったんです。でもレコーディングのときに、もう半音上げて歌ってみようと歌ったところ、とてもハマりが良かったんですね。歌っていて心地が良くて。結果としてデモよりも半音高いキーで歌うことになったのですが、今までの僕の音楽に触れてきてくださっている方が聴くと、ちょっと軽やかで、高いところで歌っている印象を受けてくださっているらしくて、それもまた聴きやすさに繋がっているのかなとも思います。それにこの曲は1曲の中で起承転結された物語になっているのではなく、散りばめられた言葉の1つ1つがヒントになっていて、宇宙を旅するようにその言葉の意味を考え、集めていくような、遊びのあるものになっているなぁ、と思うんです。

――松井さんもお得意の遊びのある歌詞!

羽多野 そうなんですよね。この曲自体に言葉遊びが散りばめられていますし、歌詞カードを色んな角度から読んでいくことで宝探しをしていけるようになっているんですよね。松井さんが織り交ぜてくれた謎を解いていくような楽しさと遊び心満載の曲になりましたし、レコーディングもとても楽しかったです。実は僕もレコーディングでそのことを初めて伺ったので、「楽しい!」と思いながら歌いました。松井さんはさすがですよね。

――その「TORUS」はドラマチックなMVも制作されています。こちらの撮影秘話を教えてください。

羽多野 円環構造の中に自分の体を持っていきたいと思っていたのですが、打ち合せで「ジャンクションなんていいかもしれないですね」ということで、高速道路を織り交ぜたシーンが撮れたらいいなぁ、と。そういった構図には挑戦してこなかったので、スタッフさんからも「良いですね」というお声をいただきました。せっかくなら、とキャラクターの設定を考えたりして……MVの冒頭で、猫背で車に乗り込んでいく青年は考古学に興味を持っているという設定です。勉強をしていくうちに考古学のヒントが空に、星にあるということに気づく。車を運転して天文台に向かうと、時空が進んで未来が現れるんですね。未来の自分は黒いコートを着たスタイリッシュな出で立ちで、天文台の巨大な望遠鏡で星を勉強している。人類の歴史を辿っていたら宇宙へと辿り着いた、という不思議なストーリーを、あえて時間軸を過去から未来にせず、未来と過去をごちゃごちゃに編集していただいて、「これはどういうシーンなのだろう、どういう意味があるのだろう」と皆さんに考えていただきながら観られる映像作品にしてもらいました。

次ページ:羽多野の意思を受け止め、斉藤壮馬が言葉を紡いだ「No Man Is an Island」

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