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2022.10.27

【ライブレポート】南條愛乃が紡いだ“小さな冬の物語”――全国ツアー“南條愛乃 Live Tour 2022 ~A Tiny Winter Story~ supported by animelo mix”ファイナルとなる埼玉公演をレポート

【ライブレポート】南條愛乃が紡いだ“小さな冬の物語”――全国ツアー“南條愛乃 Live Tour 2022 ~A Tiny Winter Story~ supported by animelo mix”ファイナルとなる埼玉公演をレポート

ソロデビュー10周年を迎える南條愛乃が、昨年末にリリースしたアルバム『A Tiny Winter Story』を伴う全国ツアー“南條愛乃 Live Tour 2022 ~A Tiny Winter Story~ supported by animelo mix”のファイナル公演を10月16日・さいたま市文化センター 大ホールにて開催した。今年の彼女の活動としては、年始からのfripSideでの活動、そして卒業を経たのち、この夏から開催された満を辞してのソロツアーだ。冬をテーマにしたアルバムを中心に据えた、小さくて優しく、そして温かい音楽が鳴らされるステージの模様をレポートしよう。

“小さな冬の物語”が語られるコンセプチュアルなステージ

会場となったさいたま市文化センターのステージ上にはツアーロゴが記された薄手の緞帳が降り、そこにうっすらと青い光が照らされている。会場にはクリスマスソングのクラシックたちが流れるなど、季節は秋だけど来たる冬に向けてワクワクするような気分にも似た期待感が会場を包む。南條のツアーとしても2019年のアコースティックツアー以来、しかもエレクトリックなバンド編成となるとそれよりさらに前……という、コロナ禍を挟んでの待望のステージという待望感このうえない開演前となった。

そして場内の音楽がフェードアウトし、客席からは万雷の拍手が鳴る。それが鳴り止むのを待って、静寂のなかで少年のような声で「今日も、雪が降っている。僕の蹄に、角に、鼻の先に、はらはらと雪が落ちてくる」というナレーションが聴こえてくる。久々のツアーはこれまでのライブとは異なり、声の主であるトナカイと少女という、アルバム『A Tiny Winter Story』のジャケットに描かれた2人の物語を軸にして進んでいくこととなる。のちのスタッフロールで明らかになるのだが、この物語を書いたのは南條の声優の先輩にして、童話や絵本など作家としても活躍する浅野真澄によるものだ(あさのますみ名義)。ステージ上の緞帳にトナカイと少女のポップなイラストが映し出されるなか、トナカイの無垢な声に導かれるようにして、ライブ、いや、“小さな冬の物語”の幕が開く。

ステージに降ろされた緞帳が上がると、冬らしいポップな「Merry」のイントロが鳴らされた。そこにはまるでもみの木のような形をした薄く白い布が垂らされ、その中央には、こちらも冬らしく白いコートに身を包んだ南條が立っていた。軽やかなモータウンビート調のサウンドに乗せて、南條もまた軽やかに、心地良い歌声を聴かせる。“この冬を待ち焦がれていた”という歌詞の通り、まさにこの瞬間を誰もが待っていたような、冒頭から多幸感たっぷりなステージが展開される。そこからゆったりとしたテンポで聴かせる「vignette」へ続くと、南條の豊かな歌唱はサビでの低域からファルセットまで、まるで透き通る冬の空に広がっていくようにしっとりと聴かせていく。

ステージ上が暗転すると、再びトナカイによるナレーションが始まる。その間ステージ上に垂らされた布にトナカイのイラストなどが映される演出がまた素敵だ。さて、物語はトナカイが仲良しの少女に幸せになってほしいと“特別”をプレゼントするために冒険に出るというもの。そうしたモノローグのあとのセットは、そんな“冒険”に彩られた楽曲が続いていく。「ゼロイチキセキ」ではステージ上を動きながら観客に手を振ったりと、南條自身も楽しそう。また、ピアノのイントロに誘われて始まった「光のはじまり」では“僕の隣は 君じゃなきゃ 嫌だ!”と歌って客席の奥を眺める姿に、コンセプチュアルな構成のなかでも改めてファンとの再会に感慨深げに感じられた。そしてポップなソフトロック「ヒトリとキミと」でも跳ねるようなリズムに乗せてステージ上を歩いたり指揮をする仕草を見せるなど、冒険パートを明るく楽しい雰囲気で終えた。

続いての幕間では、遠くまで冒険に出かけたトナカイが“特別”を見つけられずに悩む姿が語られる。そしてこの辺りで特別高い山に、“特別”を求めて歩を進めていく――。物語が不穏な空気を纏い始めた頃に再開されたステージ上では、白いドレスに身を包んだ南條が立っていた。先ほどまでの楽しい雰囲気から一転して、「全ては不確かな世界」のアグレッシブなバンドサウンドが鳴らされると、会場はライティングとペンライトで真っ赤に染め上げられた。こうしたアグレッシブかつシリアスな曲調での、南條のボーカルの説得力はやはりすごい。一気に会場を掌握し、ピンと張り詰めるような世界観を形成していった。そしてそのまま間を置かずに、こちらもアグレッシブな「青星」が披露されると、会場も青く照らされる。突き刺すような南條の尖ったボーカルが素晴らしい「青星」を終えたあとの「My Heart My Hope」では、ステージ上の薄い布には冬枯れの木々が映し出される。まさに冬の激しさ、厳しさを表現するなかで、特に後半での南條の激情を叩きつけるような歌唱は壮絶の一言。ここでライブの風景も一気に変化したように感じられる、圧巻のパフォーマンスだった。

次ページ:物語はクライマックス。そこで歌われたものとは――。

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