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INTERVIEW

2022.08.09

【連載】アニソン制作の実情を語る!『くノ一ツバキの胸の内』EDテーマプロジェクト『くノ一ツバキの音合わせ』スペシャル座談会 最終回:音楽プロデューサー・山内真治、西田圭稀×赤山コウ×eijun(菅波栄純/THE BACK HORN)×川口ケイ×yamazo

【連載】アニソン制作の実情を語る!『くノ一ツバキの胸の内』EDテーマプロジェクト『くノ一ツバキの音合わせ』スペシャル座談会 最終回:音楽プロデューサー・山内真治、西田圭稀×赤山コウ×eijun(菅波栄純/THE BACK HORN)×川口ケイ×yamazo

数々のヒット曲で知られる作曲家・白戸佑輔がゼネラルエグゼクティブクリエイティブプロデューサー(GECP=音楽制作総指揮)を務め、日本の音楽シーンの第一線で活躍中のクリエイターたちが集まった『くノ一ツバキの胸の内』のEDテーマプロジェクト『くノ一ツバキの音合わせ』の連載企画もこれでラスト。一般公募参加の2名を含む、9話~12話の参加メンバーによる座談会をお届け!アニメソング、キャラクターソングの仕事の根幹にも迫る熱い議論は、未来の展望にも繋がっていく……。

■第1回はこちら
音楽・白戸佑輔×音楽プロデューサー・山内真治、西田圭稀×鈴木Daichi秀行×椿山日南子×ha-j

■第2回はこちら
音楽プロデューサー・山内真治×伊藤 翼×青木征洋(ViViX)×菊池亮太×氏原ワタル(DOES)

酉班のことだけを考えて作った、二面性へのフォーカス

――この企画もついに最終回です。今回は第9話から第12話まで順番にそれぞれの楽曲について掘り下げさせていただければ。早速ですが9話の赤山コウさんの曲に関して、eijunさん、いかがでしたでしょうか。

eijun(菅波栄純/THE BACK HORN) めちゃくちゃクオリティが高くて震えましたよね。自分以外の皆さんの曲、全曲やばすぎて震えたんですけど、赤山さんの編曲は特に展開に意外性があったんです。サビの頭でリズムが抜けるところで、「あっ、そんな手があったのか」って。さすがにこれだけの数のアレンジが並んでいる企画だと、もうこういう展開はないと思ってました。ここまでやっても良かったんだな、みたいな。自分はまだまだ、考え方がぬるかったかもしれない……みたいなことをちょっと思いました。それくらい攻めたことをやっても、全然成立するプロジェクトなんだなって、教えられた気持ちでした。

赤山コウ ……(嬉しくて)死にそうですね。

eijun 「死にそう」って、そんな(笑)。

――今回の参加メンバーのうち、赤山さん、川口ケイさんはこのプロジェクトの一般公募枠で選ばれたお二人で、それでいきなりこの場は緊張されますよね。

yamazo 最終選考に残った10曲から選ぶとき、僕はお二人に票を入れたんですよ。決まるべき人が決まったなって、正直思っています。募集の時点でクオリティの高さは十分だったので、あとは作品というか、キャラクターにマッチするかどうかだけが気になっていたんです。でも、映像を観ても、バッチリだったなと思いました。eijunさんがいった展開力ももちろんそうだし、緩急のバランスも、サウンドもそう。言うことがない。自分がこれを作れるかって言われたら、絶対作れないです。素晴らしかったです。

川口ケイ この音合わせの企画に一般枠で応募させていただくときに、午班と酉班のどちらかが選べたんですけど、酉班の曲が僕には想像できなかったんですよね。ギャル二人と、真面目、まったく調和しなさそうな3人のチームを1曲にまとめるのは、自分には到底不可能だと思った。でも、こういうことか、と。正解を出されたような感じで、ずかーん!ともう、脳天にくらいましたね(笑)。やっぱり皆さんおっしゃるとおり、サビで落とすところのテクニックとか、かと思ったら、そのあとゴリゴリのスラップ(・ベース)が出てくるところ。そういう攻めたことをやりながら、でも1曲として完全に成立している。矛盾というか、全体を通したときの違和感がない。そこが非常に素晴らしいなと感じました。

――いかがでしょうか、赤山さん。三者三様のご感想いただきましたけれども。

赤山 いや、やばいですね。得も言われぬ気持ちになります……(笑)。

――ご自身のこだわりのポイントは?

赤山 酉班の3人は、「ギャルと真面目」「遊びと修行」「自由と掟」みたいに、裏表というか、対比のようなものがあることが、原作を読み込むうちに見えてきたんです。だからそこにフォーカスを当てて作ってみようかな、というのが狙いでした。なので結果として出来上がった楽曲は、皆さんおっしゃるとおり、「冒険したな」みたいな雰囲気にはなると思うんですけど、でもそれは冒険することを狙ったからではなくて、酉班のことだけを考えて作ったからあの形になったんですよね。

赤山コウ

赤山コウ

yamazo 僕、実は選考のときには赤山さんほど酉班を掘り下げられていなかったんです。でもそこを、(作詞担当の)くまのきよみさんがしっかりとキャッチしていた。くまのさんのコメントを聞いて、キャラクターにマッチするかどうかもクリアできているとわかったから票を入れたんだけど、今の話を聞いて改めて腑に落ちました。くまのさん、さすがでしたね。

赤山 ありがたいかぎりです。半分くらい「ここまで深読みをしたら、伝わらないかもな」と思う気持ちもあったんです。その意味でもちょっと攻めた編曲ではあって、受け止めていただけたのは嬉しかったですね。

西田圭稀(アニプレックス・音楽ディレクター) 「ギャル」の要素にフォーカスを当てて、明るいEDM調で応募してくださった方も多かったんですよ。そのなかで割とスミレのほうに……というか、スミレも含めての酉班の二面性にフォーカスしていた赤山さんは、表面的なキャライメージだけじゃなくて、ちゃんとストーリーだとか、キャラの関係値を読み込んでいた。僕もすごいなと思いました。

アレンジによるネガティブとポジティブの対比

――では10話に進ませていただこうと思います。eijunさんのアレンジをお聴きになって、赤山さんはいかがでしたか?

赤山 僕はプレイヤーとしては、ずっとドラムをやっていたんです。それもあって、イントロのドラムでノックアウトされちゃいました。「ああ、気持ち良い!」って。で、サビで2ビートになるし、ハーフテンポにもなるし、もう終始ずっとリズムが気持ち良くって……。

eijun ああ、嬉しい。

赤山 それこそ僕、THE BACK HORNもコピーしてたんですけど、このアレンジも「今すぐライブハウスに行ってコピバンを組みたい!」みたいな気持ちになりました。大好きな曲です。

yamazo 僕は自分との比較になっちゃいますけど、音の構築のイメージ感がやっぱり全然違うなと思いました。だからこそ、隣の芝生は青く見えるというか、すごく良いなと思う部分があったんです。サウンドのかわいさもそうだし、Aメロのかわいさもそう。特にAメロは、俺ももっとかわいくすればよかったな……って思わされました。

――面白いですね。同じ曲でも、赤山さんはバンドマン的な要素に注目されて、yamazoさんからするとむしろ作編曲家として表現されたかわいさ着目される。川口さんはいかがでしたか?

川口 そうですね。まずAメロのメロディラインが、ネガティブなハギちゃんとポジティブなヒグルマちゃんの対比をとても綺麗に、上昇するメロディと下降するメロディとで表現していて、編曲でもそこが絶妙に拾われている。「ああ、これはキャラクター性が出ている、良いアレンジとメロディだな」と率直に感じたのと、そのあとのBメロでリーダーのタチアオイが出てきてからの、サビで曲のモチーフとなるフレーズであったり、音使いがまとまって出てくるところが非常にストーリー性があって、聴くだけで「この班の子たちは仲が良いんだな」っていうのが伝わってくるんですよね。その感覚が素敵で、楽しく聴かせていただきました。

――では皆さんのご感想を受けての、eijunさんのお話をお伺いできますか?

eijun たしかにこれは死にますね(笑)。

赤山 ですよね!(笑)

eijun 配信の番組(「くノ一ツバキの音合わせの答え合わせ!!」を見ていて、「いや、これは絶対死ぬわ」と思ってたら、本当に死ぬ(笑)。あの動画の出演者の皆さんの気持ちを、僕も今味わっています。……でも、そうは言いつつ、ありがたいですね。かわいさとロック感みたいなのもそうだし、キャラクターのメリハリ感もそう。今、指摘してくださったことは、全部意識して作ったことです。ちゃんと伝わっていて、すげぇ良かった。オーダー自体が、「この班のキャラクター的に、ネガティブとポジティブを結構行き来すること」と、「ジェットコースターみたいな展開」だったんです。だからジェットコースター部分をリズムで作って、ネガティブとポジティブの対比を、メロディとアレンジで表現したんです。

――その要素の配分はどう決めたんですか?

eijun メロディのラインは似てるけど、後ろのアレンジがメジャーとマイナーに分かれると、対比がわかりやすいと判断しました。あとはメロディの上昇と下降ですね。イントロのアルペジオで、和の旋律の上昇と下降を使っているのもそうですし、Bメロでは8bitっぽい音が出てくるんですけど、それも上がる音と下がる音を両方入れることを重視して作りました。……あとは、サビで2ビートをほかの人が使うかどうかが、ずっとめちゃくちゃ気になってました(笑)。

赤山yamazo川口 ああ~(笑)

山内真治(アニプレックス・音楽プロデューサー) 実はサビを2ビートにするアレンジは、絶対被るだろうなと思ってたんです。だからそこに関しては、事前に皆さんに一旦共有したほうがいいのかな?って一瞬迷ったんですよ。でも本プロジェクトのGECPこと白戸佑輔さんと話をしたら、「これはもう、『最後の最後までみんな知らなかった』ことにしたほうがいい。被っちゃったら被っちゃったで、『チッ、被った!』って盛り上がったほうが面白いんじゃないかな」と言われまして。それすらも盛り上がりになるだろうという考えの延長線上に、あの「答え合わせ」の動画があったんです。

eijun うわ、めっちゃ面白いな。そういう意図だったんだ。

eijun(菅波栄純/THE BACK HORN)

eijun(菅波栄純/THE BACK HORN)

山内 でも今日、初めて作っている人たちの、そういう被りを気にしながらも攻める気持ちがわかりました。説明から感じ取れる以上のことを、今の皆さんのやり取りで教えてもらえましたね。

eijun いやいや。しかし白戸さんはすべてわかって企画を仕切ってくれてますね。すごい。

西田 それでいうとくまのさんも、eijunさんからの曲を聞いただけで、「ここはハギで、ここはヒグルマで」って、オーダーが特になくても、メロディとアレンジで歌詞の書き分けをされてましたよ。それはやっぱり、アレンジに完璧に意図が反映されていたゆえなのかなと。

――そもそものお話として、10話の子班をeijunさんにお願いするのは、プロデュースサイドとしてはどういう狙いで?

山内 これは白戸GECP采配です。やっぱりTHE BACK HORN的なロック感のほうに、どうしても僕なんかは考えてしまいがちだったんですけど、白戸さんが「いや、eijunさんはそっちじゃないほうのほうが面白いから」と。普通だったら亥班を氏原ワタル(DOES)さんと取り合うように考えてしまうんですけどね(笑)。GECPはeijunさんのこと知り尽くしてるんだろうなっていう采配でした。

次ページ:「白戸さんの原曲より良い曲にしよう」

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