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INTERVIEW

2022.08.09

【連載】アニソン制作の実情を語る!『くノ一ツバキの胸の内』EDテーマプロジェクト『くノ一ツバキの音合わせ』スペシャル座談会 最終回:音楽プロデューサー・山内真治、西田圭稀×赤山コウ×eijun(菅波栄純/THE BACK HORN)×川口ケイ×yamazo

【連載】アニソン制作の実情を語る!『くノ一ツバキの胸の内』EDテーマプロジェクト『くノ一ツバキの音合わせ』スペシャル座談会 最終回:音楽プロデューサー・山内真治、西田圭稀×赤山コウ×eijun(菅波栄純/THE BACK HORN)×川口ケイ×yamazo

「白戸さんの原曲より良い曲にしよう」

――では11話のyamazoさんのお話に移りましょう。赤山さん、yamazoさんの曲はいかがでした?

赤山 もう本当に良くて、サビで天を仰いでしまいましたよ。「救済じゃん」と(笑)。それまで3点(ハイハット、スネア、バスドラム)で刻んでいたビートが、サビに入った瞬間に3連の入ったドラムロールになる。「ああ~!一番好きなやつ!」と。そこにホーン隊の3連のパパパーがきれいに鳴って、で、「音楽って最強だね」って歌詞がくるじゃないですか。音楽班である卯班の正解中の正解というか、この3人のキャラクターでこれやられちゃったら、膝から崩れ落ちるしかない。言葉にし尽くせないくらいのたまらなさでした。

――赤山さん的には、必殺技感のあるアレンジだったんですね。

赤山 そうですね。特にサビが本当に良かった。

eijun さっきyamazoさんには「隣の芝生が青く見えた」みたいなコメントをいただきましたけど、俺も逆側の芝生から同じ感覚で見ていました。それこそ、サビのコード進行の変化のさせ方は「こんなことがやれるのか、すごいな!」の一言ですよ。サビの頭で開けたメジャーの感じで進んで、折り返すところでマイナーのコード進行になるじゃないですか。めちゃくちゃ好きなんですけど、このサビのメロディにハマるこのコード進行を見つけたのがとにかくとんでもない。アレンジって、若干宝探し感があるじゃないですか。海底に深く潜って、すごい宝箱を見つけに行く感。

赤山川口 (深く頷く)

eijun 「yamazoさん、すごいお宝見つけてるわ!」と思いました。マジで。ヤバかったです。

――プロも唸る「このメロディに、このコードを当てるのか」という仕事だった。

eijun そうですね。アレンジ含め、すごかった。

――川口さんはいかがでしたか?

川口 まずイントロを聴いたときのわくわく感がすごいです。歌姫が登場するかのような、日本武道館ワンマンの1曲目みたいな感じの印象を受けました。そこからきゅっと、ミクロの世界というか、アコースティックギターと歌の小さな編成になったところで、「あ、これはとんでもない展開になるぞ」ってわくわく感がさらに込み上げて。で、Bメロ、サビと進むごとにボルテージといいますか、どんどん、どんどん熱量が上がっていって、サビで開けて華やかになったときに、すごく感動しました。自分、中学のとき吹奏楽部に入ってたんですけど、初めての合奏で「こんなに音楽って楽しいんだ」と思ったんです。あのときの感情を呼び起こされましたね。そして分析的に聞くと、eijunさんのおっしゃるとおり、コード進行もすごい。好きだし、感動しました。

――まさに芸術班である卯班の曲として、凄まじい仕事をyamazoさんがされていた。ご本人としてはどんなことを考えて編曲を?

yamazo オーダー自体もそんな細かいものではなかったので、少しその、音楽班であるところを出しつつ……みたいな感じです。で、一番思ったのは、「白戸さんの原曲より良い曲にしよう」。

一同 (爆笑)

yamazo いやー、そこのところは強い想いがありましたよ!(笑)。先ほどからの話にも出てますけど、僕、一般公募の審査もやらせていただいたわけですよ。で、二百何十曲聴いて、まず思ったのは、「あ、俺のアレンジのコード進行、誰とも被ってない」と。

eijun いや、すごい。

yamazo それがね、結構良かったと思います。あとは、くまのさんの歌詞の力もありましたね。「音楽って最強だね」もそうだし、Bメロの鼻歌が入るところも素晴らしい。これが上がった時点で、「大丈夫だ」と思った。……ただまあ、「大丈夫だ」と思いつつ、これは動画でも公言してますけど、完成させる前にみんなの曲を先にちょっとずつ聴いてるんで、ちょっとズルですよね(笑)。

――いやいや、それでも凄まじいです。しかし、この企画の第1回でも「白戸さんの曲が正解すぎる」みたいな声が他の皆さんから出て、そこからどうズラすかに苦心されたそうなのですが、yamazoさんは正面からぶつかった。

yamazo でも、お世辞抜きに、ほかの皆さんもそうはいいつつ、ある意味で原曲を超えている部分がたくさんあるなと思うし、それも含めてすごく面白い企画だなと思いました。

yamazo

yamazo

――ちなみに11話、卯班をyamazoさんにお願いするのは、どなたの采配だったんですか?

山内 yamazoさんの場合は、ECP(エグゼクティブクリエイティブプロデューサー)という、GECPに次ぐ副番長みたいな役割でご参加いただいていたこともあるし、yamazoさんと白戸さんがTwitterでいちゃいちゃしているのを見たところからこの企画のアイデアがスタートしたという経緯もあったりするんです。だから一番おいしいと思わせておいて、一番プレッシャーがかかるポジションにyamazoさんにいてもらうのが良いのではないかという采配は、我々と白戸さんのどちらから言い出したでもない、自然な流れでしたね。で、元々11話をお願いすることを先に決めていて、結果的にそこが芸術班である卯班になったことで、よりプレッシャーが増して、なお良いね……みたいな。

yamazo そういう流れなんだ(笑)。

山内 ECPとして色々なところで発言していただいたとき、割と露悪的にというか、さっきのように「俺だけほかのみんなの曲を聴いて、これから直せる」みたいなことも言って強そうに振る舞っていただきましたけれど、内心多分、ものすごい心臓ばくばくな日々を過ごしておられたんじゃないかなと、我々としては想像していて。でも、そんな重責に耐えられるのはyamazoさんだけだろうという、白戸さんの友情の采配であり、悪魔の采配ですね。

yamazo でも良いのか悪いのか、そのプレッシャーをあんまり感じられずにというか、気づかずにここまできてしまいましたっていう感じはあります。

eijun 素晴らしいなあ。

yamazo とりあえず白戸さんを倒すことだけしか頭になかったので。

「王道」であり、1つの「正解」

――では最後に川口さんの曲について伺っていきましょう。赤山さんはいかがでしたでしょうか?

赤山 「かわいい」の王道ですよね。戌班の曲を最初に聴いたときも思ったんですけど、川口さんの曲を聴いたときに「『くノ一ツバキ』というアニメの、午班がメインになる回のエンディングでこれが流れたら嬉しいに決まってるよね!」みたいな。色んな楽器や音色などがたくさんすごい散りばめられてるんですけど、でも全部がちゃんと1曲の中で統一感を持ってまとまっている。何より好きなのは、サビ前の「シャキーン!」という効果音ですね。あの遊び心のひとつまみがツボです。同じ公募枠と思えないくらい、手練の雰囲気があって、ただただ「すごいなー」と思いながらずっと聴いていました。

eijun アレンジもメロディも圧巻でしたね、コードの運びも。たしかに午班の曲を作るなら、かわいい要素は絶対外せない。でも、かわいいのに同時にかっこいいみたいな部分が、常にこのアレンジのどの場面にもある。こういう女子に生まれたかったな、って思いました。ある種、これもまた1つの「正解」……王道的な雰囲気を持った、この曲のアレンジの「正解」なんじゃないのかなって思ったくらい、やられた感がありましたね。

yamazo 僕が最初に聴いたのは審査のときなわけですけど、曲を聴いたときに「多分これに決まるんじゃないかな」とは正直思ったんです。今、eijunさんが言った通り王道っぽいアレンジで、白戸さんとは別のアプローチだけど、「これって、みんな色々アレンジしているけど、原曲はこれだったんじゃない?」と思わせるくらい、アレンジのクオリティが高い。こういう応募企画だと、飛び道具を出す人が多い。その良さもあるけど、そのなかで割と王道で攻めて、それでもって勝ち残れるのは、やっぱりクオリティとセンス。その2つがある人だなって思いました。率直にいって、このアレンジはとても好きでした。

――皆さん、大絶賛ですね。

川口 嬉しい限りです

――ということで、川口さんご本人的にこだわりをお聞きしたいです。

川口 さっき赤山さんが、「かなり酉班にフォーカスした楽曲」とおっしゃってたんですけど、自分は本当に対照的に、「『くノ一ツバキ』のエンディングとしてどういう曲がいいか?」という軸と、「午班にはこういう要素があるよね」という軸、この2要素を確実に入れようと思ったんです。皆さんから「王道」といっていただけるアレンジになったのは、そうした意識があったからかなと考えています。

――キャラの軸と、作品の軸を立てていたんですね。

川口 で、さっき赤山さんがおっしゃっていた、「シャキーン!」の音だとか、和太鼓、和楽器の音とかをわかりやすく入れさせていただいたのも、『くノ一ツバキ』のエンディングであることを意識したからなんです。白戸さんはご自分の編曲に関して、「和楽器は極力減らした」という趣旨のことをおっしゃっていましたけど、こっちはあえてベタベタにいってやろうじゃないかということで(笑)。

――素敵な対抗意識です(笑)。

川口 でも、楽器の使用はそういうことを考えてたんですけど、午班らしさをどういう形で取り入れようかなって思ったときに、やっぱり「かわいい」は絶対条件なのと、あとはヒナギクの涙もろいところ。これはもう必要不可欠だなと思って。なので、アレンジは基本かわいく、そこにかっこいい要素も入れて、そのうえでコード進行であったり、Aメロのメロディラインで絶妙にかわいすぎないというか、切なさももりもりに入れさせてもらいました。そこを評価していただけたのかなと思っています。

川口ケイ

川口ケイ

――今のお話もまた面白いですね。同じ公募枠でも、赤山さんが「キャラクターソング」としての側面を強めに意識して応募されて、川口さんは「キャラクターソング」の意識もありつつ「アニメソング」……番組のEDテーマであることも意識してバランス感を決めておられた。

山内 プロの作家の人でも、キャラソンとアニメのテーマソングの違いを述べよって言われたら正解を言えない人、割といるかもしれないですね。それをわかっている人たちが応募で入ってくるこの今の世の中の恐ろしさですよ(笑)。14、5年前からDTMが一般化してきているなかで、最初はやりたいことをやろうと、勢いで作っていく人が多かった印象があるんですけど、年月を経てプロとしてのバランス感覚みたいなものを最初からちゃんとわかってやっている人たちがいる、しかも、まだプロとして世に出ていない。それなのに、プロと呼んでも過言ではないレベルのところにいらっしゃるというのが、良い意味で本当に恐ろしいです。

赤山川口 ありがとうございます(笑)。

山内 赤山さんは一点突破のフォーカスみたいなことをやっているけれど、それも全体を俯瞰した上での「あえて」の手法である。逆に川口さんの場合は、王道of王道をいっているようで、そこにプロですらあえて避ける和楽器を入れ込んでくる気概がある。保守と革新が同時に2人出てきたかのような、そんな気持ちがあります。そんな姿を見ても、それに対する皆さんの講評を聞いていても、「あれ、これ他社さんもこういうのやったほうがよくない?」って改めて思いましたね。

一同 (笑)

山内 どんどんこうやって金の卵を発掘していって、何も悪いことはなにもないと思うので。今、トップランナーとして走ってる人たちも、後ろから追いかける人がいたらもっと速く走るじゃん?みたいなところとかもあるでしょうし(笑)。ぜひ他社さんも続いてほしいですね。もちろん自分も他作品でもやっていきたいですね。

次ページ:「音合わせ」プロジェクトを通したそれぞれの想い

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