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INTERVIEW

2022.07.09

【スペシャル鼎談】様々な角度から最新アルバム『電音部 ベストアルバム -シーズン.1- The Lights』の魅力に迫る!「バンダイナムコスタジオ」より、大久保 博・岡田 祥・野村渉悟に話を聞く

【スペシャル鼎談】様々な角度から最新アルバム『電音部 ベストアルバム -シーズン.1- The Lights』の魅力に迫る!「バンダイナムコスタジオ」より、大久保 博・岡田 祥・野村渉悟に話を聞く

クラブシーンを代表する様々なトラックメイカーやキャスト陣が集結し、電子音楽がミュージックカルチャーの中心となった近未来を舞台にした物語を描いていくメディアミックスプロジェクト「電音部」。今年6月に2周年を迎えたこの作品が、最新アルバム『電音部 ベストアルバム -シーズン.1- The Lights』をリリースした。

この作品には、昨年5月から今年の2月まで行われたオリジナル曲の40週連続配信リリース企画で発表されてきた楽曲や、プロジェクト初の全体曲「You Are The Light」など、“シーズン1”の間にリリースされた未CD化音源を収録。また、完全生産限定盤はキャラクターボイス集「DEN-ON-BU VOICE KIT」や、Remixコンテストの受賞作品、様々なアーティストによる『電音部』楽曲のカバーなどを加えた6枚組の大ボリュームになっている。

今回はプロジェクトを運営するバンダイナムコから、全体のサウンドアドバイザーを務める渡辺 量の元で、コンポーザーとして「電音部」に関わっている岡田 祥と野村渉悟、そして数々のゲーム音楽を手がけてきたと同時に、「電音部」ではコンポーザーだけではなくAIを使ったDJシステム「BanaDIVE™AX(バナダイブ エーエックス)」などの技術提供も行う大久保 博(所属:バンダイナムコ研究所)に、アルバムの魅力について話を聞いた。

■『電音部 ベストアルバム -シーズン.0-』インタビューはこちら
【第一弾】ハラジュクエリア:小坂井祐莉絵(桜乃美々兎役)×音楽ユニット・Neko Hacker
【第二弾】アザブエリア:秋奈(黒鉄たま役)×ケンモチヒデフミ
【第三弾】アキバエリア:天音みほ(東雲和音役)×TAKU INOUE
【第四弾】シブヤエリア:健屋花那(鳳凰火凛役)×Masayoshi Iimori

約2年間を経ての「電音部」の展開

――皆さんは「電音部」というプロジェクトにどんな魅力を感じていますか?

岡田 祥 自分がまず感じたのは、ライブがすごく独特だという部分でした。通常、メディアミックス作品やアイドルのライブでは曲と曲の間にMCを頻繁に挟むことが多いですが、「電音部」のライブは基本的に音楽のパフォーマンスのみで構成されていて、MCは最後にしかないので。最初は、「こんなことってあるんだ?!」と感じました(笑)。でも、だからこそ「音楽を聴け!」という雰囲気が生まれている感覚がありますね。キャストの皆さんに関しても、ライブなどでバキバキのトラックやものすごいダンサーさんがいるなかで、衣装を着て歌っている姿がかっこ良くて。「自分たちが本当に良いと思う球を投げる」ということを実直に行っているプロジェクトだな、と思っています。

岡田 祥

岡田 祥

――岡田さんはコンポーザーとして関わると同時に、大久保さんとともにプロジェクト発表の舞台となった2020年に開催された“ASOBINOTES ONLINE FES”にもDJ出演されました。

岡田 はい。あのときはド新人で、右も左も分からないまま出演していました(笑)。

野村渉悟 実は僕の「電音部」との出会いは、まだ学生だった頃に観たその“ASOBINOTES ONLINE FES”でした。そこで大久保さんと岡田さんがDJをされていて。フェス終盤の熱狂的な空気のなか「電音部」が発表されたときは、これはすごいものが始まったぞと、一ファンとして興奮していましたね。ですから、それから2年後に自分もプロジェクトに携わっているというのは不思議な感覚です。「電音部」にはフィールド問わずバラエティ豊かなトラックメイカーの方々が参加されており、関わる前からその人選にも唸っていました。トラックメイカーの皆さんには、王道なものから尖りに尖ったものまで、本当に幅広い楽曲を披露していただいています。

野村渉悟

――一方で、大久保さんはコンポーザーとして関わると同時に、「電音部」のライブでも使用されるAIを活用してキャラクターがDJを行なえるシステム「BanaDIVE™AX」の開発をはじめとする技術面でのサポートも担当されていますね。

大久保 博 そうですね。「電音部」に直接関わるきっかけになったのは、プロジェクトの始動が発表された“ASOBINOTES ONLINE FES”でミライ小町のDJを担当することになったときですが、プロジェクトがまだ企画段階の、最初の仕様書から見せてもらっていました。通常、新しいIPを立ち上げる際はゲームやアニメを中心にするなど色々な方法を取りますが、「電音部」にはそれを「音楽から立ち上げる」面白さを感じますね。サウンド的にも本格的なクラブミュージックが楽しめますし、IPのファンが音楽に近寄っていくのではなく、「音楽ファンがIPに近寄っていく」方法を導くプロジェクトだな、と感じています。また、物語としては未来を舞台にしながらも、昔のクラブなどにあった地域ごとのエリア感を引き継いでいて、今の音楽が鳴っていて、過去、現在、未来の要素が混ざっているところもユニークですよね。僕もクラブが大好きだった人間なので、そういう部分も含めて魅力的です。

大久保 博

大久保 博

――では、皆さんがこれまでの展開の中で印象的だったのはどんなことだったのでしょう?1周年を記念して昨年5月から今年の2月まで行われたオリジナル楽曲の40週連続デジタルリリースを筆頭に、約2年の間にも様々な展開が行われてきたと思います。

大久保 40週連続リリースは、「大変そうだなぁ」と思って見ていました。制作チームとしては、コンポーザーの皆さんに楽曲を作ってもらって、マスタリングをして、歌唱収録も立ち会う必要があるわけで……無茶してますよね(笑)。

岡田 ですが、その40週連続リリースが進んでいくなかで、「電音部」自体の音楽性の幅がさらに広がっていった印象もありました。元々想像ができるような方たちだけでなく、リリースが進むにつれて意外な方も入ってきてくださって。その結果、プロジェクトの音楽性の幅が色々な形に広がって、次第にお祭りのようになっていった感覚があります。

――キャストの皆さんによる「LIVE」、トラックメイカーの方々による「PARTY」、キャラクターによる「GAME」など、イベントの形式も多彩ですね。

大久保 そうですね。これはエンターテインメントの会社として、音楽をIPとして出すための作戦を練った結果でもあると思いますが、おかげでファンとしても楽しむ幅が広がった感覚があります。メディアミックスプロジェクトですから、ユーザーの中にはキャラクターのDJが観たい人も、音楽を浴びたい人も、キャストの皆さんに会いたい人もいるはずです。そのすべての欲求をクリアする仕組みになっていますよね。そして、それを全部繋げているのが「音楽」だという意味で、「すごく考えられているな」と思います。

岡田 また、「電音部」はTwitterのスペースを使ったりもしていますが、メディアミックス作品でそういうものを活用している作品はあまりありませんよね。そういう意味で、アウトプットの間口が広いプロジェクトだな、とも思います。

“一番楽しい時間”を共有できるプロジェクト

――それでは続いて『電音部 ベストアルバム -シーズン.1- The Lights』について詳しくお話を聞かせてください。昨年の『電音部 ベストアルバム -シーズン.0-』は特装盤で3枚組の作品でしたが、今回は完全生産限定盤が6枚組で、さらにものすごいボリュームですね。

岡田 40週連続リリースの結果が詰まっているような感じがします(笑)。ボリュームが多いこともあり、音楽性の幅広さも詰まっていて、「電音部」のことを知らない人でも1つは好きな曲はあるんじゃないかな、と思います。そこから「電音部」やクラブミュージックの世界観を知ってもらえるような、色んな窓口になるような作品だと思いました。

――皆さんが特に印象に残っている楽曲やトラックメイカーの方々といいますと?

岡田 僕は、作曲をMasayoshi Iimoriさん、作詞をなかむらみなみさんが担当された「Let Me Know (feat. Masayoshi Iimori)」ですね。初期のトラックメイカーの方々の並びを見ていると、「この人たちも参加してくれるんだ!」という驚きがありました。Masayoshi Iimoriさんが所属しているTREKKIE TRAXは現場主義海外志向でもあるので、なかなかメディアミックスプロジェクトに参加いただけるイメージがなかったので。それもあって、純粋に「すごい」と思ったのを覚えています。クラブでの鳴りが良いのはもちろん、ベースラインに対して歌が多調っぽくなっているのが不思議な浮遊感を作っていて好きです。

野村 僕は、電音部の中でも人気ある曲なのですが、「Eat Sleep Dance (feat. Moe Shop)」が大好きです。個人的にMoe Shopさんは和声的な響きの感覚がとても鋭い方だと思っていて、王道的なコード進行でも全く違った雰囲気に聴こえるような音の積み方をされてくるというか。クラブやライブで聴くと、その響きの陶酔感も相まって非常に魅力的な楽曲になっていると思います。もちろんトラックも最高に格好いいですよ。


――ポップさもありつつ、クラブミュージックとしても踊れる楽曲といいますか。

野村 そうですね。あとは、KiWiさん。個性的かつ多幸感のある楽曲を作られている方々で、自分自身ファンなのでとても嬉しかったですね。

大久保 面白い楽曲ばかりですよね。僕は「Inverted Pyramid (Prod. KOTONOHOUSE)」も印象的でした。KOTONOHOUSEさんの曲、どれもかっこいいですよね。BNEフェスオンラインのDJパックマンでも電音部パートで使わせていただきました(笑)

岡田 あと、このアルバムには入っていないですけど、“バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル2nd”でも披露された新曲の「麻布アウトバーン (Prod. ケンモチヒデフミ)」は、当日の様子を観ていて初出しでも「めちゃくちゃ良い曲だ」と思いました。バンナムフェスのライブ、音楽だけを見せていく構成や楽曲をアレンジして披露する様子も含めてすごかったですよね。聴いたことのない楽曲やアレンジをたくさん聴くことができて面白かったです。

大久保 すごかったよね。「Hyper Bass」をあのフェス用にアレンジした「Hyper Bass 2022(feat. Yunomi)」も、元々の楽曲とは全然違うアレンジになっていましたし。

――DJ時にアレンジを変えたりエディットされたりという、クラブの現場で日々起こっていることがメディアミックスプロジェクトでも行われているようなイメージですね。

大久保 そうですね。「電音部」はそれが許されるような雰囲気がある、と言いますか。


――これまでお話を伺ったトラックメイカー、キャストの皆さんの取材でも、自分でアイデアを加えられる余地が残されていたり、皆さんでワイワイ楽しく進めていく雰囲気が「部活動みたいで楽しい」という話をしていただくことが多かったです。

岡田 「電音部」は、クリエイター、キャスト側のアウトプットを良い意味で素通りさせてくれるような魅力があるプロジェクトだな、と思います。本来、メディアミックスプロジェクトではコンポーザー側に様々なオーダーがあることが多いと思うのですが、電音部ではこちらが加えたちょっと攻めたアイデアも「良いですね!」とそのまま採用されたりするので、「こんなに攻めてしまってもいいんですか!?」と思うことが結構あるんです(笑)。そこは、怖さもあると同時に面白さを感じる部分ですね。そんな雰囲気を、外部のトラックメイカーさんやキャストさんも感じてくださっているのかもしれないです。ある意味では、何も決まっていないまっさらなところから楽曲を考えていくような感覚があります。

野村 みんなで作っていく感覚といいますか。コンポーザーだけではなくて、キャストの方々も含めた色々な方のアイデアが反映されやすいプロジェクトなのかな、と。

大久保 部活前の部室での会話のように、共通の興味を持っている人たちが集まってみんなで話しているときって、一番楽しい時間ですよね。「電音部」にはそれに近い魅力があるのかもしれません。そもそも、それはクラブでよく起きることでもあって、クラブで会った人たちが好きな音楽の話題で盛り上がって仲良くなっていく……。そういう部分も、クラブミュージックの楽しさですからね。

岡田 もちろん、メディアミックスプロジェクトとして守らなければいけないところもあると思うんですが、できるだけ遊べる余地を残していただいているのは、僕らとしても関わるうえで楽しい部分です。また、仲良しという意味での部活だけではなくて、様々なエリアやプロデューサーの皆さんがお互いに勝負し合うような部活感もあるかもしれません。

大久保 実際、「この並びの中に名前が並ぶのはどうしよう」と思ったりもしました。最初に話がきたときも、渡辺 量とミフメイに、「どんなものを作ったらいいと思う?」と相談しました(笑)。最終的には、量に「大久保さんがつくりたいものを作ってください」と言われて、楽曲を仕上げていきました。

――大久保さんが作曲された「Platinum White (Prod. Hiroshi Okubo)」はどんなイメージで作っていったのでしょうか。最初に何かオーダーはあったんですか?

大久保 キャラ設定とエリアの情報を渡されて、あとは自由に作るという流れでした。この楽曲はアザブエリアのキャラクター・白金 煌の曲で、tofubeatsさんが先に「MUSIC IS MAGIC」ですでにハウスをやられていましたが、まだディープめのものはなかったので、今回はそういう方向性で考えていきました。でも、最初は「アザブってドラムンベースでもいいんですか?」と聞いたりもしていて(笑)。方向性を決めるまでに、かなり迷っているんですよ。そもそも、「電音部」の運営チームからの曲調へのオーダーはほぼなかったよね?

岡田 そうですね。「こういう方向性でお願いします」というオーダーはないと思います。僕が作ったライブ用の出囃子(「Intersection (Sho Okada Version)」)ですら、そういうオーダーはなかったので。「好きなものを作ってくれ」と任せてもらえるような感じでした。

大久保 きっと、そうやって我々やクリエイターの方々が「この方がいいかな」と想像したものが、「電音部」の世界を少しずつ広げる役割を担っていると思うんです。僕の場合は、今流行りのEDM的な音やエレクトロ系の音が多いなかで、まだ少ない4つ打ちのハウスにしていきました。最初はDJとして使いやすいところでBPM128くらいの曲を考えていたんですけど、「これではほかの曲の勢いに負けてしまう」と思って、最終的には131にしました(笑)。煌さんの楽曲として、かわいさよりも高貴な感じを出したいと思っていたんですが、キャストを担当されている小宮有紗さんは、ほかの曲を聴いてもそこまで大人っぽさに振り切った曲はなかったように感じたので、今回は4つ打ちの方向性で考えていきました。

――その際、何かイメージしていたものはあったのでしょうか?個人的には、都会の夜をドライブするような風景が浮かびました。

大久保 「疾走感」と「夜」がキーワードでした。石田(裕亮/ディレクター )くんに伝えたのは、首都高の夜を車で走りながら、両サイドをライトが通り過ぎていくようなイメージですね。最初は学生なので助手席に乗っているイメージで楽曲を作っていこう、と話していたんですが、電音部は未来が舞台なので、最終的にジャケットに写っているのは自動運転の車という設定にしましょう(笑)なんて話したりして。

――アザブエリアのイメージを連想していかれたんですね。

大久保 そうですね。僕個人が昔によく通っていたのが、、西麻布や青山のクラブだったんです。僕の中では六本木の派手さよりも、当時自分が遊んでいた西麻布のYELLOWや、南青山のBLUEのようなイメージがクラブにはあり、ちょうど「電音部」の中でもその雰囲気の楽曲が少ないこともあって、今回はその方向性に決めていきましたね。

次ページ:初の全体曲や楽曲カバー、ボイスキット、幅広く味わうことのできる1枚に

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