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INTERVIEW

2021.07.22

劇場オリジナルアニメ―ション作品『サイダーのように言葉が湧き上がる』公開!イシグロキョウヘイ監督インタビュー

劇場オリジナルアニメ―ション作品『サイダーのように言葉が湧き上がる』公開!イシグロキョウヘイ監督インタビュー

フライングドッグの10周年記念作品として制作された劇場オリジナルアニメ―ション作品『サイダーのように言葉が湧き上がる』が、ついに公開された。郊外のショッピングモールを舞台に、少年少女たちのサイダーのように爽快で甘酸っぱい青春ストーリーが描かれる本作。牛尾憲輔が劇伴を担当するほか、大貫妙子が劇中歌、never young beachが主題歌を書きおろしで提供するなど、物語を含め音楽的にもこだわりの詰まった作品に仕上がっている。音楽への造詣も深いことで知られるイシグロキョウヘイ監督に、本作へ込めた想いを聞いた。

すべてが音楽ネタに繋がっていく、今を生きる少年少女の青春ストーリー

――『サイダーのように言葉が湧き上がる』(以下、『サイコト』)はイシグロ監督にとって初のオリジナル作品で、脚本も監督と佐藤 大さんが共同で担当しています。当初はどのような構想で企画がスタートしたのでしょうか?

イシグロキョウヘイ 元々は僕がフライングドッグさんに声をかけていただいて、“SFの音楽もの”という企画案でストーリー開発を進めることになったのですが、自分がお話作りのプロではないのでなかなかまとまらなかったんですよ。そこで佐藤 大さんに参加してもらうことになったのですが、僕はどちらかと言うとSFよりも人間ドラマのほうが好きなので、やはりオリジナル作品を作るのであれば、自分の好きなものをやらないと作品が成り立たないと感じて、大さんにそれまでの経緯を説明して「SFはやめたいです」とお話しして(笑)。大さんも脚本家としての視点で、90分の尺に収めるのであれば現代劇のほうがいいという意見だったので、今の形にまとまりました。

――監督自身、自分の中に温めていた描きたいテーマがあったのですか?

イシグロ 描きたいテーマと言えるかはわからないですが、僕は思春期の年代の少年少女が自己を確立していく過程の物語が好きなんです。僕自身も『サイコト』の企画を練っていく段階で、高校時代に抱いていたモヤモヤ感みたいなものをよく思い出していたんですけど、それが僕の創作の原点になっているんですね。ただ「自己を確立していく人間ドラマ」の描き方にも色々あるわけで、実は『サイコト』は当初、群像劇だったんですよ。主人公のチェリーとスマイル以外のキャラクター、例えばビーバーやジャパン、タフボーイにも本当はもっと明確な役割とシーンが割り当てられていて、「グーニーズ」(1985年公開の映画)的な物語にする予定だったのですが、チェリーとスマイルの恋愛にフォーカスを当て直して、二人がコンプレックスを解消していく物語に仕立てました。

――群像劇の名残があるからこそ、脇を固めるキャラクターもそれぞれキャラが立っていて魅力的なんでしょうね。また、本作は地方都市のショッピングモールを中心に物語が進みますが、その舞台設定も『サイコト』ならではの魅力として機能していると感じました。

イシグロ まず、思春期の少年少女たちの物語を作るという出発点があったので、今の中高生の子たちの青春はどこで培われているかを考えたときに、ショッピングモールが青春の原風景になっていると思うんですね。僕らの時代は駅前のゲーセンとかが原体験の盛り場でしたけど、モールは今や日本全国にありますし、あらゆる店が揃っていて快適ですから。そして日本の地方都市はどこも景色が似通っていて、田んぼの中にいきなり巨大な箱庭のモールがあるっていうのは、多くの人が共通項として持っている景色だと思うんです。『サイコト』の舞台はイオンモール高崎をモデルにしていますが、多分たくさんの人があの景色に共感を抱いて、実体験のように捉えてくれるはず、という狙いがありました。

――なるほど。それに加えて、舞台的にも背景的にも、昔ながらの懐かしい雰囲気と現代的な空気が同居しているところが、本作のユニークなポイントだと思います。

イシグロ その辺りは美術のルックも影響していると思います。鈴木英人さんやわたせせいぞうさん風のシティポップ調のアートっていう。僕らからすると80年代のポップアートは昔のものですが、フラットに見るとすごく洗礼されていて現代的なんですよ。永井 博さんの『ロンバケ』(大滝詠一『A LONG VACATION』)のジャケットもそうですが、あの西海岸風のルックを地方都市の日本に当てはめたら、色んな人がポップに感じられると思うんですね。今の50代ぐらいの人たちは自分の青春時代を思い出して懐かしく感じるだろうし、若者にとっては新しさを感じる今のシティポップブームにも繋がるかも、という狙いもありました。

――企画当初から“音楽もの”を意識していたとのことで、本作では“レコ―ド”や“音楽”といった題材が重要な要素として扱われています。イシグロ監督はかつてバンドでドラマーをやっていた経験もあって音楽好きというお話ですが、“音楽もの”を制作するにあたって特にこだわった部分は?

イシグロ 僕も大さんも音楽そのものが大好きなので、その気持ちを作品の中で大切に扱う、というマインドが一番大きかったですね。“音楽もの”と言うとバンドやアイドルを登場させるのがわかりやすいですが、僕と大さんからそういうアイデアは出ませんでした。で、ブレストを重ねていくなかで、例えばオザケン(小沢健二)とスチャダラ(スチャダラパー)の「今夜はブギー・バック」みたいに、要は違うもの同士が合わさったときに新しい音楽が誕生するんじゃないかっていう話になって。そこから、チェリーの俳句や、レコードに合わせてラップをするヒップホップ的なアイデアが寄り集まっていって、俳句が好きな少年がたまたまその場で流れていた音楽に乗せてポエトリーリーディングみたいに気持ちを声に出してぶつける、最後のシーンに繋がっていきました。新しい音楽が生まれた瞬間を描く。音楽を大切に扱うマインドはそこに集約したつもりです。

――そのほかに作品の骨組みを作るにあたって重要視したポイントはありますか?

イシグロ ハッピーエンドですかね。これも“はっぴいえんど”という音楽ネタに繋がりますけど(笑)、最終的に必ずハッピーな気持ちになる物語にすることには、ずっとこだわっていました。個人的にも、ハッピーエンドだと何回も観直す動機になるし、初めてオリジナル作品を監督するのであれば、ハッピーなものを提示したい気持ちが根本としてあったので。シティポップ調のアートにしたのも、パッと見の明るさがポジティブな終わり方をイメージさせるメッセージに繋がっている気がしますね。

――映画本編にも実在するレコードのジャケットがたくさん登場したり、音楽ネタがふんだんに盛り込まれていて、音楽への愛を感じました。

イシグロ 根本は“音楽もの”なので、音楽ネタについてはサブミッションとしてほかのスタッフにも伝えていましたし、自分も守っていたんですよ。キャラクターの名前の由来も、チェリーはスピッツの「チェリー」やYUIさんの「CHE.R.RY」だし、スマイルはビーチ・ボーイズの幻のアルバム(『Smile』)からで。掘れば掘るほどネタが出てくるのは、何回も視聴したときに楽しめる要素として仕込んだつもりです。

――キャラクターの名前で個人的に一番オッ!となったのが、モトプリでした。あの名前はプリンスが元ネタですよね?

イシグロ そうです。僕が中学生の頃にプリンスが改名してシンボルマーク(※プリンスは1994年から数年間、通称「ラヴ・シンボル」と呼ばれる発音不明の記号に改名していた)になったんですけど、読み方に困ったアナウンサーが「元プリンス」と呼んでいたのが心に残っていて。しかもモトプリの本名は白井という設定なんですけど、これはシーラ・Eから取っていて。

――プリンスとシーラ・Eはかつて恋仲でしたものね。めちゃくちゃ細かい(笑)。

イシグロ そうなんですよ。大さんも音楽好きですし、僕もこんな感じなので、ネタ出しには困らなかったですね。

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