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2017.04.05

Kalafina「into the world / メルヒェン」レビュー

Kalafina「into the world / メルヒェン」レビュー

『歴史秘話ヒストリア』のEDテーマ「into the world」と、西尾維新原作のOVA『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』のエンディングテーマ「メルヒェン」を収録した両A面シングル。

2017年4月よりスタートしたソニーミュージックの新レーベル『SACRA MUSIC(サクラミュージック)』のリリース第一弾となる、Kalafinaの20thシングル『into the world / メルヒェン』。NHK総合テレビにて放送中の『歴史秘話ヒストリア』のEDテーマ「into the world」と、西尾維新の人気小説を原作としたOVA『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』のEDテーマ「メルヒェン」を収録した両A面シングルとなっている。どちらもテーマ曲として以前より使用されていたものの、その時点ではCDや配信などのリリースがされておらず、今回のシングルが初の収録となる。シングルには、穏やかなスローナンバー「春を待つ」も収録している。

「into the world」

NHK総合テレビにて毎週金曜午後8時より放送中の『歴史秘話ヒストリア』。『その時歴史が動いた』の後継番組として2009年より放送されている、NHKの人気歴史情報番組だ。番組のテーマ曲や音楽は梶浦由記が担当。OPテーマは2013年より、「Historia:opening theme」に代わって、この曲をKalafinaがカヴァーした「storia」(2009年に5thシングルとしてリリース)が使用されている。そして、EDテーマは、「symphonia (TV ver.)」「夢の大地」「far on the water」と、こちらもKalafinaが担当。そして、2016年4月22日の放送回から4代目のエンディングテーマとして使用されているが、この「into the world」。番組のエンディングを飾るこの曲が、シングルでじっくりと聴くことができるようになったのは非常に喜ばしい。

朝の光が少しずつ満ち、世界に目覚めを告げるかの如く、曲は静かに幕を開け、ゆったりとしたテンポで、でもビートはしっかりと一歩ずつ踏みしめるように力強く響き、さらに前へと進むことを促す。遥か彼方まで続く世界を雄大に描くストリングス。それはまた悠久の時の流れを映し出しているようでもある。サウンドが鮮やかに広がるハイレゾでは、楽器のアクセントがもたらす音の余韻が深く、その壮大さもいっそう増している。

梶浦由記が綴る歌詞には、まだ見ぬ世界の果てへと誘なう、「旅」のイメージが投影されており、それは己の足で歩み続け、ときには乗り越えるのが困難な壁にぶつかりながらも、なお進むことをあきらめない、人の生きる姿や人類の歴史にも重なるように思える。またこの曲では過去のエンディングテーマを踏襲しながらも、2番目の歌詞に、“心の中へ降りて行く旅”という言葉を差し込み、さまざまなことを知ることで広がる世界の姿と、そのことによって深くなる自身の内面と、どちらも描き出しており、タイトルの「into the world」にもそれは象徴されている。

今作に収録されている「into the world」のインストゥルメンタル・ヴァージョンでも、楽曲の美しさは実感できるが、Kalafinaのために作られたサウンドはやはり、Kalafinaのヴォーカルが入ることにより、その輝きをいっそう増すもの。楽曲をドラマチックに染め上げる躍動的な歌声。そのたおやかな抑揚はサビでは限りない開放感を生み出す。遠くのその先へと灯火を掲げて導くような、透き通る声の響きが耳に残る。

「メルヒェン」

西尾維新の小説『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』は、「戯言シリーズ」の第1作目として2002年に刊行され、同年第23回メフィスト賞を受賞している。当時のシーンに大きな衝撃を与えたこのデビュー作は、2016年10月より、同じく西尾維新原作の『〈物語〉シリーズ』を映像化した新房昭之監督+シャフトの制作で、OVAシリーズとしてリリースされている。

梶浦由記が音楽を手がける、この『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』OVAのOPテーマは、TVアニメ『キズナイーバー』ではエンディングテーマ「はじまりの速度」を担当した、三月のパンタシアの「群青世界(コバルトワールド)」。そして、エンディングテーマは、Kalafinaの「メルヒェン」。なおOVAのエンディングで使用されているのは「メルヒェン -アニメSize-」(「期間生産限定盤(アニメ盤)」に収録)なので、フル・ヴァージョンの収録は今回、初となる。

童話やお伽話を意味するドイツ語の「Märchen」をタイトルにつけた「メルヒェン」。「メルヘン」と書いてしまうとなんとなく、「メルヘンチックな」などの言葉で表わされるような、かわいらしいファンシーな世界を思い浮かべてしまうが、ドイツ語の発音により近い「メルヒェン」と表記すると、グリム兄弟が採集していた、のちの童話の原型となる民間伝承(それは中世の庶民の厳しい生活を反映した、残酷な結末のものも含まれる)のような、ちょっと怖い雰囲気さえも漂ってきてしまうから不思議。もっとも、絶海の孤島で繰り広げられる、首斬り死体を巡る想像を超えたミステリー、『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』のエンディングテーマには、こちらの方がぴったりだと思われるが。

強く打ち鳴らされる太鼓の音や揺らめくフィドルの旋律が、黒い森で行なわれている怪しげな儀式といった、東欧の土着的な雰囲気も醸し出す、梶浦由記らしいサウンドが展開。1番が終わったあとから、表舞台へと現われ舞い踊る笛の音が、ふと「ハーメルンの笛吹き男」を思い出させ、誰かの手によってそっと命が持ち去られてしまう、そんななにか不吉なことが起こる、前ぶれを示しているようにも聴こえてくる。

サウンドをもしダーク・ファンタジーと例えるならば、歌詞は幻想小説といったところだろうか。“からっぽになって 僕らは箱の中 を見ていた箱の外” “1オクターブ外して僕らは歌う”など、自分と世界がどんどんズレていくような錯覚や違和感をスリリングな言葉であぶり出す。そして、それを強く訴えかけるようにたたみ掛けるヴォーカルには焦燥感が濃くにじむ。語感やアクセントを強調した、重なる3人の歌声がもたらすイメージがひときわ鮮烈。

Kalafina
into the world / メルヒェン

Sony Music Labels Inc.
2017.04.05

FLAC 96kHz/24bit

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e-onkyo music
mora

 収録曲

   作詞・作曲・編曲:梶浦由記

 1.into the world

 2.メルヒェン

 3.春を待つ

 4.into the world -instrumental-

 

 ©西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト

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