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2017.04.19

山崎エリイ「十代交響曲」レビュー

山崎エリイ「十代交響曲」レビュー

十代の葛藤を鮮烈に映し出したロック・チューン「十代交響曲」と、自身が作詞を手がけた穏やかなポップス・ナンバー「Pearl tears」を収録した1stシングル。

声優、また歌手としても活動中の山崎エリイ。2016年11月にアルバム『全部、君のせいだ。』を発表し、ソロアーティストとしてデビュー。その5カ月後にリリースされたこの「十代交響曲」は、彼女にとって初となるシングルだ。今作には自身が作詞を手がけたカップリング曲「Pearl tears」も収録している。2017年11月には20歳の誕生日を迎える彼女の(同月には木戸衣吹とのユニット、every♥ing!の活動が残念ながら休止となる)、意欲的な創作姿勢が窺える作品となった。

「十代交響曲」

作詞・作曲・編曲は、hisakuni。村川梨衣「Baby, My First Kiss」、内田 彩「Everlasting Parade」、Pyxis「ミライSniper」など、最近では1stシングルの収録曲にその名を目にすることも多い。これらの楽曲や山崎エリイのデビューアルバム『全部、君のせいだ。』に収録されている「ドーナツガール」のように、ポップなエレクトロニック・サウンドを得意としている。

hisakuniのクレジット、またブライアン・ウィルソンやヴェルヴェット・クラッシュ、あるいはジャクソン5などを想起させるタイトルから、青春の甘酸っぱさがにじむポップなナンバーを想像していたのだが、そのイメージとは真逆の重い雰囲気が漂うロックが展開。陰影に彩られたそのサウンドは、上記のアーティストよりも、ザ・キュアーやエヴァネッセンスの方がまだ近いのではと思わせる。

戸惑いを表わすピアノのフレーズ、焦燥感があふれる鋭いギターやドラムのビート。華やかなファンファーレではなくノイズやクラップが、ドリーミーな浮遊感ではなくひんやりと醒めたサウンドが、十代特有の心の葛藤を鮮烈に映し出す。オルタナ・テイストを交えたサウンドが、心の不協和音をそのままに、言葉だけでは伝えきれない苛立ちを代弁するかのように激しく鳴り響いている。

その中に暗雲から差し込む月光のように声が美しく輝く。華奢な声質ながらも、内に潜む強さが現われた歌声の、凛とした存在感が際立つ。次々と入れ替わるアクセントの強弱やイントネーションのつけ方が非常になめらかで、またときには語尾を伸ばしながら、余白を埋める言葉運びも実に巧み。『全部、君のせいだ。』から、さらに成長したヴォーカルが感じられる。

“おしゃれで綺麗で残酷で 絶望と格差 突きつける”世界との狭間で、もがき続ける少女の姿を描写したこの曲だが、“未完成な十代交響曲”が完成することも暗示されている。それは孤独と不安を走り続けた夜が明ける、大人になるその瞬間だ。

どうにもならない思いにさいなまれつつも、“ありあまる自意識と矛盾する感情” “自分を責めてしまう今夜を いくつ超えれば大人になるの”など、自身を見つめる眼差しはいたって冷徹で、その言葉に子供じみた甘えはなく、心に生じた変化と併せて少女がすでに大人のきざはしを登り始めていることに気づかされる。楽曲自体は現在の心象風景と共鳴する重めなものながら、全体を俯瞰するとその先の明るい姿が浮かんでくるような、希望を感じさせる作りとなっている。

「Pearl tears」

作曲は、『全部、君のせいだ。』では歌謡風味のGSナンバー「Lunatic Romance」を手がけている櫻口葵子。編曲は、「Lunatic Romance」「空っぽのパペット」「雨と魔法」「アリス*コンタクト」など山崎エリイの楽曲の多くにアレンジャーとして携わっているmicrostarの佐藤清喜。そして、「人魚姫」の童話をモチーフとして、山崎エリイが初めて作詞を手がけている。

「十代交響曲」とは対照的に「Pearl tears」は、穏やかな雰囲気の楽曲で、流麗なピアノとストリングスの旋律が温かく包み込むように奏でられる。2番から入ってくるドラムとベースも、メロディをそっと支えるような、なだらかさで楽曲に厚みを加えている。ゆったりとしたテンポが心地好く、ともすれば6分という曲の長さも忘れてしまいそう。

ハイレゾは、山崎エリイのヴォーカルがより浮き彫りとなる仕上がりで、スポットライトが照らし出すように、声がサウンドを背景によく映える。ゆっくりと語りかけるそのヴォーカルは輪郭に淡さをまといながら、抑揚をスムーズに繋ぎ合わせ、ニュアンスを繊細に表わす。

想いを深く紡ぐその歌声は優しく、静かな微笑みをたたえている。しかし、あなたとの“永遠”を夢見ながらも、それが果たされぬことも知っているようで、願いが叶わず、泡となって海へと帰った、人魚姫が流した真珠の涙に託したイメージは何処か切ない。

初めて聴いたときにイントロのピアノのメロディが、出会いと別れの季節「春」を表わしているようにも聴こえた。十代をまもなく卒業する山崎エリイのもうひとつの「十代交響曲」。童話のような世界に終わりと始まりの予感を秘めた、ちょっと不思議なナンバーだ。

山崎エリイ
十代交響曲

ZERO-A
2017.04.19

FLAC・WAV 48kHz/24bit

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e-onkyo music
mora

 収録曲

 1.十代交響曲
   作詞・作曲・編曲:hisakuni

 2.Pearl tears
   作詞:山崎エリイ 作曲:櫻口葵子 編曲:佐藤清喜

 3.十代交響曲 (Instrumental)

 4.Pearl tears (Instrumental)

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