茅原実里『Contact』レビュー

壮大な世界がドラマチックに展開する、歌姫・茅原実里の運命を決定付けた傑作アルバム。

2007年に音楽活動を再開した茅原実里。2枚のシングル「純白サンクチュアリィ」「君がくれたあの日」をリリースの後、2007年10月に発表されたアルバムが『Contact』。作詞は畑 亜貴とこだまさおり、作曲はElements Gardenの菊田大介、大久保 薫、中西亮輔、Tatsh、俊龍らと豪華な布陣による制作で、収録された12曲のうちシングル2曲以外は全てアルバムのために書き下ろされている。

シングルで披露した打ち込みとストリングスが織りなす壮大でドラマチックなサウンド、というイメージをアルバムにも引き継ぎ、各クリエイターの個性が火花を散らすクオリティの高い楽曲が並んでいる。そして、茅原実里の繊細で透き通るような、でも力強い声が燦然と光を放つ。それはジャケットのイメージ(CDの初回限定仕様盤は銀色に輝くパッケージ)そのものが音となり表われているようだ。

アルバムのミックスを淺野浩伸、ハイレゾ版のマスタリングを原田光晴が担当。48kHz/24bitのオリジナル音源を、96kHz/32bit(floating)環境にてリマスタリングしている。

「Contact」〜「詩人の旅」

幕が上がるように細かく鳴ったシンバルが流れ去り、声とともに重いビートがアルバムの始まりを告げる「Contact」。表題曲にして1曲目となるこの曲を聴けば、このアルバムのコンセプトや今作における茅原実里というヴォーカリストのイメージがすぐさま理解できる。

イントロから残響が彼方まで轟くような広大な世界が一瞬にして築き上げられるハイレゾでは、空間の奥行きが深く、音が立体的に配置されていることがよくわかる。刻み込まれたスネアに絡み合うアシッド風味のベースライン、明滅しているようなシンセのリズムが分離良く定位されており、量感豊かな低域がパワフルなサウンドを押し上げ、既にクライマックスを思わせる昂揚感を演出する。そして、“S.I.G.N.A.L”のコーラスはヴォーカルと呼応し次々と表われてはひとつに重なる。それは声のエネルギーが後方から放射されているように力強い。

そして、「Contact」と同じく菊田大介が作曲、編曲を手がけた「詩人の旅」へと曲は続く。「Contact」で展開した世界観を一気に加速させたトランス感漲る楽曲がハイレゾ版では瞬発力が増したシャープなサウンドで鮮明に響く。アタックの強いビートと引き締まったベース、切れの良いリズムが疾走感を導き、「Contact」からの昂揚感を持続させる。アクセントを付けるシンセの音色も効果的に、隅々まで音が組み込まれたプログラミングの精密さを露わにする。

茅原実里のヴォーカルは、激しく展開される楽曲の中で凛としたイメージを保ち、力強さを湛える輪郭で描写されている。ソリッドなイメージが前面に打ち出された「Contact」に対して、この曲ではダイナミックなサウンドに舞い上がる歌声のたおやかさ、また抑揚に漂う柔らかい雰囲気が印象的だ。

そして、アルバムならではの仕掛けというべきか、「Contact」と「詩人の旅」が途切れることなく繋がっている。「Contact」の終盤から大先生室屋ストリングスによる弦楽奏のみとなり、そのまま「詩人の旅」へと続く。分離感がストリングスを構成する複数の楽器の音色、それぞれの演奏のニュアンスを明瞭に描き分けており、この幾層にも重なったアンサンブルにより「詩人の旅」へとなだれ込む疾風怒涛の展開はまさに圧巻。何度も聴きたくなるリアルな音の威力が伝わってくる。

「Cynthia」

TVアニメ『ひだまりスケッチ×365』のOPテーマ「?でわっしょい」の作曲者、Tatshが手がける漂う華麗なポップチューン。シンセベースによる小気味好いグルーヴが楽曲を引っ張り、潔いくらいの音のキレが刺激的だ。こちらも細かく刻むリズムがスピードを増して聴こえるが、メロディやストリングスと緩急のバランスを保っているため、全体像がすんなりと耳に届く。それは解像感があらゆる音に焦点を結んでいることも大きく作用している。

そして、キラキラとした高音域が美しく、ウィンドチャイムや間奏のハープの音色がさらに華やかに響く。ヴォーカルはスレンダーな音像に声の成分を凝縮したかのように濃厚な質感で、音数の多いサウンドから前に出てきて繊細なニュアンスをじっくりと聴かせてくれる。変化をつけたそれぞれの声が重なるラストの余韻も素晴らしい。

「夏を忘れたら」

清々しいサウンドと茅原実里の柔らかな表情がアルバムの中でひときわ印象的なナンバーは、虹音こと松田彬人による作曲。虹音が手がけたスフィアの「Now loading…SKY」が夏が始まりを告げるようなAORポップとすれば、こちらは夏の終わりに届けられたメロウグルーヴ。伊丹雅博が爪弾くアコースティックギターの音色とサンバのリズムが過ぎ去った夏の風景を思い描く。「Cynthia」同様に大久保 薫のアレンジが冴えわたる。

すっきりとした空間に音が抜けるように鳴り響き、コーラスとエレクトリックピアノの旋律が何処かセンチメンタルな雰囲気も漂わせている。それぞれの楽器が適度な距離感を保ちながら全体的に前に出てきており、鮮やかな音色が爽やかに絡み合う、心地好いサウンドが広がる。ストイックさも感じられる今作のヴォーカルのなかで「ふたりのリフレクション」では明るさ、「Dears ~ゆるやかな奇跡~」ではおおらかさ、「truth gift」では優しさがさらに映し出されおり、この曲では自然体の表情が浮かんでくる。よく伸びる高音域の可憐さと弾むような歌声がさらに魅惑的に響き渡る。

爽やかに弾けるポップナンバー「ふたりのリフレクション」、クリスタルなサウンドとビートが炸裂する「純白サンクチュアリィ」、アグレッシヴさがギターと共に駆け抜ける「too late? not late…」、限りない優しさに包まれるラストナンバー「truth gift」など、最初から最後までドラマチックな物語を描くサウンドの迫力、澄みきったヴォーカルの際立つ美しさに惹きつけられるばかりだ。今作を始め、ほかアルバムもハイレゾ化されており、豊穣な情報量のサウンドによって、茅原実里の魅力的な世界にさらに没入できる。

Contact茅原実里
Contact

Lantis
2014.09.10

FLAC・WAV 96kHz/24bit

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 収録曲

 1.Contact
    作詞:畑 亜貴 作曲・編曲:菊田大介

 2.詩人の旅
    作詞:畑 亜貴 作曲・編曲:菊田大介

 3.ふたりのリフレクション
    作詞:こだまさおり 作曲・編曲:菊田大介

 4.純白サンクチュアリィ
    作詞:畑 亜貴 作曲・編曲:菊田大介

 5.Dears ~ゆるやかな奇跡~
    作詞:こだまさおり 作曲:Tatsh 編曲:大久保薫

 6.Cynthia
    作詞:こだまさおり 作曲:Tatsh 編曲:大久保薫

 7.sleeping terror
    作詞:畑 亜貴 作曲・編曲:菊田大介

 8.too late? not late…
    作詞:畑 亜貴 作曲:俊龍 編曲:菊田大介

 9.夏を忘れたら
    作詞:畑 亜貴 作曲:虹音 編曲:大久保薫

 10.mezzo forte
    作詞:こだまさおり 作曲:俊龍 編曲:菊田大介

 11.君がくれたあの日
    作詞:畑 亜貴 作曲・編曲:菊田大介

 12.truth gift
    作詞:畑 亜貴 作曲:Tatsh 編曲:中西亮輔

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