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INTERVIEW

2016.10.12

教えて純之介さん!Lantis音楽プロデューサー・佐藤純之介がズバリ回答!!「マスタリングって何ですか?」Vol.1

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レコーディングされた音源がCDになるまでには、「MIX(マルチトラックで録音された音をまとめる作業)」そして「マスタリング(各トラックをアルバムとしてまとめる最終作業)」という工程がある。今回のスペシャル・インタビューは、今ひとつイメージが掴みづらい「マスタリング」にスポットを当てることにした。

9月某日、AST MASTERING STUDIOSで行われたTVアニメ『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ドライ!!』のサウンドトラック『Elektronische Musik für ILLYA』のマスタリングに立ち会い、作業終了後、作品の音楽プロデューサーである佐藤純之介氏と、音楽を担当したTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDのフジムラトヲル氏と石川智久氏に話を聞いてみた。

マスタリングの話のみならず、パソコンへのCDの取り込み方法や再生環境に関する話題など、前回の取材(教えて純之介さん!Lantis音楽プロデューサー佐藤純之介がズバリ回答!!「ハイレゾQ&A」)に引き続き盛りだくさんの内容となった。またTECHNOBOYSのふたりに今回のサウンドトラックについても詳しく語ってもらった。

●教えて純之介さん! Lantis音楽プロデューサー・佐藤純之介がズバリ回答!!「ハイレゾQ&A」はこちら

Interview By 田中尚道(クリエンタ)
Text By 青木佑磨(クリエンタ/学園祭学園)
At AST MASTERING STUDIOS

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TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND『Elektronische Musik für ILLYA』のレビューはこちら

Q.  マスタリングってどんな作業なんですか?
A. アーティストが作った音源を、聴く側の目線で最終調整してもらう工程です

──前回のインタビューで「ハイレゾとCDとで、それぞれに適したマスタリングを行っている」「マスタリング技術の向上によって、CDの音質も良くなった」というお話をしていただきましたが、その「マスタリング」とは一体どういった作業なのでしょうか?

佐藤純之介 マスタリングは、制作した音源の最終調整を行う工程です。我々が作った段階では曲によって音圧に差があったりするので、マスタリング・エンジニアさんと一緒に収録される全曲を通して聴いて、足りない帯域を補強してもらう作業が含まれます。「聴きどころ」というのは作る側と聴く側に若干差異があるので、そこをマスタリング時にエンジニアの方に調整してもらうわけですね。ひとつの作品にいろいろなジャンルの音楽が詰まっているなかで、聴きやすい流れを作ってもらうんです。CDのマスタリングでは、CDに収めたときにいとばん気持ちよく聴こえるようにしてもらいます。

──「楽曲制作には携わっていない人に、聴く側の目線で最終調整をしてもらう」ということでしょうか。

佐藤 そうですね。いってみればお医者さんみたいなものかなと。この工程で、最終的に聴きやすくアウトプットできるように直してもらうんです。

石川智久 リハビリみたいなものですね。

佐藤 そうそう、そんな感じです。また元々のマスター音源はハイレゾでレコーディングされているので、CDのマスタリングでは「16bit/44.1kHzという器の中に、どれだけ高いクオリティ収録できるか」という作業をやってもらっています。

──今回のマスタリングでも元々ハイレゾ音源で録音されたものを、CDにベストな状態で収録するために調整していたわけですね。どんな音源にも必ずマスタリング作業はあるのでしょうか?

佐藤 はい。どんな作品でもマスタリングはしていると思っていただいて結構です。一般流通のものなら、必ずマスタリング・エンジニアの手を通ってアウトプットされています。

──TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDのおふたりはマスタリングの際にどんなことに注意されていますか?

石川 それぞれの曲のバランス、またアルバム全体としてのバランスを考えていますね。レコーディングやMIXの際に見落とされていたノイズの混入についても注意を払っています。

フジムラトヲル あと、曲と曲の間の長さはアルバムをひとつの作品として聴いたときに大事な要素ですので注意しています。

──マスタリングという作業についてどのように考えていますか?

石川 そうですね、トラックダウンされたものをいかにリスナーに聴きやすく届けるかという作業がマスタリング。とても重要な役割だと考えています。

フジムラ トラックダウンは一曲一曲行うので、今回のサウンドトラックのように曲数が多くなればなるほど、それをまとめるマスタリングという工程の比重が重くなってくると思います。

Q. マスタリング・エンジニアってどんなお仕事なんですか?
A. バラバラな音源も、客観的に捉えてひとつの作品にまとめてくれる人です

──マスタリングと、それ以前に行われる「MIX」は、携わる人物が変わるだけで作業内容や使用する機材はあまり変わらないのでしょうか?

佐藤 以前はまったく違う作業だったのですが、DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)を使うようになってからは大きな差はないですね。いちばん大きな違いは「職業の違い」だと思います。MIXのエンジニアは、マルチトラックでたくさんの音をいかに音楽的に聴かせるかを考える職業。それに対してマスタリング・エンジニアは、2MIX(ステレオミックス)で、アルバムとして、シングルとして、いかに聴かせるかに重きを置いている職業です。そこで用いられているノウハウや技術は、実はそんなに大きくは変わらないと思います。

石川 ちなみにアナログレコード時代のマスタリングは、「カッティング」と呼ばれていたんですよ。

佐藤 そうそう。今は「マスタリング・エンジニア」と呼ばれていますが、昔は「カッティング・エンジニア」という名前だったんですよね。テープで届いた音源を、レコードの溝に掘り込むという職業だったので。

石川 深さとかを気にしながら、音が飛ばないようにね。厚みの全然違うものをひとつに揃える作業という意味で、今のマスタリングも同じですね。

佐藤 曲が切り替わったときに、いきなり大きな音が「バン!」と出ないようにするわけです。

──メディアの変遷に合わせて、作業内容が変わっているんですね。

佐藤 今回マスタリングをしてくれている小池光夫さんは、元々はレコーディングやミキシングのエンジニアだったんですよ。そこからマスタリング・エンジニアに転身されているんです。なので上位互換というわけではないんですけど、「ミキシングをした人をさらに上から見て、客観的に捉えるポジション」という立ち位置でもあります。サウンドトラックなんて特にそうなんですけど、クリエイターって暴走するんですよ(笑)。いろんな方向に突き抜けたものを、グッとひとつにまとめてもらう。そういう意味で、我々にとっても非常に大事なポジションだと思います。

──雑誌の編集者のようなものですね。いろいろなライターの原稿を統一したフォーマットに落とし込むという作業は、我々の仕事に近いかもしれません。

佐藤 たしかにそうですね!「ここは生かそう」「ここは削ろう」という判断をお願いしている立場の人になりますからね。

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