リスアニ!WEB – アニメ・アニメ音楽のポータルサイト

INTERVIEW

2016.10.12

教えて純之介さん!Lantis音楽プロデューサー・佐藤純之介がズバリ回答!!「マスタリングって何ですか?」Vol.1

Q. 容量制限のないハイレゾのマスタリングは、どんな作業になるんですか?
A. 「良い環境で再生される」という前提で音作りをしています!

──CDのマスタリングはCDのフォーマットに落とし込むための作業が含まれていたわけですが、容量的な制限のないハイレゾのマスタリングは先程お聞きした「マスタリング・エンジニアの耳を通す」という部分以外ではどういった作業になるのでしょうか?

佐藤 まずハイレゾ音源は、ある程度良い環境を持っている人に向けたものになります。ハイレゾを買ってくれる人は前提として、良いオーディオやイヤフォン、プレーヤーなどを持っているわけです。だからハイレゾのマスタリングでは少しだけ音圧に余裕を持たせることで、より繊細に音を聴かせることができるようにしています。決められたサイズの器の中にギュッと押し込んでいたものを解放してあげることによって、同じ音作りの方向性のなかでもより広い音像を体感できるようになるんですね。

──CDとハイレゾでは「聴いてくれる人の再生環境が違う」というのがまず前提になるんですね。

佐藤 そうです。そこに向けて作っています。だから「ハイレゾのフォーマットがこうだから、それに合わせて」というよりかは「ハイレゾ・ユーザーは良いものを持っている」という考えで、再生性能が高いものを持っている人に向けたアプローチをしています。例えばiPhoneや付属のイヤフォンなどの普段MP3を聴いているような環境でハイレゾ音源を聴いたら、ちょっとしょぼく聴こえるかもしれませんね。

──聴く側の環境を信頼して作った結果、推奨されない環境で再生すると聴こえるべきものが聴こえなくなってしまうんですね。

佐藤 逆にユーザーの90%以上はCDを聴いてくれているので、CDはどんな環境で聴いても良い感じになるように作っています。「良い環境で聴けばより良く、悪い環境で聴いてもそれなりに」というのが目標ですね。そういう意味でCDはオールマイティーな音作りを心掛けています。

Q. ハイレゾを小さい容量に圧縮したものがCD音源なんですか?
A. それぞれに良いものになるように、ハイレゾとCD、さらにTVで流れるものも作り分けています

──単純にハイレゾを圧縮したものがCD音源、ということではないんですね。

佐藤 CD用にMIXしたものを反映したうえで、これからハイレゾ用マスタリングを行うことになります。なのでハイレゾ用を作って、それをダウンコンバートしてCD用としているわけではありません。ハイレゾはハイレゾ用、CDはCD用として分けて作られているんです。手間が掛かってますよ(笑)。

──以前のQ&Aを踏襲しますと、ファンは両方買って聴き比べればいいわけですね(笑)。

佐藤 平たく言うとそういうことになります(笑)。そうしていただけると、とてもありがたいです。

──今回は劇伴をCDに収録するためのマスタリングに立ち会わせていただきましたが、TVで流れているBGMとCDでは違う音源が使われていたりするのでしょうか?

石川 今回、実はまったく違うMIXになっていますね。TVで流れている劇伴は、TVで流す用のMIXになっているんですよ。

佐藤 はい。TV用の作業とCD用の作業を、まったく別で行っています。

──劇伴の業界で、そういったことは普通に行われているのでしょうか?

石川 普通はあんまりしませんね。通常はTV用に作ったものが、そのままマスタリングに回されてCDになります。TECHNOBOYSの場合はそれとは別に、CDで聴いたときに音楽だけで楽しめるようなトラックダウンをもう一度やっているんですよ。

──TV用の音源と、CD用の音源にはどのような違いがあるのでしょうか?

佐藤 TV用は、セリフや効果音が際立つように作っています。アニメの劇伴として作っているのがTV用のMIXで、サントラ用に作り直しているのはTECHNOBOYSのアーティストとしてのMIX、という意識ですかね。

Q. どんな基準でMIX、マスタリング・エンジニアを選ぶんですか?
A. ジャンルごとに適任者がいるので、作る音楽に合わせて別の方にお願いしています

──収録される音楽によって、マスタリングの方向性は変わるものなのでしょうか?

佐藤 そうですね。アーティストによっても変わります。その辺りはマスタリング・エンジニアさんの年齢やキャリアにも、スタジオが持っている機材にも関わってきますね。レーベルのプロデューサーとしていくつかの選択肢を用意しているなかで、「テクノといえば小池さん」ということで今回は小池光夫さんにお願いしています。何せYMOの「RYDEEN」をMIXした方ですからね。YMOの1st、2ndアルバムをMIXした方なので、小池さんにTECHNOBOYSのマスタリングをやってもらうのは僕らにとってすごく重要な意味があるんです。

石川 小池さんによるマスタリングは、僕らの予想以上に音の良さを引き出してくれますからね。

──「テクノといえば小池さん」ということは、ほかの音楽ジャンルを作るときには別の方がマスタリングをされるんですか?

佐藤 例えばゴリゴリのロックであれば、そういう音楽が好きな方にお願いすることもあります。お願いしたいエンジニアさんが頭の中に5人程いて、それをジャンルに合わせて使い分けている感じですね。

──今回マスタリングを担当した、小池光夫さんとお仕事をするきっかけは?

佐藤 僕がYMOマニアなので、純粋に小池さんに会いたいなと思って「マスタリングをお願いします」と電話しました(笑)。それをきっかけに石川さんの『イノセント・ヴィーナス』のサントラも小池さんにマスタリングしてもらってますし、そんなのばっかりですよ。飯尾芳史さんも、寺田康彦さんも、僕から連絡して「レーベルの仕事ですよ~」と見せ掛けておいて、実はただ会いたいだけという(笑)。

──ジャンルにおけるベストの人選をされているわけですね。ちなみに今お仕事をしている方を含めて、お好きなMIX、マスタリング・エンジニアの方はいらっしゃいますか?

佐藤 今回のサントラに参加していただいた方々がベスト・オブ・ベストなんですよ。ChouChoさんのボーカル曲のMIXエンジニアをお願いしたのが杉山勇司さんという方で、この方は東京スカパラダイスオーケストラやSOFT BALLET、最近だと寺島拓篤くんの楽曲のMIXをお願いした方です。ご自身で機材を作ったりしてすごくこだわられていて、日本のエンジニアの中でもトップクラスの方なんですよ。

──元々好みの音作りをしていた方とは、既にお仕事をされていることが多いんですね。

佐藤 そうですね。あとは寺田康彦さんも。上坂すみれさんや、TECHNOBOYSで作った「ウィッチ☆アクティビティ」は寺田さんにお願いしています。アルファレコード(YMOも所属していたレーベル)に在籍していた小池さんの同僚の方で、代表作でいうとイモ欽トリオの「ハイスクールララバイ」のMIXもされています。僕らが今、手に入れて使っている古い機材も僕ら以上によく知っているので、正しい音の処理をしてくれるんですよ。

──リアルタイムでそれらの機材を使っていた方ですものね。

佐藤 「最新のレコーディングをしているのに、本物の80年代サウンドに仕上がる」というのは、寺田さんとTECHNOBOYSの組み合わせだから実現するものだと思います。それと同じくアルファレコード出身の飯尾芳史さんですね。今回はED曲の「WHIMSICAL WAYWARD WISH」のMIXをしてもらいました。飯尾さんは、今でも坂本龍一さんの音源をMIXされている方です。最新かつ洗練された視野の広い感じがあって、寺田さんともまったく違ったサウンドにしてくれます。エレクトロニカ寄りなときのTECHNOBOYSのサウンドには、今どきの音になるという意味でピッタリですね。

──テクノに携わる方でもそれぞれの色があって、楽曲に合わせたエンジニアさんにお願いしているわけですね。

佐藤 一口に「TECHNOBOYSはテクノをやっています」といっても、ジャンルも年代もいろいろなテクノがありますよね。2000年代のものもあれば80年代のものもあるんです。80年より昔にテクノはあまりないですけど(笑)。なので、それに合わせてMIXしてもらっています。エレクトロニカの中でもクリアなものであれば、自分でMIXすることもありますね。

SHARE

RANKING
ランキング

もっと見る

PAGE TOP