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INTERVIEW

2017.08.02

『らき☆すた』歌のベスト 〜アニメ放送10周年記念盤〜 神前 暁 インタビュー

「『らき☆すた』歌のベスト~アニメ放送10周年記念盤~」が8月2日にリリースされた。今回は『らき☆すた』の劇伴と「もってけ!セーラーふく」を始め20曲以上ものボーカル曲を作編曲した神前 暁に、改めてその楽曲の制作エピソードを聞いてみた。また、インタビューは思い出話だけに留まらず、10年という時を経ての自身の変化や、『らき☆すた』で生まれたものが今どこに繋がっているのかについても語ってもらった。

Interview & Text by 青木佑磨(クリエンタ/学園祭学園)
at Lantis

「『らき☆すた』歌のベスト~アニメ放送10周年記念盤~」のレビューはこちら

『らき☆すた』のハイレゾ版を聴いてみて

───神前さんはハイレゾ楽曲、またはご自身が制作した楽曲がハイレゾ配信されることにご興味をお持ちでしょうか?

神前 暁 実は「そんなに違わないだろう」と思ってしまっていて、そこまで興味があるわけではないんですよ。でも昨年『涼宮ハルヒの憂鬱』のサントラ(『涼宮ハルヒの完奏〜コンプリートサウンドトラック〜』)がハイレゾで配信されたんですけど、それを聴いてみたら「意外と違うな」と思いましたね。歌モノの曲でボーカルに耳が行ったときに、CDクオリティの詰まった感じがなくなって、マスターのコンプが外れたような印象があったんです。ボーカルが伸び伸びした感じですよね。

『涼宮ハルヒの完奏〜コンプリートサウンドトラック〜』のレビューはこちら
※『涼宮ハルヒの完奏』ハイレゾ配信記念 畑 亜貴インタビューはこちら

───『らき☆すた』10周年記念盤のハイレゾ版は聴かれましたか?

神前 はい。24bit/96kHzのファイルをいただいて、48kHzに落として聴き比べてみたりしました(笑)。それで改めて意外と違うもんだなと思いましたね。

───『らき☆すた』楽曲はボーカルが前面に押し出されたものが多い印象ですが、ハイレゾではそれがさらに際立って聴こえるのでしょうか?

神前 そうですね。『らき☆すた』の曲はレベル的に突っ込んだ状態のものが多くて、なおかつボーカルが多いので、かなり飽和感のあるミックスになっていたんですよ。そこからさらに気持ちよく抜ける状態になっていると思います。無理矢理16bitの枠に押し込んだ感じではなくて、どの音も立っていて制限がない。圧縮された感じのない、気持ちいい聴こえ方になっていました。

PS2『らき☆すた ~陵桜学園 桜藤祭~』OP/EDテーマ
「ハマってサボっておーまいがっ!」

作詞:畑 亜貴 作曲・編曲:神前 暁

───10年前に録った音源をリマスタリングしているんですよね?

神前 はい。当時レコーディングした、24bit/48kHzからのリマスタリングですね。

───当時はまだハイレゾ配信が始まってもいませんでしたが、この10年で聴かれる環境に合わせた制作方法の変化はありましたか?

神前 10年前も今も、メインのターゲットになっているフォーマットは「CD」と「テレビ放送の48kHz」という部分で変化はないと思います。だから技術的な部分では、最終的に落とし込むところは変わらないんですよ。ただ10年前はまだ音圧競争があって、CDフォーマットの中でどれだけ詰め込めるかという時代だったんです。今は大きければいいというブームは終わったので、そういった脅迫的な状況はなくなりましたよね(笑)。ただハイレゾ配信が始まったことで、最終的にはCDに落とし込むんですが納品は24bit/96kHzでと言われることも増えました。

───今は作編曲の時点から、もう音圧競争には巻き込まれないという前提で作られているのでしょうか?

神前 僕はそもそもジャンル的に音圧命みたいな曲をあまり作らないので、生楽器を録ったらダイナミクスを活かしますし、作曲時点でもレコーディング時点でもレンジ感は重視して録れるようになっていますね。

───『らき☆すた』楽曲は生楽器を使用したものも多くありますが、当時の録れ音の段階でハイレゾ版を出しても差し支えないクオリティでレコーディングできていたのでしょうか。

神前 そうですね。ナチュラルに、そんなに色をつけずに録れていたと思います。24bit/48kHzで録っていたので、当時の録れ音と今のハイレゾがだいたい同じクオリティなんですよ。制作現場で聴いている音は以前から24bit/48kHzが多かったので、今「ハイレゾですよ」と言われても「昔からその音で聴いてるからなあ」と思ってしまうんですよね(笑)。制作環境で聴いている音が、そのまま出ていくという意味では価値があると思います。だからこそ自分ではハイレゾに興味が持ちにくいのかもしれませんね。

キャラクターソング Vol.004 高良みゆき(遠藤 綾)
「萌え要素ってなんですか?」
作詞:畑 亜貴 作曲:とものかつみ 編曲:神前 暁

───ちなみに神前さんが趣味で音楽鑑賞をされるときは、どのような環境でお聴きになられているのでしょうか。

神前 僕はCDを買ったら、iTunesに取り込んでPCで再生しています。RMEのFireface UCXからGRACE designのm903につながっていて。制作用のPCなので自分で曲を作るときのモニタリング環境と同じ状態ですね。申し分なく綺麗な音で鳴ってくれています。

『らき☆すた』な日々を振り返ってみて

───『らき☆すた』から10年が経ち、このベスト・アルバムを聴いてみて「今の自分ならこうする」という部分はありますか? 逆に「10年前の自分、才能あるな」という話でも構いませんが(笑)。

神前 いやあ、才能ありますねえ(笑)。『らき☆すた』の楽曲は、やったことのないことばかりをやっているなと思います。毎度どの曲もチャレンジでした。仕事を10年やっていると、ある程度パターン化してしまうんですけど、このアルバムからは初期衝動みたいなものを感じますね。それがいい方向に出た作品でした。

───当時どのようなことが初挑戦だったのでしょうか?

神前 元々僕は歌モノをあまり作ったことがなかったので、そもそもそこからが挑戦でしたね。『涼宮ハルヒの憂鬱』で初めて歌モノをやらせていただいて、そのときは「God knows…」「Lost my music」「恋のミクル伝説」という挿入歌3曲だけだったんですよ。だからこんなにたくさん歌モノを作るというノウハウがまずなくて。大人数で歌う曲も『らき☆すた』には多くて、そういう経験も今に生きていると思います。白石 稔くんの曲のような、アレンジだけを担当するのも初めてでしたね。

TVアニメ『らき☆すた』EDテーマ
白石みのる( CV.白石 稔) 『白石みのるの男のララバイ』
「俺の忘れ物」「かおりんのテーマ」「シカイダーの唄」(作詞・作曲:白石みのる 編曲:神前 暁)、「恋のミノル伝説」(作詞:白石みのる 作曲:神前 暁 編曲:鈴木マサキ)などを収録

───あれは白石さんから歌メロのみが送られてきて、それをコードに起こす形だったのでしょうか?

神前 そうですね。完全に鼻歌だけでした。でも非常にクオリティが高い状態でしたし、やりたいことがはっきり曲から伝わってきたので肉づけするのは簡単だったんですよ。方向性がブレないんです。

───これ以降に、鼻歌作曲に対する編曲依頼はありましたか?

神前 僕は基本的に、編曲だけの依頼はお受けしていないんですよ。……あっ、でも最近ありました!鼻歌ではないんですが、コードのついていないメロだけが来て「なんか懐かしい!」と思いましたね(笑)。

───クリスタルキングの「愛をとりもどせ!!」など、すでに存在する楽曲の編曲もされていましたね。

OVA『らき☆すた』テーマソング
有頂天「愛をとりもどせ!!」
作詞:中村公晴 作曲:山下三智夫 編曲:神前 暁

神前 ……終盤に携わった曲はかなり無茶なスケジュールで作られていたので、実はほとんど記憶がないです(笑)。でもこの仕事によって得たものでいちばん大きいのは、プロとして量産する姿勢ですね。経験して慣れたというか、洗礼を受けたというか。「明日が締め切りでもなんとかなる」という(笑)。

───それはご自身のスケジュールなどの問題ではなく、本当に今日発注が来て明日が締め切りということですか?

神前 はい、今日発注が来るパターンです(笑)。それでもやらなきゃダメですから。そのなかでもクオリティを追求する姿勢が大事ですね。

凄腕ミュージシャンが参加したレコーディング

───今回改めてベスト・アルバムを聴いて、『らき☆すた』楽曲の完成度の高さに驚かされました。今の若い世代に振り返って聴いてもらうために、神前さんご自身の楽曲で「最新曲の○○が好きなら、『らき☆すた』の××も好きなはず」というオススメはありますか?

神前 「曖昧ネットだーりん」や「こねらぶ☆みっしょん」のようなブラスを使った曲は、お家芸としてずっとやらせていただいてます。劇場版『THE IDOLM@STER』の「M@STERPIECE」でもブラック・ミュージック・テイストのブラスを使っていますし、もう少しブラスロックっぽいものだと『偽物語』の「marshmallow justice」もそうですね。こういった歯切れのいいブラスの合いの手が入る感じは、ここから始まっていると思います。

ラジオ『らっきー☆ちゃんねる』OPテーマ
小神あきら( CV.今野宏美), 白石みのる( CV.白石 稔) 「曖昧ネットだーりん」
EDテーマ「こねらぶ☆みっしょん」も収録

───「曖昧ネットだーりん」「こねらぶ☆みっしょん」は、エッセンスを使ったというよりソウル・ミュージックそのものですよね。

神前 ソウルでファンクで、ルーツ・ミュージックそのままな感じですよね。これはランティスのディレクターさんが非常に面白がって、生楽器で録らせていただきました。音楽を作っている人が好きなジャンルの曲なんだと思います。僕も喜んでやらせていただきました。

───生楽器のレコーディングはいかがでしたか?

神前 すごく印象深いのは、「曖昧ネットだーりん」はスリー・リズム(ドラム、ベース、ギター)で録って、ドラムだけ後で録り直すことになったんです。それがなんと、録り直す前のドラマーが青山 純さんだったんですよ。それを宮田繁男さんで録り直すことになって……おふたりとももうお亡くなりになってしまいましたが、あまりにも豪華な録り直しでしたね。

───青山 純さんが叩いたバージョンは、世に出ていないということですか!?

神前 はい。そうなんです。オルガンを河合代介さんが弾いていたり、ブラスが佐々木史郎さんのチームだったり、とても豪華な面子で録らせていただきました。そこに交じってピアノソロを弾くという嫌な感じ……(笑)。

───そうそうたるスタジオ・ミュージシャンの中で、ピアノはご自身で弾かれているんですね。

神前 そこだけは家で僕が弾きましたね。弾いてもらえばよかったなあ。さっき質問された「今の自分ならこうしている」があるとすれば、「人に弾いてもらう」ですね(笑)。予算のことは考えずに、やりたいことは主張したほうがいいですよね。「こんなに豪華な面子がレコーディングしてくれる」に対して「あとは自分でなんとかします」ではなく、「だったらもうひとり呼びましょう」と言える図太さは学びました。ずっと残るものなので、できることなら絶対クオリティに妥協しないほうがいいですよね。

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