V.A. 「『らき☆すた』歌のベスト~アニメ放送10周年記念盤~」レビュー

アニメ放送10周年を記念した『らき☆すた』のベストアルバム! 「もってけ!セーラーふく」を始め、主題歌や多数リリースされたキャラクターソング、挿入歌、小神あきらの演歌、白石みのるによるエンディングテーマなど、全52曲のヴォーカル曲を収録!!

2007年4月から9月まで放送されたTVアニメ『らき☆すた』。アニメ放送10周年を記念して2017年8月2日にリリースされたのが「『らき☆すた』歌のベスト~アニメ放送10周年記念盤~」。当時のシーンを席巻したオープニングテーマ「もってけ!セーラーふく」を始め、各主題歌や多数リリースされたキャラクターソング、挿入歌、小神あきらの演歌、白石みのるによるエンディングテーマなど、全52曲のヴォーカル曲を収録している。CDの累計出荷数が約100万枚を記録した『らき☆すた』の集大成とも言うべきヴォリュームたっぷりな内容となっている。

「もってけ!セーラーふく」など、『らき☆すた』の多くの楽曲を手がけた神前 暁のインタビューはこちら

M-1からM-14まではCDのDisc-1に収録。メインキャラクターである泉こなた( CV.平野 綾)、 柊かがみ( CV.加藤英美里)、 柊つかさ( CV.福原香織)、 高良みゆき( CV.遠藤 綾)の4人が歌唱した楽曲と、小神あきら( CV.今野宏美)、白石みのる( CV.白石 稔) による楽曲を収録している。

「もってけ!セーラーふく」

TVアニメ『らき☆すた』のオープニングテーマ。アニメの人気もさることながら、インパクトのある楽曲自体が大きな話題を集め、2007年5月23日にリリースされたシングルはオリコン週間CDランキングで2位を記録。出荷枚数20万枚を超える大ヒットとなった。歌詞を手がけた畑 亜貴は、白石みのるによる楽曲やカヴァー曲以外すべての『らき☆すた』楽曲の作詞を担当。また作曲・編曲の神前 暁は、劇伴ならびに、主題歌やキャラクターソングなどヴォーカル曲を数多く『らき☆すた』では手がけている。

ファンクを基軸としたアグレッシヴなミクスチャー・サウンドと、たたみ掛けるような勢いのハイテンションなラップが、BPM150というテンポに乗って目まぐるしい速さで展開。ハイレゾでは分離感が強く、当時のCDシングルと聴き比べてみると、左のパーカッションや右のワウギターなど、それぞれの楽器の定位もしっかりと感じられ、この曲の要となるスラップベースによるグルーヴがますます際立つ。空間の見通しがよくなった分、ごった煮感のあった音の全体像が把握しやすく、無秩序でやりたい放題に暴走しているように見えながらも、精緻な構成よって楽曲が作り上げられていることがよくわかる。またブリティッシュ・ロック的なサビパートも広がりを増しており、よりいっそうの開放感が伝わってくる。ますます躍動的に、さらに音のキレがよくなった印象だ。

なによりも4人のヴォーカルがみずみずしく、その声の鮮やかさに魅了される。語感を生かした感覚的なフレーズをパッチワークにして、矢継ぎ早に繰り出すエネルギッシュなヴォーカルに加え、さらにそれらを細かく切り刻み連打、というやりすぎなくらいの声や言葉が押し寄せてくるかのようで、没入感がさらに強まる仕上がりとなっている。

混沌のビッグバンとも言うべきこの曲は、突然変異のような比類なき個性と聴いた者の耳を捕らえて離さない極めて高い中毒性を持っている。そして、今なおこの衝撃を超えるアニソンは現れてはいない。まさに前人未到の領域に到達したアニソンといえよう。

「かえして!ニーソックス」は、シングル『もってけ!セーラーふく』のカップリング曲で、平野 綾や小松未可子、宇都宮 隆などに楽曲を提供しているnishi-kenが作曲・編曲を手がけている。このベストアルバムには、泉こなた「Dドライヴ/ラヴ」、柊つかさ「寝・逃・げでリセット!」など、nishi-kenが携わった楽曲が数多く収められている。「もってけ!セーラーふく」に対してのアンサーソングなのかはともかくも、全力で突っ走るパワーポップ感の強いパンク・サウンドと、4人のユニゾンが爽快な気分をもたらすナンバーだ。

 

「ハマってサボっておーまいがっ!」「なんてったって☆伝説」は、2008年1月に発売されたPlayStation2専用ゲーム『らき☆すた ~陵桜学園 桜藤祭~』のOP&EDテーマで、『もってけ!セーラーふく』のシングルと同じく、作曲・編曲はそれぞれ神前 暁、nishi-kenが担当。「ハマってサボっておーまいがっ!」は、つんのめったビートとともに賑やかな音をたっぷり詰め込んだ、元気な掛け声が飛び交うハイパーポップソング。ちょっとアイドルソングを思わせるユニゾンから始まる「なんてったって☆伝説」は、シンセサウンドが疾走するアッパーな曲で、こなたたちの声のキュートな面よりもカッコよさにスポットを当てたようなイメージだ。勢いのあるヴォーカルの中、みゆきのちょっと低めな声の存在感が印象的。

 

「な・り・あ・が・り☆」「なんでだったっけアイドル?」は、2009年12月に発売されたPlayStation Portable専用ゲーム『らき☆すた ネットアイドル・マイスター』のOP&EDテーマで、作曲・編曲はどちらも前山田健一が担当。『らき☆すた』キャラクターたちをネットアイドルとして育成していくゲーム内容から、前山田健一が起用されたと思ってしまうのは今だからであって、彼が手がけたももいろクローバーのメジャー・デビューシングル「怪盗少女」がリリースされるのは翌年5月のことである。なお「な・り・あ・が・り☆」のシングルは、こちらも同じく前山田が作曲・編曲を手がけた麻生夏子「Perfect-area complete!」(TVアニメ『バカとテストと召喚獣』OPテーマ)のシングルと同日、2010年1月27日にリリースされている。どちらものちの前山田の快進撃を予感させるような華やかな仕上がりだ。「な・り・あ・が・り☆」は、音のテーマパークといった激変するサウンドがめくるめく展開をみせるポップチューン。「なんでだったっけアイドル?」は、洒落たアレンジにPPPHを盛り込んだ前山田らしいアイドルソングとなっている。

 

「男子ムリムリ大改造」は、PCゲーム音楽シーンの重鎮であり、TVアニメ『有頂天家族』のOPテーマでもおなじみのmilktubの、結成15周年を記念した2枚組ベストアルバムために書き下ろされたナンバー。『milktub 15th ANNIVERSARY BEST ALBUM BPM200 ROCK’N’ROLL SHOW』(2008.03.26)の1曲目に収録されている。なおジャケットにはこなたや、かがみたちがギター、ベースなどを持ったイラストが描かれている。曲はワイルドでちょっぴりキラキラなパンクロックに合わせて、4人が結論として「オタク道に精進せよ」と諭す内容。

 

「曖昧ネットだーりん」「こねらぶ☆みっしょん」は、ラジオ『らっきー☆ちゃんねる』のOP&EDテーマ。ラジオ『らっきー☆ちゃんねる』は、アニメ放送に先駆け、2007年1月よりラジオ関西にて放送が開始。またLantisネットラジオでも配信が行なわれていた。作曲・編曲は神前 暁、ヴォーカルは小神あきら( CV.今野宏美)と、白石みのる( CV.白石 稔) が担当。「曖昧ネットだーりん」は、元々はアニメ内のコーナー『らっきー☆ちゃんねる』で使用されていたインストのテーマ曲に歌詞をつけたもので、ラジオ『らっきー☆ちゃんねる』では5月放送の第21回から使用されている。タワー・オブ・パワーを思わせるような切れ味のいいホーンセクションも魅力的なファンクナンバー。演奏の詳細については不明だったが、今回の神前 暁のインタビューにてそうそうたるスタジオ・ミュージシャンが演奏に参加していたことが明らかにされている。このベストアルバムには収録されていないが、シングルCDに収録されている「off vocal」のヴァージョンを聴いてみると、さらに演奏の凄さが実感できる。強力なリズム隊が生み出すダイナミックなグルーヴと、小神あきらと白石みのるとの丁々発止の掛け合いが見事に折重なった、カッコいい楽曲に仕上がっている。「こねらぶ☆みっしょん」は、スタックス時代のアルバート・キングを思い出すようなファンキーなブルース・ナンバー。渋い演奏とユーモアたっぷりのヴォーカルという両極端の要素が入り交じった良曲。

 

M-10からM-14までは白石みのる( CV.白石 稔) の楽曲が続く。M-10~13は2クール目からのエンディングにて流れた白石 稔の自作・自演曲。CD『白石みのるの男のララバイ』には放送されたままの状態で収録した音源に加え、神前 暁がアレンジした(「恋のミノル伝説」は除く)4曲を「-完全版-」として収録している。このベスト盤に収録されているのはその「-完全版-」。

「俺の忘れ物」は、場末のスナックで歌われていたような昭和ムード歌謡を完璧に再現。サウンドはもちろんのこと、コーラスやスキャットや途中に入る語りなど、いたるところまでとことんこだわり抜いて作られている。「かおりんのテーマ」は、80年代のヒット曲のようなちょっと懐かしいアレンジを施したラブソング。アカペラで披露した放送当時、そのメロディーの美しさに感嘆の声が多く寄せられたが、それを遥かに上回る感動がここにある。間奏のギターも泣かせる名曲。

「シカイダーの唄」は21話「パンドラの箱」のエンディングテーマ。『仮面ライダー』(初代の仮面ライダー)を思い起こす、昭和特撮主題歌のマナーに則ったサウンドの仕上がり。抵抗しながらも主人公が改造人間へと改造されるオープニング・シーンから着想を得たものか、シカイダーとは“歯科技術の粋を集めて造ったサイボーグ”(曲中のセリフより)のことである! ブラスとパーカッションのちょっと仰々しいアレンジもそれっぽい雰囲気でいい感じ。

「恋のミノル伝説」は、「恋のミクル伝説」を歌詞も含めて、白石みのる流に再構築。JAM Projectや奥井雅美、遠藤正明、橋本みゆき、佐咲紗花らの楽曲に携わる鈴木マサキがアレンジしたスピードメタルとなっている。「えみりんのテーマ」は、ラジオ番組『らっきー☆ちゃんねる』の後番組『らっきー☆ちゃんねる-陵桜学園放課後の机-』のエンディングテーマとして使用され、のちに『らき☆すた ミュージックフェア』に収録された。「かおりんのテーマ」をウエディングソングと例えるならば、こちらはそんな彼女の幸せを涙をこらえて笑顔でそっと見送るような片恋ナンバー。清涼感のあるアレンジと切ない歌詞が涙を誘う。ちなみに「かおりん」とは福原香織、「えみりん」とは加藤英美里の愛称のこと。

番組放送時もその片鱗は窺えたものの、「-完全版-」となるこれらの楽曲を初めて聴いた時、白石 稔の作詞・作曲センス、その才能に改めて驚かされた。もちろんアレンジのお陰もあるのだろうが、やはり土台となるメロディーがしっかりしているからこそ。TVヴァージョンしか知らない人はぜひ聴いてみてほしい。

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